【シカゴ音楽旅行記Vol.2】パンク愛から生まれた「遊園地みたいな」DIY音楽フェス・Riot Fest
Rolling Stone Japan / 2024年10月25日 18時2分
世界有数の音楽都市、シカゴの知られざる魅力に迫る観光レポート連載【シカゴ音楽旅行記】(全4回)。第2回のテーマは音楽フェスティバル。世界的な人気フェスが目白押しのなか、ユーモアとDIY精神を持ち合わせたパンクロック・フェスに参加。そこには音楽のテーマパークが広がっていた。
「音楽都市」シカゴの多彩なフェス文化
シカゴは音楽フェスも盛んだ。コーチェラ、ボナルーと並んで「アメリカ3大野外フェス」と呼ばれるロラパルーザは2024年、チャペル・ローンが同フェス史上最大の観客を集め、YOASOBIや花冷え。が出演したことでも話題となった。会場のグラント・パークは摩天楼がひしめき合うシカゴの中心部ループエリアにある。文字どおり街のど真ん中に数十万人を動員する、都市型フェスの世界最高峰だ。
Chappell Roans set at Lollapalooza is believed to have been the biggest set in the festivals history, sources tell CNN. pic.twitter.com/Uau6LidPbI — Pop Base (@PopBase) August 6, 2024 チャペル・ローン、2024年のロラパルーザ出演時の光景
グラント・パークの一角を占めるミレニアム・パークは観光名所のひとつ。クラウド・ゲートや噴水アトラクション「クラウン・ファウンテン」などの名物スポットでも知られ、建築家フランク・ゲーリーが手がけた野外コンサート会場「ジェイ・プリツカー・パビリオン」では、クラシック音楽のGrant Park Music Festival、シカゴ・ブルース・フェスティバル、シカゴ・ジャズ・フェスティバルが入場無料で(!)毎年開催される。
クラウン・ファウンテン。シカゴ市民1000人の顔がLEDライトにより映し出され、口の部分から水が噴き出す。ミレニアム・パークの公園整備費(約2億2千万ドル)はすべて個人や企業からの寄付によって賄い、納税者に負担をかけることなく建設された(Photo by Shiho Sasaki)
ジェイ・プリツカー・パビリオン。劇場内だけで4000人、後方の芝生席を含めると計11000人を収容可能(Photo by Shiho Sasaki)
ミレニアム・パークは2024年7月でオープン20周年。ジェイ・プリツカー・パビリオンで開催された記念コンサートでは、シカゴ出身のコモンと、Grant Park Music Festivalでお馴染みのグラント・パーク管弦楽団が共演。ジェニファー・ハドソンのサプライズ出演も話題となった
筆者も長年愛読している音楽メディア、ピッチフォークが主催するPitchfork Music Festivalは、NBAシカゴ・ブルズ/NHLシカゴ・ブラックホークスの本拠地ユナイテッド・センター(ライブ会場としてもビリー・アイリッシュ、SZAらが使用)の近くにあるUnion Parkが会場。コアな音楽ファンも唸らせる最先端のアーティストやインディーシーンの良心が揃うブッキングは垂涎の的だ。
2024年のPitchfork Music Festivalに出演したジェシー・ウェアのステージ
「Riot Fest」はパンクの一大テーマパーク
そのなかで今回はRiot Festに参加することに。遡ること2005年、「シカゴで大好きなパンクロックのイベントを開催する」というシンプルな動機からスタート。回を重ねるごとに規模感を拡大し、現在では全米最大級のインディーフェスとなった。
オルタナ、メタル、ヒップホップなど「パンク」を拡大解釈したラインナップも魅力的で、2024年は地元の英雄フォール・アウト・ボーイ、同じ時代を生きた戦友のベック&ペイヴメント、2019年の解散後初ライブとなるスレイヤーがヘッドライナーを務め、解散直前だったNOFXが彼らの名を冠したステージ「NOFX World」に3日間とも登場。公式発表によると1日あたり5万人のオーディエンスが訪れた。
2024年のラインナップ(公式サイトより引用)
Riot Fest第1回(2005年)の映像。デッド・ケネディーズ、ミスフィッツなどが出演、当時の会場はCongress Theater(現在修復中)
フェス2日目、9月21日の土曜日正午すぎ。ループエリアから車で15分ほど離れた会場のDouglass Park付近は、バンドTシャツに身を包んだ人で溢れかえっていた。モヒカンやパンクファッションのガチ勢も多かったが、ナードな音楽ファンやシニア/ファミリー層もいたり客層は幅広い。最高気温は30度近く、夏フェス並みの暑さだ。
Riot Festに到着。「Rise」と「Radical」はサブステージに該当(Photo by Shiho Sasaki)
会場ゲート〜ステージまでの道中で見かけたエモいペイント(Photo by Shiho Sasaki)
Riot Festは一大テーマパークでもある。観覧車などの乗り物やアーケードゲーム、スケートボードのハーフパイプ、レスリングのリングコート(米プロレス連盟NWAとのコラボ)、歴史資料館、サーカス、ウェディングチャペル(約40組のカップルが挙式を挙げたらしい)、我々世代には懐かしいドラマ『フルハウス』のジェシー役、ジョン・ステイモスのバター像(劇中に登場するバンド、ジェシー&ザ・リッパーズの再結成&出演を祈願したもの)まで、遊び心に富んだアトラクションがてんこ盛りだ。
上述したテーマパーク要素とフェスのハイライトを1分40秒で網羅、Riot Festアフタームービー
移動遊園地を思わせる光景、筆者もこのあと観覧車にライドオン(Photo by Shiho Sasaki)
デロリアンの奥に見えるのがジョン・ステイモスのバター像とパンクの歴史資料館(筆者撮影)
スケートボードのハーフパイプ。「Riot Pop!!」はフェス独自ブランドの炭酸飲料(Photo by Shiho Sasaki)
プロレスリングでブレイクダンス(Photo by Shiho Sasaki)
5つのステージで繰り広げられた名演
ステージは全部で5つ。メインの「Cabaret Metro」と「AAA」、その手前にあるサブの「Rise」と「Radical」はそれぞれ隣接しており、片方が終わると転換時間ゼロでもう一方が始まるという斬新な仕組み。5分も歩けばメイン〜サブを行き来できるし、この配置でステージの音が被らないのも目からウロコだ。
シカゴ出身アクトを積極的に起用するなど地域密着型のフェスでもあり、最大ステージ「Cabaret Metro」はライブハウスMetroに由来(本連載Vol.1参照)。「NOFX World」では偉大なバンドの功績を称え、Riot Festの初心に立ち返るように新旧のパンクバンドが集結し、この日はNOFXの先輩にあたるディセンデンツも出演した。
観覧車から会場を見渡した景色。奥にあるステージがメインの「Cabaret Metro」と「AAA」、手前がサブの「Rise」と「Radical」。「NOFX World」はメインの左側にある(Photo by Shiho Sasaki)
「NOFX World」はまさにパンク天国(Photo by Shiho Sasaki)
個人的に楽しみで、Tシャツまで着ていったのはバズコックス。ピート・シェリーは2018年に亡くなり、歌うのはギターのスティーヴ・ディグルだが、バンドの演奏は今も瑞々しく、大名曲「Ever Fallen in Love」では弾けるように盛り上がった。実験的ハードコア集団のThe Armed、カントリー調の最新アルバム『Tigers Blood』で飛躍したWaxahatcheeなど、来日未経験の今観ておきたいアーティストを堪能できたのも嬉しい。
2008年のフジロック以来に目撃したスプーンは、音の隙間でドライブさせる極上のロックンロールバンドだと改めて実感。新年早々にrockin'on sonicで来日するセイント・ヴィンセントは、シアトリカルなパフォーマンスに磨きがかかり、デヴィッド・ボウイとデイヴィッド・バーンの遺産を継承しようという野心を感じた。そしてベックは、「Devils Haircut」のギターリフから始まり、バンド編成でヒット曲を連発する鉄板のステージング。演奏や映像演出もしっかりアップデートされており圧巻の一言だった。
バズコックスは最大ステージ「Cabaret Metro」に登場(Photo by Shiho Sasaki)
最初はまばらだった観客も、夕方のスプーン登場あたりで一気に増えた(Photo by Shiho Sasaki)
ヘッドライナーのベック。撮影担当の妻は、VJのジャック・タチ『ぼくの伯父さん』オマージュに大興奮(Photo by Shiho Sasaki)
パンクカルチャーに根ざした「近所のお祭り」
会場のそこかしこにパンクを感じるペイントが展示され、写真やイラストも販売。フリーマーケットでは衣服やアクセサリーのほか、パンク関連の書籍やグッズを集めたブースもあった。NOFXのファット・マイクが設立し、90年代のメロコアブームを牽引したFat Wreck Chordsが出店していたのも印象深い。
理解ある企業の協賛も募りつつ、パンクのDIY精神とコミュニティの繋がりを大切にしており、これだけのスケールなのに「近所のお祭り」みたいな手作り感と親しみやすさがある。パンク好きにはたまらないし、ポップな要素が満載なので誰でも気軽に楽しめるはず。理想的なフェスのあり方を垣間見た気がした。
ペイント、本、レコード、マグネット。様々な表現にパンクが宿る(Photo by Shiho Sasaki)
一日のフィナーレを彩る夜の観覧車(Photo by Shiho Sasaki)
※【シカゴ音楽旅行記】は全4記事の連載。続きは以下をクリック。
Vol.1:歴史と文化を受け継ぐライブハウス、夜を彩るブルースとジャズの老舗
Vol.2:パンク愛から生まれた「遊園地みたいな」音楽フェス・Riot Fest(※本ページ)
Vol.3:ストーンズも憧れたブルースの聖地、チェス・レコード訪問記
Vol.4:必ず行きたいグルメと観光、音楽ファンを魅了するおすすめホテル
※取材協力:ブランドUSA、シカゴ観光局
Photo by Shiho Sasaki
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