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マーシン×Ichika Nitoが語る『Dragon in Harmony』とギターの常識を変える二人の未来

Rolling Stone Japan / 2024年9月19日 17時40分

Photo by Takumi Osera

ポーランドの天才ギタリスト、マーシン(Marcin)がデビュー・アルバム『Dragon in Harmony』を完成させた。オリジナル曲のほか、様々なジャンルのカバー全14曲を収録。今年5月の初来日公演で共演した盟友・Ichika Nitoに加えて、ポルトガル・ザ・マン、シンガーソングライターのデラニー・ベイリー、ティム・ヘンソン(ポリフィア)を迎えた全14曲を収録している。

本作のリリースを記念して、昨年6月に掲載して大好評だったマーシン×Ichika Nito対談の後編をお届けする。再び実現したコラボレーションの背景や、『Dragon in Harmony』の制作秘話、そして今後の展望について両者に語ってもらった。聞き手は『現代メタルガイドブック』監修・主筆の和田信一郎(s.h.i.)。

【前編はこちら】マーシン×Ichika Nito対談 革新的ギタリストの演奏論、超絶テクは「伝えるためのツール」


夢の共演が再び実現、その裏側

─マーシンさんの素晴らしい新作について伺いたいと思います。まずはIchikaさんの感想から伺ってもよろしいでしょうか。

マーシン:ワオ、気になるよ!

Ichika:まず、1stアルバムのリリースおめでとう! 先ほども彼が言っていたように、アーティスティックというか、人生でやりたいことが詰まってる作品だと感じました。全体から歌心を感じた。テクニックがどうとか、かっこよく見せようといったところから一歩踏み出していて、「どれだけすばらしい音楽を作れるか」という意志を感じます。

アルバム全体を通して、メロディとリズムの複合性に、自分じゃ生み出せないものを感じますね。曖昧で、聴くたびに「これは取り入れたい、真似したいな。てか悔しいな……」と思うところがある。

マーシン:君は素晴らしい友達だよ! ありがとう! 「真似したい」って言ってくれたけど、「Just The Two Of Us」の時点で、Ichikaは僕のシグネチャーかつクレイジーなマイナーコードを弾いていたよね。素晴らしいサウンドだった!必要なのは、それをリリースする度胸だけだよ。君には十分な才能があるんだから。


『Dragon in Harmony』日本盤ボーナストラックとしてマーシンとIchika Nitoのコラボ曲「Just The Two Of Us」を追加収録

─Ichikaさんにとって一番印象に残った曲、「やられた!」みたいな曲はありますか。

Ichika:僕が客演した曲があって。完成版が届いて聴いた時、めっちゃいい曲だと思いました。

マーシン:「I Don't Write About Girls」のことだよね。ねえ、タイトルについてどう思った? 君は結婚してるじゃん? ちょっと皮肉っぽく感じる?

Ichika:ちょっと困惑したんだ。どういう意味だろうって。



マーシン:この曲のメロディ(口ずさむ)を書いていた時、昔の彼女のことを考えていたんだ。

Ichika:メランコリックなメロディだよね。

マーシン:そう。初めての彼女がいたんだけど、僕のキャリアが変化してきたタイミングで別れたんだ。音楽を優先しようと思って。だからちょっとメランコリックなメロディになっている。でも、彼女にちなんだタイトルをつけたくなくて。ちょっとベタすぎるじゃん(笑)。だから、彼女のことを書いてはいるんだけど、「I don't Write about Girls」にしたんだ。アイロニックだよね。ファースト・バージョンはまったく違ったよ。

Ichikaのソロパートは、他のパートよりハッピーな感じで、今さらちょっと羨ましく思ってる(笑)。僕のお気に入りのパートなんだ。ヘッドホンで聴くと、ここがベストパートだ!!って。

Ichika:ありがとう。

マーシン:今は嫉妬してるよ(笑)!

『Dragon in Harmony』制作秘話と二人の未来

─タイトルの話が出たので、それに絡めて伺いたいです。今回のアルバムタイトル『Dragon in Harmony』にはどういった意味が込められてるのでしょうか?

マーシン:2000年生まれの僕はドラゴン(辰年)で、2024年の今年も辰年。僕自身と、音楽のコネクションを表現するために、ドラゴンを入れるのはいいアイディアだと思った。それに、ドラゴンってフェアリーで俊敏で、炎を操るカオティックなビースト。それが僕のここ数年のスタイルを表していると思ったんだ。僕にとって、このアルバムは今までのシングルや動画とは違う、すごく意味のある作品。僕のアーティスティックな表現が1時間に詰まっている。カオティックなドラゴンはようやく手なずけられて、一つの作品を作るための時間とハーモニーを見つけた、そんなイメージ。

僕はこの作品のパーカッシブなスタイルを、できるだけ多くのオーディエンスに見てもらいたいって強く望んでいる。きっと今まで見たことがないと思うし、ギターはパーカッシブに弾けるっていうことを知ってもらいたい。世界中のカルチャーに、ドラゴンはシンボルとして存在していて、心理学者のカール・ユングが唱えているアーキタイプの中にもドラゴンは出てくる。僕のパーカッシブなスタイルがアーキタイプになったらいいなという思いも込めている。その可能性をみんなに知ってもらいたいんだ。

Ichika:ドラゴンは確かに君のアイコンになっていると思う。

マーシン:ありがとう! 僕もこのタイトルは気に入ってるよ。



─収録曲についてですが、オリジナルはもちろん、カバー曲も素晴らしい出来だと思いました。どういった意図で選曲されたのか伺えますか。

マーシン:いま24歳で、曲のアレンジを始めて9年になる。そうだね…… 特別意識することはないかな。曲を聴いて、僕のスタイルに合うかどうかは直感で分かる。もちろん、アレンジするのに時間をかけるから、その曲を好きなことは大前提だよ。それから、多くの人になじみのある曲であることも大事。あまり知られていない曲をアレンジするのも楽しいけど、それをするなら自分のオリジナル曲を作るかな。リズミカルで、強いメロディラインを持っているタイムレスな曲を見つけるようにしている。メインのリフやメロディを片手で弾けるかどうかは、選曲のテストにもなってるよ。それができたら、きっとスムーズに進められるだろうって予想ができる。


『Dragon in Harmony』に収録されたニルヴァーナ「Heart-Shaped Box」のカバー

─カバー曲はジャンルも様々ですよね。ジャスティン・ティンバーレイク、モーツァルト、ドビュッシー、マイルス・デイビスまで。

マーシン:大体の曲はクラシックですごく難しいんだけど、すごくおもしろい! 難しいクラシック音楽をアレンジするのは僕の趣味なんだ。今回のアルバムの最後はモーツァルトの「Requiem」で、すごく動きのある曲。かなりハードだった!

Ichika:そうだろうね(笑)。

マーシン:終わりが見えないくらい難しかった。今はもうやりたくないけど(笑)。やり遂げたことは誇りに思ってる。「やったんだ‼️」って。Ichikaはどう思う? クラシック音楽を君のスタイルでやりたいと思ったことはある?

Ichika:2回やったことがあるよ。1曲は「トルコ行進曲」だった。あとこれだ。(動画を見せる)

マーシン:君の結婚式にかけたやつだろう?(笑)。ねえ、タイトルを見てよ!「When you want to be a pianist but your parents buy you a guitar instead」。3年前にこのタイトルをつけてるなんて…… やっぱり天才だよ! このアイディアがどれほどすごいか、みんな分かってない。今ではよく見かけるけど、当時こんなに長いタイトルをつけてる人はいなかった。NBAの動画は僕のYouTubeで一番人気があるけど、このタイトル「When NBA Hires Just One Guitarist for a Halftime Show」はIchikaの影響なんだ。僕にとってはすごく印象的で、ほんとに天才だと思ってる。

Ichika:ありがとう!




─アルバムの構成的な話も伺いたいです。「Guitar is Dead」に始まり「Requiem」で終わる構成ですが、両曲が”生と死”に関連しています。曲のタイトルに”死”を入れた理由はありますか?

マーシン:よくチェックしてくれてありがとう! 最初の「Guitar is Dead」と「 I Killed It」は二つで一曲のようなもの。アルバムの最初のアイディアは何年も前から決まっていた。悪い意味にとってほしくないけれど、このタイトルには、僕の音楽に対して「どうしてそんな弾き方をするんだ? それは正しいやり方じゃない」って言ってくるような、クラシックなスタイルに固執している人たちのことはどうでもいい───そんな意味が含まれている。僕に言わせてみれば、新しいことにチャレンジしない彼らは、自分たちで「ギターは終わった」と言ってるように思うんだ。だから僕は彼らにこう言う。君たちの言うとおり! Guitar is Deadだ!って。つまり、これも皮肉なんだ。

それで、次の曲は「I Killed It」。これは二つの解釈ができて、僕やIchika、ティム・ヘンソン、マニュエル・ガードナー・フェルナンデス(Unprocessed)みたいな若いギタリストがギターの終わりに貢献したという意味と、もう一つは、英語の表現の”I kill it”(よくやった!)という意味。クラシックに固執して変化を嫌う年上の世代が僕のスタイルを嫌うってことは、それはつまり、僕は自分のやりたい音楽ができているってことでしょ?

「Requiem」は、アルバムの締めくくり。正直に言うと、この曲のスポットを見つけるのはすごく難しかったんだよね。長くて、内容もちょっとハードコアな曲だから、最後の饗宴としてハードコアなファンを迎え入れよう。そんなアイディアだった。

─アルバム全体が1曲として聴けるような素晴らしい作りになっていて、繰り返し楽しめる傑作になっていると思います。

マーシン:ありがとう!


Photo by Osamu Hoshikawa

─Ichikaさん的には、アルバムなど今後の展開はどうですか?

Ichika:今年こそ出します! 去年から1曲をずっと作り続けているんです。プロダクションチームを作って.....もう本当に、めちゃくちゃ気合いの入った曲を7月に出すので、ちょっとお楽しみという感じですね(編注:取材後、7月に新曲「Freak」がリリースされた)。

─全世界が待ち望んでいると思います。とても楽しみです。

マーシン:最高!





マーシン
『Dragon in Harmony』
発売中
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/DrogonInHarmonyRS

日本盤はBlu-spec CD2+Blu-ray DiscCDの2枚組仕様
DISC 1:本編14曲に加えてボーナストラック「Carmen」「Just The Two Of Us featuring Ichika Nito」を収録。
DISC 2:リードシングル「Classical Dragon」ほかMV4本を収録

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