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春ねむり、東名阪ツアー完遂 愛も怒りも飲み込んだ魂の喝采

Rolling Stone Japan / 2024年9月17日 17時15分

春ねむり(Photo by エドソウタ)

9月6日、春ねむりが東名阪ツアー『サンクチュアリを飛び出して』の東京公演をSHIBUYA WWWXで開催した。昨年9月にバンド録音でハードコアパンクを鳴らしたEP『INSAINT』を発表し、10月からは4年ぶりとなるヨーロッパツアーを成功させるなど、近年は精力的に海外ツアーを行ってきたが、国内でのツアーは実に6年ぶり。この日はゲストにMASS OF THE FERMENTING DREGSと奴居イチヂクを迎え、熱狂的なフロアを作り上げた。

【この日のライブ写真を見る】

1番手に登場したのは先日18歳になったばかりだという若きラッパーの奴居イチヂク。短い時間ながらバンドセットとDJセットを交えてハイテンションのパフォーマンスを披露した。ハイパーポップ的な感覚とJ-ROCK的なバンドサウンドが同居するそのステージは、2000年代半ばに凛として時雨や9mm Parabellum Bulletらが浮上した頃を連想させるものがあり、ジャンルの交錯から新たなシーンが生まれつつあることを感じさせた。

そしてまさにその時代、2000年代半ばから活動を続けて来たのが2番手のMASS OF THE FERMENTING DREGSであり、そのステージは堂々とした貫禄を感じさせる素晴らしいものだった。MCで宮本菜津子が語っていた通り、マスドレも春ねむり同様に海外ツアーの経験が多く(今年3月に行われた初のヨーロッパツアーで、マンチェスター公演に写真を撮りに来たグラスゴー出身のカメラマンがこの日のライブにも来ていたそう)、この日のオーディエンスは3〜4割が海外のお客さんで、この2組だからこその盛り上がりが確かに感じられた。

また、春ねむりとマスドレの共演は7年ぶりだったそうだが、『INSAINT』がハードコアパンクを主題とした作品であり、2020年代にハードコアパンクを鳴らす意味として、「マッチョイズムからの解放」を掲げていたことを考えると、20年以上に渡って日本のオルタナティヴなロックシーンで活動を続けてきた宮本率いるマスドレとこのタイミングでひさびさの対バンが実現したことも意味があったように思う。なお、7年前に下北沢シェルターで行われた春ねむり企画の対バンにはもう1組、まだインディーズ・デビュー前の羊文学がいて、彼女たちもまた現在バンドシーンにおけるアイコンとなっていることを考えると、なかなかに感慨深い。


MASS OF THE FERMENTING DREGS(Photo by Stephen McLeod)

SET LIST

奴居イチヂク
01.テメェの走馬灯でまた会おう。
02.首都圏絆創膏 with hollow me
03.TECHNICS
04.愛いびぃ愛らゔゆぅ
05.ヨミへ...。with 永Q結社
06.魂のlv. with 永Q結社 

MASS OF THE FERMENTING DREGS
01.Dramatic
02.Sugar
03.New Order
04.青い、濃い、橙色の日
05.1960 06.祝おう
07.delusionalism
08.スローモーションリプレイ
09.あさひなぐ
10.ワールドイズユアーズ 

この日の主役である春ねむりのステージは教会の鐘の音から始まり、『INSAINT』の収録曲「ディストラクション・シスターズ」でスタート。昨年7月に行われたライブで初めて披露されたマニピュレーター+生ドラムのライブも板に付き、やはりハードコアパンクな曲調は生ドラムがよく似合う。マスドレのようなバンドと比べるとどうしても上ものの生感には差が出そうなものだが、春ねむりのライブは上手にマーシャル、下手にJC、真ん中に横倒しにしたベースアンプを置き、そこから音を出すことによってバンド感を担保しているし、生ドラムに打ち込みの音を重ねることで、バンドでは出せない音の厚みを出すこともできる。軽やかにステップを踏み、ときに獰猛なスクリームを聴かせる春ねむり自身のパフォーマンスも痛快で、オーディエンスも腕を振り上げて応えている。

「鳴らして」「せかいをとりかえしておくれ」と『春と修羅』から現在のハードコアパンクモードにフィットするロックナンバーを続けると、合唱の起きた「せかいをとりかえしておくれ」のラストではフロアにダイブ。「色々あってもなくても、君が今ここにいるということがとても重要だ。そうは思わない瞬間の方が人生には多い。人間の人生はクソだから。それでも今日は君がここにいるということが本当に重要なことだ。ということを、60分かけてお伝えできればいいなと思う」と話し、envyばりの激情型のポストハードコアを聴かせる「わたしは拒絶する」から、アンセミックな「あなたを離さないで」を届けると、場内は大きな拍手と歓声に包まれた。





ここからは少しモードを変えて、「踊りたかったら一緒に踊って」と呼びかけた「そうぞうする」はサブベースの低音がフロアを震わせる。さらに現代の環境問題に言及する「森が燃えているのは」を届けると、「自分は自分だけで成り立ってないから、この世界の搾取とか抑圧をはらんで、自分という人間や自分の表現が成立してる。だからこのクソみたいな社会が変われと思って日々生きてるし、色々言ったりしてるんですけど、人間が生み出したシステムの最も邪悪なものが今パレスチナで人間を虐殺しまくってると思うので、イスラエルの搾取と抑圧に反対しています」という言葉に拍手が起こり、「人間の感情や無意識の偏見は変えられないけど、システムは人間が作ったものだから変えられる。そう思って生きていってください」と、パレスチナの国旗を連想させる赤と緑の照明の中で語られた。


Photo by Stephen McLeod

混沌とした美しさがARCAを連想させる「パンドーラー」に続いて披露されたのは、ツアータイトルにもなっている「サンクチュアリを飛び出して」。この曲はプロテスタントのクリスチャンスクールに通っていた春ねむりにとっての「原風景的な曲」であり、〈みんな死ねって ぜんぶ消えろって のみ込んだ気持ちに刺される〉というリリックが胸を打つ。曲の途中では声を震わせながら「誰かが虐殺されてるとか、誰かが搾取されてるとか、その仕組みから逃れられないこととか、それでもここで生きていくしかないこととか、考えなくていいなら考えない方が楽に決まってる」と言葉を絞り出し、「だから本当は、みんな死ねって、全部消えろって、思わないままでいたかった!」と絶叫。〈きみが来ると信じて いつまでだって待っている〉と歌う「サンクチュアリを飛び出して」から、そのまま「Kick in the World」を続け、最後に〈きみと行こう〉と歌ったのは物語性を感じさせ、とても感動的なシーンだった。


Photo by Stephen McLeod


Photo by エドソウタ





「このツアーではちょっと懐かしい曲をやってきました。正直ロックが死んでても死んでなくてもどっちでもいいんですよ。どっちでもいいんだけど、自分がこの曲を書いたときの祈りは大事にしたいと思う」と言って始まったのは「ロックンロールは死なない」。ここで今回のツアーで大阪と名古屋にも出演しているGOMESSが登場し、フロアをさらにアゲていく。この曲のモチーフはもちろん「ロックンロールは鳴り止まないっ」で、昨年のリキッドルーム公演で共演を果たした神聖かまってちゃんは春ねむりにとってのメンター的な存在であり、「サンクチュアリを飛び出して」の背景にあるのも、神聖かまってちゃんの『みんな死ね』。この曲を今回のツアーで演奏することの意味はとても大きかったと言えるだろう。


Photo by エドソウタ



重厚な「インフェルノ」と「春火燎原」を届けると、再び涙ながらに「生きるのしんどいから消えたいんだけど、ここでこれをやっている限りはまだ生きていたいと思うから、最悪の自家発電してる」と笑い、「愛も怒りもやっぱり全部歌いたい。それをやり切って死にたいと思うので、やり切るまで死ねません。なので、見ていてくれたら嬉しいし、音楽を必要としてくれたら嬉しいです。今日この場所にいてくれて、私に『明日も生きれちゃうなあ』と思わせてくれて、ありがとうございます」と話して、この日最後に届けられたのは「生きる」。「みんな死ね」を抱えながら、それでも「生きる」と向き合い、〈How beautiful life is!〉と合唱すること。僕も君もあなたも、確かにこの星に存在している。


Photo by エドソウタ


Photo by エドソウタ


Photo by エドソウタ

SET LIST

春ねむり
01.ディストラクション・シスターズ
02.鳴らして
03.せかいをとりかえしておくれ
04.わたしは拒絶する
05.あなたを離さないで
06.そうぞうする
07.森が燃えているのは
08.パンドーラー
09.サンクチュアリを飛び出して
10.Kick in the World
11.ロックンロールは死なない feat.GOMESS
12.インフェルノ
13.春火燎原
14.生きる 

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