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チャーリー・ブリスは「永遠」 現代最高のパワーポップ・バンドが青春物語を歌い続ける理由

Rolling Stone Japan / 2024年8月22日 17時30分

Photo by Milan Dileo

2019年春に2ndアルバム『Young Enough』をリリースしてから1年も経たないうちに新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起こり、活動の停滞を余儀なくさせられたチャーリー・ブリス。しかし、それもバンドにとっては自分達を見つめ直すいい冷却期間になったようだ。5年という長いブランクを経てリリースされた最新作『Forever』は、パワーポップをルーツとする彼女達が臆することなくサウンドの幅を広げ、さらなる高みに到達した堂々たるエバーグリーンなポップ・アルバムとなった。そんな『Forever』のリリースを翌々日に控えた8月14日に、メンバー同士の良好な関係が伺える和やかな雰囲気の中、4人全員で饒舌にインタビューに答えてくれた。



左からエヴァ・ヘンドリックス(Vo, Gt)、サム・ヘンドリックス(Dr)、ダン・シュアー(Ba)、スペンサー・フォックス(Vo, Gt)


再発見したバンドの絆

ダン・シュアー(Ba):ちょうど今、みんなでスタジオ練習を終えてきたところでね。バンドの状態もいい感じだよ。

―いよいよ『Forever』がリリースされますね。おめでとうございます! 今作は前2作よりも遥かにビッグでドラマチックなサウンドスケープになっていて、バンドとして新たな地平を切り開いたと思いました。あなた達自身は『Forever』について、どう感じていますか?

エヴァ・ヘンドリックス(Vo, Gt):私としては、アルバムが発売されるのがこんなに待ち遠しいと思ったことはないかも。これまでだったら作品がどう受け止められるかについて、緊張したり、不安になったり、怖くなったりしてたんだけど、このアルバムについては発売されることがとても嬉しくて興奮してる。なぜなら、この作品の為の曲を書き始めた段階で思い描いていたイメージをきちんと実現できたから。本当に私達らしい作品を作り上げられたと思っているし、みんなに聴いてもらうのが待ちきれないって感じ。

サム・ヘンドリックス(Dr):どんな評価を受けようとも、自分的には本当に誇りに思える作品ができたと感じてる。もちろんファンのみんなには気に入ってもらいたいけど、このアルバムが大コケしたとしても、この気持ちは揺るがないと思う。

エヴァ:とはいえ、今回のアルバムが超大ヒットして世界的なスーパースターになれるなら、それに越したことはないんだけど(笑)。

ダン:大ヒットすればツアーで日本にも確実に行けるだろうし。

エヴァ:そう! 日本に行くのが私達の夢なの。

ダン:知っているかもしれないけど、1stアルバムの『Guppy』は最初にレコーディングしたものを全てボツにして、もう一度ゼロから録音をやり直してようやく完成したんだ。というのは、最初のバージョンでは僕達の持ち味である楽しさだったりポップネスをきちんと表現できていないと感じたから。チャーリー・ブリスの本質はまさにそこだと思っているからね。今回のアルバムではそんな本質を最も凝縮できたと思ってる。

スペンサー・フォックス(Gt):このアルバムは僕達4人の純粋な結晶のような、最もチャーリー・ブリスらしい作品になったと思う。リリースが近づくにつれて緊張もしてきたけど、それはこのアルバムには僕達のありのままの姿が刻まれているから。だからとてもハッピーだよ。



―ロック・バンドの類型的なサウンドに囚われずに新たなサウンドに積極的に挑戦し続けているところは、それこそブロンディのようなレジェンド・アーティストにも通じるところがあると思いました。エレクトロニック・サウンドを導入した前作の路線を推し進めて、シンセポップへとさらに強く振り切った今作に影響を与えたアーティストや作品があれば教えてください。

エヴァ:色々あるけれど、質問を聞いて直感的に頭に思い浮かんだのはハイムかな。彼女達の楽曲は、どんな曲調であろうとも、どんな楽器を使っていようとも、聴けばハイムの曲だってすぐに分かるでしょ。私達もそういうバンドになれたらと思っているし、音楽で本当に大切なのは、どんな楽器を使っているのか、どんなサウンドなのかということよりも、強いメロディと印象的な歌詞があること、そしてそこから得られるフィーリングだと思っているから。

サム:もちろんサウンドの幅を広げたいとは思っていたよ。それに加えて、このアルバムの大半はコロナのパンデミック中に作曲されたから、小さいアパートの部屋にあるキーボードを使って曲を書くしかなかったのもサウンドに影響していると思う。

エヴァ:ニューヨークで、しかもパンデミック中で皆が家にいるとなったら、ギターやドラムの大きな音を出すことができないしね(笑)。

ダン:でも、レコーディングではほぼすべての曲で本物のドラム、ギター、ベースを使っているんだ。

サム:ただ、以前のアルバムでは最初にドラムとベースを録音してから音を重ねていったんだけど、今回のアルバムではキーボードで作ったデモ音源を基に音を重ねていって、最後にドラムを録音した。普通とは逆のやり方だね。それがサウンドの変化にも繋がっていると思う。


Photo by Milan Dileo

―前作『Young Enough』から今作までの間にエヴァさんはニューヨークからオーストラリアに移住されたそうですが、アメリカに住む他のメンバー達と物理的に大きく離れたことが、今作に何か影響をおよぼしたと思いますか?

エヴァ:物凄く大きな影響があったと思う。『Young Enough』のツアーは10カ月にも及んで、私達は正直言って疲れ果てていた。もともとオーストラリアは6週間の旅行の予定だったんだけど、ちょうどコロナのパンデミックが起こって、けっきょく1年半も滞在することになった。でも、バンドのメンバーと完全に離れていたことで、私達のキャリアで起こった全てのことを、感謝の気持ちを持って振り返れるようになった。パンデミックによって人生で初めてバンドから離れて、自分達の歴史を振り返ってみて、自分の夢が全て叶ったことに初めて気付いたから。しかも自分が本当に愛している人達と共に叶えられたということに。そういう風に冷静に全体像を俯瞰する機会を得られたのは、ある意味ではとても幸運なことだった。

そんな気持ちから「Waiting For You」のような曲が生まれたの。バンド仲間の為に、バンド仲間についての曲を作らなきゃと思ってね。私がサムとスペンサーとダンのことをどう思っているか、どれだけ彼らを愛しているかという曲を。チャーリー・ブリスでは私が経験した様々な人間関係や恋愛関係について歌ってきたけれど、私の人生で最も長い人間関係はバンド仲間とのものだって気付いたから。あれだけ恋愛関係について赤裸々に歌ってきたのに、人生最大の人間関係について歌わないなんてどうかしてる。だから「Waiting For You」はとても大切な曲。

それと、『Forever』は1stアルバムの『Guppy』にとても似ているようにも感じている。『Guppy』を作っている時は、とにかく自分達が本当に最高と思えるものを作り上げよう!ということにひたすら集中していた。でも、前作の『Young Enough』の時はアルバムを作ることに大きなプレッシャーを感じていたせいで、私達4人の間の繋がりを見失っていた気がする。今回のアルバムではサムとスペンサーとダンと一緒にバンドができる喜びを改めて感じて、『Guppy』の頃の自分達に戻ることができた。他人は関係ない、何が起ころうとも自分達が本当に誇りに思えるレコードを作ろう、という心持ちに再びなれた。そして、実際にそういう作品を作り上げられて嬉しく思ってる。





―今回のアルバムで特にこだわったところを教えてください。

サム:パンデミック以前の僕はAppleのGarageBandを使っていて、EQの使い方もあまり分かっていなかった。だからパンデミックの期間中に色んなプラグインを買って、音楽制作についてきちんと勉強してみたんだ。そのおかげで曲作りの幅を広げることができたと思う。以前の僕はギターを弾いて曲を作ったら、その後のアレンジは運任せみたいなところがあったんだけど、サウンド・プロダクションについての知見を深めたら、そもそもの曲作りがとても楽になった。だから僕にとってはサウンド・プロダクションとソングライティングの両方かな。

エヴァ:私はやっぱり歌。オーストラリアの田舎に引っ越して車を手に入れたことで、遠慮せずに大きな声で歌いながら曲を書いたり練習できたりするようになって、歌うことの楽しさを再発見した。それがアルバムでも活かされていると思う。

スペンサー:パンデミックの最中にサムと何度か話し合って至った結論としては、あの楽器やこの楽器を使わなければいけないといったサウンドの雛形ありきではなくて、エモーションやフィーリングを重視していきたいということだった。だから、今作では楽曲に込められている感情を最も簡潔かつ真摯に伝えるにはどうすればいいかを第一に考えてサウンドを構築していった。そのおかげで、以前よりも純粋な表現ができるようになった気がしている。

ダン:パンデミックやエヴァのオーストラリア移住の影響もあって、今作ではこれまで以上にバンドが一致団結する必要があった。そして、結果としてそれがきちんと達成できたと思うよ。

青春は永遠、チャーリー・ブリスも永遠

―「As 90s rock revivalists, were just too late(私達は90年代ロックのリバイバリスト/登場するのが遅すぎただけ)」と自虐的に歌う「I Dont Know Anything」は、音楽業界におけるキャリア形成や独自の立ち位置を築くことの困難について歌った曲でもあると思います。実際のところ、チャーリー・ブリスはこれまでの活動でどのような困難を経験し、それをどのように克服しようとしてきたのでしょうか?

エヴァ:この歌詞は『Young Enough』のインタビューの際に実際に私が言ったことなの。「チャーリー・ブリスが20年前に存在していたら世界最大のバンドになっていたはず、と考えて悔やむことはないか?」と聞かれてね。だから、自虐であり皮肉でもある。

スペンサー:僕達は時代を間違って産まれてきたってわけだ(笑)。

エヴァ:でも、全ての音楽はリバイバルを繰り返してる。オリヴィア・ロドリゴが作ったロック・アルバムは大ヒットして、彼女はブリーダーズと共にツアーをしている。未来がどうなるかなんて誰にも分からない。

ダン:それに、世界中には本当にたくさんのバンドがいるけれど、チャーリー・ブリスが到達したような地点まで辿り着いたバンドは、おそらく2%かそこらしかいないと思う。僕達はヨーロッパやオーストラリアをツアーして、シンガポールでもライブができた。それだけで十分凄いことだよ。

エヴァ:この曲を書いている時に、ストリーミングが主流の現在の音楽業界できちんとお金を稼いでキャリアを積み重ねていくのがどれだけ難しいかについて語られている記事を読んだの。アーティストがそのことについて正直に語ると、ネット上では反発を受ける場合が多い気がする。「自分自身でそのキャリアを選んだんだから、お金が稼げなくても文句を言うな」という自己責任論になってね。でも私達が経済的な不安を抱えているのは事実だし、常にプレッシャーに晒されていて精神的な健康を維持するのも本当に大変。「I Dont Know Anything」では、そういった葛藤を綴ってみた。アルバムの大半が音楽作りへの愛を取り戻す喜びに溢れた歌だから、バランスを取る意味でこの曲をアルバムに入れるのはとても重要だった。だって、どちらも私にとっては真実だから。



―収録曲の「Nineteen」について、エヴァさんがプレスリリースの楽曲解説で「この曲の変化形を今後もずっと書き続けていくと思う」とコメントしていたのが印象的でした。バンドとしても個人としても年齢を重ねながら成長していく一方で、10代の葛藤、青春や失恋についてのポップソングを変わらず作り続け、歌い続けることの意味、もしくは尊さはどんなところにあると思いますか?

エヴァ:素敵な質問をありがとう! 私がこの世で一番好きなのはcoming-of-age story(青春物語/成長物語)で、映画でもテレビでも本でも、いつもそういった作品を探し求めてる。パンデミック中には自分でもヤングアダルト小説を書いてみたほどにね。私は愛について書くのが大好きで、人生において初めて愛に振り回されて傷付いたりした時の苦しくも尊い経験を上手く描けないかと常に考えてる。その全ての側面を1曲で描き切るのはとてもじゃないけど無理だから、今後も色々な形で描いていくことになるはず。

「Nineteen」の作曲をしたのはサムなんだけど、胸を締め付けられるような本当に素晴らしい曲だったから、これに見合うだけの最高にドラマチックな歌詞を書かなきゃと思って気合を入れたのを覚えてる。

私も『Guppy』や『Young Enough』の頃から年を重ねて、しかも婚約までしたわけだから(笑)、以前とは違った視点で愛について書けるようになったと思う。今の自分は愛の混乱や葛藤を乗り越えて、逆に当時ならば直視できなかった感情を綴ることができるようになったとも思ってる。あんなつらい経験を二度としなくて済むのは本当にありがたい(笑)。もちろん、その時の気持ちはいまだに鮮明に覚えてるし、忘れることは絶対にないと言い切れるけど。



―「Calling You Out」のミュージックビデオでの屋上ライブは、映画『恋のからさわぎ』のエンディングでのレターズ・トゥ・クレオのライブシーンや、ビートルズの『Get Back』を想起しました。監督のアダム・コロドニーからは、このMVのコンセプトについてどのような説明を受けましたか? また、撮影時にこれらの作品/アーティストのことは意識されましたか?

エヴァ:まずこれだけは言わせて。『恋のからさわぎ』は私のオールタイム・ベスト映画! そして第2位、もしくは同率1位なのが『プッシーキャッツ』。どちらの映画もレターズ・トゥ・クレオが関わっていて、だからこそ彼女達は私にとってアイコニックな存在なの。チャーリー・ブリスについて「青春映画のエンディングに屋上で演奏してそうなバンド」って言われることがよくあるんだけど、『恋のからさわぎ』が大好きなんだから、そういうバンドになったのも必然って感じ。「Calling You Out」のビデオのロケ地に着いてまず思ったのも、「これって『恋のからさわぎ』じゃん!」ってことだった。監督のアダムとしてはビースティ・ボーイズの「Shake Your Rump」とか、ウォン・カーウァイの『天使の涙』を意識していたらしいんだけど。彼のリファレンスは私達よりもハイブロウだったってわけ(笑)。

ダン:レターズ・トゥ・クレオとは以前に一緒にツアーしたこともあって、それはまさに夢が叶った瞬間って感じで嬉しかったな。




―「Back There Now」のMVの飛行機の中で騒ぐシーンも、映画『プッシーキャッツ』に登場するデジュー(バックストリート・ボーイズ風な架空のアイドル・グループ)のMVっぽいですよね。

エヴァ:超デジュー!(笑) 「DuJour Around the World」!

ダン:「Back There Now」のビデオは僕が監督したんだけど、予算がほとんどなかったこともあって、できるだけ金をかけずに色々と試してみた結果があれなんだ。GoProを車に取り付けてドライブしたり、ニューヨークの無料フェリーに乗ったりしてね。飛行機のシーンはニュージャージーに安く借りれるプライベートジェットのセットを見つけたんで、そこで撮影した。できるだけクールでリッチでセクシーな感じにしようとメールでメンバーと相談していたら、サムが「デジューみたいな感じに?」って聞いてきたから、僕は「その通り!」って返したんだ。だからデジューのことは全員が意識していたよ。

エヴァ:こういうバカなことを堂々とできるのも私達の強みだと思ってる。あのビデオで私が着ているのなんて漁網だしね(笑)。




―前作から今作までの間に、あなた達が敬愛していたファウンテインズ・オブ・ウェインのアダム・シュレシンジャーもコロナの合併症で亡くなってしまいましたね。彼の死に際して、エヴァさんは自身のInstagramで「Hey Julie」の弾き語り動画をアップし、チャーリー・ブリスとしてもアダム氏に捧げられたトリビュート・アルバム『Saving for a Custom Van』で、『プッシーキャッツ』に彼が楽曲提供した「Pretend to Be Nice」をカバーしていました。数あるアダム・シュレシンジャーのカタログの中からこれらの曲をカバーしようと思った理由を教えてください。

エヴァ:私達はファウンテンズ・オブ・ウェインを本当に愛してる。ポップとロックを完璧なまでに上手く繋いだ唯一無二のバンドだし、アダム・シュレシンジャーは真の天才。「Hey Julie」はシンプルで美しい、最もスウィートなラヴ・ソングだと思ってる。私はあの曲を聴くたびにいつも泣いてしまうの。当時の私は今の婚約者と恋に落ちている最中だったこともあって、あの曲をカバーしようと思った。

「Pretend to Be Nice」は『プッシーキャッツ』のサウンドトラックで一番好きな曲。『プッシーキャッツ』のサウンドトラックがなければ、私達が今こうして音楽を作っていることはなかったと思う。学生の頃はあの映画を放課後に毎日観ていたぐらいに大好きだった。だから、彼が亡くなったと聞いた時、きちんと敬意を表さなければと思った。真の意味で私の人生を変えてくれた人と楽曲に対してね。

Saving for a Custom Van Charly Bliss


―今作のアルバムタイトルは『Forever』ですが、このタイトルに込めた意味を教えてください。

エヴァ:この4〜5年は私達の人生における大きな変化の時期だった。私はオーストラリアに引っ越して婚約した。サムは父親になり、スペンサーは一度LAに引っ越して再びニューヨークに戻ってきた。ダンは映像関係の新しい仕事に就いた。そんな激動の中に身を置いていると、人生の支柱は何か、決して変わらないものは何かが逆に浮き彫りになってくる。私にとって、それはバンドだった。私達のバンド。だから、私にとってこのタイトルは「Charly Bliss Forever」を意味するの。

―日本のファンへのメッセージをお願いします。

エヴァ:とにかく私達の音楽をストリーミングしまくって、聴きまくってほしい。そこでいい結果を得られれば日本にもツアーで行けるはずだから。日本には絶対に行きたいと思っているからお願い!





チャーリー・ブリス
『Forever』
再生・購入:https://found.ee/charlyblissforever

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