フェアーグラウンド・アトラクションが語る、再結成と36年ぶり新作で見つめ直した「絆」
Rolling Stone Japan / 2024年9月20日 17時30分
6月末の来日公演で35年ぶりの活動を再開したフェアーグラウンド・アトラクション(Fairground Attraction)。看板歌手のエディ・リーダー、全曲の作詞作曲を手がけるマーク・ネヴィン、ドラムスのロイ・ドッズ、ギタロン(メキシコのアコースティック・ベース)のサイモン・エドワーズが再結集した日本ツアーのどの会場もぎっしり超満員となった5公演は、今年最高の心震わすライブ体験だった、と年半ばにして言い切ってもいいかもしれない。
そして、88年の名作アルバム『ファースト・キッス』(The First Of A Million Kisses)から36年、待ちに待ったニュー・アルバム『ビューティフル・ハプニング』(Beautiful Happening)がいよいよ9月20日に発売される。
来日時に行ったインタビューの公開済みの前編では、彼らの結成から解散までのいきさつとアルバム『ファースト・キッス』について話を聞いたが、この後編ではエディとマークが再結成とニュー・アルバムについて語ってくれる。
>>>前編はこちら
フェアーグラウンド・アトラクションが語る日本での再出発、名作の誕生秘話、解散の真相
友情を取り戻すまでの過程
―さて、今回グループが遂に再結成されたわけですが、大ヒット「パーフェクト」を改めて聞くと、第二連の歌詞がまるでそのいきさつを語っているようです。♪あの頃は若くて愚かで、間違いを起こした。そして今、それを正そうとしている、と。
エディ:ああ、まさにそうね。マークが書いた曲だから、彼がその意味するところを話してくれるわ。
マーク:ああ、確かに僕らは若くて愚かだったさ。でも、とても楽しんだよ。
エディ:ええ。そうでなくっちゃ。誰もが若いときは愚かなものね。今の私たちは歳をとっても未だに愚かだけど(笑)。私たちは過去を振り返らず、その瞬間を楽しむタイプの人間だし、どちらもこの人生の間にまた一緒にやるなんてまったく思っていなかった。でも、私たちも人生は短かいと感じる年齢になって、過去に敬意を払うようになった。
マーク:♪愚かなゲームに興じるには人生は短すぎる、だよ。
エディ:まさにそのとおりね(笑)。そういう意味では、あの歌は本当になったわね。自分たちがやったことに敬意を払いたかったし、お互いに対してそのことを伝えたかった。他の人たちからの賞賛や世間の評価とは関係なくね。重要なことは私たちが20代半ばから後半につながりを作ったこと。そのことは残りの人生にも良い影響を与えた。また一緒にやるようになったのは、それに敬意を払うことなの。
2024年6月27日、渋谷クラブクアトロにて(Photo by Masanori Doi)
―また集まることになった直接的なきっかけは何だったんですか?
エディ:2年前なんだけど、ロイがコロナに感染して、すごく病状が悪くなったの。私は仕事でロンドンに来ていたので、マークとサイモンに連絡をとって、何であれ、いまやってることを後回しにして、ロイのお見舞いに行こうと誘ったの。ロイが死にかけたほどだったとは知らなかったんだけど、彼は入院していて、私は恐ろしくなった。望んでも、もう一緒に演奏できなくなくなるかもしれないって。そして気づいたの。私にとって一番大事なことは、マーク、サイモン、ロイとの関係なんだと。そして、私たちは朝食に一緒に出かけ、とても楽しい時間を過ごした。そして何年ぶりか、マークの家族にも会った。何よりも重要なことは友情と人とのつながりなのね。
マーク:その一緒に朝食をとった日に思ったのは、どうして僕らは解散したんだろう?ということだった。まったく時間のギャップを感じなかったからね。
エディ:うん、時間のギャップなんてなかった。人と関係を持ってつながると、それは終わることはないわ。離婚しようが、何をしようが、その関係はずっと存在する。和解し、問題を解決し、感謝し、ありがたく思う。それが一番大事なことだし、そう感じている。マークにはありがとうと言わなくちゃ。私の人生に与えてくれたものを。
マーク:それはお互い様だよ。
―フェアーグラウンド・アトラクション解散後、マークはモリッシー、カースティ・マッコールなどのソングライティングのパートナーを務める一方で、自分のソロ・アルバムを発表してきました。解散後の初のプロジェクトだったブライアン・ケネディとのスウィートマウスのアルバムは、フェアーグラウンド・アトラクションの2作目に収録されるはずの曲が大半なんですって?
マーク:ああ、そうなるはずだった。
―ということは、エディの歌声のために書いた曲だったんですね。ブライアン・ケネディはとても女性的な歌声の歌手ですけれど……。
マーク:いや、僕は誰かの歌声のために曲を書いたりはしないよ。ただ曲を書くだけさ。
エディ:マッシュルームのようなものよね。突然そこに育っているのを見つけるの。
マーク:僕の場合は突然何曲も生まれる夜があるんだ。
エディ:マッシュルームが急成長するみたいに。
マーク:ああ。
エディ:私にはそんな夜はないわ。いいわね。
マーク:少し書き換えたところはあったかもしれないけど、ブライアンは僕らの良い友だちだったし、僕がエディと取り組んでいた曲を彼が歌うにあたって、そんなに問題はなかったと思うよ。
―バンドが解散して、歌手はソングライターを、ソングライターは歌手を失ったわけです。
マーク:当時重要だったことは、ある人が言ってたんだけど、人生の前半は自分の強みで働くんだけど、後半は弱みのうえに積み上げていくんだ。僕らが別れた後は、間違いなくどちらも自分の弱い部分を強くしていかなくちゃならなかった。
エディ:私はそうだったわ。間違いなく。
マーク:だから、今はまた強みに戻ってきたわけさ(笑)。
エディ:私たちの組み合わせには間違いなくシナジー効果があるわね。それも普通じゃなく、とてもユニークなものが。人生でそんな人に多くは出会えない。そんなに起こらないから、それが起こったときにはそれを認めなくちゃならないわ。そして大事にしなくちゃ。
36年ぶりの新作、エディとマークの化学反応
―さて、待望のニュー・アルバム『ビューティフル・ハプニング』の話をしましょう。「シング・エニウェイ」とボーナス・トラックの「アンサータンティ」は、マークがソロ・アルバムで既に発表済みの曲です。自分のアルバムのために曲を書いているときにも、その曲がエディの歌声を求めていると感じることがありますか?
マーク:「シング・エニウェイ」はエディにぴったりな曲だと思っていたよ。彼女は素晴らしい歌手だからね。彼女は歌うことで自分を救い、その歌唱はたくさんの人の命を救ってきたからね。
エディ:あら、それはどうかしら……。
―ソングライターのクレジットをまだ見ていないんですが、エディも曲を書いているんですか?
エディ:いいえ、全曲がマークの書いた曲よ。このアルバムの録音に入る前に、YouTubeで観たのが、マークが家族と「ラーニング・トゥ・スイム」を歌っているビデオだった。何度も何度も繰り返して観たわ。すごく良い曲だったから。彼の曲のなかに、私が歌いたいと飢餓感を感じる曲があるの。まるでそのビスケットを食べたくてたまらないみたいに、体が欲するのね。そんな曲なの。
それで、再結成を決めたあと、ロイと私が最初にマークの家を訪ねたとき。彼の息子のスタンがピアノを弾いてたから、「スタンを手伝ってあげましょ」と、私がギタ―を弾き、ロイがドラムスを叩き、彼の家族と一緒に歌って、とても楽しんだ。それで、マークに「あの曲を録音しましょ」と言ったの。
―自分のアルバムとは違って、フェアーグラウンド・アトラクションでは、マークの曲を歌う歌手に徹することを楽しんでいるんですね?
エディ:私にはやらないといけないことが山のようにある。社会革命史で博士号を目指しているし、母親で、家庭を守っていて、家の塗装までやっているのよ。歌って、ギターを弾き、曲を書いている。さらに、詩を書いたり、スコットランドの音楽、文化の記録をまとめたり、とても忙しい。だから、これは私にとって休暇みたいなものなの。(本来の)家庭から離れ、フェアーグラウンド・アトラクションという家族とリラックスして過ごすことができる。
それと、ドリス・デイやケイ・スターのような昔の歌手は、美しいドレスを着て、デューク・エリントンとかの楽団の前で、他の人が書いた曲を心をこめて歌った。マークはそんなことをする機会を私に与えてくれるの。
マーク:僕らの育った時代にも、シラ・ブラックやディオンヌ・ワーウィックのような歌手が、バート・バカラックの名曲「アルフィー」とかを歌ってヒット・チャート入りしていた。僕は素晴らしいと思っていた。歌手、作曲家、編曲者、バンド、プロデューサー、みんなが良い仕事をして、みんなが勝者なんだ。それが、ビートルズ以降、みんなが自分で曲を書かねばいけないと思い込む奇妙なことになってしまった。
エディ:そう、ビートルズとディランが悪いのね(笑)。
マーク:自分で曲を書かなかったら、何かがおかしいといった風潮になったんだ。
エディ:でも、パッツィー・クラインがいなかったら、ウィリー・ネルソンの書いた「クレイジー」の素晴らしさは理解されなかったかも。♪ クレイジー……(ウィリーの独特の歌唱をデフォルメして歌う)。これでは多くの人に興味を持たれなかったでしょうね。パッツィー・クラインの切ない歌が必要だった。時には解釈歌手が必要なの。リンダ・ロンシュタットやバーブラ・ストライサンドが必要なのよ。
マーク:男性と女性はそれぞれテーブルに運んでくるものが異なるからね。でも、それをうまく組み合わせると、パワフルなものが生まれるんだ。
エディ:私たちの組み合わせはそれ(『ファースト・キッス』)でうまくいったし。これ(『ビューティフル・ハプニング』)でもうまくいったと願いたいわ。
慈しみに満ちたサウンドの背景
―今回のアルバムの制作にあたって、前もっての何らかのコンセプトはありましたか?
マーク:僕らは自分たちのやることをやっただけだね。あまり多くを考えずに始めて、曲ができあがって「わあ、いいぞ!」という感じだった。5日間で17曲を録音したんだ。
エディ:ロイには、彼の求めているドラムスのサウンドがあったと思うけど、私は完璧すぎないように、完璧にはちょっと足りないものを求めた。聴き返して、そこに感情が充分に感じられれば、私にはそれで出来上がりだったわ。
―前作になかった新しい要素に、数曲でのホーン・セクションの導入があります。これらの曲に関しては、最初から編曲のアイデアがあったんですね。
マーク:僕が大ざっぱな編曲を考え、ホーンに関してはキック・ホーンズの面々にまかせた。エリック・クラプトンからザ・フーまでとやっている売れっ子のホーンなんだよ。
エディ:私は彼らが有名アーティストと仕事をする前から、(エディがバック・コーラスの仕事をしていた)85年くらいからの知り合いなのよ。
―そんなホーンの導入もあって、ソウルやゴスペルの影響もいくらか発見できますね。
エディ:そうね。でも、サウンドのことよりも、前作との違いは、あのアルバムがロマンティックで、若者の未来への希望に満ちていたのに対し、今回は35年経って、ずっともっと「アヴァンキュラー(avuncular:優しいおじさんのようにという意味)」だと思う。もっと賢くなり、若い人たちに助言をしている。泳ぎを覚えようとするなら、飛び込まなくちゃいけないとか、何か素晴らしいことが起こるから、暗闇を心配するなとかね。
―「ア・ハンドレッド・イヤーズ・オブ・ハートエイク」と「ヘイ・リトル・ブラザー」の2曲に「家に帰る」という行が出てきます。もちろん、このバンドの再結成こそがあなたたちにとっての「家に帰る」ですが、エディ、あなたは90年代に故郷グラスゴーに「家に帰り」、自国スコットランドの文化や伝統に改めて向き合ったことがそれ以降の人生と音楽に大きな影響を与えましたね。
エディ:ええ。とても重要だったのは、(スコットランドの国民的詩人)ロバート・バーンズの曲を歌い始めたことだったけど、彼の作品集を作ったとき、自分の姿勢としてはマークの曲を歌うときとまったく同じことをしていると理解した。(18世紀に生きたバーンズに比べて)マークの世界に立ち戻るのはそんなに難しくない。同じ時代にこの惑星で生きているからね。でも、300年後の人びともマークの曲を聴き続けると思うわ。だから、私は歌手というよりも、曲を届ける郵便配達人のようだと感じているの。マーク、私はいつもあなたの曲がたくさんの人たちに聞かれるべき価値があると思っていて、その範囲を広げたい。それと、離れていたことで教えられたことがもっと良い歌手にしてくれた。私は35年間離れた場所に行く必要があった。そこで学んだことでもっと良い歌手になって、マークの曲に帰ってくるためにね。
―マークはどうですか? この35年間に実際に、音楽的に、比喩的に「家に帰る」体験は何かありました?
マーク:家というのは究極的に自分の心のある場所だよね。音楽的には、エディ、ロイ、サイモンが僕の家族なんだ。
エディ:私はとても幸運だわ。彼のようなソングライターが、世界にたくさんいる歌手のなかから、バート・バカラックがディオンヌ・ワーウィックを見つけたように、私を自分の歌のヴィークル(車などの輸送手段)に見つけてくれたことにね。
>>>前編はこちら
フェアーグラウンド・アトラクションが語る日本での再出発、名作の誕生秘話、解散の真相
フェアーグラウンド・アトラクション
『ビューティフル・ハプニング』
2024年9月20日発売
12曲+ボーナストラック2曲収録
ピクチャー・ディスク仕様/解説・歌詞・対訳付
詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/FairgroundAttraction/
フェアーグラウンド・アトラクション
『Beautiful Happening』(LP)
『The First of a Million Kisses』(LP)
発売中
詳細:https://www.sonymusic.co.jp/artist/FairgroundAttraction/
フェアーグラウンド・アトラクション公式:https://linktr.ee/fairground_attraction
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