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ブリング・ミー・ザ・ホライズンが語る、脱退劇の真相、再生したバンドの遺伝子

Rolling Stone Japan / 2024年8月15日 18時0分

ブリング・ミー・ザ・ホライズン(Photo by Eva Pentel)

2024年のサマーソニックでヘッドライナーとして登場するブリング・ミー・ザ・ホライズン。昨年彼らは日本でNEX_FESTを主催し、従来の枠組みにとらわれない自由なコンセプトが支持され、画期的なフェスとして大成功を収めたばかりだ。

【写真まとめ】「NEX_FEST」ライブ写真

ローリングストーンUK版に掲載されたこの記事では、ジョーダン・フィッシュの脱退劇を経たバンドのフロントマン=オリヴァー・サイクスが、バンド内に蓄積した負の感情、自分を見つめ直す過程、そして依存症を克服して生み出した最新アルバム『POST HUMAN: NeX GEn』について、赤裸々に語っている。

オリーとの再会

2021年の12月、筆者は新生ブリング・ミー・ザ・ホライズンと数日間ロサンゼルスで行動を共にした。死と再生を無数に繰り返したかのように、バンドの印象が前回会った時とはまるで異なっていたのを覚えている。

度重なるロックダウンは既に過去のものとなりつつあったが、バンドの無口なフロントマンにしてクリエイティブディレクターでもあるオリーことオリヴァー・サイクスは、パンデミックの間に多くの出来事を経験した。ケタミン依存症を再発しながらも、その最中に発表した長尺のEP『Post Human: Survival Horror』が高く評価され(英ガーディアン紙は「パンデミックを題材にした初のマスターピース」と評した。シェフィールド出身のでスコアバンドとしては見事だ)、彼らは世界で最もエキサイティングなロックバンドのひとつとなった。また欲求不満の若いTikTokユーザーたちが2013年作『Sempiternal』を再発見したことで、バンドのSpotifyの月間リスナー数は瞬く間に400万人から800万人に倍増した。その時点でブリング・ミー・ザ・ホライズンは、文句なしにこの世代の最もビッグなバンドとなった。

振り返ってみると、その頃からバンド内には漠然とした緊張が生じていた。次回作『Post Human: NeX GEn』の制作を目的として5週間抑えた豪邸で、サイクスは仕事に取り組む気がないのかと思うほどリラックスしていた。サイクス自身も認めているように、バンドは大胆にも『Survival Horror』が年内にリリースされる一連のEPの第一弾だと宣言していたが、年の瀬を目前に控え、それはどう考えても非現実的なプランだった。他のメンバーたちはというと、バンドの一員であるという理由でその場にいるものの、まるで出番を待つビデオゲームの登場キャラクターかのように、やるべきことがなく時間を持て余しているようだった。とどのつまり、ブリング・ミー・ザ・ホライズンは狂気に駆られた天才夢想家のオリー・サイクスと、分析に長けたキーボーディスト兼プロデューサーのジョーダン・フィッシュを軸とするバンドであることは疑いなかった。

滞在の最終日に行われたローリングストーンUKの表紙写真の撮影現場で、フィッシュはどこか元気がなかった。彼の展望では、その時点で自分が今という時代を体現するようなアルバムを完成させているはずだった。「俺の人生や気分は、書き上げた楽曲やそれを生み出す過程に大きく左右されるんだ」と彼は話していた。ブリング・ミー・ザ・ホライズンのメンバーたちは、イギリス人特有のブラックユーモアの持ち主であるという共通点こそあれど、それぞれの雰囲気や性格はまるで異なり、全員の息が合っているとは言い難かった。

あれから3年半が経ち、筆者がサイクスと再会したのは、彼が10代の頃に立ち上げて現在まで続いているオルタナティブなファッションブランド、Drop Deadのシェフィールドにある本社だった。その社屋は、ウィリー・ウォンカのチョコレート工場のゴス版という表現が最もしっくりくる。中にはサイクスが自らデザインしたアートセラピールーム、写真スタジオ、グラムをテーマとした部屋、さらにはポップアップのタトゥースタジオまである。建物の屋上には、彼がこれまでに手がけた様々なビデオやプロジェクトで使用されたセットの数々が眠っている。

建物の一角には成功ぶりを見せつけるようなスペースがある。パトリック・ベイトマンでも満足するであろうジムを併設した巨大なストレージには、バンドの全機材が保管されているほか(まるで芽吹いた植物の面倒を見るかのように、従業員によって入念にケアされている)、白いふわふわした家具の数々を備えた瞑想スペースに見せかけた、ヘヴィーメタルに特化したレコーディングスタジオがある。ナチュラルなテクスチャーとベージュを基調とするキッチンはおそらく、サイクスと妻のアリッサ・ソールズが自宅を構える南米の風土からヒントを得たのだろう。

棚に並んでいる本の数々は、サイクスの作風を知る人々にとっては決して意外ではないはずだ。アン・ライス著『夜明けのヴァンパイア』、デブ・シャピロの『Your Body Speaks Your Mind』、意外だがブルックリン・ベッカムの『What I See』、そして魔術やガーデニングに関する本が数多く見られる。


「作品は然るべき時に然るべくして生まれてくる」

筆者はサイクスに、明らかな既視感について語った。というのも、リリースされたばかりの最新アルバムのキャンペーンについて、彼は数年前に語っていたからだ。「あのロサンゼルス遠征は不毛だったよ」。言うに及ばないことを口にして、彼は笑った。

朝食用カウンターで、彼はフィッシュとのクリエイティブ面における関係性について語った。それはスピードを重視し、何があろうとも突き進むことを信条としていた。サイクスは自身のメンタルヘルスとウェルビーイングを優先するためにそのメンタリティを放棄しなくてはならなかったが、フィッシュは期日に拘り、コンスタントに作品を発表し続けるべきだと考えていた。「彼にこう言ったんだ。『オーディエンスが怒ったって知ったことか。1年に4枚のレコードを出すっていう約束が果たせなかったって、俺は気にしない』」とサイクスは話す。「そういう時、俺はいつもカニエ(・ウェスト)を引き合いに出してた。彼は約束を破ってばかりいるけど、平気みたいだからね。誰よりも先にそれをやり遂げなくちゃならないっていう考えとその期日を、俺は放棄することにした。自問自答を延々と繰り返した結果、作品は然るべき時に然るべくして生まれてくるって考えられるようになったんだよ」

『Survival Horror』の思いがけない成功は、そのスタンスの根拠になった。バンドはその地位に伴う役目を果たさなくてはならなかったからだ。キャリア史上最大規模の会場を巡るワールドツアーを行い、BRITアワードを受賞し、レディング&リーズ等の大型フェスでヘッドライナーを務め、結果的にアルバムのリリースを遅らせることになった。その後バンドは2023年9月に『NeX GEn』をリリースすると発表したが、その計画は実現しなかった。その期日を過ぎた直後に、フィッシュはバンドを脱退する。12月にはバンドの公式チャネルとフィッシュ個人のアカウントから、それぞれ脱退に関する形式的なステートメントが公表された。その文言から読み取れる唯一の含意は、一方的ではないにせよ、決定が主にバンド側でなされたということだった。



フィッシュ脱退の理由について、ファンの間ではさまざまな憶測が飛び交った。印税をめぐる口論、フィッシュが子供たちと過ごす時間を欲しがった、そして『NeX GEn』での方向性の食い違い。本当の理由は、時間をかけて納得のいくものを作ろうとしたサイクスと、ひたすら前に進もうとするフィッシュの衝突とは他にあったのではないか?

「正直なところ、そうじゃないんだ。クリエイティブ面に関することは主な理由じゃなかった」。サイクスは消極的にそう認める。「バンドとしていい状態にあるとは言えなかった。あまり語りたくないんだ、エキサイティングなストーリーではないから。『方向性の違いで別の道を進むことにしたけど、俺たちはこれからも友達だし、彼の幸運を願ってる』なんて嘘っぱちを並べ立てるつもりはない。円満な脱退なんてものは存在しないんだよ。メディアが喜びそうなエピソードなんてない。バンドとして機能しなくなっていた、ただそれだけなんだ。彼はこれ以上このバンドにいることはできなかった。抜けるしかなかったんだ」

サイクスは随分前から摩擦に気づいていたと述べた上で、その決定が熟慮の末になされたことを強調した。「彼のことを悪く言いたくない。彼はいいやつだし、素晴らしいアーティストだから。2度と口をきかないとか、今後コラボレートする機会を永遠に閉ざしてしまうようなことが起きたわけじゃないんだ。誰も死んでいないし、何か決定的に悪いことがあったわけじゃない」。彼はそう話す。「俺たちは長い時間を一緒に過ごしてきて、いい時もあればそうじゃない時もあった。頭を抱え込んで『俺は何をやらかしたんだ? どうすればいい?』と苦悶したこともある。最終的に、それが全員にとってベストの決断だと結論づけたんだよ、ジョーダンも含めてね。彼はこれからもその素晴らしい才能を発揮して、いろんなバンドをよりクールに生まれ変わらせるだろう」。フィッシュは既に、メタルコアバンドのアーキテクツ、ポップバンドのバステッド、オルタナティブアーティストのポピー等の作品に参加している。ブリング・ミー・ザ・ホライズンのファンはネット上で、フィッシュの創意工夫とスキルが停滞するロックというジャンルに刺激を与えてくれるはずだと繰り返し主張している。


「歌が下手だった俺は、ジョーダンからいろんなことを学んだ」

サイクス自身は、「オリーとジョーダン」というタッグから解放されることを、自身の才能を証明する機会だとは捉えていないのだろうか? 「俺ならできるってずっと思ってた。2人のうち、ずっと過小評価されていたのは俺の方だ」。彼は何でもないことのようにそう話す。バンドのバイオグラフィーでは、フィッシュは『Sempiternal』の制作にあたって加入したとされており、ニッチなジャンルのいちバンドに過ぎなかった彼らが飛躍する原動力となったという見方が一般的だ。Sonyはブリング・ミー・ザ・ホライズンとの契約に際して、メタリカの発掘やAC/DCとの契約に勝るとも劣らない重要な出来事だとコメントしていた。


Photo by Eva Pentel

サイクスがリハビリを終え、依存症との格闘についてのアルバムを作ろうとした時、2人は確かに同じ方向を見据えながら偏執的なまでに濃密なクリエイティブプロセスを開始し、2人のコラボレーションの方法を確立した。それはサイクスにとって、はるかに健全な依存の対象となった。「『Sempiternal』が俺たちの出世作であることは確かだけど、バンドは1枚目以降ずっと良くなり続けてる」。彼はそう続ける。「俺たちが成功した理由はたくさんあるけど、決意と努力による俺自身の成長が一番の要因であることは間違いない。歌が下手だった俺は、ジョーダンからいろんなことを学んだ。『俺には無理だ』って投げ出したりせずにね」



「彼なしでもやっていけるという自信はあった」。サイクスはそう続けた。「ジョーダンの手腕を失うことに対する不安がなかったわけじゃない。彼にもそう伝えたよ。でも俺は自分が求めているものを理解しているし、いつだって明確なヴィジョンを持ってる。手段を選ばず、何があっても目的を達成する。誰かのサポートが必要なら、迷わずそうするだろう。今のバンドにできないことがあっても、必ずクリアしてみせる。問題はできるかどうかじゃなく、どうやってやり遂げるかなんだよ」

フィッシュの脱退は、バンドにポジティブな影響ももたらした。バンドの他のメンバーたちはこれまで、曲作りのプロセスから「除外」されていたとサイクスに語ったという。「彼らはそれで納得していると当初は思ってた。『お前らに任せるよ』っていう感じで。でもジョーダンが抜けて、改めてメンバー同士で腹を割って話してみて、バンド内に不満が溜まっていたことを知った。隅っこに追いやられているように感じるっていう声もあった。その責任の一部は自分にあると思ってる。俺とジョーダンはいつも突っ走って、他のメンバーの意見に耳を傾けなかったり、全部コンピューターで仕上げてしまうこともあったから」。それはつまり、音源で耳にするドラムやギターはすべてプログラミングであり、実際に演奏したのではないということだ。グラミー賞にノミネートされ、英国チャートの首位を獲得した2019年作『amo』は、まさにその手法の産物だったという。「そういうやり方を選んだせいで、あのアルバムへの思い入れが薄いっていう彼らの言い分は理解できるよ」とサイクスは話す。



彼はバンドのドラマーであるマット・ニコルズを例に挙げる。「こう思うんだ。『バンドのメンバーでありながら、曲に愛着が持てないとしたら?』って。全部打ち込みのドラムを聞いて、『俺なら生でこういうフィルを入れるのに』って」。彼はそう話す。「ジョーダンと俺は2人だけでアルバムを作ってた。『完成した。収録曲はこう。スタジオに入ってドラムを録り直す必要はない。俺たちでやっておいたから』。そんなふうに一方的に告げて、彼が作品に参加したがっているなんて考えもしなかった。作品を仕上げることだけを考えて突っ走って、そういうことにまったく配慮しなかったことに罪悪感を覚えているんだ」

サイクス曰く、筆者がロサンゼルスでバンドと行動を共にしていた時、ニコルズはずっと塞ぎ込んでいたという。「彼はこうこぼしてた。『退屈すぎておかしくなりそうだ。やるべきことが何もない』。当時の俺は『仕方ないだろ』って感じだったけど、今ならわかるんだ。制作に関与していないんだから、そう思うのも無理はないって」。


Photo by Eva Pentel

フィッシュが脱退する直前の頃には、彼と一緒にスタジオに入ることさえも億劫だったとサイクスは話す。「完全にモチベーションを失ってしまってた。アルバムがリリースされなかったのは、俺が彼と話したくなかったからだ。さっさとレコードを完成させて終わりにしたいっていう、その一心だった。嫌な気分だったよ」。フィッシュ脱退後、サイクスとニコルズ、そしてギタリストのリー・マリアとベーシストのマット・キーンの4人で『NeX GEn』の半分の制作に取りかかった時、彼は気分が高揚するのを感じたという。他のメンバーたちの顔にも充足感が見てとれた。


「自分が幸せだと言い切れない根本的な理由」

新たに生まれ変わったブリング・ミー・ザ・ホライズンでは、メンバー全員が制作に携わっている。楽曲のドラムパートを考えるのはニコルズの役目だ。「それだけでもすごくやりがいを感じているのが、はっきりと伝わってくるんだ」。そう言った後で、サイクスは自分の考えをより正確に伝える言葉を探した。「きれいごとを並べ立てるわけじゃないけど、いつの間にか失われていたブリング・ミー・ザ・ホライズンのDNAを取り戻せたと思う。失ったものよりも得たものの方が大きい、そう感じてる」

ポストハードコアやハイパーポップ等、彼をインスパイアする多様なサウンドが入り乱れる『NeX GEn』は、サイクスの再起に至るまでの物語だ。本作では自己発見と、依存症の真っ只中に理想とする自分の姿を見つけようともがく姿が描かれる。自分の背中を押してくれた小さな気づきの数々を、サイクスは本作の全編に忍ばせている。

馴染み深いアーティストたちのサウンドをミックスしてモダンに仕上げたような『NeX GEn』が、様々なバンドにインスパイアされているのは明らかだ。デフトーンズやスマッシング・パンプキンズ、アンダーオース(メンバーのスペンサー・チェンバーレインとアーロン・ギレスピーは「bulleT w/ my namE On」に」ゲストとして参加している)等の2000年代のロックを軸にしつつ、やや意外なブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインやウィーザーらの影響を感じさせる部分もある。本作にはメロディと不協和音の狭間を行き来するような、どこか奇妙な生々しさがある。「このレコードのほぼすべての曲が、特定のバンドやジャンル、あるいはクリシェに対するオマージュなんだ」とサイクスは語る。アルバムの後半に配置されている、ポストハードコアの帝王グラスジョーのダリル・パルンボと、ラッパーのリル・ウージー・バートが参加したエクソシズムと世界の終わりをテーマとする曲まで聴き進めれば、もはや何でもアリなのだと納得がいくはずだ。



「実験性の強いアルバムで、制作が進むにつれて磨きがかかっていった」とサイクスは語る。"e-Bayのバンパーステッカー/笑えるしクールだろ、俺の勝手さ"など、彼はいくつかの曲に見られる歌詞について「完全にふざけてるんだよ」と話す。

回復の過程を描く物語は、当然どん底から始まるべきだ。『NeX GEn』の「YOUtopia」は次のようなラインで幕を開ける。"君を連れていきたい / 俺自身もまだ辿り着いていない場所に"。サイクスは「ありのままの自分を受け入れる」とことを、彼にとっての治療の最終目標として掲げる。今は素面だとしても、彼はまだ完全に乗り越えたわけではないことを自覚している。「俺は何か他のもの、あるいは他の誰かになりたい」と彼は話す。「今の自分自身に、俺はまだ納得できていない。それこそが、自分が幸せだと言い切れない根本的な理由なんだ」


Photo by Eva Pentel



フィッシュ抜きでバンドが初めて完成させた渦巻くようなメタルトラック「Kool-Aid」が描き出すのは、超資本主義の個人主義が重んじられる社会が推し進める堕落した「ユートピア」だ。一方で「Top 10 staTues tHat CriEd bloOd」は、誰もが自らの力で立ち上がらなければならないことを教えてくれる。続く「liMOusine」のサディスティックな嫌悪感について、サイクスはこう話す。「人工的に生み出される高揚感についての曲。リムジンに乗り込むとき、自分が日常から切り離されるのを感じるんだ。それは快楽主義的なライフスタイルや中身のない高揚感の象徴であり、虚しさを忘れるためのお手軽な特効薬なんだ」。また「DArkSide」では、彼自身とレコードの登場人物の両方が再び闇に飲み込まれ、少なくとも一時的に敗北を喫する。







「自己治癒を試みたことのある人、あるいは依存症を経験した人は、必ずどこかで振り出しに逆戻りする。もれなく全員がそうなんだ。『自分自身の力で克服してみせる』と誓いを立てて、1度目の挑戦で成功する人はいない」

アルバムの後半を、サイクスは「リハビリ編」と形容する。「n/A」(匿名の麻薬中有者の頭字語であることは明らかだ)の冒頭でその部屋へ足を踏み入れた彼を迎えるのは、「よぉオリー、このクソ野郎 / 俺たちを騙せると思ったのか?」という、依存症仲間たちによる圧倒的な合唱だ(BMTHの最近のライブの場でレコーディングされた)。再発症をテーマとするこの曲について、サイクスはこう話す。「鞍に飛び乗るところが最大の難関だと思われがちだけど、本当に難しいのはそこにとどまることだ。なぜなら、それはとんでもないじゃじゃ馬だから」



「過ちを犯し、再び振り出しに戻ってしまったことで酷い自己嫌悪に陥る。『俺は誰もかもを失望させてばかりだ。誰からも憎まれ、自分を恥じずにいられない』っていうあの最悪な気分。ほんの一瞬だけでもそれを忘れさせてくれる何かに再び手を染めてしまい、元の木阿弥になってしまう」

彼は『Sempiternal』の制作に入る前に経験した、リハビリ施設での12ステップミーティングのことを思い出す。何よりも勇気づけられたのは、自分が狂っているわけじゃないということ、あるいは誰もが自分と同じように狂っていると理解したことだった。施設での彼のルームメイトは、軍人としてアフガニスタンに赴き、統合失調症と摂食障害を患い、実の父にレイプされた過去を持つ男性だった。「誰もが暗い過去と深い傷を抱えてた」と彼は話す。「そこでは誰もがこう思ってた。『俺はダメだ、絶対にこの沼から這い出せない』。それでも周囲の人間が立ちあがろうとするのを見て、精神が浄化されるように、自分にもできるはずだと思えたんだ」。当時はリハビリのプログラムを、神の存在を強調し過ぎているという理由で拒否した(彼は無神論者だった)。彼は今も神の存在は信じていないものの、崇高な力に従うようにしているという。


Photo by Eva Pentel

パンデミックの間に依存症を再発したことで、彼は新たな対処法を学んだ。体が薬物を欲した時、彼は速やかにそのことを誰かに話すようにしている。「誰かに伝えることで、頭の中をすっかり占めていたその欲求を抑制しやすくなるんだ。誰かが背中を押してくれるんだよ。『この薄汚いヤク中め』なんて言うんじゃなく、手を差し伸べ、なぜ俺がそういう気分なのかを理解しようとしてくれる」。依存症の克服の困難さを経験したことのあるファンならば、当初の混乱や友人をなくすことの苦しみを知っているだろう。「そういうやり方を選ぶ人は多くない。ものすごく苦しいから」と彼は話す。


変わり続けることの意味

取材の最後に、バンドにとって変わり続けることの意味について語ってもらった。「俺たちのキャリアが軌道に乗り始めたのは、実験を恐れなかったからだ」とサイクスは話す。それは他のデスコアバンドとは一線を画す、メロディックなメタルコアを追求した2008年作『Suicide Season』から始まった。衝撃的な『Sempiternal』では、大半のバンドが敬遠するであろう電子音楽とメタルの融合という野心的なヴィジョンを提示してみせた。甘美なEDMポップからスタジアム級ロックまで、様々なフェーズを経験した彼らは今、それらの狭間にある独自のスタイルを確立している。メタリカやAC/DCのような大御所バンドに見られる極端なまでの一貫性が多くのロックファンに敬遠される今の時代に、ブリング・ミー・ザ・ホライズンは変化を繰り返すことでこのジャンルの最前線にとどまり続けている。 



傍目には衝撃的で予想外だったメンバーの脱退と再生は、バンドの進化のサイクルの一部に過ぎない。「こういう実験は、もはやトラウマみたいなものだ」とサイクスは話す。「避けて通ることはできない。それが必要だということを、俺たちは経験上知っているから。変わり続けることで、このバンドはこれからも進化していくんだ」


Bring Me The Horizon | ブリング・ミー・ザ・ホライズン
ニュー・アルバム
『POST HUMAN: NeX GEn | ポスト・ヒューマン:ネックス・ジェン』
●国内盤&輸入盤アルバム:2024年9月27日(金)発売予定
●配信アルバム:配信中(2024年5月24日)
https://SonyMusicJapan.lnk.to/NeXGEn

<国内盤CD 完全生産限定盤>
¥3,800+税 / SICP-6586~7
・紙ジャケット仕様CD
・限定ジン(32P)
・ステッカーシート
・ボーナス・トラック3曲含む全19曲収録
・解説・歌詞対訳

<国内盤CD 通常盤>
¥2,700+税 / SICP-6588
・ジュエルケースCD
・ボーナス・トラック3曲含む全19曲収録
・解説・歌詞対訳

SUMMER SONIC 2024
8月17日(土)18日(日)
東京会場:ZOZO マリンスタジアム&幕張メッセ
大阪会場:万博記念公園
※ブリング・ミー・ザ・ホライズンは8月17日(土)大阪会場、18日(日)東京会場に出演
公式サイト:https://www.summersonic.com/

from Rolling Stone UK

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