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「もしも自分がボウイやブリトニーだったら?」ホールジーが歴代スターを演じる衝撃の理由

Rolling Stone Japan / 2024年10月25日 17時45分

デヴィット・ボウイ(左)、ブリトニー・スピアーズ(右)を演じるホールジー(中央)※画像はX(@halsey)より引用

ホールジー(Halsey)が通算5作目の最新アルバム『The Great Impersonator』をリリースした。2022年にはフジロックのヘッドライナーを務めて話題に。「もしも自分が70年代、あるいは80年代や90年代のアーティストだったら……」という作品のテーマ、その背景にある悲劇とユーモアについて、ライターの辰巳JUNKに解説してもらった。




デヴィット・ボウイからブリトニー・スピアーズ、エヴァネッセンスまで……本物そっくりなホールジーの仮装がバズりつづけている。じつはこれ、このたびリリースされた5thアルバム『The Great Impersonator(偉大なるものまね芸人)』の予告。1970年代から2010年代にかけての歴代音楽スターを真似る楽曲それぞれの元ネタ開示として、SNSでコスプレを投稿していたのだ。

Day 11 of counting down to The Great Impersonator, October 25th

THE GREAT IMPERSONATOR #11: its Britney, bitch!!!!

TRACK 16: LUCKY

The first superstar who ever inspired me. There were infinite Britney looks to choose from but I had to do this iconic album! pic.twitter.com/PZ5qYJiSNt — h (@halsey) October 17, 2024

X(@ROBCRAVEE)より引用

人々を楽しませた『The Great Impersonator』だが、エキセントリックな音楽史として機能しながら、キャリア史上もっとも重い大作とも言える。まだ30歳ながら難病を患ったホールジーが、字義どおり「人生最後」かもしれない一枚として制作したコンセプトアルバムなのだ。

日本ではBTSとのコラボ「Boy With Luv」で有名なホールジーだが、ロックのルーツを持つアーティストでもある。たとえば、2020年作「3am」を聴けば、開幕早々にUKバンド、オアシスの影響を感じとれるだろう。1994年アメリカ生まれとしてパンク界隈に属したこともあるそうだが、性差別を経験したため、ポップジャンルに移行したという。

今作でエヴァネッセンスに捧げられた「Lonely is the Muse(孤独こそミューズ)」は、ホールジーの才能を象徴している。ポップとオルタナティブを混ぜあわせながら、演劇的かつ赤裸々に孤独や怒りを歌い、世代を代表するスターになったのだ。同曲で主張されているように、2015年にデビューして以降の人気はすさまじいものだった。全米100万枚ヒットのひとつ「Without Me」は、2010年代にもっともヒットしたアメリカ出身女性のソロ曲でもある。



2020年代に入ると、芸術面の高みに達した。ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナー&アッティカス・ロスと制作した4thアルバム『If I Can't Have Love, I Want Power』は、ポップスターにしてグラミー賞のオルタナティブ部門候補となる評価を授かった重要作である。同時期、息子にも恵まれたホールジーは、すべてを手に入れたかのように見えた。実際、悲劇について書いてきたアーティストであるのに、あまりに幸福になったため音楽のアイデアも浮かばなくなっていたという。

そんなホールジーの人生は、30代を前に一転してしまった。ジョニ・ミッチェル意識の先行シングル「The End」によって明かされたように、白血病を引き起こす難病、全身性エリテマトーデスと診断されたのだ。治療、そして生存のため、ポップスターとしての仕事をやめるよう勧められたという。パートナーとの破局も重なっていった当時の境遇を「呪い」と表現する本人は、このように回想している。「幸せになって書くことがなくなったところで、宇宙が『これはどう?』と言ってきたみたいだった」。



あまりの悲劇に見舞われたホールジーは、闘病のなか、運命について思考をめぐらせていった。自分は何度生まれ変わっても、ポップスターになって、病気になってしまうのか? たとえば1970年代でも、80年代の世界線でも?……ここから生まれた大作こそ『The Great Impersonator』。各世代のスターを参照しながら、さまざまな時代に生まれた場合のポップスター「ホールジー」を想像していく、コンセプチュアルかつ私的なアルバムだ。

どの時代で、誰を演じても見舞われる悲劇

 「こんな風に毎日殺されるべきなんかじゃないもの
 こんな運命にまみれてしまうなんて 私が何をしたのかわからない」
 (「Only Living Girl In LA」)

『The Great Impersonator』は、音楽通であるほど楽しめるアルバムであろう。「Darwinism」のデヴィッド・ボウイ要素など、元ネタを知っているほど発見ができる仕掛けになっている。同時に、この大作には転生ループものSFの趣がある。主人公は、どの時代で人気者になっても悲劇に見舞われていくかのようなのだ。

色濃いのは、病と死の香り。フリートウッド・マックを下敷きにした「Panick Attack」では、ドリーミィな音色の上で、恋心なのかパニック発作なのかが曖昧な感情が歌われる。80年代ドリー・パートン調の「Hometown」にしても、牧歌的カントリーでありながら、自殺によって永遠の若さを手に入れてしまったティーンの物語だ。ケイト・ブッシュ調の「I Never Loved You」はひときわおそろしい。手術台の上で生死をさまよう主人公が破局間近だった恋人の来院を待つ物語だが、その恋人こそ主人公を殺そうとした犯人である疑惑がつきまとっていく。

 「エゴを消す努力をしなくちゃね さもないと エゴに殺されそう」(「Ego」)

スターダムをテーマにした『The Great Impersonator』では、ホールジーのスターとしての葛藤が渦巻いていく。というのも、キャリアを重ねるにつれ、10代のころ創りあげたポップスター人格「ホールジー」が自分自身と隔離していき、ものまねをしている感覚に襲われることもあったのだという。この問題を90年代風に炸裂させているのが、クランベリーズのドロレス・オリオーダンに捧げられた「Ego」だ。

ミュージックビデオでオマージュされているのは、90年代のカルト映画『ナチュラル・ボーン・キラーズ』や『ファイト・クラブ』。これらを合体させることで、スターとしての自己像と元々の人格が殺し合いを繰り広げるアイデンティティクライシスが展開されている。



 「死んだらお金を使う時間はない それでも私を愛し続けてほしい
 だって私はすごく幸運 スターだし でも泣いて泣いて泣いて 寂しい心で思ってる
 「何一つ欠けていない人生なら どうして夜 こんなに涙が出るの?」(「Lucky」)

とくに衝撃的なのは、Y2K、つまり1990年代末から2000年代初期をなぞる「Lucky」だろう。ここでサンプリングされているのは、モニカ「Angel of Mine」、そしてブリトニー・スピアーズ「Lucky」。ブリトニーは、華やかな同時代を象徴するスーパースターでありながら、メディアや家族からのひどい扱いに苦しむ過酷な人生を送ってきたことで知られている。

ブリトニーから承諾を得たホールジー版「Lucky」では、スターの隠された悲しみが歌われていく。SNS発の赤裸々なカリスマとして有名になった身として「インターネットの人たち」に気に入られるため全力を尽くしてきた旨を明かし、難病を隠しながらファンに元気だと報告していたことは「キャリア史上一番の嘘」だったと吐露する。



ジア・コッポラが監督したミュージックビデオは、楽曲の世界観をより深めている。登場する少女がかつてのホールジーであるとしたら、有名になっても昔と同じようにつらい目に遭っているのに、かつての純粋さを失い作り笑いをするしかなくなる悲しい結末とも読みとれる。一方、少女の存在をホールジーが抱える悲しみに気づかず憧れているファンの象徴とすることもできるだろう。もしかしたら、両方なのかもしれない。ビョークにインスパイアされた表題曲であり閉幕曲「The Great Impersonator」のテーマは二面性だと語られている。自分のために命を懸けるファンを多く抱えていたのに命を落としてしまうスターの皮肉、そして、その死後ファンたちが「何も知らなかった」と気づく結末だ。

 「ああ 物語は語り手と共に消えていく? ああ どうせそのうち忘れられてしまうけど」(「The Great Impersonator」)

ただし、多様な解釈の余地を残すのが、ホールジー作品の魅力だ。紹介できなかった楽曲群で参照されるスターにしても、考察しがいのある布陣になっている。「Dog Years」PJハーヴェイ、「Letter To God (1974)」シェール、「I Believe In Magic」リンダ・ロンシュタット、「Letter To God (1983)」ブルース・スプリングスティーン、「Arsonist」フィオナ・アップル、「Life of the Spider」トーリ・エイモス、「Letter To God (1998)」アリーヤ。

まだまだ謎が残されている『The Great Impersonator』だが、ひとつはっきりしているのは「Hurt Feelings」にてトリビュートされる2010年代のスター、ホールジーその人が、いつの世に生まれようと人々を魅了するミュージシャンになっていたことだ。


Day 12 of counting down to #TheGreatImpersonator, October 25th

The new album takes place across decades, so I feel its only right to honor the album I wrote a decade ago.

THE GREAT IMPERSONATOR #12: Badlands Halsey, circa 2015

TRACK 15: HURT FEELINGS pic.twitter.com/314kG4ANFu — h (@halsey) October 18, 2024 「Hurt Feelings」のインスパイア源は2015年のアルバム『BADLANDS』期の ホールジー本人



ホールジー
『The Great Impersonator』
2024年10月25日リリース
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/TheGreatImpersonatorRS

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