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WWEの元構成作家が語るビンス・マクマホン、言葉の暴力や性差別「生きるか死ぬか」の日常

Rolling Stone Japan / 2024年11月7日 7時35分

2009年、『RAW』ラスベガス公演にて 当時会長を務めていたビンス・マクマホン氏

世界最大のプロレス団体・WWEの構成作家だったマイケル・レオナルディ氏は2016年に解雇された。その際、人事部の人間と当時の作家チーフから「君はこの仕事に向いていない」と言われたそうだ――10カ月の在職中に昇進と昇給を経験し、仕事ぶりの評価も高かったにもかかわらずだ。だが解雇前の1週間内に、当時のビンス・マクマホンCEOから雷を落とされていた。レオナルディ氏や他のレスラーは台本が人種への配慮を欠いていると考え、本番直前にマイナーチェンジしたのが原因だった。ビンス・マクマホンCEO時代のいじめ体質と性差別の内情を、WWEの長寿番組『SMACKDOWN』『RAW』の元構成作家陣が語る。

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「マクマホン氏は私に向かって、『つまりお前は私の望み通りにしなかったんだな?』と言いました」とレオナルディ氏はローリングストーン誌に語った。「私は、『わかってます、申し訳ありません。みんなでチェックして、大丈夫だと思ったので、少しだけ手を加えました』と言いました。すると彼は怒鳴り始めました。ものすごい剣幕でした。私はすごすご部屋を出ていきました」。

レオナルディ氏をはじめ、かつてWWEの構成作家を務めていた6人がローリングストーン誌の取材に応じ、本人たちが言うところの悪意に満ちたライタールームの環境を暴露した。そうした環境はマクマホン氏を筆頭に、管理職クラスの社員にまで蔓延していたという。2016年から2022年にかけて、WWEの長寿番組『RAW』『SMACKDOWN』を担当していた人々で、勤続期間は4カ月から5年とまちまちだ。大多数はWWEや元同僚、狂信的なレスリング・ファンから報復を受けることを恐れ、匿名での取材を希望した。

「WWEは恐怖統治国だ」と元作家の1人はローリングストーン誌に語った。「どこでもそうだが、人々を駆り立てるのが恐怖だ」。

本記事の掲載にあたってWWEの代理人に度々コメント取材を申請したが、返答はなかった。マクマホン氏の広報担当者はローリングストーン誌に宛てた声明の中で、「大勢の構成作家が、WWEのライタールームの環境はとても楽しく、クリエイティヴで、自由にさせてもらっていたと言っています。今回ごく一部の(あきらかに不満を抱えた)個人は、統一見解や真実を一切反映していません」。

WWE(旧名WWF)の職場文化については、数十年前から不適切行為に関する疑惑がはびこっていた。さかのぼること80年代後半~90年代初頭にはレスラーの間で麻薬やステロイドの使用が横行していると囁かれ、男女問わず組織内部からセクハラや暴行を訴える声が上がっていた(これらの件についてマクマホン氏およびWWEにコメントを求めたが、返答はなかった)。Netflixの新作ドキュメンタリー『Mr. McMahon』にも描かれているように、マクマホン氏はその間ずっと騒動を糧に栄華を極め、組織も大きく成長していった。

だが近年、WWEとマクマホン氏個人に対する非難が沸点に達している。同氏は2022年、ウォールストリートジャーナル紙の記事をきっかけにWWEのCEO職を辞任。記事によると、同氏は4人の女性に口止め料として1200万ドル以上を支払い、社員との性的不適切行為や不倫について口外を禁じたという。そして今年1月、WWEの元社員ジャネル・グラントさんが性的暴行および性的人身売買でマクマホン氏を訴えた。雇用と引き換えに、同氏とWWE職員と3人で性行為するよう圧力をかけられたという。訴訟が起こされた翌日、マクマホン氏はWWEとUFCの合併後に設立されたTKOグループ・ホールディングスの最高会長職を辞任した(当時マクマホン氏は声明を出し、グラントさんの訴訟は「根拠がなく」「嘘八百だ」として疑惑を否定した)。現在はグラントさんの訴訟に関連し、連邦当局から捜査を受けている。

マクマホン氏は1982年、父親からWWE(当時はWWF)を譲り受けた。90年代半ばごろから極悪キャラのイメージを作り上げ、しばしばWWEの公演に姿を見せては数多くのレスラーに威張り散らし、自らリング上で戦いすらした。2002年には本人が言うところの「泣く子も黙る猛者」の時代を築き上げた。だがローリングストーン誌が取材した構成作家によると、マクマホン氏の威圧的な言動は番組の中だけに留まらなかった。周囲の人間をなじり、けなすことで、同氏は恐怖文化を組織内に浸透させたという。

「恐怖がしっかり根付いていました。大元はビンスでした」とレオナルディ氏は言う。「当然ながら、彼が築き上げた文化は数多くの問題を生みました」。

6人の元WWE構成作家は言葉の暴力をしょっちゅう目撃していたか、あるいは自分が犠牲者だったとローリングストーン誌に語った。そうした悪意むき出しの環境はライタールームだけでなく、コネチカット州スタンフォードの本社であれ、巡業先の収録現場であれ、社内全域に浸透していたという。元作家いわく、社員は2つの陣営に分類されていたようだ。かたやWWEに全身全霊を傾け、マクマホン氏の会社でしか働いたことがない一団と、他のエンターテインメント企業で経験を積んで入社してきた新参者だ。後者はすぐに、WWEが前職の職場とは似ても似つかないことに気づいた。

「ライタールームではいつもみんな怒鳴られていました」とある元作家は言う。「恥をかかせたり意地悪なことを言っては、冗談だと流していました。でも冗談にしては質が悪い」。さらに「ライタールームで標的にされても、誰もかばってくれません。そんなことをすれば自分も狙われることになる。キツネは仲間を助けるために巣穴から頭を出したりしません。誰も標的にはなりたくないですから」。

レオナルディ氏は2001年、最初はサブプロデューサーとしてWWEに入社したが、2005年に辞職した。無神経な台本で番組を制作する気にはなれない、と上司に告げたところ、降格され、職務を剥奪されたためだ。2005年7月7日、ロンドンではイスラム系テロリストが通勤時間帯に市内を走る3本の地下鉄と1台のバスを爆破させるという事件が発生した。その数日前にWWEが準備した『SMACKDOWN』の台本は、モハメド・ハッサンというお騒がせキャラのレスラーが、スキーマスクと黒いシャツ、カモフラージュのパンツを着用した5人の力を借りて、アンダーテイカーを倒すという流れだった。番組は当初の予定通り、保護者への警告つきで7月7日に放映された。それでも多くの視聴者が番組を不快に感じ、後日WWEは外部からのプレッシャーを受け、ハッサンというレスラーをお蔵入りにした。レオナルディ氏も復権したが、口答えしたために罰せられたという経験からなかなか立ち直れなかったそうだ。

10年後、レオナルディ氏は構成作家に空きが出ていることを知り、会社に対する見方を改めた。長年レスリング・ファンだったため、WWEの構成作家の仕事はまさに天職だった。さっそく求人に応募し、今度は構成作家としてWWEに再入社した。だがほどなく、またもや物騒な台本が現れた。2016年、キング牧師記念日に放映予定だった『RAW』の1シーンを収録していた時のことで、レオナルディ氏はRトゥルース、タイタス・オニール、マーク・ヘンリーの3人の黒人レスラーと、ネヴィルという白人レスラーと巡業中だったそうだ。レオナルディ氏が今年2月LinkedInに投稿した動画にもあるように、「台本ではネヴィルが声を張り上げ、『俺には夢がある、ロイヤル・ランブルで優勝するという夢だ』と宣言することになっていた」という。1963年に市民権運動の旗頭だったキング牧師が、リンカーン記念堂で行った歴史に残る姪演説にちなんだ発言だ。レオナルディ氏の話によると、ネヴィルはこのセリフを言うのをためらい、時間も迫っていたことから、手直しをしてRトゥルースが代わりにこのセリフを言うことにした。当時の上司だったデイヴ・カプール氏も変更を承認したそうだ(カプール氏には連絡が取れず、コメントは得られなかった。ネヴィルとRトゥルースにもコメントを求めたが、返答はなかった)。

レオナルディ氏によると、出演者が少し脱線するなど、一字一句台本通りに進まないことは何度もあったそうだ。時々レスラーがアドリブを加えることもあったが、「大ごとにはならなかった」という。だが前述の変更がマクマホン氏の目に留まり、逆鱗に触れたという。そして修羅場の末、レオナルディ氏は解雇された。

マクマホン氏の広報担当者は声明の中で、レオナルディ氏の話を否定した。マクマホン氏がWWEの台本に「過剰なまでに積極的に関与している」ことを認めた上で、「そうした理由からも、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の有名な発言をイギリス出身の白人レスラーに言わせてオチにすることを同氏が提案、または承認したという話は荒唐無稽です。そうした出来事は一切ありませんでした」。



WWEのライタールームで人種に無神経な出来事があった例は他にもある。元WWE構成作家のブリトニー・エイブラハムスさんは2023年、同社とマクマホン氏を含む一部重役を相手に訴訟を起こし、自分が2022年に解雇されたのはライタールームで受けた人種差別について苦情を申し立てたからだと訴えた。裁判資料によると、黒人女性のエイブラハムスさんは台本が典型的な人種差別に基づいていることに不満を覚え、はっきり口にした。彼女はレッスルマニアのイベントで記念品のパイプ椅子を持ち帰ったことが原因で解雇されたとあるが、過去に同じことをした白人社員はお咎めなしだったという。訴訟は後に取り下げられ、エイブラムスさんの弁護人を務めたデレク・セルズ氏は「友好的に解決した」と、レスリング情報サイトWrestlenomics.comの記者に語った。

ローリングストーン誌が取材した元WWE構成作家によると、ライタールームは前職とはまるで大違いだったそうだ。ひとつには、800人以上の社員を抱える企業のCEO、マクマホン氏が自ら定期的に構成作家チーム(本社での収録か巡業かによって異なるが、だいたい20~25人)に加わって指揮を執るというのは、普通ではとうていありえなかった。服装規程など常識はずれなルールもあった。ローリングストーン誌が入手した服装規程に関する書面には、男性はスーツ、女性はスカートかワンピース、またはパンツスーツの着用が義務付けられていた。さらに、従業員は全員つねに靴を磨いておくよう指示された。他にもエンターテインメント業界の常識ではあまりお目にかからないようなルールもあったそうだ。構成作家の話では、くしゃみは弱さの表れとされ、マクマホン氏の前ではご法度だと言われた。クマホン氏が入室する時は必ず起立し、同氏が座ってから着席するよう指示されていたという。

「匿名作家たちの主張は、ライタールームの実情とは似ても似つかないものです」とマクマホン氏の広報担当者は声明の中で述べている。「ビンスは部屋に入る際、他の者に起立を命じたことは一切ありません。ばかばかしい」(ローリングストーン誌が取材した元作家の話では、マクマホン氏本人から指示されたわけではなく、直属の上司から規則に従うよう言われたそうだ)。

中でも尋常でない点が、マクマホン氏が最終的な台本に口を挟んでいたことだと元作家陣は言う。2年前にWWEのCEO兼会長を辞任するまで、マクマホン氏は毎回どの台本にも首を突っ込んでいた。元作家らはこうしたプロセスが必ずしも共同作業とはいえなかったと語っている。構成作家はまず下っ端社員とチーフ作家にネタ出しをし、マクマホン氏同席のもとであらためてネタを提案する。だが結局は収録当日にマクマホン氏が手を加え、すでに自分がOKを出したものであろうとお構いなしに、まるきり違う台本ができあがる。同氏は独裁者ぶりを発揮するかのごとく、「放映直前ですべてぶち壊した」とある元作家は語る。

「彼が制作ルームで何を言おうと、(初期の段階で)気に入ろうと関係ない。結局番組直前にひっくり返ることになるんだから」と言う元作家もいる。「月曜を迎えて制作会議に全員集合するころには、他のハプニングが起きる。まるで茶番だよ、自分たちはビンスの気まぐれを満足させるためだけに存在しているみたいだった。自分たちはビンス・マクマホンのお抱え書記だったんだ」。その元作家は、マクマホン氏がころころ指示を変えるのはほぼサディスティック的だった付け加えた。「ビンスは他人を操るのを楽しんでいたんだと思う。ころころ物事を変えるのを楽しんでいた。始終他人を慌てさせるのが好きだった。番組や構成のためじゃない、ビンスは周りが右往左往するのを楽しんでいるだけだと実感したね」。

元作家陣によると、その週に放映される番組の台本について話し合うための会議でも、スタンフォードのオフィスでマクマホンが現れるのを夜遅くまで待つことはざらだったそうだ。おうおうにして待ち時間は「数時間におよび、待機している理由が分からないこともあった」と言う元作家もいる。時には深夜になっても会議が始まらず、明け方2時、3時、4時まで続くこともあったそうだ。

マクマホン氏の広報担当者の声明には、「スポーツ業界やエンターテインメント業界ではよくあるように、構成作家の仕事は9時5時勤務ではありませんでした。ビンスはあちこち出かける予定がありましたし、会社のCEOとしての様々な職務に加え、年間数百回におよぶライブイベントやTV放送のコンテンツをすべて取り仕切っていました。こうしたスケジュールゆえに、新しいアイデアを実行する必要がある場合や台本に変更を加えなければならない場合、会議が夜更けまで続く場合もありました」とある。

元作家陣によると、問題の発生源はマクマホン氏だけではなかった。ある元作家も言うように、マクマホン氏から直接嫌な思いをされなかったとしても、同氏を怒らせるのではないか、仕事を失うのではないかという恐怖から、実権を握る他の作家が「いじめ役」に転じるケースもあったそうだ。こうした形でマクマホン氏に忠誠を示した作家は熱烈なレスリング・ファンで、WWEの世界でキャリアを積んだ者が多かったという。

「自分が今まで仕事をした中でも、一番みじめな連中だった。だが彼らの多くがあそこで社会人経験を積んでいたから、それが唯一のルールだったんだ」と元作家は言う。「一般的なTV番組の職場環境がどんなものか、彼らはまるで知らなかった」。

先輩の構成作家が別の作家に、「お前の親父が母親に腹出ししてたら、お前なんか生まれてこなかったのに」というような趣旨の発言していたのを目撃したと言う元作家もいた。

「まるでオヤジ連中の下ネタトークでした」とその元作家は語った。さらに誰かが昇進して「内部の人間」へと近づくにしたがい、「空気が一層ピリピリし、ああいう『オヤジ連中』の相手をする羽目になりました」とも語った。

マクマホン氏の寵愛を得ようとする作家陣は、やがて互いに反目し合うようになったと元作家陣は語る。WWEのライタールームの雰囲気を「マフィア」の幹部構造になぞらえた者もいた。「自分が何かすると、目上の3人を怒らせる。そいつらは食って掛かり、怒り、復讐に燃える」。

「一体何が起きているのか、訳が分かりませんでした。誰も目を合わせないし、誰も話しかけないんですから。めちゃくちゃ変でした」と別の元作家も語っている。「みなビクビクして、笑いが起きるのは誰かをコケにする時だけ……言葉の暴力や屈辱のせいで、全員が心を閉ざしていました。悪いリーダーがいる組織にありがちな傾向です」。



WWEのライタールームにいた女性作家はとくに辛い目に遭わされた。ローリングストーン誌が取材した元作家の女性は、男性作家の立ち居振る舞いから自分がよそ者扱いされていたと感じ、女性であることをことさら意識するようになったそうだ。そのうちの1人は周りからよく服装について言われ、不必要に身体を触られていたという。あからさまに性的な接触ではないにしても、自分を手玉に取る手段としてやっていたと感じたそうだ。男性作家に対してはそういう接触はなかった。

「近くに来させようと身体を触ってくるんです」とその女性作家は言う。「腰に手を回して引き寄せ、あっちに行けだの近くに来いだの言うんです。お尻に近い位置だとすごく気になりますよね。普通は腰に手を回したりしません。『これって変だわ』と思いました」。

ローリングストーン誌が取材した元女性作家のうち2人は人事部に苦情を申し立てたという。そのうち1人はその後解雇されたが、本人は苦情への報復だったと解釈している。元作家陣によると、2020年にはあまりにも多くの女性作家がWWEの人事部に苦情を申し立てたため、会社は「女性フォーラム」と題したZoom会議を招集した。被害を受けた作家は、会議で一気に怒りを吐き出すよう促された。ある女性作家は感極まりながら、同僚と一緒に仕事をしていて心が休まらないと会議の場で語ったという。同じ会議に出席していた別の女性によると、管理職の社員は女性陣の訴えを一蹴したそうだ。「私たちをなだめるための会だったんです。本気で取り合ってはもらえませんでした」。

ローリングストーン誌が取材した元作家によると、Zoom会議後には構成作家全員を集めた対面会議が行われ、管理職の人間から「お前たちは中学生みたいなふるまいをしている」と言われ、今後問題があっても人事部に行くなと命じられたそうだ。

男性社員の1人は、「『問題があったら俺に言いに来い』的なことを言いました」と元作家は語る。「ふざげてますよ、だってその社員が問題の一端なんですから。彼がビンスを好き放題にさせていたんです」。

不安症の発症歴があるという元作家の1人は、WWEで働いていたせいで精神疾患が悪化したという。その作家いわく、仕事が原因で「深刻な」パニック障害になったそうだ。そうした不安を人事部の人間に相談したが、フォローは何もなく、対策も一切講じられなかったそうだ。

「人事部に行って、『不安を抱えています。もう耐えられません。死にそうです』と相談しました」とその作家は語った。「まったく取り合ってもらえませんでした」。

別の元作家は、女性として働くことに危機感を覚えたため辞職したという。他の作家が女性レスラーの身体や服装についてとやかく言ったり、「過度に性的アピールをしていないレスラーに対しては」揶揄するのを聞いて、気分が悪かったそうだ。

「ある意味では、台本の副産物とも言えます」と認めつつも、「でもその一方で、台本の話じゃないなと感じることもあります。根底には危険な雰囲気が流れていて、そういう環境の雰囲気が恐ろしくなりました」。

その元作家の話では、女性に対する男性作家の口ぶりや扱いぶりから、自分が「モノ扱い」されているように感じたそうだ。そうした物言いはWWEスーパースターズの女性レスラーにも及んだ。「こんな下衆集団の中にはいられないと感じました」。

こうしたライタールームの有害な環境にもかかわらず、レオナルディ氏は「同じ穴で、クサい飯を食わされていた」者同士、ある程度は同胞意識を感じたこともあったそうだ。

「ビンスがいない時は、腹を割って話せるので最高でした」とレオナルディ氏は言い、「活気あふれる」雰囲気だったこともあると語った。「みな口を開き始めて、創造力がほとばしるんです。ビンスの影響力がどれほど大きかったか、彼の采配が実際は創作意欲を抑え込んでいたことが良く分かります」。



ローリングストーンが取材した6人の元作家は、マクマホン氏の性的暴行や人身売買の疑惑については直接的なことは何も知らないか、何も言うことはないと語っていた。だがグラントさんが訴訟を起こしたと知ってもとくに驚かなかったとも言う。元CEOの過去の疑惑について見聞きしていただけでなく、オフィス内でもマクマホン氏と女性社員に関する噂が飛び交っていたそうだ。

「あそこまでクレイジーなことは見ませんでしたが」と元作家の1人は語った。「在職中に他の作家が、『だよな、この会社にはどんな仕事しているのか分からない女性社員もいるよな』と冗談を言っていたのを聞いたことはあります」。マクマホン氏の口止め料疑惑が持ち上がると、「私が知っているビンスとはまるで違う」と感じた作家はいなかったそうだ(2022年、口止め料に関するウォールストリートジャーナル紙の報道を受け、WWEの広報担当者は「弊社はこの件に対する捜査全般に協力し……疑惑を真摯に受け止めております」と同紙にコメントした)。

別の元作家は、「驚きはしませんでしたが、だからといって平気だったわけではありません」と語った。その元作家はグラントさんの訴えを詳しく読んで、「あの職場は最悪だった、とようやく自由に発言できるようになりました」と付け加えた。

マクマホン氏には別の一面もあるとレオナルディ氏は指摘する。同氏が率いる会社が「素晴らしい業績を残し」、元CEOが在任中に「大勢の人々を気にかけ」、多くの雇用を創出ことは否定できないとレオナルディ氏は言う。だがマクマホン氏がビジネスの才覚に長け、目をかけた社員に手を差し伸べていたとしても、裏で行われていた不品行疑惑が帳消しになるわけではない。

「様々な真実が存在しています。彼は数々の偉業を残し、ビジネスで多くの人々に無欲で尽くした。その結果として大勢が彼に忠誠を示し、良き社員であることを証明した。こうした事実は認めなくてはなりません」とレオナルディ氏。「でも(彼には)別の顔もあるんです」。

WWEの元作家チーフで、現在はロックことドウェイン・ジョンソン率いるSeven Bucks Production社の開発副部長を務めるブライアン・ゲワーツ氏は、2022年8月にマクマホン氏の下で働いた経験をまとめた著書『Theres Just One Problem…: True Tales from the Former, One-Time, 7th Most Powerful Person in WWE(原題)』を出版した。マクマホン氏をテーマにしたNetflixのドキュメンタリーにも出演したゲワーツ氏は、著書でWWE時代の様々なエピソードを披露している。マクマホン氏を肯定的にとらえたものもあれば、ローリングストーン誌が取材した6人の元記者の話を裏付けるものもある。本の中でゲワーツ氏は一触即発のWWEの文化について触れ、構成作家にとっては「生きるか死ぬか」の状況だったと書いている。自分自身も「食い物にされるのでは」と身構えていたと語り、マクマホン氏が他のスタッフを怒鳴りつけた出来事にも触れ、「ビンスが会社そのものだった」と記している(本記事にあたりゲワーツ氏にも接触を試みたが、連絡がつかなかった)。

数十年におよぶマクマホン時代が終わり、WWEは新たな時代を迎えている。現在はマクマホン氏の義理の息子、レスリング界ではリングネーム「トリプルH」で知られるポール・レヴェスク氏が同社のチーフ・コンテンツ・オフィサーを務めている。ローリングストーン誌が取材した元構成作家の中には、マクマホン氏が去った今、WWEも前に進もうとしていると考える者もいる。トリプルHを「素晴らしいリーダー」だというレオナルディ氏は、職場の雰囲気が改善されてスタッフが「以前より明るくなった」という話を聞いたそうだ。

だがWWE全体の雰囲気に大きな変化があるとは信じられずにいる元作家もいる。WWEのライタールームに長く根付いた緊張と恐怖の雰囲気が、一朝一夕でなくなるとは思えないというのが彼らの本音だ。

「大勢が加担して、こうした社内文化が続いてきた」とある元作家は言う。「トリプルHが実権を握ったからといって、変わったかどうかはかなり疑問だ。本当の意味で変わるとは思えない」。
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