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パリス・ヒルトンを再考 Y2Kの「おバカタレント」が2020年代の必修科目となった理由

Rolling Stone Japan / 2024年9月11日 17時30分

パリス・ヒルトン

パリス・ヒルトン(Paris Hilton)が約20年ぶりのニュー・アルバム『Infinite Icon』をリリースした。名声、女性のエンパワーメント、メンタルヘルス、そして母性をテーマに掲げる本作は、シーア、メーガン・トレイナー、リナ・サワヤマなどの参加も話題となっている。パリス・ヒルトンの再評価が進む理由をライター・辰巳JUNKに解説してもらった。


 「パリス・ヒルトンの「Stars Are Blind」は、まさにポップの天才。史上一番好きな曲のひとつ」(チャーリーXCX)

Y2Kブームによって、もっとも再評価されたポップソングこそ、パリス・ヒルトン「Stars Are Blind」だろう。2006年当時、「おバカタレント」によって甘ったるい声で歌われたレゲエ調のラブソングは、軽薄と見なされつつ、当時のバブリーな享楽主義やセレブ崇拝、ある種の虚構を見事に体現していた。

このキッチュなポップネスに着目したのが、ポップ界のフィクサーことチャーリーXCXだった。2010年代前半、パリスその人をテーマにしたアルバムまで制作しようとしていた彼女が盟友の故SOPHIEとつくった「Vroom Vroom」はハイパーポップ・ジャンルの礎となり、Y2K音楽ブームが切り拓かれた。こうして、2020年代に「Stars Are Blind」はポップカルチャーの必修作品の地位につくことになり、オリヴィア・ロドリゴやキム・ペトラスらに歌われていった。



そんなパリス・ヒルトン約20年ぶりのアルバムこそ『Infinite Icon』だ。デビュー作から結構な変貌を遂げた本作を読み解くには、まず、アルバムの下地となっているアーティストの複雑な人生を追うべきだろう。

 「『Infinite Icon』、無限のアイコンとは、萎縮せず、自分でありつづけ、人々に変化をもたらす存在です。輝きや歓びを与え、すべての振る舞いが象徴的な人物」(パリス・ヒルトン



現在43歳のパリス・ヒルトンを一言で紹介するのは難しい。ヒルトン・ホテル一族の令嬢であり、リアリティショースター、実業家、インフルエンサーの始祖、DJ、政治活動家、そしてポップアーティスト。肩書きだけでこれだけあるのだから、アルバム題のとおり「無限のアイコン」と言ってしまったほうが早いかもしれない。

パリス・ヒルトンが有名になったのは2000年代前半。育ちこそカリフォルニアだが、ニューヨークのナイトクラブのイットガールとして評判になり、2003年にはじまったリアリティショー『シンプル・ライフ』で人気が爆発した。お嬢様が庶民の仕事を体験する番組中、パリスが演じたキャラは、マリリン・モンローのようにセクシーな「おバカ」ブロンド。ベーコンをアイロンで焼こうとするなど、突飛な行動で話題をつくっていった。

 「自分が現代のセレブリティの原型になったことを誇りにしています。ファッション、メディア、ビジネス、ポップカルチャーを融合させ、強力な個人ブランドを確立することで、デジタル時代の名声を再定義しました」(パリス・ヒルトン

ゴシップやファッション面でも注目を集めていったパリスは、Y2Kカルチャーのアイコン兼ビジネスウーマンとなった。「おバカ」像は、高い声色ふくめて演技だったというが、それを演じきることによって、香水や衣類を販売する収益40億ドル規模のビジネス帝国を築きあげたのだ。当時こそ、芸能人なのに秀でた才能がないと見下げられる向きが強かったが、キャラクターを生かしたマルチな活躍は、のちのSNS時代に確立されたインフルエンサービジネスの基盤と言える。

 「アルバム『Paris』で徹底的に表現されたものは、愉しみ、夜遊び、セクシーであること。たぶん、当時の私そのもの」(パリス・ヒルトン

全盛期にリリースされたデビューアルバム『Paris』は、キャラクターとしてのパリス・ヒルトンの集大成と言える。2000年代らしいポップロックやヒップホップのバイブをまとったきらびやかなクラブミュージックで、ある種、本格的なプロの歌手には再現できない享楽の魅力に満ちている。



『Infinite Icon』が描き出す本当のパリス・ヒルトン

その後の2010年代初頭にも、リル・ウェインのCash Moneyと契約し曲を出していたが、本人の関心がDJに移っていったことで、アルバム制作にまで至らなかった。

決定的な転換期は、2020年に起こった。YouTubeドキュメンタリー『パリス・ヒルトンの真実の物語 | This is Paris』にて、悲痛な過去を告白したのだ。有名になる前の10代のころ、未診断のADHDによって問題児となっていたパリスは、ある青少年矯正施設へと強制送還された。そこでは、暴力的な虐待が常態化していたという。彼女のなかで「おバカキャラ」が誕生したのはこのときだった。排泄物や血痕にまみれた独房に閉じ込められるなか、現実逃避のため、夢のような無敵のブロンド像をつくりあげたのだ。

このドキュメンタリーは、アメリカ社会を変える一手となった。子どもたちを虐待する施設がまだ存在していると知ったパリスは、ロビー活動や議会証言をしていき、虐待防止法案の成立に携わっていったのだ。こうして、パリスが「おバカ」でない事実も広まっていった。



同時期に起こったのが、前述の「Stars Are Blind」再評価ムーブメント。アカデミー賞脚本賞に輝いた映画『プロミシング・ヤング・ウーマン』で流されたこともあって、歌手としてのパリスの魅力に関心が集まっていった。2022年大晦日の年越し番組においては、マイリー・サイラスとシーアとの歌唱も披露している。



この番組をきっかけに生まれたのが、女性同士の友情であり、2ndアルバム『Infinite Icon』であった。帰りの飛行機でシーアから「あなたはポップスターになるために生まれてきた」と熱弁されたことで、18年ぶりのアルバム企画が誕生。収録曲「Chasin」にて客演もこなしたメーガン・トレイナーを筆頭に、女性の友人を中心にしてつくられていった。

ポップクラシックとなった「Stars Are Blind」の再現は試みられていない。前作から打って変わって内省的になった『Infinite Icon』が描き出すのは、本当のパリス・ヒルトンだ。「おバカ」キャラによって隠されていた人生と哲学、誇りを音楽によって発信するプロジェクトとも言いかえられる。

本当の自分との再会を祝う開幕曲「Welcome Back」からして、猫なで声のイメージを破壊する、やわらかで人間らしい歌声が披露される。リードシングルになったリナ・サワヤマとのコラボ「Im Free」では、高らかに解放を宣言。サンプリングされているUltra Naté 「Free」は、矯正施設にいたころ、よく聴いて勇気をもらっていた一曲だという。




ひときわ注目をあつめたのはミーガン・ザ・スタリオン客演のクラブソング「BBA」。「バッド・ビッチ・アカデミー」として、男性に酒を奢らせるなどナイトライフの流儀を教育していくコンセプトとなっているが、同時に、インフルエンサービジネスの基盤をつくったビジネスウーマンとしての誇りも込められている。無限の影響を築き人々を鼓舞すること、それこそ、パリス・ヒルトンの人生の旅路なのだという。



活動家としての使命も健在だ。クラブバラード「ADHD」は、そのままADHDとしてのスーパーパワーをやさしく伝える一曲。かつて、未診断のADHDとして苦労した経験をもとに、発達障害の早期発見、その活かし方を啓発するメッセージソングとなっている。

シリアスな教訓も歌われている。プロデューサーもつとめたシーアとのデュエット「Fame Wont Love You」のなかでは、栄光は「親のように愛してはくれない」、つまり個人として大切な幸福をもたらさないのだと警告されていく。名声と美貌を生き甲斐としていた若きころの過ちをベースにしているため、アンチ『Paris』とも言えるかもしれない。



 「やっと手に入れられた ずっとあなたと一緒に、無限まで」(パリス・ヒルトン「Infinity」)

アルバムの後半は、深き愛情でリスナーを包んでいく。さまざまなトラウマを抱えてきたパリスだが、2021年に実業家の男性と結婚し、息子の誕生にも恵まれたのだ。つまり、本当の幸せとは、名声ではなく愛であるというのが、アルバムの結論なのだ。同じく恋の高揚を歌った代表曲「Stars Are Blind」と聴き比べれば、深化と成熟を感じることができるだろう。

人生とレガシーを総括するアルバムを完成させたパリス・ヒルトンだが、はやくも、次作に期待できそうだ。すっかり歌手活動にぞっこんになった本人いわく『Infinite Icon』は「はじまりにすぎない」。彼女をミューズとするチャーリーXCXとのコラボの噂もでてきている。ポップカルチャーに君臨する「無限のアイコン」は、未来も無限大だ。



パリス・ヒルトン
『Infinite Icon』
発売中
再生・購入:https://ParisHilton.lnk.to/infiniteicon_jp

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