野田洋次郎がソロで躍動、ステージ上から見せた実像
Rolling Stone Japan / 2024年10月16日 17時0分
最後、予定されていなかったアンコールで声を詰まらせながら歌う姿も、もっと言えば彼がステージを去ったあとに会場を支配したあまりに重たく、だからこそ忘れがたい余韻も含めて、野田洋次郎という人間、音楽家の実像が浮き彫りになるライヴだった。ここ日本の音楽シーンでRADWIMPSほど大きな規模感で活動しているロックバンドのフロントマンが、コンテンポラリーなヒップホップ/ラップやビートミュージックに接近したアルバムを制作することの稀有な意義。もしくは彼の音楽表現にまつわる自由度についての新知見と光明は『WONDER BOYS AKUMU CLUB』を聴いても十二分に伝わってきた(アルバムについての詳細は筆者が本メディアに寄稿した解説テキストをご一読いただければ幸いだ)。しかしながら、やはり彼は徹底的に音源芸術にこだわり抜くアーティストであると同時に、正真正銘のライヴアーティストでもある。そして、野田洋次郎という音楽家のアイデンティティを形成している根幹にあるのは、愚直なまでにヒューマニスティックな実像である。この日のライヴは、そのことを生々しく映し出していた。
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野田洋次郎名義では初のソロアルバムとなる『WONDER BOYS AKUMU CLUB』は9月25日にリリースされ、その2日後の9月27日に東京ガーデンシアターにて一回限りのリリースイベントとなる「Yojiro Noda welcomes you to WONDER BOYS AKUMU CLUB」が開催された。またこの公演後の深夜にはSpotify O-EAST & AZUMAYAにてアフターパーティーも開催され、そこには現行のシーンで躍動するラッパー/ビートメイカー/DJたちが名を連ね、洋次郎とともに『WONDER BOYS AKUMU CLUB』のリリースを祝した。クラブの現場での刺激的な出会いや記憶が洋次郎を『WONDER BOYS AKUMU CLUB』へ向かわせる大きなモチベーションになったはずだ。だからこそ、洋次郎にとってこのアフターパーティーの開催もまた不可欠なものだった。
東京ガーデンシアター公演のゲストアクトを務めたのは、近年、RADWIMPSワークスでもコラボレーションが実現したkZm、Awich、iriである。彼、彼女たちがシームレスに登場し、それぞれが15分の持ち時間でその求心力を凝縮したライヴを展開。洋次郎へステージを繋いだ。
洋次郎のライヴは基本的に1MC1DJスタイル(DJを務めたのは洋次郎が5lackを通じて出会ったWATTER)でありながら、1曲目「SHEETA」から複数人のコンテンポラリーダンサーを迎えたパフォーマンスを披露。洋次郎が中に入るステージ中央に設置された縦型長方形の紗幕が幻想的な空間を作り出し、その画は外側に放出される前の表現欲求のうごめきを象徴するかのようでもあった。2曲目「PIPE DREAM」以降もアルバムの曲順をライヴのセットリストとして再構築することで、『WONDER BOYS AKUMU CLUB』像に新たな感触が生まれていった。
Photo by Takeshi Yao
「PEACE YES」や「STRESS ME」での、まさにラッパー然としたフロウでビートにアプローチしていく洋次郎の姿。または「PAIN KILLER」や「EVERGREEN feat. kZm[KM Remix]」で解放された、ギターを一瞬足りとも弾かないソロライヴならではの躍動。それをライヴで目撃するとあらためて実にフレッシュだった。そして、ステージ上手奥に設置された生ピアノをイントロで弾き、ソウルフルなボーカルを響かせた「HOLY DAY HOLY」の様相はかなりグッとくるものがあった。あるいはステージ下手奥に置かれた革張りのソファに座り「BITTER BLUES」の〈傷んだ胸や かじかんだ指先 そっとほどけるような 音楽を作り続けたいんだ俺は これを選んだ 選んだ〉というフレーズをメロウにラップし歌う姿もそう。つまり、音楽表現とは彼の一生にわたり絶え間なく追求できるものだと体現しているようだった。
Photo by Takeshi Yao
Photo by Takeshi Yao
モーショングラフィックを軸に時に洋次郎の撮り下ろしの実写も使用した映像演出も非常に見応えがあり、彼のパフォーマンスを立体的なものにしていた。ライヴ後半、「HYPER TOY」でステージを高く上昇させた舞台装置もすごかった。一回限りのリリースイベントでもここまでやるのが野田洋次郎であり、彼を支えるクリエイティヴチームである。
Photo by Takeshi Yao
「HYPER TOY」後のMCで、洋次郎はこのように感謝と感慨の言葉を口にした。『WONDER BOYS AKUMU CLUB』の制作は、洋次郎にとって未知のチャレンジの連続だったことは想像に難くない。彼がRADWIMPSを愛する人たちの反応を想像すればするほど、本作のリリースとこの日のライヴを迎えるまでの不安はどこかで大きくなっていたのだと思う。
「ソロデビューでもあるんだけど、今まで自分がやってきたことにも感謝で。出会ってくれてありがとうだし、ここに出会いにきてくれてありがとうございます。アルバム、どうでした? 俺はちょっと破天荒なことというか、誰も想像しないことをいちいちやりたがる人で。今回もそのなかのひとつだったから。でも、いつでも音楽のモチベーションや心に対してはまっすぐにいたいから。聴いてくれるあなたたちでさえも置き去りにしてしまう瞬間があって。俺と音楽だけの関係で、『俺はこれをやりたいんだ』って突っ走ってしまって。だけど、いざこうやってアルバムを出すとなったら、やっぱり自分が作ったものを聴いてほしいし、あわよくば愛してほしい。それは自分の子どもでもあるから。まだまだ音楽の旅を続けられると、今日ここに立って思いました。ありがとう、あなたのおかげです」
Photo by Takeshi Yao
ラストは、唯一アルバムの収録順と同位置に置かれた「LAST LOVE LETTER」。ステージが再び上昇し、洋次郎はどこまでも実直にこの曲を歌った。
本当に、アンコールの予定はなかったのだ。しかし、この日届いたさユりの訃報を受けて、洋次郎はどうしても2016年に彼女に楽器提供した「フラレガイガール」を歌わずにはいられなかった。洋次郎はこみ上げてくるものを止めようとせず、彼女に対する哀悼の意だけを乗せてピアノを弾き、歌った。誤解を恐れずに言えば、この時の彼にオーディエンスは不在だっただろうし、それでいいと思う。逆説的に言えば、我々オーディエンスにとっては、ただただ野田洋次郎の実像だけがそこにあった。
そして、野田洋次郎の音楽の旅は続いていく。
Photo by Takeshi Yao
Yojiro Noda welcomes you to WONDER BOY'S AKUMU CLUB
野田洋次郎 SET LIST
01. SHEETA
02. PIPE DREAM
03. PAIN KILLER
04. PEACE YES
05. HOLY DAY HOLY
06. KATATOKI
07. EVERGREEN feat.kZm[KM Remix]
08. STRESS ME
09. BITTER BLUES
10. WALTZ OF KARMA
11. HAZY SIGH
12. HYPER TOY
13. LAST LOVE LETTER
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