オアシス再結成を機に、永遠のデビュー作『Definitely Maybe』30年目の再検証
Rolling Stone Japan / 2024年8月28日 18時30分
2024年はオアシス(Oasis)の1stアルバム『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』発売30周年という記念すべき年。11月1日(金)から六本木ミュージアムで大規模なエキシビション『リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展』が開催されるというビッグニュースに続いて……まさかのギャラガー兄弟和解が実現した。2009年に解散したオアシスが正式に復活、2025年夏に行なうUK/アイルランド・ツアーの日程を発表して世界中を騒がせている。
全てを可能にした”鍵”は、『Definitely Maybe』30周年という節目。このロック史に名を残す名盤の『30周年記念デラックス・エディション』が、2CD、4LP、デジタル、2LP、カセットの全5形態で8月30日にリリースされる。今回のリイシューの目玉は、同作の初期レコーディング・セッションから「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」が収録されたこと。さらにソーミルズ・スタジオで録り直した際のアウトテイク、そしてクリエイションと契約する以前の92年11月に録音された「サッド・ソング」まで収められており、無名の新人バンドがどのようにして我々が知る『Definitely Maybe』を生み出したのか、そのプロセスが手に取るようにわかる作品だ。
「Oasis Live '25」トレイラー映像
『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』30周年記念デラックス・エディション
左:2CD 右:4LP
幻のセッション音源「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」を今聴く意味
クリエイションのアラン・マッギーは「1993年5月に初めてオアシスを見て、何よりも印象的だったのは、彼らのライヴ・サウンドがすでに完成されていたってことだ。King Tuts(グラスゴーのライヴハウス)でやってるのに、まるで大きなアリーナで演奏しているようなサウンドだった。これはバンドに良い楽曲があり、音響マンのマーク・コイルがいたおかげだ。その最初のギグを見た時から、彼らのあるべきサウンドが私にはわかっていた」と証言している。ノエル・ギャラガーが書く曲の強力さと、ラウドなバンド・サウンド……彼らの1stアルバムで何をやるべきか、方向性はかなり早い段階から見えていたはずだった。
クリエイションと契約後、1993年の暮れからモノウ・ヴァレー・スタジオで始まったレコーディングには、センセーショナル・アレックス・ハーヴェイ・バンド(以下SAHB)の『The Impossible Dream』(1974年)から『SAHB Stories』(1976年)までを続けて手掛け、パンク/ニュー・ウェイヴ登場以降はウィルコ・ジョンソンのソリッド・センダーズや、スキッズ、スタージェッツなどを手掛けたプロデューサー、デイヴ・バッチェラーが起用された。グラム・ロックとも重なるセンスを持つロックンロールの猥雑さを濃縮したようなSAHBのサウンドは、いかにもノエルの好み。しかし残念ながら、プロデューサーとバンドは相性が合わなかった。
デイヴ・バッチェラーが選んだ一般的な録音方法……各楽器の音が干渉し合わないようパーテーションで仕切り、ヘッドフォンでモニターしながら演奏するやり方が、本格的なレコーディングを初めて経験するバンドにはそぐわず、メンバーを戸惑わせた。アランもバンド側も出来上がりに満足できず、破棄された「幻の1stアルバム」が、今回お蔵出しされた「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」なのだ。そのうち、「Bring It On Down」は『Definitely Maybe』20周年記念盤の日本盤(2014年)にボーナス・トラックとして収められ世に出ているが、公式にここまで多くの音源が世に出るのは今回が初めてだ。
「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」は、先述のような録音方法が原因なのだろう、バンドとしてのまとまりに乏しく、『Definitely Maybe』の特徴であるラウドさも足りない。シンガーとしてのリアムのキャラクターもまだ固まっていないが、その分発展途上のバンドを覗き見するような楽しみがある。アラン・マッギーが今回のエディションで聴き直した「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」について、「つくづくあれを破棄しておいて良かった」と言いながら、「そこには別の魅力がある。なんてバンドだ」とコメントしている気持ちもわかる。”並のインディ・ギター・バンド”から脱却しようともがく彼らの演奏は、初々し過ぎて眩しいほどだ。
「Up In The Sky (Monnow Valley Version)」リリック・ビデオ
「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」はアレンジも完成版とあちこち違う。リードギターなしでリズムギターから始まる「Rock n Roll Star」のイントロを聴くと、この曲が後にカバーするローリング・ストーンズの「Street Fighting Man」からヒントを得ていることがハッキリとわかるはず。そういう意味では、「The Hindu Times」や「Lyla」へと続くシリーズの始まりが「Rock n Roll Star」だった、と言えそうだ。また、アウトロが変に長いのも面白い。ちょうどいい繰り返しの回数が見つからず、迷っているように聞こえる。
特に驚いたのが「Live Forever」。ドラムによるイントロがなく、いきなりリアムの歌から始まるのだ。しばらく弾き語り風に進んで、遅れてドラムが入ってくるアレンジも、完成版と比べて随分おとなしい。すでにギターソロはすっかり出来上がっているが、全体の雰囲気はミドルテンポのロックチューンというより、バラード寄り。『Definitely Maybe』に収められたヴァージョンの力強さとは異なる、不思議な魅力がある。
「Cigarettes & Alcohol」は基本的なアレンジはそう変わらないが、リアムのヴォーカルがまだかなりソフトで、セックス・ピストルズのジョニー・ロットンを思わせる歪みが声に加わっていない。そして終盤のギターソロに注目を。「Supersonic」でおなじみのフレーズが一瞬ここに登場するのだ。『Definitely Maybe』ヴァージョンのギターソロと聴き比べると、「このパーツはあっちで使おう」とノエルが判断したのだろうと推測できる。
ソーミルズ・スタジオでのアウトテイクにも新たな発見
「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」の破棄が決まると、バンドはPAエンジニアだったマーク・コイルを共同プロデューサーとして迎え、94年にソーミルズ・スタジオでレコーディングをやり直す。最初のセッションの反省から、スタジオ内でライヴと同様に演奏して録ったことが吉と出た。今回公開されたオーヴァーダビングなしのアウトテイクを聴くと、「モノウ・ヴァレー・スタジオVer.」よりも精気に溢れており、”オアシスらしさ”がいよいよ確立したのを実感できる。「Rock n Roll Star」や「Columbia」「Slide Away」でのリアムのヴォーカルは自信が増したことを感じさせるし、『Definitely Maybe』ヴァージョンよりライヴ感強めに思える「Bring It On Down」の熱い演奏もファンなら思わず身を乗り出すだろう。
ディスク2の最後に置かれた1992年録音のデモ「Sad Song」は、なんとノエルではなくリアムが、若々しく綺麗な声で歌っている。今回お蔵出しされた音源はノエル自身とカラム・マリーニョによってリミックスされているのだが、この曲を締め括りに持ってくるなんて、シンガーへの愛を感じずにいられないではないか。スタジオで本作の作業を進めながら、弟の歌声に向き合い続けるノエルはどんな顔をしていたのだろう……と想像してしまうし、そういう時間を重ねたことがオアシス復活に繋がった可能性は大いにある。
先行公開された「Columbia (Sawmills Outtake)」リリックビデオ
「Sad Song (Mauldeth Road West Demo, Nov' 92)」リリックビデオ
そして『Definitely Maybe』本編を聴いて改めて感じるのは、ニルヴァーナを筆頭とするUSオルタナティヴ・ロックの影だ。最終的にオーウェン・モリスが仕上げた眼前で鳴っているように感じるド派手なサウンドは、オリジナルのミックスとは随分違うとも言われているが。これぐらい極端に針を振り切らないと、グランジ/オルタナを一回通過した大衆の耳にアピールするのは難しかっただろう。「Live Forever」を書いたきっかけがカート・コバーンの死、というエピソードはよく知られているが、単に返歌の対象として見ていたわけではないはず。「Supersonic」や「Bring It On Down」のアレンジに練り込まれた影響の欠片が、30年を経た今は当時よりも浮き上がって見えてくる。
何しろ、良いシンガーがいて、良い曲があった。そこからどうやって違いを見せつけ、印象づけるか。大胆にやり切るか。それをあらゆる面で実践したのが『Definitely Maybe』だったことを、今回の『30周年記念デラックス・エディション』はわかりやすく伝えてくれる。オアシスだって登場と同時に仕上がっていたわけではなくて、最高のデビューを果たすために水面下であがいて努力していたのだ。
『Definitely Maybe(邦題:オアシス)』30周年記念デラックス・エディション
2024年8月30日 リリース
<2CD>
■豪華ハードカヴァー・デジブック×三方背スリーブケース仕様
■日本盤のみの仕様
・高品質Blu-spec CD2仕様
・英文ライナー訳/歌詞・対訳/新規解説 (妹沢奈美) 付
SICX30217-30218 税込¥4,400 【完全生産限定盤】
購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Oasis_2cd
<4LP>(輸入盤国内仕様)
■日本盤のみの仕様
・英文ライナー訳/歌詞・対訳/新規解説 (妹沢奈美) 付
・日本語帯付き
SIJP185-188 税込¥16,000 【完全生産限定盤】
購入リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Oasis_4lp
<デジタル>
配信予約リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Oasis_dm30ade
【展示会情報】
リヴ・フォーエヴァー:Oasis 30周年特別展
会期:2024年11月1日(金)~11月23日(土)
会場:六本木ミュージアム
主催:ソニー・ミュージックエンタテインメント、ソニー・ミュージックレーベルズ、ソニー・ミュージックパブリッシング
後援:ブリティッシュ・カウンシル 協賛:ADAM ET ROPÉ
公式サイト:https://oasis-liveforever.jp/
公式X:https://x.com/Oasis30th
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/oasis30th/
現時点で最後の来日公演
フジロック'09のセトリプレイリスト
再生:https://OasisJP.lnk.to/FRF09TW
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