reina、さらさ、Skaaiが語る、2024年のインディペンデント・アーティストの矜持
Rolling Stone Japan / 2024年10月13日 18時0分
確実に新しい何かがはじまっている――。いま、多くの人がそのような期待を感じているのではないだろうか。トレンドとして定型の枠にエディトリアルされる前の、わくわくする何か。ゆっくりと静かに形を帯びつつある、共通の価値観。reina、さらさ、Skaaiという3人は、それぞれ独自の活動スタイルのもと、ゆるやかにコミュニティを形成しながら、国内インディペンデント・シーンにおいて大きな熱量を生みはじめている。
コレクティヴ<w.a.u>に活動の基盤を置くreinaは、アルバム『You Were Wrong』(2023年)、EP『A Million More』(2024年)といった優れた作品で着実に存在感を高めてきた。さらさは、音楽のみにとどまらない多彩な才能を活かしながらじわじわとファンベースを築き、今年リリースした『Golden Child』で決定的なインパクトを残した。Skaaiはラップコミュニティに軸足を置き『WELL DIE THIS WAY』(2023年)という充実作を作りつつも、yuya saito(yonawo)、Alex Stevensとユニット・TRIPPYHOUSINGを結成し新たなスタートを切った。全くばらばらの3人だが、どこか共通点も見いだせる。自然体で、芯があって、それぞれの思想に共感するような形でリスナーが集まってきている――同時にそれが、既存の音楽シーンに一石を投じるような問題提起にもなっている。共鳴するアーティスト、共感するリスナー、さまざまな人がゆっくりと群がり、気づくと大きなうねりになっていた。まさしくそれは、2020年代のインディペンデント・シーンに根づきつつある文化と言ってよいのではないだろうか。
その3人は、10月16日(水)にSHIBUYA WWW&WWWβにてイベントのvol.2を開催する。3人は何を考え、どのようなスタンスで表現活動に向き合っているのか。リラックスした雰囲気でトークははじまった。
—皆さんは普段お互いの作品を聴いたりライブを観たりする中で、どんなことを感じているのか知りたいです。reinaさんについて、お二人どうでしょう。
Skaai:reinaは、繊細にメロディをとっているように見えて実はコブシをきかせてるイメージ。 スムーズに歌ってるようだけど意外に力強くて、そこが好き。この前初めてライブを観させてもらって、グッと引き寄せられるアーティスト性があると思った。
reina「A Million More」
—確かに、reinaさんからは強い芯を感じる。
Skaai:そう。話してても引き寄せられるよね。
さらさ:いつもナチュラルだよね。すごく自然体なのがいいなと思ってて、楽曲と人が一致してると思う。そこが全然一致しないアーティストもいて、そういうのって私はちょっと苦手というか、嘘つきって思っちゃうんだけど(笑)、reinaはそういうのがない。スッと入ってくる。
—ちなみに、w.a.uのプロデューサーのKota Matsukawaさんは「映画に例えると、さらさはフィルムにザラつきが出れば出るほど、reinaはなめらかになればなるほど歌が素敵になる」とおっしゃっていました。周りがざわついている方が良いのがさらささん、静かな方が良いのがreinaさん、とのことで。
さらさ:なるほどね、そうかも。私とreinaって、全然別物な感じがするよね。たぶん性格の違いも関係してると思う。
reina:私は日本語詞を書くのが前から苦手なんだけど、さらさの曲を聴くと、力んでないけど素敵な言い回しを歌えていて本当に羨ましいと思う。ライブでも、力んでないのに会場をドラマティックに空気感を変えられる。パフォーマーとしてすごい。緊張感を高める時もあるし温かい空気や悲しい空気を出す時もあって、本当にすごい。参考になるし、自分にはない視点をもらってる。
さらさ - f e e l d o w n [Official Music Video]
Skaai:さらさは、さらさにしか見せられない景色があるよね。自分だけの世界があって、それをどう伝えたらいいか分かってる感じ。日本語の奥ゆかしさや繊細な発声の仕方が独特。語尾も特徴的だし、日本語でこんなカッコよく歌う人がいるんだって思った。あと、音楽とジャケの世界観がマッチしてる。さらさのテンポというのがあって、こっちが狂わされてるんだけど心地いいというか。メッシのドリブルみたい。メッシのドリブルって、テンポ感が独特だから気づいたら抜かされてる。なんか歯車が違うんだよね。
さらさ:ふふ、メッシだって(笑)。
全員:(笑)
—逆に、Skaaiさんについては、お二人はいつもどんな感じで見てますか?
さらさ:Skaaiの曲を聴くと、いつも食らっちゃってDMするんだよね(笑)。こいつ本物だ、ってなって。トップラインもラップも全部すごくて、メロだけを作る人よりも良いメロを作ってくる。リリックに関しても、ハッとするし共感もする。同い年でこんな人がいるなんてすごく嬉しい。
Skaai - WE'LL DIE THIS WAY (Music Video)
Skaai:確かに、DMが来るね(笑)。
さらさ:Skaaiのことをヤバいと思ってる人はたくさんいるんだけど、わざわざそんな連絡しないじゃないですか。でもこれは伝えないと、この人にできるだけ長く音楽を続けてもらわないと、って思ってDMするんですよ。褒めないと、という衝動に駆られる。
reina:Skaaiとはこの前大阪で初めてライブが一緒になったんですよ。そこでパフォーマンスを観て思ったのは、そんなにステージで動いてるわけじゃないのになんでこんなに動いて見えるんだろうって。身体の大きさの違いではなくて……やっぱりオーラなのかな。
Skaai:俺は一番最初のライブから大きいステージでやらないといけなかったし、それも関係してると思う。reinaのライブは、皆の視点を一極集中に集めるのがうまくて、それが良い。一方で、さらさは包み込んで自分の世界に持っていく感じだよね。気づいたらさらさのペースに飲み込まれてる。『フォレスト・ガンプ』みたい。
全員:(笑)
Photo by Masato Yokoyama
Skaai(Photo by Masato Yokoyama)
三者三様の活動スタイル、音楽を「長く続ける」ために
—3人は、作風だけではなく活動スタイルも三者三様で。reinaさんはコレクティヴ<w.a.u>の仲間たちと活動していて、さらささんはorigami PRODUCTIONSのASTERI ENTERTAINMENTから音源をリリースする一方で<w.a.u>周辺ともゆるやかにつながりながら、他にアパレルブランドのバイヤーやフォトグラファーもされています。さらにSkaaiさんは、yuya saito(yonawo)さん、Alex Stevensさんと三人で共同生活をしながらユニット・TRIPPYHOUSINGを結成したばかり。それぞれが気心の知れた人たちと自由に表現活動を行なっているように見えますが、皆さんはどういった形で今の自分の活動スタイルに行き着いたんでしょう。
Skaai:俺の場合、前住んでた家の”気”が悪かった。なんか休まらないし、体調も崩すし。その時にyuyaがyonawoハウスとして住んでた家が空いて、同じタイミングでAlexが福岡から上京するっていうので、3人で住もうかという話になって。それからというもの、うちら3人とも毎日音楽の話しかしてない。だったらもう曲作ろうよっていうのでTRIPPYHOUSINGが生まれた。自分は今キャリア3年目なんだけど、これまでの2年は、最後にワンマンツアーをやることが決まっててそれに向けて曲を作っていくスタイルだった。ブランディングのことも考えて、いつまでに何をどういう形で出すといったスケジュールも細かく決めてたんだけど、それがもうしんどくて。最終的にメンタルを崩して、音楽を楽しめなくなってきた。去年、ツアーで全国をまわる中で「俺はもう自由に音楽をやるから」って宣言して。「自分は音楽を楽しみたいし、これから作る曲は皆は好きじゃないかもしれないけど」って。今、仲の良い人たちと毎日音楽の話をして、すごく楽しく曲を作ってる。ライブ動画を見ながらあいつのこの楽器のプレイがいいよねって話をして、そのまま2階のスタジオに上がって曲作るという。自分を殺してアーティスト活動していくのは辛いから、今は本当に幸せです。
4:30am but wanna party mix / TRIPPYHOUSING with mils, YOSUKE and uin
—まず3人で一緒に暮らして、その後に音楽がついてきたというのが面白いですね。w.a.uも、いきさつはそうでした。ただの音楽好きの友達同士から始まったという。
reina:まさにそう。
さらさ:人って、本来自由じゃん。でも、こうでなければいけないって思いこんじゃうし、自分にはこれしかないからって手放すことができなくなってしまう。それを、Skaaiは自分に嘘をつかずに正直にやったってことだよね。こういう自分になりたいんだっていうものを追いかけすぎて曲を作ってると、リスナーは分かっちゃうし。
—さらささんやreinaさんは、今リスナーが増え続けていることに対して、どういうスタンスで受け止めているのでしょう。
さらさ:色んな人がさらさ良いねって言ってくれることに対して、最初は実力や技術が追いついてないなって思ってた時もあった。自分でコントロールできない人生の流れってあるじゃん。曲ができない時はできないし、調子悪い時は悪いし。それって根性論ではないし、でも音楽が仕事になるとそうも言ってられないかもね、って思ってた。けど、突然今年に入ったくらいから大丈夫になった。覚悟が決まったというと大げさだけど、自分のチームが求めてるさらさ像と、自分がやりたいことが一致してるからやっていけるんだよねって。でもそれもまた、うまくいかなくなる時がくるから。その時のために曲をたくさん作っとこうとか、そういう準備はできる。それで、もうどうしようもなくなったら手放せばいいし。そもそも音楽ってやめるやめないの話じゃない気もするしね。「歌」っていうのは、もう体の中に流れてるものだから。
reina:私はまだ自分の曲数が多いわけでもないし、ちょっと詰まったら時間を置いて忘れてまた戻る、を繰り返すことで今は進んでいけてるかな。悩む時は悩むし、自分で時間をかけて解決できるようにはしてるけど、それがどうにもならない時に助けてほしいと言えるように準備はしておこうと心がけてる。チームがあるし、メンバーもいるし、バランスだけはとれるように自覚してる。何かあった時に、寄りかかったりできるように。
reina(Photo by Masato Yokoyama)
Skaai:自分たちは、音楽を通してストーリーテラーとして一つの物語を伝えてるわけじゃん? でもそれって、自分に責任を負わないと言えないことでもある。突然ブツって切れるくらいの張り詰めた状況の方が、絶対に良い作品はできると思う。だから、自分はもう切れたら切れたで終わりでいいかなと思ってる。(Kota)Matsukawaとかは「アーティストが周りのせいにできるような環境を作ってあげないといけない」って言ってるけど、それはプロデューサーならではの視点だと思うし、そういう環境を作ってもらえるのは本当にありがたいことだよね。アーティストという生き物としては、張り詰めていたい気持ちもあるから。常に極論だけを言ってたい、みたいな。だから、インディペンデントアーティストとしてはいかにそういうチームを作れるかが大事だと思う。
—そういう環境をつくることって本当に大事。チームの中での自分と周囲の相性も大きいと思うけど、例えばreinaさんはw.a.uの中にいてそのあたりはどう感じてますか?
reina:この人たち相性合うわー! と思ったことは全然ないんだけど、相性が合わないことに対する違和感を感じたことがないので、結果的に相性はいいのかもしれない(笑)。
全員:(笑)。
reina:w.a.uはちょっと独特なので。でも、手を伸ばせば届く、という距離感に皆がいる感じはする。
Skaai:自分の場合、いま3人で暮らしてるけど、やっぱりピリッとする時はあるよね。でも、その時も「ピリっとしたな」としか思わないかな。次からそこは気をつけよう、と。皆やっぱりそれぞれ違う人が一緒にいるわけだし仕方ない。
reina:w.a.uは、ピリッとしたら「今ピリッとしただろ」って言い合ってるかな。ピリつきを面白がれる感じ。それで「いや、ピリッとしてないし!」って返す、みたいな(笑)。
さらさ:私のチームはなるべく私の意見が優先されるように工夫してくれるし、私は誰かと仕事をするにあたっては「この人面白いな、一緒にやりたいな」という観点でしか考えないようにしてるので、やっぱりそれを信じてくれてる人たちが周りにいるんだなって思う。「この人と仕事がしたい」っていう気持ちでやってるからこそ、ぶつかり合ったりすることもあるけど誤差の範囲内というか。それでもちょっとしたことでもう一緒にできないなという人もいて、そういう場合は離れていくし。相性が合う合わないを見極めるのは得意なのかもしれない。
—皆さんの話を聞いていると、インディペンデントで長く音楽を続けていけるような工夫をそれぞれが自然としていて、すごくいいなと思います。
Skaai:日本の場合、メジャーレーベルの立ち位置が海外とちょっと違う風に受け取られてるのも問題だと思う。 自分にとってメジャーに行くうまみをちゃんと理解できていればいいけど、声がかかったからメジャーに行かなきゃ、みたいな風潮があるのはおかしい。そもそも、インディの上にメジャーがあるという認識が変だと思うし。上とかじゃなくて、並列の選択肢としてあるべき。あと、音楽を「長く続ける」ことと、「長く売れ続ける」ことは全然違うよね。長く売れ続けるには、ちゃんと戦略立てて計画的にやった方がいい。でも自分は半分それを諦めていて、伝えたい時に伝えられればいいかなと思う。
さらさ:でも、そういうマインドセットが結果的に音楽を長く続けられると思うよ。
Skaai:そう思う。戦略とか全然関係なく、パッションがあるからこそ自然と売れた、というケースもあるだろうし。それに、創作といかに売るかの話は別であって。歴史的にも価値があるような高い純度のものを作りつつ、それを作ったあといかに売るかの話はまた違う。創作における純度を守りつつ、それが出来た後いかに売るかは自分もめっちゃ考えるしね。
reina:自分は音楽活動の始まりが明確にあったわけではないから、終わりも全然想像がつかないな。
さらさ:それって、自由、ってことだね。
さらさ(Photo by Masato Yokoyama)
それぞれの音楽への向き合い方が分かるイベント
—3人のライブに行くと、そういった皆さんの価値観に共感するようなリスナーが集まってる感じがしてすごくいいなと思うんです。皆が自然体で、優しい空気が流れているような気がする。
さらさ:私のライブに来てくれる人って、年齢層がめっちゃ幅広いんだよね。若い子も多いし、親もいるし、親子で来ている人もいる。ダンスしている人も多いかな。誰が来ても嬉しいんだけど。
reina:私のライブは、初め上の世代が多かったんだけど最近は同世代も増えてきたかな。この前は親子もいた。自分の場合、まだお客さんの層が固まってなくて流動的な気がする。
Skaai:自分のライブも幅広いんだよね。家族5人でワンマンに来てくれたこともあった。一番下の子は10歳とかで、芋けんぴくれたりして(笑)。
さらさ:子どもはお菓子くれるよね。パインアメくれたり、コラージュで手紙を作ってくれたり。「さらさのきょく、ひをつけてがいちばんすきだよ」ってひらがなで書いてて(笑)。家宝にしてる。
Skaai:なんか、「Skaaiの好きな曲ランキング」とか書いて渡してくれる子どももいる(笑)。そういう子が聴いてくれてるって、本当に嬉しい。
—10月16日のイベントvol.2 も楽しみですね。どんなライブになると思いますか?
Skaai:オルタナティヴって、「何だこれ!?」っていう要素があるものだと思うんですよ。これからの日本の音楽として、「何だこれ!?」を求めにライブに行く人が増えればいいなと思う。今度のイベントでやるステージは、その到達点のようなものになるはず。本当に、観たことがない感じになるだろうし、今後Skaaiはそういう活動しかしないから。そういう風土を作るために音楽をやってる。だから、それを目撃しに老若男女に来て欲しいな。
reina:いつも聴いてくれてる人たちはもちろんだけど、私たちの曲を聴いたことがない人たちにも来て欲しいなって思う。それでも絶対楽しめるから。そのくらいの自信がある。
さらさ:私はいつも自分のためにしか曲は作ってないし、こんな人に来て欲しいというのは特にないんだけど、こういうイベントをキャッチして来てくれるのはやっぱり縁だと思うから、そういうことを考えてるとグッとくるよね。皆それぞれに色んなタイミングがあるし、スケジュールなんてコントロールできない部分もあるからこそ、縁があって来れた人とは楽しみたいな。
—最後に、WWWと共にイベントを主催しているw.a.uのKota Matsukawaさんからもぜひ一言。
Kota Matsukawa:今回のイベントの出演者には、ちゃんと共通点があるんですよ。去年の第1回目は自分たちみたいな下の世代が憧れてきた上の世代の人も呼んで年齢関係なくやったんだけど、今回は横のつながりを重視した。reinaもさらさもSkaaiもデビュー3年目くらいで、ほぼ同時期に最初の音源を出してる。いまの新世代がどういうステージを見せるのか、注目してほしい。あと、僕たちはジャンルに乗っからないようにしたいというのもいつも思ってます。R&Bやヒップホップというジャンル名をあえて言ってなくて、それはジャンルに対してリスペクトがあるから。その外側から、音楽の楽しさを伝えたい。色んな人が出るし、それぞれの音楽への向き合い方が分かるイベントになると思います。
Photo by Masato Yokoyama
LOCATION|3pm TOKYO (三軒茶屋)
PLACE||東京都世田谷区上馬1-17-8モリヤビル
TEL|070 8439 3615
Instagram|@3pm_tokyo_
reina
Instagram:@rei_g_na
X:@rei_g_na
さらさ
YouTube: https://www.youtube.com/@Salasa_official/videos
Instagram: @omochiningen
X: @omochiningen_
TRIPPYHOUSING (Skaai, yuya saito, Alex Stevens)
Instagram: @trippy_housing
X: @trippy_housing
EVENT INFORMATION
タイトル:WWW & w.a.u presents n.e.m vol.2
日 程 :2024年10月16日(水)
時 間 :OPEN|START 18:30
会 場 :WWW & WWWβ
前 売 :¥3,800(税込|オールスタンディング|ドリンク代別)
チケット:e+ https://eplus.jp/n.e.m_vol.2/
|WWW|
reina -w.a.u BAND Set-
TRIPPYHOUSING × -w.a.u BAND Set-
(Skaai, yuya saito, Alex Stevens)
×
さらさ -w.a.u BAND Set-
uin
|WWWβ|
Sakepnk&Friends
(Daz|MÖSHI|MK woop)
凸凹。
mami
w.a.u B2Bsupport|Lacoste Harajuku
|FOOD|
NAWOD CURRY
問 合 :WWW 03-5458-7685
公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/018341.php
※未成年入場OK
※先着順での販売となります。
※なくなり次第、販売終了となります。
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