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吉乃がZepp DiverCityに刻んだ「爪痕」、ボカロ文化への敬愛と歌い手としての誇り

Rolling Stone Japan / 2024年8月21日 19時0分

吉乃

歌い手の吉乃が2024年8月14日(水)、15日(木)の2日間にわたり、東京Zepp DiverCityにてワンマンライブ「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 ”爪痕”」東京公演を開催。会場に詰めかけた熱いファンの声に応えて、渾身の歌声を聴かせた。

2019年から歌ってみたの動画投稿で活動を開始、支持を拡大している吉乃。今年1月にチケット即完の初ライブを大成功させると、ポニーキャニオンよりメジャーデビューすることを発表。より注目を集める中で行われた今回のライブは、7月17日(水)名古屋・Zepp Nagoyaを皮切りに全国4カ所のZeppを回るカバーライブツアーのファイナル公演2Daysとして実施された。このレポートでは、東京公演初日の模様をお届けする。

【写真を見る】吉乃、Zepp DiverCityワンマン(全7枚)

満員の場内が暗転してSEが深遠な音像から強いビートに変わると、フロアが紫色のペンライトに染まる。幕が左右に開き、ツアータイトル「爪痕」の文字が現れた。ステージの中央、円柱状に包まれたカーテンの中に吉乃の姿がうっすらと浮かび上がる。オープニング曲はボカロP・柊キライの「ボトム」。大きなアクションをシルエットで見せながら、言葉を畳みかけるように繰り出すと、総立ちの観客は映像と同じ真っ赤なペンライトを振りながら応える。「爆笑」で激しい4つ打ちのトラックに乗せて両手を広げて〈ワッハッハッハ〉と豪快な笑い声を響かせると、マイクを上に向けてシャウト。メタルチックなバンドサウンドによる「ロストワンの慟哭」では、学校を舞台にした歌詞に合わせてステージ背後の映像に文房具や教室の様子が描かれる。幾何学的なギターリフ、サーチライトが飛びかい、真っすぐな吉乃のボーカルに「Oi!Oi!」と腕を振り上げるオーディエンス。冒頭からものすごい熱量が会場に充満している。

曲間に訪れた静寂を破ったイントロに、どよめきが起こる。始まったのはボカロ曲以外からの選曲で緑黄色社会「花になって」。多くの観客が合唱しながら吉乃と曲の世界観を共有する。艶やかで力強い高音のロングトーン、歯切れよく明瞭な歌い回しが際立っていた。「Hey!Hey!」とレスポンスが起こった「ヴァンパイア」、映像にバレリーナのポーズでシルエットが映し出された「バレリーコ」と、ダンサブルな曲が続く。疾走するミクスチャーロック「聖槍爆裂ボーイ」では、早口でまくし立てるボーカルを、ビジョンに描かれるワードとライティングがさらに後押しする。ベースソロから突入した間奏では、しなやかなダンスで長いポニーテールを揺らしながら華麗に舞う吉乃に、大歓声が沸き起こった。ここまでの7曲をほぼノンストップで歌い上げ、MCへ。



「みなさんこんばんは、吉乃です!」の第一声に大歓声を受けると、ツアー各地でやってきたという恒例行事として「東京ー!」「ウォー!」とコール&レスポンス。ツアータイトルの”爪痕”について、「限りある私たちの命、今この瞬間も終わりに向かっている中、ボーカロイドという素晴らしい音楽がこの世界に存在している証を、今日みなさんがここに足を運んでくれた証を、私が今日ここに立った証を少しでも残したい。そんな思いを込めて”爪痕”と名付けました」と明かす。さらに”爪痕”という言葉への思い入れについて「昔、結構な大人数の前で”吉乃っていてもいなくても変わらないよね”って言われたことがありました。それを聞いた人たちは否定するわけでもなくただ笑っていて。私自身も、それを否定できなくてみんなと一緒に笑って流すことしかできなかった。でも本当はそれがすごく悲しくて。今思えば小さな出来事かもしれないが、世界から私が存在ごと拒絶された気がしました。実は今でも、あの頃書き残した言葉が手元に残っているんですけど、”私はこの先の人生でどれだけの爪痕を残せるだろう。どんな形でもいいから、1人でも多くの人に自分のことを覚えていてほしい”と書き記していたんです。そんな自分が大好きな歌で爪痕を残そうとここに立てていることをすごく嬉しく思います。当時の自分の思いを引き連れて、この後も引き続きライブをお楽しみください」と語った吉乃に、客席からは「一生ついていくぞー!」と頼もしい声が上がっていた。



ミディアムテンポのエレクトロポップ「うつけ論争」に続き歌われたのは、キタニタツヤのカバー「青のすみか」。こうした男性ボーカル曲も歌い上げる声域の広さは大きな魅力だ。両手を叩いて煽ると、会場中がクラップで1つになった。身振り手振りで力の籠った「狼煙」から、清廉なハイトーンで聴かせた「ドリームレス・ドリームス」、ピアノの旋律と寄り添うように歌い上げた「回る空うさぎ」とバラードを続けて惹きつけた。

ビジョンの映像と照明が明るくステージを照らし、吉乃のシルエットがクッキリと浮かび上がる。取り上げられたのは、みきとP「少女レイ」。ジャングルのリズムとアコースティックギターが融合したラテンフレーバーのアップテンポなトラックと、セミや踏切の効果音が夏らしさを演出する中、儚さと切なさを内包した歌唱が光った。「夕景イエスタデイ」で楽しそうに踊りながら伸びやかに歌って楽しませると、ラウドチューン「チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!」では一転して激しくダークな面を見せる。「さあみなさん、ライブも終盤になりましたが、まだまだいけますか東京ー!? 私に続いてご唱和ください!」と呼び掛けると、〈さァさァ、密告だ 先生に言ってやろ〉、〈チュルリラ チュルリラ ダッダッダ〉とコール&レスポンスで一体となった。壮大なコーラスが会場中を包み込んだ「メルト」を歌い終えると、ツアーの終わりを惜しみつつ、最後の曲「誰かの心臓になれたなら」へ。吉乃を囲むブースの頭上にインスタレーションの演出で雨が降り注ぐ。その雨を受け止めるように見上げて手を拡げ、情念を感じさせる歌声を聴かせた。

すかさず起こったアンコールの声に応えると、ノイジーなロック「ヒバナ」で拳を突き上げる吉乃とオーディエンス。「今という今日この瞬間を最高に盛り上げて行きましょう!」と叫んで始まった「DAYBREAK FRONTLINE」でさらにヒートアップ。リズミカルに淀みなく歌う吉乃の、終盤に来てもなお人々を鼓舞する力強いボーカルに感動すら覚えた。曲中、「みなさん、今日は私をここに立たせてくれて本当にありがとうございます! 明日も明後日もこんな日々が続いたら、私は幸せです!」と感謝を伝えると、天井から銀テープが降り注ぎ、会場は大きな多幸感に包まれた。



「今後のライブでは、全曲カバーは想定しなくて、オリジナル曲も含めてやらせていただきます!」と宣言すると、大歓声。さらに10月放送開始のTVアニメ『ひとりぼっちの異世界攻略』オープング主題歌「ODD NUMBER」にてメジャーデビューすることを改めて伝えると、「おめでとうー!」と吉乃を祝福する観客たち。「次にお会いするまで少し時間は空いてしまうんですけど、もしみなさんがこの先、自分の未来を信じられなくなったときは、あなたに救われた人間がここにいることを思い出してください。あなたの幸せを、あなたの未来を信じてやまない人間がここにいると覚えておいてください。もっともっと素敵な歌を歌って、みんなに最高の景色を見せられたらなって思ってます。また会える日まで、私たちが笑顔で過ごせる日々を願っています」。

MCのメッセージと繋がるように、最後に歌われたのは「君の神様になりたい」。ブレスの隙間もないような旋律を感情の入った迫力の歌唱で聴かせた。「もっともっと大きくなって、必ずまたみんなに会いに来ます! いつかまた、夢の舞台でお会いしましょう! 今日は本当にありがとうございました。吉乃でした!」。叫ぶようにそう告げると、左右の幕が閉じてツアーファイナル東京公演初日は終了した。渾身のパフォーマンスで聴かせた2時間、20曲は、吉乃の歌声の魅力はもちろん、さまざまな楽曲の素晴らしさも伝えるもので、そこにはボカロ文化への敬愛と歌い手としての誇り、強い意思が感じられた。今後、フィールドを拡げていくであろう吉乃がどんなオリジナル曲を聴かせてくれるのか、おおいに期待したくなるライブだった。

「吉乃 COVER LIVE TOUR 2024 ”爪痕”」
2024年8月14日(水)Zepp DiverCity
セットリスト
1. ボトム
2. 爆笑
3. ロストワンの慟哭
4. 花になって
5. ヴァンパイア
6. バレリーコ
7. 聖槍爆裂ボーイ
8. うつけ論争
9. 青のすみか
10. 狼煙
11. ドリームレス・ドリームス
12. 回る空うさぎ
13. 少女レイ
14. 夕景イエスタデイ
15. チュルリラ・チュルリラ・ダッダッダ!
16. メルト
17. 誰かの心臓になれたなら
EN1. ヒバナ
EN2. DAYBREAK FRONTLINE
EN3. 君の神様になりたい。

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