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フォンテインズD.C.が赤裸々に語る、型破りな進化を遂げたバンドの自信と葛藤

Rolling Stone Japan / 2024年9月11日 18時20分

Photo by Theo Cottle

フォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)は最高傑作というべき4枚目のアルバム『Romance』で、古い殻を脱ぎ捨ててより幻想的な世界へと突入した。Rolling Stone Japanによる最新インタビューに続いて、UKで取材したグリアン・チャッテンの声をお届けする。


グラストンベリー・フェスティバル2024の初日の夜、The Park StageではフォンテインズD.C.がヘッドライナーとして歴史に残るステージに上がろうとしていた。敷地内に高くそびえ立ちステージを望むリボン・タワーまで続く人々の波からは、ワージー・ファームでの素晴らしい一日を求めて集まった人々の期待感が一目で見て取れる。盛り上がるステージを2曲の新曲で締めくくった彼らは、活気に満ちた新たな時代を切り開き、世代を代表するバンドの地位を確固たるものとしたように思える。



ところがイベント初日のステージの盛り上がりに反して、ほとんど記憶に残っていないと証言する者がいる。当事者であるバンドの、謎に包まれたフロントマンであるグリアン・チャッテンだ。「アドレナリンが出まくっていて、ほとんど覚えていないんだ」とダブリン出身のシンガーは、北ロンドンの自宅に近い森の中を歩きながら、つい数日前のステージを振り返った。当初、インタビューは彼の自宅で行う予定だった。しかしグラストンベリー・フェスの出演直後で、かつニューアルバムのインタビューも続いていたことから、彼自身がより落ち着ける自然の中で話すことにした。

「緊張しなかったと言えば嘘になるだろう。でも、俺があんな風になるのは滅多にないことだ」とチャッテンは言う。

「エネルギーが溢れ出して興奮しまくりで、いい気分だった。イベント全体の雰囲気にのまれて、ちょっと押さえきれなかったな。俺たちのキャリアの中でも最高のステージだったと思うけど、俺自身はほとんど記憶がないんだ」。


グラストンベリーに出演したグリアン・チャッテン(Photo by Aaron Parsons for Rolling Stone UK)

今後は、ステージ上のチャッテンからのさらなる攻撃に備えておくべきだろう。2024年秋にはアリーナ・ツアーが始まり、翌夏はフィンズベリー・パークで5万人を前にバンド史上最大規模のパフォーマンスが予定されている。

フィンズベリー・パーク公演は、8月にリリースしたばかりで図らずもバンド史上最高の傑作となった4枚目のアルバム『Romance』ツアーのウィニングランとして、バンドの歴史に刻まれることだろう。

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2019年のデビュー・アルバムでダブリン・ライフを描き、ロンドン移住後の2022年の3rdアルバム『Skinty Fia』では故郷を捨てる後ろめたさを感じていたフォンテインズD.C.は、各方面から本格的なアイリッシュ・バンドという評価を受けていた。

しかしバンドは、4枚目のスタジオ・アルバム『Romance』で、最もハードにリセットしたかったようだ。トリップ・ホップをベースにした鮮烈なリード・シングル「Starburster」のミュージック・ビデオには、「もしもKornとクラクソンズが融合したらどうなるか」という、そう古くない疑問に対する彼らなりの答えが込められている。ムーディーなモノクロームのTシャツを完全に捨て去り、オーバーサイズのスポーツウェアにピンクのキャンディフロス・ヘアとラップアラウンド・サングラスというスタイルを採り入れる。



「俺たちがレコードで表現しようとしていることを、型にはめて欲しくないんだ」とチャッテンは説明する。「『Boys in the Better Land』(初期の人気曲)をリピートして聴くリスナーは、それがアルバムの方向性だと決めつけがちだが、俺たちはそんな固定概念を避けたかった。部分的な一面からしか評価できない人々が、間違いなく俺たちを型にはめようとしている」。

ニュー・アルバムを一度聴くだけで、彼らが着実に変化を遂げたことがわかる。タイトル曲にはキューブリック的な暗さが漂い、「Starburster」は歌い終わりのチャッテンの苦しそうな息づかいが印象的だ。チャッテンがプロデューサーのジェームズ・フォードの家へ向かう途中で経験したパニック発作がヒントになったという。作品そのものがプレッシャーとなりパニックに陥った、とチャッテンは証言する。

このバンドはいつでも綱渡り

決して政治をテーマにしたアルバムではないものの、チャッテンによると、陰鬱な「In The Modern World」のように、現代の社会問題にインスパイアされた作品もあるという。「これまでに言うべきことは主張して、もはや興味もなくなっていた」とチャッテンは言う。「ところが世界では、新たな悩みの種が出てきている。俺も人並に気候変動問題を心配して、自分たちの責任問題や現在進行中の現象について恐怖を覚えている。パレスチナ問題もそうだ。現実の社会問題にある程度首を突っ込んでしまうと、気にせずにはいられなくなってしまう」。

「気候変動問題について、友人のニコライ・シュルツが書いた『Land Sickness』という本がおすすめだ」とチャッテンは言う。「地球の破壊に自分が貢献してしまっているという自覚に苦しむ人間の姿を、的確に描いている。しかし見て見ぬふりをし続けようとする態度は、現代社会の本当に不安な現実だ」。



チャッテンの眠れぬ原因が戦争や気候変動問題でないとすれば、それは世界で最も称賛されるロック・バンドの一員としてツアーを続ける生活と、北ロンドンの自宅での生活との切り替えの難しさだろう。これこそが、「Starburster」で聴こえる彼の苦しそうな息づかいにつながるパニック発作の原因だった、とチャッテンは説明する。「そんな生活に慣れるのは難しい」と彼は分析する。「落ち着けない移動続きの生活が一定期間続く、という現実を受け入れねばならない。そうしないと、ただずっとホームシックに悩まされることになる」。

「俺は時々、自分の家とは何だったかを忘れてしまい、思い出すまでに時間がかかることがある。その点、シェイム(サウスロンドン出身のバンド)のメンバーは上手に対処していると思う。フロントマンの(チャーリー・)スティーンは、年上の人たちと一緒にサウナへ出かけて、ビジネスの話なんかをしているのさ」。

「俺はツアー前の数日間、仕事の人間とは会わずにどこかへ出かけようと決めた。そこで俺はダブリンへ帰郷して、祖父母の家に近いホテルに5日間滞在することにした。祖父母と過ごした時間のおかげでリラックスできた」とチャッテンは続けた。

「自分の家から追われたという感情が、クリエイティブな感覚を養うんだと思う」とも彼は言う。「居心地のよい場所から抜け出して根無し草のような状態に身を置くと、頭が冴えて曲のアイディアが浮かんだりするんだ」。

チャッテンはまた、自分自身が物事を考えすぎる傾向にあると告白した。そのせいで、時代を代表するバンドの一員としての成功を素直に喜べなかったこともあるという。「俺は常に、何かを気にしているタイプだ。だから些細なことでも気になって、すぐにググらないと気が済まない性格なのさ」。



「楽屋での俺は、顔が真っ青になっている。自分自身で対処しているが、仲間たちのおかげでだいぶ助けられてもいる。そんな状態だから、バンドにとって素晴らしい瞬間に、俺自身が立ち会えなかったりする」。

チャッテンは、将来立つであろう大きなステージに、若干の不安を覚えるという。「俺たちがせっかく大きなチャンスを手にしたのに穴を開けてしまうようなことがあれば、それは本当に悲しいことだし、考えただけでゾッとする。取り越し苦労かもしれないけれどな」。

バンドは洗練され、新たな時代に突入したものの、ダブリン時代のスピリットはそのまま失わずに持ち続けているという。「ビジュアルやサウンドは、以前よりもましになっていると思う。でも常に不安要素は抱えている」とチャッテンは、バンドが歩んでいる新時代への不安を口にする。「大きなアリーナだろうが小さな会場だろうが、俺たちのパフォーマンスには常に不確定要素が付きまとう。いつでも綱渡りなのさ」。

とはいえ、2024年における最高レベルのアルバムをリリースしたフォンテインズD.C.が、そう簡単に衰退するとは思えない。

【関連記事】フォンテインズD.C.のグリアンが語る、ディストピア化した孤独社会でロマンスを探求する理由

From Rolling Stone UK



フォンテインズD.C.
『Romance』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14039

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