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「ロック完全復活」の今、ジャック・ホワイトが王道のガレージサウンドを鳴らす意味

Rolling Stone Japan / 2024年10月23日 18時30分

Photo by David James Swanson

ジャック・ホワイト(Jack White)の最新アルバム『No Name』日本盤CDが本日10月23日にリリース。YouTubeチャンネル「てけしゅん音楽情報」でお馴染みの照沼健太に、本作のポイントを解説してもらった。

「ソロ最高傑作!」「ザ・ホワイト・ストライプス『Elephant』以来のロックレコード!」。ジャック・ホワイトの2024年最新アルバム『No Name』に集まる海外メディアのレビューは、そのほとんどが絶賛に近いものばかりだ。

当初はジャック・ホワイトが経営するレコード店「サード・マン・レコーズ」のデトロイト、ナッシュビル、ロンドン各店において、顧客が購入した商品の袋の中に密かにアルバムを入れて配布されたという本作。そのサウンドは、紛れもなき「ガレージロック」だ。プレスリリースに記載された「DIYのルーツに忠実に、このアルバムは2023年から2024年にかけてサード・マン・スタジオでジャック・ホワイト自身がレコーディング、プロデュース、ミキシングを行い、ヴァイナルはサード・マン・プレッシングでプレスされ、サード・マン・レコーズでリリースされた」という文章の通り、ザ・ホワイト・ストライプスとザ・ラカンターズという、ジャックがこれまで組んできたバンドを融合させたかのようなサウンドで、正真正銘の「原点回帰」と言えるだろう。

まさしくガレージで演奏されているような音像で鳴らされるサウンドを基調に、オープニングトラック「Old Scratch Blues」からキャッチーなギターリフが繰り出され、T.レックス『Electric Warrior(電気の武者)』を思わせるドラムとリフのタイトなコンビネーションが聴き手を踊らせる。「Bless Yourself」のファットなドラムサウンドにはザ・ホワイト・ストライプスを思い出さずにいられないし、「Missionary」は1965年のザ・フーかのようじゃないか。




2022年にリリースした2枚のアルバム、実験的な要素を多分に含んだ『Fear of the Dawn』、内省的なフォークロック『Entering Heaven Alive』を経ての、あまりにもストレートなロックサウンド回帰には正直面食らった、しかし、2022年と2024年では音楽シーンのムードが変わり、ロックバンドのサウンドがさらに求められるようになっている。そのことを考えてみれば、この変化は必然なのかもしれない。

2010年代はEDMやトラップの流行によってバンド音楽が下火となっていた一方、近年は南米圏のロックフェス隆盛とともにロックバンドが若い世代に聴かれるようになってきていたし、2023年の英グラストンベリーフェスティバルではアークティック・モンキーズ、ガンズ・アンド・ローゼズ、エルトン・ジョンがヘッドライナーを務め、エルトン・ジョンのパフォーマンスは同フェスにおける史上最大の観客動員を記録するなど「ロックの復活」は徐々に囁かれるようになっていた。


アークティック・モンキーズ、ザ・ホワイト・ストライプスの「The Union Forever」をカバー(2018年)

その流れはフェスやオーディエンスだけでなく、ミュージシャンたちの動きにも見られた。ハリー・スタイルズのようなポップスターや、オリヴィア・ロドリゴといった若い世代のミュージシャンもロックサウンドを取り入れ成功し、さらに2023年にはアメリカで(ジャック・ホワイトのルーツ音楽の一つでもある)カントリーのリバイバルが決定的に。そして、この2024年にはビヨンセがカントリーやロックンロールを取り入れたアルバム『Cowboy Carter』をリリースし、ジャック・ホワイトへ「あなたが本作に多大なインスピレーションを与えてくれた」という旨の手紙を贈ったことが話題となった。さらに今年、イギリスやアイルランド、オーストラリアからはより多くのギターロックバンドがその頭角を表し始め、パリ五輪の閉会式ではフェニックスやレッド・ホット・チリ・ペッパーズといったバンドがパフォーマンスを披露したのも記憶に新しい。ちなみにオリヴィア・ロドリゴもジャックが彼女のアイドルであることを公言し、ビリー・アイリッシュもその影響を明かしている。

つまり、今回のジャック・ホワイトのガレージロック回帰はシーンの需要的にも、ジャックからの影響を受けた女性ミュージシャンらからの反響も含め、極めて自然な流れと言えるのだ。


ジャック・ホワイトとオリヴィア・ロドリゴ。ジャックの公式Instagramより引用

二周目のロックンロール・リバイバルはどこに向かう?

そして何より、ジャック・ホワイトは生粋の「リバイバリスト」でもある。

そもそもザ・ホワイト・ストライプスがブレイクしたのも、2001年にザ・ストロークスをきっかけに始まった「ロックンロール・リバイバル」というムーブメントに図らずも乗ったからだった。そもそもザ・ホワイト・ストライプスは90年代の時点で”時代錯誤”なガレージブルーズをアンダーグラウンドで鳴らし来日公演も行っていたのだが、そのレトロモダンな手法やリバイバル気質が、ザ・ストロークスに続くバンドを求めていた英メディアのアンテナにキャッチされたのだ。そして、その生々しいガレージロックサウンドと2ピースという特異な編成によるスカスカのサウンドは、当時あまりにも画一的になっていたヘヴィーロックや、商業主義に陥っていたヒップホップへのアンチテーゼとして機能した。

かつてロックのリバイバルといえば、ハードロックやプログレ、ヘアメタルなど、ロック内の派生ジャンルへのアンチテーゼとしての動きだったものだが、現代のロックンロールリバイバルは、他ジャンルへの反動やオルタナティブとしての要素も孕むようになった。その傾向は2001年当時よりも、この2024年の動きの方が顕著だ。クオンタイズされた打ち込みのビートや、生ドラムセットやベースギターでは鳴らすことのできない低音が当たり前となった今、逆にロックバンドのスカスカでダイナミックなサウンドが新鮮に聴こえるのだろう。



さらに本作の最初のリリース方法を思い出してみよう。デジタル配信が当たり前のものとなり、毎週金曜の新作リリースを受け身で待つ現代において、レコード店に自発的に訪れたリスナーに対して匿名のアナログレコードをプレゼントすることでリリースした本作は、音楽ジャンルのみならずそのカルチャー全体へのアンチ、オルタナティブ、リバイバルとも言えるのではないだろうか。


サード・マン・レコーズの公式Instagramより引用


Photo by David James Swanson

その上で注目したいのは、この『No Name』はこれまでのジャック・ホワイト作品のどれとも違うということだ。確かにザ・ホワイト・ストライプス的な要素はあちこちに見て取ることはできるが、当時のザ・ホワイト・ストライプスとは確実に違う。そもそも「1963年以降の機材は使っていない」というステートメント(後のジャック・ホワイトの発言によるとどうもブラフっぽい)とともにリリースされた、ザ・ホワイト・ストライプス2003年作『Elephant』は、到底60年代には存在するはずもない2003年的なレコードだった。そうだ。リバイバルとは、ただの懐古でも回帰でもない。地球を含む太陽系は一定の位置にいるのではなく、太陽系全体で宇宙を高速で移動していることをイメージしてほしい。それと同じように、あらゆるムーブメントは一周してまた戻ってきているように見えるかもしれない。しかし、実は以前とは違う場所にたどり着いているものなのだ。

正直なところ、ザ・ホワイト・ストライプスを連想するからこそ「メグ・ホワイトのあのドラムが恋しい」と思う瞬間は、何度もある。しかし、彼女の不在がこのレコードに言いようのない焦燥感を与え、駆動させている気がしてならない。


ジャック・ホワイトが2024年に鳴らす「Seven Nation Army」



ジャック・ホワイト
『No Name』
2024年10月23日 日本盤CDリリース
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/JackWhite_nnRS

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