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映画『HAPPYEND』のW主演俳優が語る、心や価値観を揺さぶる物語と音楽のパワー

Rolling Stone Japan / 2024年10月7日 19時0分

左から、日高由起刀、栗原颯人(Photo by Kana Tarumi)

無関心と不寛容が支配する「ありえるかもしれない未来」。『Ryuichi Sakamoto | Opus』を手がけた空音央監督による初の長編劇映画『HAPPYEND』は、そんな遠くて近い日本を舞台に、イノセントでいられなくなった高校生達の友情の変化を描く。W主演に抜擢されたのは、ともに今作で映画デビューとなる栗原颯人と日高由起刀。すれ違うユウタ(栗原)とコウ(日高)がまとう危うさを、生々しい存在感で演じきった。現在は共同生活を送っているという二人が考える、友情について、音楽について、未来について。役柄から離れた彼らのリアルな声を聞いた。

【写真を見る】栗原颯人と日高由起刀



ー今作はお二人にとってスクリーンデビュー作となります。出演が決まった時はどのように感じましたか?

栗原 当時はまだ右も左も分かっていない状況だったので、ワクワク感が強かったです。オーディションのお話をいただいた時はモデルの仕事を始めてから2カ月くらいのタイミングで。漠然と俳優をやってみたいと思ってはいたものの、いざ決まったとなると実感が湧かないというか。あっという間に撮影が始まって、今月(9月)にはヴェネチアに行かせてもらったり、時間の流れがすごく早く感じるし、頭が若干追いついてないです。

日高 僕も彼と同じくらいのキャリアなので、「いつか」と思っていた機会が急に来たような感覚でした。台本をいただくこと自体初めてでしたし、試行錯誤しながらオーディションに臨んだんですけれど、コウという役柄に自分と重なる部分が多く、映画の内容も興味深かったので、出演したいという気持ちがどんどん高まっていって。合格した時は素直にすごく嬉しかったです。

ー栗原さんのお話にもあった通り、初主演作がヴェネチア国際映画祭に出品されお二人も現地に赴くなど、今作によって周囲の環境が目まぐるしく変化しているのではないかと思います。

栗原 日本だけじゃなく、世界の人に映画を観てもらえて、色んなところでの上映が決まって。予想だにしないことが起きすぎていて、毎回ビックリしています。そんな貴重な体験をさせてもらえたことは一生記憶に残るだろうし、デビュー作がここまで広がっていくのは嬉しい限りです。これからも俳優を頑張ろうと思わされてます。

日高 正直、オーディションの時点では映画の規模感が理解できていなかったので、今になって二人で「最初はこんなことになるなんてわからなかったよね」みたいな話をよくしてますね。でも、もしどこかのタイミングで違う選択をしていたらこんな機会はなかっただろうし、ありがたみは強く感じてます。こういう仕事をやらせていただく上で、「自分が一番演技が上手いんだ」「一番カッコいいんだ」というマインドを常に持つようにしているので、そうやって食いついてはいるんですけれど……ふとした時に冷静になると、いろいろ凄いなと思います(笑)。

ーでも、今回の作品や演技には自信を持っているということですね。

日高 もちろん。でもそれは、監督やプロデューサーをはじめとした周囲の方々のサポートのお陰だと思います。

ーユウタ=栗原さん、コウ=日高さんにはそれぞれ環境やルーツに共通点が多いそうですが、自分とシンクロする人物を演じるのはどのような感覚でしたか?

栗原 僕もユウタもシングルマザーの家庭で、テクノが好きで、楽しいことが大好きで。ずっと楽しいことばっかりしていたいっていう考え方まで僕と近かったので、オーディションの時に驚いて、音央さんに「100%僕だと思いました」って話もしたんです。演じる上では、僕が当時23歳だったので、思春期の尖った感じやある種の幼さについてよく考えました。そのままの自分でいるのも違うなと思って。無邪気な表情の作り方や、若さゆえの感情の溢れ方を意識してましたね。

日高 僕自身が高校卒業したてでしたし、コウのように感情が揺れ動いて選択を迫られるという経験を学生時代にしてきたので、考えて演技をしようというよりも、どれだけ自分自身に近付けられるかというイメージでした。監督からも「コウじゃなくて由起刀としてどう感じる?」という言葉をよくかけていただいたので、あまり気負わずにやらせてもらって。初出演作なので、もうこれから先こういう演技はできないかもしれないけれど、それもキャスティングの狙いだったと思うし、フレッシュに演じることができて良かったです。



ー『HAPPYEND』は、多感な高校生達の価値観が揺らぐ瞬間が物語の起点となっています。お二人は、今作への出演を通して自身の価値観が揺らぐ感覚はありましたか?

栗原 脚本を読んだ時も撮影の時も僕はユウタを追っていたこともあって、映画に詰まっている社会的なメッセージにパッと気付けていなくて。でも、出来上がった作品を観た時に、自分もやっぱり考えなければいけないなと思わされました。これから観ていただく方も、何かを考えるきっかけになるのではないかと思います。

日高 僕も台本を読んですぐに内容が入ってきたわけではなかったんですけれど、音央さんがともに勉強をする機会を設けてくださって、過去のドキュメンタリー作品に触れたりして。僕自身、祖母が韓国人というルーツもあるので、もっと色々な事を知っていかなければと思いました。音央さんは、直接言葉になっていなくとも観終わった後に考えさせられるような作品を作る方ですが、今作にもそういったものを感じました。どの層にも刺さる作品だと思います。

ー劇中でのユウタとコウの関係性の変化には、率直にどのような印象を抱きましたか?

栗原 同じものを見ていた二人が異なる環境に進んですれ違いが起きるというのは、もちろん悲しい面もありますけれど、新たなことに気付かせてくれる友達というのはとても大事だと思うし。コウのお陰でユウタが何かに気付いて変化が訪れたのは凄く大きな一歩だから、僕の中ではまさに『HAPPYEND』だなと思います。

日高 映画の中の時間に限って言えば、コウにはモヤモヤや後悔が残ったかもしれないけれど、何年か経って振り返ったら、おかしいと思ったことをおかしいと訴え続けたあの時の決断は間違っていなかったと割り切れるんじゃないかなと思います。この作品を通して、友情の儚さや脆さ、尊さは言葉で表せられないものなんだなと感じましたし、同じような悩みを抱えている僕らより下の世代にも観てほしいですね。

ーお二人は、実際の友情関係の中で世界に対する目線の違いを感じてしまった時、どのように向き合いますか?

栗原 僕は新潟出身なんですけれど、地元の友達はみんな安定した職に就いていて、芸能活動を志しているのが本当に僕ぐらいだったんですよ。だから、未来の捉え方みたいなものが全然違っていました。でも元々は「楽しい」「面白い」と感じるもののセンスを共有できていたはずだから。その共通するものを大切にしながら、違うものも認め合える関係を大事にするべきだと思います。

日高 僕はずっとスポーツをやっていたり、芸能やモデルの活動を志したりする中で、これまでに周りの人に否定されるようなことはあまりなかったんです。もし否定されたとしても、それって「あなたがいないとダメなんだ」っていう、遠回しな深い愛情表現なのかもしれない。普段から尊敬し合えて、お互いの弱さを見せ合える関係であれば、そうやってぶつかり合うことも受け入れられるんじゃないかなと思います。


Photo by Kana Tarumi



青春や友情の不安定な恐ろしさが覆いかぶさってくるような音楽

ーRolling Stone Japanは音楽を軸にしたメディアですので、お二人がプライベートでどのように音楽を楽しんでいるのかもお聞きしたいです。

栗原 今作を通してDJに初めて触れさせてもらったことをきっかけに、DJプレイをしたりしています。あとは由起刀と二人で好きなジャンルのクラブイベントに遊びに行ったり。お互いにヤバいと思った曲を教え合ったりしていますね。今、一緒に住んでいるので。

ーえ、栗原さんと日高さんがですか?

栗原 はい。7月下旬ぐらいから、お互いの家の契約のタイミングも重なって。撮影期間中、1カ月半ぐらいホテルの部屋が隣で、同じ環境を過ごす中で、「一緒に住んだらおもしろいな」ということになりました。

日高 何者でもない状態からいきなり主演をやらせていただいて、ヴェネチアにも行かせていただいたり、それこそ大きな環境の変化を経験して、お互いにしか共有できない環境や感覚がすごく多くなって。それで、「住んじゃわない?」っていうノリで(笑)。

栗原 音央さんに話した時も、最初は冗談だと思ったみたいで、ビックリしていました。

日高 だから、片方が口ずさんでる曲がもう片方の耳に残っちゃう、みたいなことはよくあります。

ーなるほど。注目しているアーティストやシーンはありますか?

日高 今回共演させていただいた¥ØU$UK€ ¥UK1MAT$Uさんのイベントはよく二人で行ってます。海外の映画祭に行くときにも、タイミングが合えば『Boiler Room』に行きたいねって話してますね。お互いにハードなハウスやテクノを聴いていて、僕はFred again..をジムで聴きながらランニングマシンで走ってます。



栗原 僕は、Schwefelgelbっていうドイツの二人組ユニットがすごく好きで、4~5年前くらいから追っています。やっぱり二人とも、重たくて速い音が好きだよね。

日高 現場でも、ロケバスで待機中に二人だけになったら、勝手にBluetoothを繋げて曲を流して(笑)。

ーなんだか、そのノリもユウタとコウに重なりますね。

日高 本当に、元々仲良かった同級生達で映画を作ったような感覚でした。楽しかったよね。

栗原 楽しかった。


栗原颯人(Photo by Kana Tarumi)


日高由起刀(Photo by Kana Tarumi)

ー『HAPPYEND』劇中での音楽の扱われ方については、どう感じましたか?

栗原 もう、凄まじいですよね。どこかに、いつ壊れるかわからない恐ろしさのようなものも感じて。

日高 感情を煽られるような感じ。青春や友情の不安定な恐ろしさが覆いかぶさってくるような音楽で、絶対に劇場で味わってほしいと思いました。



ー二人が没頭するテクノから、コウを昂揚させる「くそくらえ節」まで、直接的に社会を動かすことはできずとも、人を揺さぶる音楽のパワーが物語のキーになっています。

栗原 「くそくらえ節」は凄かった。コウが一人で口ずさむのと、居酒屋でみんなが合唱しているのでは、やっぱり捉えられ方が全然違うし。

ーそういった音楽の二面性のようなものって、やっぱりクラブで感じることが多いと思うんですよ。ボーダーを越えた様々な人間が集まって楽しんでいるけれど、同時にそれぞれが孤独なままでもあるっていうか。

栗原 すごくわかります。

日高 クラブは音楽を聴きに行ってその上に感情が乗る感じですけれど、この映画は逆に、感情の上に音楽や音響が乗る感じで。今まで感じたことのないような、ゾクゾクしちゃう感覚になりましたね。切り取り方や使われ方で、音楽の印象が全然違うっていう。

栗原 逆に、無音も印象に残るよね。

日高 そうそう。ハッとさせられるようなタイミングがたくさんありました。

ー今後のキャリアで挑戦してみたい作品や役柄はありますか?

栗原 まだまだ経験が浅いので、何でもやってみたいです。自然に出会ったものに挑戦させていただいて、そこでまた新たなことを勉強していきたいですね。

日高 今回は内側に秘めてる感情をちょっとした表情の変化で表すような作品でしたけれど、もっと起伏が激しいような演技もしてみたいです。たとえば、アートに没頭して精神がおかしくなっちゃうような画家や音楽家とか。大声で叫んだり、泣きながら走ったりしてみたいんですよね。そういう、今作とは違う感情の表し方をしてみたいです。

栗原 今ふと思い付いたんですけれど、僕って孤独に触れたことがないなと思って。自分自身の人生もそうだし、ユウタもそうなんですけれど、周りにずっと友達がいて。

日高 良いことやん。

栗原 常日頃、ずっと誰かといたいっていう気持ちが強いんですよ。だからこそ、逆にそういう役をいただいたら自分の中身がどう変化するのか気になります。

ー最後の質問です。本作は「ありえるかもしれない未来」が舞台になっていますが、もしそんな世界が現実になってしまった時、お二人はユウタやコウよりも、どちらかと言えば劇中に登場する大人達に近い立場にいるかもしれません。それも踏まえて、どのような大人でありたいと思いますか。

栗原 いつも誰かが誰かを見ている、発言に気を付けないといけない時代の中で、コウのように、言わなきゃいけないことを諦めずにいないといけないと思います。たとえ誰かに批判されるとしても、伝えるべき思いを持っておける大人になりたいです。

日高 誰かの基準にされない大人になりたいです。「日高由起刀がやっているからやる」じゃなくて、日高由起刀はこういう人間で、だからこういうことをやっているということを、他人にも理解してもらえたら、俳優としても自分自身の生き方として本望かなと思います。


Photo by Kana Tarumi

<INFORMATION>


© 2024 Music Research Club LLC

『HAPPYEND』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開中

栗原颯人 日高由起刀
林裕太 シナ・ペン ARAZI 祷キララ
中島歩 矢作マサル PUSHIM 渡辺真起子/佐野史郎
監督・脚本:空 音央
撮影:ビル・キルスタイン 美術:安宅紀史
プロデューサー:アルバート・トーレン、増渕愛子、エリック・ニアリ、アレックス・ロー、アンソニー・チェン
製作・制作: ZAKKUBALAN、シネリック・クリエイティブ、Cinema Inutile
配給:ビターズ・エンド   
日本・アメリカ/2024/カラー/DCP/113分/5.1ch/1.85:1

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