1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 芸能
  4. 映画

眞栄田郷敦とWurtSが語る、「表現の世界」で生きる決心をした瞬間

Rolling Stone Japan / 2024年8月23日 9時0分

映画『ブルーピリオド』主演を務める眞栄田郷敦と、主題歌を担当したWurtS

「マンガ大賞 2020」受賞を始め、「みんなが選ぶTSUTAYA コミック大賞2018ネクストブレイク部門」大賞など数々の漫画賞に輝いた、山口つばさによる傑作漫画『ブルーピリオド』がついに実写映画化。周りの空気を読み、ソツなく器用に生きてきた高校2年生・矢口八虎。ある日、八虎は1枚の絵を通じて初めて”本当の自分”をさらけ出せたと感じ、美術にのめり込み、東京藝術大学を目指して奮闘する──。本作の主演を務める眞栄田郷敦と、主題歌を担当したWurtSを迎えて対談を実施。映画の魅力を語ってもらうだけでなく、”お芝居”と”音楽”という異なる表現の世界で活躍する2人の向き合い方にも迫った。

RSJ:累計発行部数700万部を超える人気漫画『ブルーピリオド』の実写映画が完成しました。まずは、お二人が思う今作の魅力を教えてください。

眞栄田:僕はアニメで『ブルーピリオド』を知りまして。最初に興味を持ったのは、何の知識もなかった高校生が美術に魅了されて、東京藝大を目指すところでした。世間からするとマニアックというか、比較的に深く狭い世界だと思うんです。そこにフォーカスしているのが面白いと思いましたね。”正解のない世界”だからこその葛藤や喜びがビシビシ伝わってくる。ただ、人によってはこれを見て「好きなことやろう」と思えない人もいるかもしれない。それだけ表現する人の苦しみも色濃く描かれている。そういう意味でも、考えさせられる素晴らしい作品だと思います。

WurtS:試験の場面が度々出てきますけど、やっぱり”試験中の音”って独特だと思うんです。特に美大の試験は他と全く違う音がするんですよね。静かな空間で筆を使う繊細な音と、独特な緊張感。そこを『ブルーピリオド』は見事に表現されているから、自分も作品の世界にスッと入り込める。音の魅力が詰まっている作品だなと思います。

RSJ:映画をご覧になってどう感じましたか?

WurtS:実写映画化されたことで、作品の世界観がより広がったことにグッときて、イチ原作ファンとしても嬉しかったです。一方で、映画を観る時はすごく緊張しまして。僕が主題歌を担当した「NOISE」は本編が終わった後に流れるので「映画の読後感や余韻を楽しめる楽曲にできているかな?」という不安もあったんです。いざ、映画を観させていただいて、ちゃんと作品の雰囲気に合う楽曲が作れたなって。自信を持っていい曲ができたな、と感じました。

眞栄田:映画全体のテンポ感を含め、僕が演じた主人公・矢口八虎にかなり寄り添った内容になっていて、とてもトライしている作品という印象を持ちました。その攻めている感じも後半に効いてきますし、何よりエネルギーやパワーをもらえる作品になっていると思いましたね。

RSJ:1枚のキャンバスを通して自己表現をする姿には、同じ表現者としても刺さるものがあったのかなと思います。

眞栄田:そうですね。劇中に出てくる「自分の好きなことに人生の一番大きなウェイトを置く、これって普通のことじゃないですか?」という言葉は、当たり前のようで「みんながそうできるか?」と言ったら実際はかなり難しい。その本質的なことを突いた言葉は、この作品を象徴しているとも言えますし、とても考えさせられる印象的な一言でしたね。


©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

WurtS:個人的には”葛藤”の部分をこの作品からは強く感じまして。葛藤を抱いたところから、八虎たちがどんどん成長していく姿を楽曲のテーマにしよう、と。それで書いたのが「NOISE」なんですけど、曲のイメージ自体は今回のオファーをいただく前からあって。

眞栄田:あ、そうだったんですか。

WurtS:はい、僕が音楽活動を始めた頃に抱いていた”自分の殻を破りたい”という感情から生まれているんです。ある日、夢を見たんですよ。僕一人が「まだかまだか!」と必死に走っていた。目が覚めて「あれは葛藤から成長して何かを成し遂げたい、という気持ちの表れじゃないかな」って感じたんです。そんな自分の気持ちと作品を照らし合わせた時に、リンクした”葛藤”と”成長”を軸に楽曲を書きました。ちなみに、僕の楽曲には間奏がほとんどないんですけど、今回は間奏部分から最後のサビに向かって進んでいく感じが、まさに葛藤から成長に向かう様子を表せていると思いまして。僕には珍しく、あえて間奏を入れたのがポイントですね。

眞栄田:おっしゃる通り、「NOISE」は葛藤しながら自分の好きなことや決めたことに向かっていくエネルギーを感じました。それとサビの<まだか?不確かな夜を抜け>もそうですし、全体的に言葉のチョイスが面白いなと思っていて。

WurtS:ありがとうございます。<まだか>というのは、音楽を作っている時に音が降ってくるのを待つという意味の<まだか>であり、葛藤を乗り越えた先にあるゴールに対して<まだか>という2つの意味を込めました。

眞栄田:なるほど。お話を聞くと、また聴こえ方が変わりそうですね。




RSJ:本作は個性豊かなキャラクターだけでなく、劇中に登場する絵画も大きな存在感を放っています。眞栄田さんはクランクインの約半年前から、ロケ地の一つにもなった新宿美術学院で絵の練習をされたとお聞きしました。絵を描き始めて6時間の間、一度も席を立たず水も飲まず、ひたすら絵に打ち込まれたそうですが、どのような心境で描かれていたのでしょうか?

眞栄田:これまでに味わったことのない新しい感覚がして面白かったし、気づいたら夢中で絵を描いていましたね。そもそも僕は、美術館とかどこかで絵を見た時に、作品から何かを感じる人ではなかったんですよ。でも、役作りを通してデッサンの技術だったり、美大で教わる技法だったりを多少なりとも学んだことで、絵を見るのが楽しくなったんです。同じものを見て描いていても、人によって捉え方が違いますし、キャンバスに落とし込んだ時の個性も異なる。これはとても奥が深いなって。


©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

RSJ:キャンバスに向かう八虎の姿は、言葉を発していないのに、自身の心情を雄弁に語っているように感じました。

眞栄田:八虎が絵を始めてから受験までの成長が描かれているので、キャンバスに向かう姿勢だったり画材の扱い方だったり、被写体の見方がどう変わっていくのかを、グラデーションで見せることに、かなりこだわりました。あとは、八虎が初めて自分の考えや感性を表現した絵(「緑」)を描く様子と、藝大の試験である種のゾーンに入ってる雰囲気を大事にしていて。それぞれ違うゾーンではあるんですけど、原作でも印象的だったので、そこは強く意識しました。

WurtS:実は、僕も高校生の頃に美術部に入っていまして。「絵を描く時はこういう感じなんだ!」と発見がありましたね。

RSJ:美術部時代に作品を作られていた時と、音楽を作られている現在を比べて、共通する部分はありますか?

WurtS:美術部の時はただ楽しいだけでモノ作りをしていたけど、音楽を作ることは仕事でもあるし、自分の好きだけじゃなくていろんな感情の中で作り上げていて。ふと「正解ってなんだろう?」と考えることがあるんです。突き詰めていくと、高校時代の好奇心だけで動く感情みたいなのが、結果としてみんなから評価されていると気づいたので、好きを突き詰めるのは、今も変わらず持たなきゃいけないことだと思います。




RSJ:眞栄田さんはアメリカで生活をされていた時、サックスに出会って、帰国されてからも音楽に打ち込んでいた時期があったそうですね。音楽に打ち込んでいた時と、絵に打ち込むことって何か共通するものはありましたか。

眞栄田:音楽は自分が好きでやっていましたけど、それを極めようとしたら、音楽を嫌いになってしまう瞬間もあって。映画の中でも描かれている努力だったり才能だったり、正解のない世界での葛藤や苦しみは、自分の経験ともリンクしました。一方で、自分の表現が認められた時の喜びとやりがいも似ているものがあって。自分の経験と過去に抱いた感情を思い出しながら、お芝居に反映させていたのはありますね。

RSJ:先ほど眞栄田さんが「ゾーンに入る」と言っていましたが、WurtSさんも曲を作りながらゾーンに入る瞬間はありますか?

WurtS:基本的に曲はすぐにできる、って言うと語弊があるかもしれないですけど、気づいたらできてることが多くて。家にこもって制作すると、あっという間に次の日になっていて。「こんなに時間が経っていたんだ!」と驚くことはあります。これがゾーンなのか分からないですけど、音楽を作る時はのめり込んじゃいますね。

RSJ:ゾーンに入るための方法はあります?

WurtS:仕事として考え過ぎずに「こういう音が好きだな」とか、映画など他の作品に触れて「この部分いいな。自分ならどう表現しようか」と好奇心から曲作りが始まるようにしています。


RSJ:八虎たちが通う美術予備校の講師・大葉真由(江口のりこ)が「自分なりの絵を見つけるには、いろんな人の作品を見るのが一つの方法」と言っていましたが、お二人は自分のスタイルを見つけるまでに模索したことや、誰かをお手本にされた経験は?

WurtS:特定の人をお手本にするというより、先輩の音楽であったり流行りの音楽であったり、いい部分はどんどん吸収したいなと思います。

眞栄田:芝居で自分らしさを考えたことはないですね。自分らしくしないのが、役者な気もします。ただ、仕事を始めて最初にすごいなと思ったのは、綾野剛さん。映画『日本で一番悪い奴ら』が大好きで、直接的な影響や自分のスタイルの参考とかではないですけど、素敵な方だなと思いました。

RSJ:お二人は今日が初対面だそうですね。

眞栄田:そうなんです。曲調やプロフィールから、オシャレでイケイケな方かと思っていたんですけど、実際にお会いすると非常に柔らかい方で、とても安心しました(笑)。

WurtS:ハハハ、よく言われます。僕は「うわ、本物だ!」と興奮しちゃいました。

眞栄田:質問してもいいですか? 「NOISE」に出てくる<君>って誰を指しているんですか?

WurtS:自分自身を指していますね。

眞栄田:あ、なるほど。鏡の自分ってことか。

WurtS:はい、なんか……歌詞を解読されるのって恥ずかしいですね(照笑)。

眞栄田:ハハハ。分かりやすい主題歌を書かれる方もいるじゃないですか。ところが「NOISE」の歌詞は一筋縄ではないというか、読み解きたくなるし、面白いですよね。

WurtS:僕は自分の感情を表に出すのが苦手なんです。言葉よりも音楽的というか、言葉と言葉じゃない音の気持ち的な部分で歌詞を書くことが多くて。曲によっては文章になっていなかったりするんですけど、僕の中ではそれが自分らしさなのかな、と思ったりもします。

RSJ:ちなみに「これがあなたらしいよね」と言われたことってあります?

WurtS:オリジナル曲もそうですし、楽曲提供をさせていただいた時も「言葉選びがWurtSらしい」と言われることがあって。先ほども言ったように、あまり文章になっていない言葉というか、気持ちとして出てきた言葉がWurtSらしさかなと思います。



RSJ:特に、皆さんはどの辺にWurtSらしさを感じるのでしょう?

WurtS:歌詞で言うと、眞栄田さんも仰ってくださった<君>の部分ですね。特定の人に対して<君>を使うこともあるんですけど、僕は過去の自分に重ねることも多いです。

眞栄田:僕の中で「NOISE」の<君>は、目の前にある美術だとか絵に向けて書かれているのかなと思いました。不確かだし不安定だけど、でも一番のやりがいだから<君となら乗り越えられる>だと思ったんですけど、WurtSさんの話を聞いて「そういう見方もできるのか」と納得しました。

RSJ:眞栄田さんが「ここが眞栄田さんらしいよね」とか「これが眞栄田郷敦の芝居だよね」と言われたことは?

眞栄田:「目の強さが印象的」とは言われますね。でも、芝居で自分らしさは求めないようにしています。逆に、自分らしくないようにするというか、同じようにならないようにする方が強いですね。


RSJ:八虎は母親の矢口真理恵(石田ひかり)から、将来安泰な道に進むことを望まれていて、それが八虎らしさだと思われていた。でも、八虎は周囲が思う”らしさ”を振り切って、藝大という表現を極める道へ進みました。お二人が表現の世界へ進もうと思った瞬間はいつだったのでしょう?

眞栄田:中学2年生の時、「将来は表現の世界に行きたい」と思ったんですよね。というのも、普通に会社員をしている自分が想像つかなかった。表現者として生きたいなと思って、高校を選んだのが最初の一歩でした。ただ、この仕事は自ら選んだというよりは、ご縁をいただいたから入ったんです。ひょんなことから映画に出演する話をもらって「数日後に監督と顔合わせがあるから」「いや、まだ出るかどうかの返答をしていないよ」って。そんな予想外の展開でしたね。新しいことに足を踏み入れるのが怖い人間なので、自分から行けなかったんですけど、数日後に顔合わせだったので…仕方がなく行った感じです(笑)。



RSJ:気づいたら滑走路に乗っているような感じというか。

眞栄田:そうなんですよ。本当に気づいたら乗せられた感じです。もちろん、今となってはありがたいご縁ですけどね。

WurtS:僕は大学生をしながら音楽活動をしていて。ちょうど大学を卒業するタイミングで「音楽をやっていくのか? 一般企業に就職するのか?」と選択する場面が訪れました。当時はWurtSという存在が、どんどんいろんな人に知られ始めていて「自分の表現しているものがちゃんと伝わっているな」と理解できた瞬間に、音楽を生業にしたいと決心がつきましたね。

眞栄田:ご両親はWurtSさんの活躍をどう見ていますか?

WurtS:今は「あなたには音楽が一番の天職だよね」と言ってくれていて。「自己表現をするのがうまくないから、みんなのように器用には働けなかったと思う」って(笑)。ちゃんと音楽の仕事を頑張ってよかったです。

眞栄田:この世界は、結果を出したモノ勝ちですからね。結果を出したら誰も何も言わない。ただ、それまでは何を言われても仕方がないけど。


©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

RSJ:自分の好きなことで食べていくためには、何が大事だと思いますか?

WurtS:それをお答えできるのは、もっと先になると思います。自分の好きなことをして落ち込む瞬間がまだないんです。だから、アンサーを返せるのはこれからかなって。

眞栄田:僕は現実主義者なので、表現の道に進むのなら保険をかけるのは大事だと思うんですよ。「表現をしたい」と思いつつ、それとは関係のない大学に行くのもそう。だって、未来のことは自分にも分からないわけで。やる気も大事ですけど、それこそ才能の世界でもあると思うし、運があるかどうかも大きいと思う。やっぱり確実なものじゃないから、そこは楽観的になりすぎず、ちゃんと保険をかけておくのが大切な気がしますね。「守りに入らない方がやる気は出るんだよ」という人もいますけど、やりたいことを手にするためには、保険をかけることは大事だよなと思います。それによって心に余裕も生まれるし、視野も広がるので。



『ブルーピリオド』
大ヒット上映中

キャスト:眞栄田郷敦、高橋文哉 板垣李光人 桜田ひより、中島セナ 秋谷郁甫 兵頭功海 三浦誠己 やす(ずん)、石田ひかり 江口のりこ
薬師丸ひろ子
原作:山口つばさ『ブルーピリオド』(講談社「月刊アフタヌーン」連載)
監督:萩原健太郎
脚本:吉田玲子
音楽:小島裕規”Yaffle”
製作:映画「ブルーピリオド」製作委員会
制作プロダクション:C&I エンタテインメント
配給:ワーナー・ブラザース映画 ©山口つばさ/講談社 ©2024 映画「ブルーピリオド」製作委員会

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください