スティーブン・サンチェスが語る、Z世代が1950年代のロマンスとロックンロールに魅了される理由
Rolling Stone Japan / 2024年8月29日 18時45分
サマーソニック東京公演の初日、昼下がりのMOUNTAIN STAGEを沸かせたスティーブン・サンチェス(Stephen Sanchez)は、多くの観客にとって嬉しいサプライズだったに違いない。弱冠21歳の実力派が歌うのは、1950〜60年代にタイムスリップしたようなロックンロールとスウィートなバラード。熱量や艶やかさの込もったパフォーマンスは、さながらエルヴィス・プレスリーのようだった。
サンチェスは2002年生まれ、拠点は米テネシー州のナッシュヴィル。日本での知名度はこれからだが、17歳でTikTokにケイジ・ザ・エレファント「Cigarette Daydreams」のカバーを投稿したことから注目を集めるようになった彼は、すでに確固たるファンベースを築き上げている。2021年に発表したノスタルジックな三連バラード「Until I Found You」もTikTokで歓迎され、Spotifyで10億回再生を突破。昨年にはグラストンベリー・フェス史上最高動員を記録したエルトン・ジョンのステージに招かれ、同曲をデュエットするという最高の名誉を得た。
その後リリースしたデビューアルバム『Angel Face』は、マネスキンのダミアーノも年間ベストに挙げるほどの充実作。今年のサマソニで同日出演だったレイヴェイとのデュエット曲も収録されているが、彼女がジャズやグレイト・アメリカン・ソングブックを現代のポップスに昇華しているのと同じように、サンチェスは祖祖父の影響で出会ったというオールディーズやロックンロールを深く掘り下げつつ、Z世代の感性でもって捉え直すことで、世界中の若いリスナーたちを虜にしている。彼ら彼女らの歌うロマンスとノスタルジーを知らずに、今の音楽は語れない。ライブ終了直後のサンチェスに話を訊いた。
サマーソニック出演時のライブ写真 (C)SUMMER SONIC All Rights Reserved.
「Until I Found You」が生まれるまで
―今回が初来日ですよね。日本を訪れてみて何か発見はありましたか?
サンチェス:神社に行ったよ。立派な場所だったな。渋谷を何時間も歩き回って、おいしいごはんを食べたし、楽しんでる。日本人はみんな親切で思いやりがあるし、すべてに神聖さが備わっていて、みんなが敬意を持って扱っている。その心持ちに感銘を受けるね。
―ライブも素晴らしかったです。パフォーマンスではどんなことを大切にしていますか?
サンチェス:とにかく集中して、僕自身も演奏や歌を楽しもうとすること。
Photo by Takuya Maeda
―魅力的な歌声をされてますが、シンガーになろうと思ったきっかけを教えてください。
サンチェス:子供の頃に自分を信じることの大切さを教えてくれた両親や、喫茶店とか、そういう場所で歌っていた時に応援してくれた人たちのおかげだね。それに好きなバンド、音楽はいつも僕を励ましてくれた。大勢の前で演奏することは長年の憧れで、ライブを観に行った時には、いつも目を閉じてステージから見渡す大観衆の光景を想像してたんだ。
―今回のライブでも大いに沸いた「Until I Found You」は、Spotifyで10億回以上も再生されていますが、あなたはこの曲をたった15分で書き上げたそうですね。いったいどのようにして生まれたのでしょう?
サンチェス:当時デートしていたジョージアという女の子とのストーリー......ただそれだけ! 彼女へのラブソングなんだ。
―具体的には?
サンチェス:彼女と出会って、恋に落ちて......彼女へのラブソングを書きはじめたんだ、それも思い立ったように。今はもう一緒にいないけど、彼女はすばらしい人で、お互いの幸せを願ってる。
―そういったインスピレーションだけでできあがった曲といっても過言ではない?
サンチェス:ああ、そうだね。
いにしえの音楽が若い世代に響く理由
―あなたの思い描くストーリーによると、「Until I Found You」は1958年に生まれた曲で、アルバム『Angel Face』は1964年の物語であるそうですね。まずはアルバムのコンセプトについて、改めて聞かせてください。
サンチェス:ああ。はじまりは1958年。TVショー「The Connie Co Show」でデビューを果たし、50年代に名を揚げた有名なトルバドゥールについての物語なんだ。彼はバンド「The Moon Crests」と共に音楽活動を始め、知名度を高めていく。そして1964年、彼はマフィアのボス、ハンター(Hunter)が経営しているクラブ「The Angel Club」でレジデントを務めることになる。トルバドゥールはそこでハンターの恋人、エヴァンジェリン(Evangeline)に出会い、恋に落ち、ひそかに愛を育む。これに気づいたハンターは、トルバドゥールのファイナルショーのステージ上で、彼を殺してしまうんだ。
―50年代や60年代の音楽に、あなたはなぜそんなに惹きつけられるのでしょう?
サンチェス:率直なところかな。体裁なんか気にせず、言いたいことをストレートに伝えている。そういうところが好きなんだ。例えば、もし僕が君のことをどう思ってるか伝えるために、君に50曲を送るとしよう。それで僕の気持ちを取りこぼすことなく伝えられると思う。
サンチェス作成のプレイリスト。フランク・シナトラ、ナット・キング・コールなどのオールディーズのみをセレクト
―その時代におけるヒーローを挙げるとしたら?
サンチェス: ロイ・オービソン!
―ああ、先ほどのライブで「Oh, Pretty Woman」をカバーしてましたね。
サンチェス:彼の影響はかなり受けている。偉大なアーティストであり、すばらしい声と作曲のスキルの持ち主。すべての作品に彼らしさが一貫していて、大好きなんだ。
Photo by Takuya Maeda
―あなたの曲を聴くとロマンティックでノスタルジックな気分にさせられます。その2つは自分の音楽にとって重要な要素といえるでしょうか?
サンチェス:ロマンスは大きな要素だね。でも、リアルなストーリーを語ることも僕にとっては大切なこと。リリースしてきた作品は、僕の歩んできた人生や正直な気持ちがテーマになっていて、そこに少しフィクションを織り交ぜて形になっている。僕が作曲において大事にしてるのは、明快さ、それに自分に正直であること。
―では、ロマンス以外に、自分の音楽にとって大事な要素を挙げるとしたら?
サンチェス:歌詞はすごく大事だよ。つまり、何が語られているか。そういったスタンスって今の僕らのカルチャーから失われつつある。言いたい放題なんでも口にしてさ。それがうまく作用しているかといえば、そういうわけでもない。少なくともアメリカではね。ポジティブさ、希望、つながりを大事にするには、何を意図した発言なのか、もっと言葉の細部に気を配るべきだと思ってる。
―レイヴェイとのデュエット曲「No One Knows」も素敵ですね。
サンチェス:彼女はすばらしいアーティストだ。一緒に曲を作れてほんとに楽しかった。ステージで共演できればいいなと思ってるよ。
―あなたもレイヴェイも、過去の音楽に魅了され、同世代やもっと若い世代にその魅力を伝える役割を果たしているように思います。なぜ古い音楽のエッセンスが、当時を知らない若い世代に説得力をもって響くのだと思いますか?
サンチェス:昔の世代の人たちは当時の曲に愛着を持っていて、現代の音楽には、少しばかり抵抗を感じていると思う。きっと響かないんだろうな。今語られていることは、当時ほどの重みを持っていない。(古い音楽の)ああいった単刀直入な表現や独特なスタイルは、若い世代には馴染みがない。だからこそ惹かれているんだ。とにかく違う……そう、ユニコーンだ。馬の群れで異彩を放つユニコーンみたいだ。
スティーブン・サンチェス
『Angel Face (Club Deluxe)』
再生・購入:https://umj.lnk.to/SS_AngelFaceCD
日本公式HP:https://www.universal-music.co.jp/stephen-sanchez/
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