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野田洋次郎のソロ初アルバムを考察 次のフェイズに向かう「音楽家のコア」

Rolling Stone Japan / 2024年9月25日 20時0分

野田洋次郎 (Photo by Takeshi Yao)

RADWIMPSでも、illionでもない、”野田洋次郎 Yojiro Noda”としての1stアルバム、その名も『WONDER BOYS AKUMU CLUB』。これはまさに野田洋次郎の野田洋次郎による、野田洋次郎のための、独立独歩のアルバムだ。

【写真を見る】『WONDER BOYS AKUMU CLUB』アーティスト写真

徹頭徹尾、ただただ実直に今の自分の音楽的関心と表現欲求が動くほうへ向かう。音と自由に戯れ、ビートを創造する。この人生の酸いも甘いも味わい尽くしたリリシストとしての本音を、本音のまま語る。歌唱とラップのボーダーラインを取っ払った旋律とフロウでサウンドの海を泳ぐ。そうして生まれた13曲は、ひたすらに野田洋次郎というアーティストの”今”を鮮明に映し出しながら、それと同時に、我々リスナーにとっても”2024年に聴く音楽作品”として非常に刺激的なものになっている。

オーバーグラウンドもアンダーグラウンドもない世界の地平に立ち、至極個人的な音楽表現を掲げるということ。自らが音楽に対してわがままになればなるほど、結果的にポップやロックやラップミュージック+ヒップホップやビートミュージックの境域が交わるクロスポイントになることを、その意義を、野田洋次郎は感覚的に理解しながら本作を作り上げたはずだ。RADWIMPSでは一連の新海誠作品とのコラボレーションによって強大な相乗効果を生み、国内外で求心力と推進力を高め、長年の念願だったワールドツアーもやり遂げた。だからこそ今、彼は次のフェイズに歩を進めるためにも、誰に何を言われようが、どこをどう切り取っても、”これが野田洋次郎という音楽家の現在進行形のコアである”と断言できるアルバムを創出する必要があった。

いや、このアルバム、マジで相当に充実した内容になっている。

公式のコメントで洋次郎はこのように語っている。

「どんな名義でもその時々の音楽的挑戦と言葉を探求することになんら変わりはないのですがラッドでは幸せなことに映画など他の作品との濃密な掛け算、コラボレーションから曲を作ることも増えてきた中『今、たった一人でぽつんと海に出たら俺は果たしてどんな泳ぎ方をするんだっけ?』というような感覚になりました(あと他の作品との掛け合わせもないことで、どんなひどい曲を作って失敗したとしても誰にも迷惑がかからない、とも思ったり)」

さらに「たのしかった。なんかそんなつもりなかったのにめちゃくちゃいいアルバムできた気がします。無性に、自由に、聞いてほしい。たのしみにしていてもらえたら嬉しいです」と、続ける。


Photo by Takeshi Yao

広く知られている通り、かつて野田洋次郎はillionというソロプロジェクト名義を持っていた。洋次郎にとってバンドサウンドとは異なるアウトプットを探求するillionは、エレクトロニカやポストロック、ダブステップやオルタナティヴR&B、クラシックなどを昇華しながら作品を重ねてきた。しかし、そのillionはやがてRADWIMPSのサウンドプロダクションにおける大幅なブラッシュアップ(主にプログラミングのスキルと管弦楽のアレンジ)によって吸収されていった、という筆者の解釈は見当違いではないだろう。もっと言えば、RADWIMPSの進化の歩みは、新海誠作品と濃密なコラボレーションを重ねてきた軌跡と符号する。

ある意味ではRADWIMPSがロックバンドとしてさまざまなジャンルを全方位で飲み込むことができる状態になったからこそ、音楽的に取りこぼすものがなくなった。あまつさえRADWIMPSでクリアすべきミッションとワールドツアーをはじめ大きな夢を実現させる必要もあった。

そういった流れのなかで必然的にillionの活動は沈黙することになったわけだが、その一方で、近年、彼はクラブの現場でラッパーやプロデューサーたち──たとえば本作にも参加しているkZmであり、Awichであり、Chaki ZuluといったYENTOWNのメンバーを筆頭に──と出会い、その交歓をRADWIMPSの楽曲やライヴに落とし込んでいった。

そして、洋次郎と現行のクラブミュージックやラップミュージックとの接近は、この『WONDER BOYS AKUMU CLUB』でもヴィヴィッドに反映されている。それは、EDMを通過したハイパーポップとでも言いたくなるようなビートの上で、〈痛めた心で叫んでいる 歌が好きなのはもしかして それよりもたしかな愛なんて この星のどこにも見当たらないから〉と、自身が音楽と対峙する理由をとことんシンプルに刻みつける1曲目「PAIN KILLER」から顕著に表れている。



そこからトリッキーなフロウでヘイターたちの口を切り裂く洋次郎流のドリルチューン、その名も「STRESS ME」、先行リリースされRADWIMPSのライヴでも披露された「EVERGREEN feat.kZm」、軽やかなギターやエレピ、クワイア然としたコーラス、シンゲリなどにも近いブレイクコア然としたビートをループさせリラックスした休日の時間をポップに描く「HOLY DAY HOLY」と続いていく。







パワーポップなギターリフをタイダイ色のハイパーポップに染める「HYPER TOY」からは、初期RADWIMPSを思い起こすイノセントなフィーリングを感じられるのも面白い。ゲームソフト『龍が如く7外伝 名を消した男』のテーマ曲であり、コカ・コーラのグルーバル楽曲「Be Who You Are(Real Magic)」でジョン・バティステ、キャット・バーンズ、カミーロ、NewJeansとともに名を連ねていたことも記憶に新しい、アトランタ出身のラッパー、J.I.D(ビートアプローチ、最高)を客演に招いた「KATATOKI」では、ジャジーヒップホップというよりも、ジャズの構造を本質的に捉えトラップ以降の視座で響かせるシリアスかつメロウなビートが光る。





「WALTZ OF KARMA」における「HOLY DAY HOLY」とはまったく異なるムードでシンゲリなどに迫るビートの様相も実にパンチが効いている。アーバンポップなラヴソング「BITTER BLUES」はとてもフレッシュ。





そして、往年のフィリーソウルからサンプリングしたようなループから、はっきりと”ヴァイナルの匂い”がするソウルナンバー「PIPE DREAM」は、本作の個人的な白眉でありハイライトだ。ラストを飾る先行シングル「LAST LOVE LETTER」はこの並びで聴くと野田洋次郎はどうしたって自らの音楽表現を他者に届けずにはいられないという、その根源的な理由を語っているように聴こえる。

〈人生最高 再更新 何度だってし続け 人生最後 目を閉じ この歌を聴いて笑おう〉





この『WONDER BOYS AKUMU CLUB』というアルバムは、間違いなく野田洋次郎という音楽家をより自由にしたし、これからも彼が音楽に自由であれる場所を築き上げた。そして、ここで生まれる強靭なクリエイティビティは必ずやRADWIMPSの進化をさらに加速させるはずだ。



<INFORMATION>



野田洋次郎 Yojiro Noda
1st Album
『WONDER BOY'S AKUMU CLUB』
発売中
配信リンク:https://lnk.to/ny_WBAC

01. PAIN KILLER
02. STRESS ME
03. EVERGREEN feat.kZm
04. HOLY DAY HOLY
05. SHEETA
06. HYPER TOY
07. KATATOKI
08. WALTZ OF KARMA
09. BITTER BLUES
10. PEACE YES
11. PIPE DREAM
12. HAZY SIGH
13. LAST LOVE LETTER

■通常盤:CD [品番] UPCH-20677 [価格] ¥3,000+税 (税込¥3,300)
■初回限定盤:CD+T シャツ [品番] UPCH-29476 [価格] ¥9,000+税 (税込¥9,900)
■アナログ盤:重量盤 2 枚組 LP レコード [品番] UPJH-20066/7 [価格] ¥5,000 円+税 (税込¥5,500)

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