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フォスター・ザ・ピープルが語る、恐怖にとらわれない大切さ、自由を求めた緻密なこだわり

Rolling Stone Japan / 2024年8月16日 17時15分

フォスター・ザ・ピープル

グラミー賞に3度ノミネートされた人気バンド、フォスター・ザ・ピープルが夏を感じさせる先行配信シングル「Lost In Space」をリリースした。8月16日には前作から7年振りとなる待望の4thアルバム『Paradise State of Mind』をリリース(国内盤CD発売 8月21日 輸入盤CD発売 8月23日)。

【写真を見る】フォスター・ザ・ピープルのマーク・フォスター

このアルバムはバンド本来の魅力に加えて、70年代後半から80年代初頭までのディスコ、ファンク、ゴスペル、ジャズといった様々な音楽をクロスオーバーさせており、それを今の時代の音として形にして、今がハードな時代だからこそ、音楽本来の楽しさ、喜びを表現したものになっている。バンドのリード・シンガー、ソングライター、マルチ・インストゥルメンタリストで、バンドメイトのイゾム・イニスとともにアルバムのプロデュースを手がけたマーク・フォスターに話を聞いた。

ーニュー・アルバム『Paradise State of Mind』を聴いて一番強く感じたのは、音楽が本来持つ楽しさ、喜びでした。音楽が痛みや不安のない世界に連れていってくれる、そういう意味での音楽の楽しさ、喜びを感じましたね。

そう言ってもらえてうれしいよ。このアルバムは今までで一番エモーショナルな気持ちで制作したものなんだ。僕が楽しい音楽を作る時は、自分の気持ちを良くするためにやっているところがあってね。これは非常に逆説的なことなんだけど。自分が何かと闘っている時、何かヘビーなものを乗り越えようとしている時って、自分ではヘビーな曲を書きたいとは思わないんだ。だからこのアルバムは自分がどれだけヘビーなものを抱えていたかということの答えになっていると思う。楽しさ、喜びを武器として使い、自分が感じていること、世界が感じていることに抗って、僕は自由になりたかったんだ。僕はかなり精神的に落ち込んでいたからね。



ー今という時代の痛みや葛藤をそのまま反映した音楽が多い中で、このアルバムは真逆のアプローチをしていますよね。

このアルバムの制作を始める前に、そのことについてはけっこう考えたよ。それで自分自身に問いかけたんだ。僕は今のこの時代にアーティストとして何を言いたいのか? アーティストにはそこに対する責任があると僕は感じている。音楽は僕がエネルギーと意図を込めて作るものだ。真実を伝えること、本物であることは、僕が自分自身にも課している責任なんだ。と同時に、これは僕がつながっている人々に対しても感じる責任だ。何故なら僕は音楽を通して人々とつながっているからね。アルバムを作る前の僕は何カ月も瞑想と思索を続けていた。今の世界で起きていることをどれだけ素直に曲として形にできるのか。しかもアルバム全体をダークなものにすることなしに。かと言って、現実逃避的なものにはしたくなかった。人々に希望を与え、自分自身にも希望を与えられるような本物の音楽、楽観的な音楽を作りたかった。そこは揺るがない意図としてあったね。今の世界は複雑な時代にある。このアルバムの多くで僕は自分自身のこと、自分が何を乗り越えてきたかについて語っているよ。そこは抵抗なくできたんだ。そうすることで自分自身に素直になれたし、聴き手にも入ってきてもらえると思ったからだ。それに、今の世界で間違っていることを非難するようなことはしたくなかった。今スマホを見ると誰もが何かしら非難をしているよね。「あの人が問題だ」とか「あれが問題だ」とか、どの政治家が悪いとか。でもそんなことをしたって何も解決しないと思うんだ。より大きな分断を生むだけだから。

ーアルバムの音楽性としては、ディスコ、ファンク、ゴスペル、ジャズなどいろいろな要素がハイブリッドされていますよね。ナイル・ロジャース、シック、トム・トム・クラブ、ジョルジオ・モロダーからのインスピレーションがあるとのことですが、実際にナイル・ロジャースとは会ってハングアウトしたんですよね。

そうそう。僕は最初は70年代半ばから80年代初頭までの音楽を詳しく掘り下げていたんだ。非常に面白い時代で、シック、初期のマドンナ、初期のザ・クラッシュ、ジョルジオ・モロダーといった音楽は、後のダンス・ミュージックの原型という感じでもあるんだけど、同時にゴスペル、ファンクの要素もたっぷり入ってるんだ。トム・トム・クラブにはパーラメント、ファンカデリックのバーニー・ウォーレルのようなサウンドがあるし、シンセ・ファンクの曲にはギャップ・バンドのようなサウンドが入っていたりする。その時代には様々な音楽がお互いに影響を与え合って、融合しているんだ。メロディも素晴らしいし、そこには非常に高度なミュージシャンシップもある。音楽自体は実際に演奏するのが難しかったりするんだけど、難しい音楽に聴こえることはない。そこにあるのは音楽の楽しさ、喜びだからね。僕が大好きなのは、音楽的には楽しいもので、リリック的にはリアルなことを歌っているものだ。そのリアルというのは風刺でもいい。実際、アルバム収録の「See You In The Afterlife」はとても風刺的な曲だ。今の時代、今の世界で起こっていることを歌っているし、けっこうヘビーなテーマであっても、ユーモアのセンスを入れてわかりやすいものにしている。プリンスの「1999」にしても、世界が終わるならダンスしてしまおうという曲だよね。これもある意味風刺だ。



ナイル・ロジャースに関しては、元々一緒に曲作りをする話をしていたんだ。彼は僕の家に来てくれたし、僕は制作中の曲を何曲か彼に聴かせたよ。彼は特別な人だと思うね。僕の大好きなデヴィッド・ボウイの話をしてくれたし、70年代に彼がシックの音楽でどう時代に向き合っていたのかも語ってくれた。彼は1930年代の世界恐慌の時代の音楽を、時代背景を調べながら掘り下げていったらしいんだ。歴史は繰り返すことを知っていた彼は、そこから70年代の音楽を楽しさと喜びのあるものにしようと思ったんだ。曲の中でもなるべく早くコーラス・パートに持っていって、聴いている人々が身体を動かし、ダンスできるようにしたとも話していたね。でもそれって簡単なことではないんだ。身体を動かし、ダンスするというのは、非常に深い意味があるからで。身体を動かすには自分の精神を自由に解放しなきゃいけない。自分の中の子供のような無邪気さに触れて、人間らしさとは何かを感じなくてはいけないんだ。判断とか批評なしで、僕たちがどういう存在なのかを知ること。僕たち全員の内側には小さな子供がいることを知ることなんだ。僕たちは不安や恐れを感じるし、傷つけられるんじゃないか、馬鹿にされるんじゃないか、仲間外れにされるんじゃないか、批判されるんじゃないかと思うんだけど、それは内側に小さな子供がいるからなんだ。今という瞬間にただ身をまかせて楽しむ時、笑顔が生まれるし、人と人はつながることができる。それって最高のフィーリングだと思うんだよね。それが自由だし、愛だし、コミュニティの表現だから。今の僕が世界を見た時、人々はお互いを必要としていると思うし、コミュニティを必要としている。そこで気づかされるのは、僕たちの誰もが同じ人間だということだ。僕たちが求めているものは同じもので、とてもシンプルなものだ。音楽にしても、一人のアーティストがすべてを作っているのではなく、同じ考えを持った人たちが集まって作ったものなんだ。しかも音楽だけでなく、映像、絵画、詩、物語がそこにはある。人々の受け止め方が何であれ、大切なのは今の時代が持つ恐怖にとらわれないことだと思う。今は恐怖に満ちた時代だからね。





伝説的なスタジオを選んだ理由

ーサウンド作りについても聞きたいのですが、アルバム全編を通して生楽器の演奏を大幅に入れて、音のレイヤーを作っていますよね。ストリングスの美しさも素晴らしいし、フルート、ホーン、トランペットの演奏もありますよね。今回はどういう音楽の旅を経て制作をしたのですか?

とにかく楽しみたかったんだよね! 「Glitchzig」という曲では友達のステュワート・コールを呼んでいるよ。この曲ではアブストラクト・ジャズのソロを入れたくて、ステュワートにトランペットをプレイしてもらったんだ。他の曲ではジェイコブ・セスニーを呼んで、ホーン、サックス、フルートをプレイしてもらっている。その制作をしている時の僕は、自分が若きジョン・コルトレーンを見ているマイルス・デイヴィスのような気持ちになったよ。ホーンのパートは僕が書いているんだけど、フルートの演奏はインプロビゼーションだ。ジェイコブがホーンを録る準備をしている時、彼のオリジナルのスタイルはもうすぐ世に出て注目されることになるだろうと確信したね。レコーディングの終盤ではカルテットを2組呼んで、ストリングスのすべてを録音した。ストリングスの録音はフランク・シナトラも使っていた、LAのEast West Studiosの大きなルームで行ったんだ。アルバムを聴けば、大きなルームに演奏者たちがいるのを感じられると思うよ。そういう音響上のまとまりもこのアルバムでは形にしているんだ。



ーこのサウンドをこれからのライブでどう表現するのかが非常に気になりますね。

そこは僕もやってみないとわからないところだね(笑)。もうすぐライブのリハーサルが始まるんだけど、バンドのメンバーには今まで一緒にやったことのないジャズ畑のプレイヤーもいるんだ。僕にとっては今までで一番音楽的なライブになると思うよ。曲本来の構成をベースにしながらも音楽の形式を壊していきたいんだ。それをライブでやるわけだから、どのライブも違うものになるはずだ。ジャズのインプロヴィゼーションには、プレイヤー同士がお互いを見ながらプレイするテンションの高さがあるよね。音楽的にこれ以上にエキサイティングなものはないと僕は思っていて。そういう要素をフォスター・ザ・ピープルのライブに取り入れるのが面白いんだよ。僕たちの音楽にはフック、メロディ、ポップな要素があるから、人々がシンガロングしたり、ダンスしたりできる。でもそういう曲をさらにディープなところまで持っていくこともできるんだ。そういうことを音楽的にトライできるわけだから、今からワクワクしているよ。

ーLAのEast West Studiosの話も出ましたが、このスタジオはザ・ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』やマイケル・ジャクソンの『スリラー』などで知られる伝説的なスタジオですよね。このスタジオを選んだ理由は何ですか?

『ペット・サウンズ』は僕のオールタイム・フェイバリットのアルバムなんだ。それにここはレッキング・クルー(注:60年代~70年代にLAを拠点に活躍していたスタジオ・ミュージシャン集団)が数多くのレコーディングをやってきたスタジオでもある。しかも僕の家のすぐ近くにあるんだ。それでこのスタジオですぐにでもレコーディングをやりたいと思ったんだ。East West Studiosは以前にも使ったことはあるんだけど、『ペット・サウンズ』と同じルームではなかった。それで『ペット・サウンズ』と同じルームで制作をしてみたんだけど、『ペット・サウンズ』のスピリットを感じられて、とてもスペシャルな感覚になったね。フロアにしても当時と同じままなんだ。スタジオには傷とか穴もたくさんあってね。ハル・ブレインがドラムをセッティングしている姿とか、キャロル・ケイがベース・アンプを運んでいる姿とかが目に浮かんだよ。ミュージシャンたちがお互いに近い距離で演奏をして、歴史上アイコンとなった音楽を制作している、そういうスピリットを感じられたんだよね。

ー今後の予定を教えてください。来日の予定はありますか?

日本にはすぐにでも行きたいね。日本は大好きなんだ。だから日本でライブをやることは約束するよ。もうすぐリハーサルが始まるから、ライブをどうやるのかはそこで決まってくるはずだ。すでに決まっている年内のライブは、10月に行われるAustin City Limits Music Festivalになる。

ー前回の来日は2017年ですから、もう7年前になりますね。

そうそう。ちょうどそれを考えていたところだ。フォスター・ザ・ピープルは2010年の初めにスタートして、そこから7年後が2017年だ。今回のアルバムも前作からは7年後のリリースだ。この「7年」という周期は不思議な感じがするよ。最初の7年とその後の7年で、僕は全く違う人間になった感じがするんだ。人生は大きく変わったからね。でも素晴らしいのは、歳を重ねるごとに常に成長、変化できていることなんだ。今、人生のこのチャプターで新たな一歩を踏み出して、この経験が何であろうとオープンでいられることが楽しいんだ。

ー新たな7年周期の始まりという感じですね。

まさに今感じているのはそういうことなんだ。




『Paradise State of Mind』
フォスター・ザ・ピープル
ワーナーミュージック・ジャパン
配信中:
https://Japan.lnk.to/PSOMPu

国内盤CD 8月21日発売
輸入盤CD 8月23日発売
https://wmg.jp/foster-the-people/

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