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ザ・ビートルズが設立した「アップル・レコード」知られざる激動の歴史

Rolling Stone Japan / 2024年10月21日 17時0分

ザ・ビートルズ

『ジョン・レノン&ポール・マッカートニー ソングブック』シリーズに続く大作ドキュメンタリーとして、ザ・ビートルズが設立した音楽レーベル「アップル・レコード」。その激動の歴史を追った映像作品『ストレンジ・フルーツ~ザ・ビートルズ アップル・レコード・ヒストリー』が2024年10月5日に発売された。

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洋楽好きな音楽ファンならば、青いリンゴのレーベルマークは見たことがあるはず。アップル・レコードは、ビートルズの活動を語る上で欠かすことのできない象徴のひとつだ。とはいえ、実際にどんなレーベルだったのか、どんなアーティストが所属していたのか、そしてその行く末については、ビートルズ・マニアでない限り、あまり知らないのではないだろうか。今作は、そんなアップル・レコードの歴史を162分の長尺で描いたドキュメンタリーだ。



アップル・レコード設立のきっかけとなったのは、ビートルズのマネージャーであったブライアン・エプスタインが税金対策のためにビートルズに関する経営を多角化したこと。しかし、1967年にエプスタインが死去したことから、会社を引き継いだビートルズが1968年に設立した会社「アップル・コア」内のプロジェクトのひとつとして立ち上げたのが、アップル・レコードだ。

音楽業界に革命を起こすべく、才能のあるアーティスト発掘を目的にスタートしたアップル・レコード。「アーティストがレーベル経営に参画する」という意味でも大きな期待を集めていた初期の雰囲気は、ヒッピーの理想主義を掲げ冒険心に満ちていた。ポスターや広告を使って新たなアーティストの募集も積極的に行っており、このドキュメンタリーを観ることで、なんとなく「アップル・レコードといえばビートルズのレコードをリリースしていたレーベル」というぼんやりしたイメージが覆される人もいるだろう。ジョン・レノンは設立会見で「どんなジャンルであれ、業界のコネがなくて困っている人に、夢を実現する環境を提供したいんだ」と語っている。この当時まだ28歳という若さだが、すでに後進のためへの道を切り開こうとしているところに、いかにビートルズが若くして大成功していたかが実感できる。

特に、ポール・マッカートニーとジョージ・ハリスンはアップル・レコードの活動に熱心だったという。そのポールが発掘したのが、アップル・レコード第1号アーティストしてデビューした新人歌手のメリー・ホプキンだ。1968年にポール・マッカートニーのプロデュースによるシングル「悲しき天使」でデビューした彼女をポールに推薦したのは、なんと日本でも「ミニスカートの女王」としてブームを巻き起こしたツイッギーなんだとか。「悲しき天使」は大ヒットしたことで、アップル・レコードは順風満帆なスタートを切った。



新人アーティスト発掘は、もちろんビートルズのメンバーだけが役割を担っていたわけではない。元ロード・マネージャー、マル・エヴァンスが契約を結んだのは、4人組バンド・アイヴィーズ。のちのバッドフィンガーだ。90年代にマライア・キャリーのカバーによって大ヒットした「ウィズアウト・ユー」のオリジナルを歌ったバンドで、「第2のビートルズ」と呼ばれたバッドフィンガーこそが、ビートルズ以外でアップル・レコードの存在を広く知らしめた存在だろう。アイヴィーズ時代に在籍したロン・グリフィス、バッドフィンガーのジョーイ・モーランドが契約時のことを語るなど、当時の貴重な証言を聞くことができるほか、文句なしにカッコいいスタジオライブ映像なども収録されており、今作の主役的存在だ。そんな彼らは悲劇的なバンド人生を辿って行くのだが、そのことは後のアップル・レコードのイメージに暗い影を落としたといえる。



華やかに見える初期のアップル・レコードも、じつは少人数のスタッフで回しながら、契約とレコード売り込みのために世界中を飛び回っていたという元スタッフの証言も。そんな中で契約したアーティストの1人にジェームス・テイラーがいるが、セルフタイトルのデビューアルバムを残して去ることとなる。結果的に新たなスターを輩出してはいるものの、当時はビートルズとメリー・ホプキン以外のアーティストの売り上げは伸び悩んでいた。アーティスト発掘は本来A&Rの仕事だが、契約締結にはビートルズの4人から承認を得なくてはならず、「機嫌がいいときならすぐにゴーサインを出してくれたが、声をかけるタイミングが悪かったときは却下された」。そのため、イエスやデヴィッド・ボウイ、クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングといった大物との契約を逃すこともあったという。フリートウッド・マックに至っては、ドラマーがジョージの義弟にも関わらず契約を実現できなかったというから、ビートルズの4人がアップル・レコードについてどのように考えていたのか、思わず首をかしげてしまう証言も興味深い。

設立当時はレコードに描かれた青いリンゴのレーベルマークのごとく、青く瑞々しい感性を持ったアーティストを求めていたのであろうアップル・レコード。経営悪化、首脳陣の不仲、ビートルズの解散など、様々な問題の末に衰退へと向かう歴史は、ビートルズの華々しい成功と比較するにはあまりにもほろ苦い。”ストレンジ・フルーツ”(奇妙な果実)とはまさに言い得て妙だ。とはいえ、ジョンと活動を共にしていたエレファンツ・メモリーなど、登場するアーティストたちの音楽はどれも瑞々しく個性溢れる才能を感じさせるもの。60年代後期~70年代初期の英国音楽の一端を担ったアップル・レコードの足跡をこの機会に覗いてみては。


<リリース情報>



『ストレンジ・フルーツ~ザ・ビートルズ アップル・レコード・ヒストリー』
2024年10月5日発売
アップル第1弾作品としてリリースされ、日本でも大ヒットしたメリー・ホプキンのデビュー曲「悲しき天使」、第2のビートル ズと呼ばれたバッドフィンガー「デイ・アフター・デイ」「嵐の恋」はもちろん、悲運のアーチスト:ジャッキー・ロマックス やジョン・レノンと活動を共にしたエレファンツ・メモリーなどアーティスト/代表曲総登場! 「ジョン・レノン&ポール・マッカートニーソングブック」シリーズに続く、アップル・レコード激動の歴史を追ったビートルマニア感涙の大作ドキュメン タリー! 製作/監督は膨大なアーカイヴから映像・楽曲を厳選し、卓越した構成力でザ・ビートルズ、ザ・ローリング・ストー ンズ、ボブ・ディラン、クイーン等、正統派音楽ドキュメンタリーをリリースし続ける達人=ロブ・ジョンストーン。全ての登場曲に日本語対訳入り。

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