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WONKが語る、東京起点のビート・ミュージック・クロニクル、久保田利伸との共鳴

Rolling Stone Japan / 2024年11月13日 18時0分

WONK(Phoyo by Kohei Watanabe)

憧れのシンガー/ミュージシャンとの共演について語る4人は本当に楽しそうで、プロのミュージシャンである前に、4人とも生粋の音楽好きであることが伝わってくる。エクスペリメンタル・ソウル・バンド、WONKが6枚目のアルバム『Shades Of』をリリースする。結成から11年を迎えたバンドは、この最新作で原点回帰を掲げ、J・ディラ以降のビート・ミュージックを生演奏と打ち込みのサウンドで独自に再現することを出発点とし、そこに留まらない作風も確立してきた軌跡を遡っていく。LAのビートメイカー/プロデューサーのKiefer、韓国のラッパー、BewhY、Jinmenusagi、さらに久保田利伸やビラルといったシンガーも本作に参加する。長塚健斗(vocal)、江﨑文武(key)、井上幹(bass)、荒田洸(drums)に新作の話を聞いていくうちに、話題は音楽との向き合い方にまでおよんだ。



【写真】メンバー、撮り下ろし写真

―アルバムの制作はどのように始まりましたか?

荒田:2023年で10周年だから作ろうと始まったけど、間に合いませんでした(笑)。

井上:アルバムのコンセプトはいつの間にか荒田が作っていた。

―今回のアルバムの客演の方々との共作はどれも興味深いですけど、なかでも「Life Like This」の久保田利伸さんはインパクトがありますね。

荒田:実は前からアルバムを一緒に作りたいという野望があったんです。



―個人的にも久保田利伸は思い入れのあるシンガー、ミュージシャンなのですが、みなさんの久保田利伸原体験はどんなものですか? 久保田さんはいろんな面があるじゃないですか。

荒田:高校のころに「LOVE RAIN 〜恋の雨」(フジテレビ系の月9ドラマ『月の恋人〜Moon Lovers〜』の主題歌)はカラオケで歌っていましたね。そういう国内のオーヴァーグラウンドの曲が原体験。一方で、WONKとのつながりで言えば、久保田さんの「Nothing But Your Love」という曲をJ・ディラがリミックスしていますよね。



長塚:僕もカラオケで歌いまくっていたのはありますし、なにより本当に大好きで影響を受けた数少ない日本人のシンガーのひとりです。めちゃくちゃ聴いてきたし、DJをするときは必ずと言っていいほどかけます。憧れの人です。ソウル、R&B、ヒップホップを深く理解しながら、ポップスも作って成功されている方ですから、はるかに自分らより広い視野を持ってらっしゃいますよね。制作のときに荒田と共鳴し合っていたのが印象に残っています。

荒田:僕としては久保田さんにコーラスもお願いしたかったんですけど、最初は断られまして(笑)。久保田さんは、アメリカのレジェンドのソウル・シンガーがスタジオにやって来て、メインを一本だけ歌って帰る、みたいな渋さを出したいとおしゃっていて。それでも僕はコーラスが諦めきれなくて、けっこう粘ったんです。

江﨑:あのスタジオでのせめぎ合いは良かった(笑)。荒田は先輩との関係の築き方が上手で、最後は「その気になったらやるよ」と久保田さんに言わせていましたから。

荒田:結果的にその気になってもらいました(笑)。コーラスはそこまで入っていないですけど、想像以上にフェイクを入れてくれましたね。

江崎:無限に出てくる久保田節のテイクがすべて素晴らしかった。で、最後に久保田さんと荒田がコントロールルームの中央の席に座って、どのテイクにするかを選んでいる光景がすごく良かったな。師弟関係ではないけど、大先輩と後輩で新しい音楽を作っている姿が。

―歴史を感じますね。

荒田:気を遣いましたね。

一同:ははははは。

―井上さんにとっての久保田利伸というシンガー/ミュージシャンはどんな存在ですか?

井上:僕は、自分が聴いてきた良い音楽や、世界に無限にある良い曲をみんなに聴いてほしいという思いがあるんです。WONKの活動も自分たちが影響を受けた音楽をベースに、それを自分たちなりに消化して表現していますし。久保田さんは、そういうことを地で行って大きな成功を果たしている稀有な方だと思います。例えば、ポップスの曲をやっても、久保田さんが大好きなソウルの節回しが必ず出ている。芯からそういう音楽で育ってきたことを感じさせますよね。それはすごいことだと思うんです。

長塚:パイオニアですよね。あらためて昔の久保田さんの音源を掘ってみたんですけど、われわれが生まれる前にすでにこんなサウンドを日本でやっていたのかと、その先駆性に驚きます。しかも、それをずっと続けてきたわけですから。



―シンガーと言えば、ビラルの参加も驚きですね。

荒田:ずっとやりたいなとは思っていました。

江﨑:荒田の家で制作をしたあとに、飲んでいい感じになると、荒田が定期的に流すライブ映像があるんです。それがロバート・グラスパー・トリオとビラルによる「Body And Soul」。で、みんなで必ず「最高!」ってなる。青春ですよね、ビラルは。

井上:ビラルはもちろん元々はソウルのシンガーだけど、オルタナ・ロック味も感じるし、ジャズもできる。シャウトもすごいし、迫力もあって神々しさもある。今回の2曲もそういうイメージとは逸れていないと思います。コテコテのソウルだけというイメージはあまりないですね。

―どうやってビラルと制作をしたのかは気になります。いわゆるオケをデータで送って歌を入れてもらった感じですか?

荒田:いや、ちょっと違います。こちらでメロディも付けて送りました。すると「自分の歌い方で歌うね」って返事が来たので、「崩してもらっていいですよ」と返して。で、もらったヴァージョンを聴くと……。

井上:ぜんぜん違ったよね(笑)。

荒田:どこもいっしょじゃなかった!

江﨑:おそらくメロディではなくて、ピアノの和音だけ聴いて、そこに自分のメロディを乗せたんだと思う。アウトロで僕が弾いていたフレーズをそのままメロディに持ってきたりもしていた。驚きでしたね。超良かったです。

荒田:実際にコラボするのであれば、向こうのアイディアが欲しかったから、求めていたことではありました。

井上:(長塚)健斗が仮歌は入れていたんです。

長塚:ビラルの別の曲の歌詞を引っ張って来て、この曲の歌詞をここに乗っけていますと明示したうえで、「新たに歌詞を書いてほしい」と伝えて。「Miracle Mantra」という曲名もビラルが付けてきたんです。ビラルにしか付けられない、このタイトルは。

荒田:返って来たデータにそのタイトルが付いていて。

―ビラルとは2曲やっていますが、「One Voice」の方ではスラム・ヴィレッジのラッパーのT3が参加しています。

井上:ラップのスタイルがいまの流行りのスタイルではないですよね。荒田や僕はやっぱりJ・ディラや、ブーム・バップのヒップホップが好きだし、オートチューンをかけた流れるフロウというよりは、こっちの方がWONKのビートには合う。

荒田:僕のイメージですけど、スラム・ヴィレッジはフロウが独特で、グリッドに合わせてラップする感じではないですよね。

荒田:サイファー感があると思う。常にかっちり韻を踏もうと決めてラップしているというよりは、仲間うちでラップし合っていてちょっと字余りもしちゃう、それがより会話っぽい。そういうスタイルを感じますね。

―他に、今回のアルバムのラッパーとの共作は、韓国のBewhY(ビーワイ)との「Skyward」、そしてシングルが先行で出ていたJinmenusagiとの「Here I Am」があります。

井上:例えば、トラップのビートでグリッドに合ったスタイルがいまは主流だとは思うんです。ちょっとよれていたり、グリッドに合っていなかったり、生音が入っていたりするビートでラップできる人は限られる気はしていて。ジメサギ(Jinmenusagi)も音楽力と技術力があるから今回ぴったりハマりましたし。BewhYもジメサギも、横のノリの健斗の歌い方やメロディを意識しつつ、それぞれの味を出してくれたと思いますね。



―「Skyward」のMELRAWさんのサックスの演奏はケンドリック・ラマーの「FOR FREE?」を彷彿とさせますね。

荒田:まさにそうですね。ずっといっしょにやっているから、安藤さん(MELRAW)には細かい指示をしなくても、雰囲気でいろいろわかってもらえる。なので、ディレクションらしいものはほとんどしていなくて。「Life Like This」ではちょっとセクションっぽい感じは出してもらいましたけど。それ以外は自由に吹いてくださいと。特に「Skyward」の最後は気が狂ったように吹いてくださいとお願いしてああなりましたね。

―さっきオートチューンの話が出ましたが、「Passione」のオープニングではオートチューンを使っています。

井上:この冒頭は荒田ヴォーカルですね。このアルバムでいちばん最初に作った曲ですね。

荒田:もう2年弱ぐらい前です。

江﨑:アルファ ロメオとのタイアップが決まっていて、ラテンっぽいノリというのも決まっていた。

―そうですよね。オートチューンのヴォーカルから始まって、途中からホーンのアレンジがラテン風になって意表を突かれる曲だなと。

荒田:ここ数年、一本の歌ではなくて、コーラスワークで表現するヴォーカルの組み方にハマっているのはありますね。それをやりたかったんです。


WONK(Phoyo by Kohei Watanabe)

―ところで、今回のアルバムは「WONKが編纂した東京起点のビート・ミュージック・クロニクル(年代記)」というコンセプトだそうですが、ビート・ミュージックだけに特化しているというより、楽曲は多彩ですよね。長塚さんのヴォーカルが際立つ曲も目立ちますし。

江﨑:J・ディラ由来のビート・ミュージックをバンドでしっかりやるぞというコンセプトで始まったWONKが、やがて既存のビート・ミュージックだけに囚われない音楽をやり始めたのが2020、21年ぐらいで。前作の『artless』を引き継ぎつつ、ふたたびビート・ミュージックに回帰してきたという意味もありますね。

井上:もともとは『artless 2』として作っていたんですよ。

江崎:今作はふたたび荒田が軸で作っていったので。元々追求していた道に帰ってきましたね。WONKなりにビート・ミュージックの歴史を凝縮したという意味合いもあるんですけど、WONKの成長日誌にもなっている。WONKというバンドのクロニクルでもある。冒頭が歌モノで、だんだん過去の作品のテイストに遡っていく雰囲気がありますし。

荒田:今回のアルバムの基盤には『artless』の作り方がありますね。かつてはMIDIでループを組むだけのところもあったのが、『artless』ではデータの音源を使っても楽器を弾く。人間味があるように演奏されている。そこは意識しましたね。それが好きだと思ったんです。

江﨑:1曲目の「Fragments」とかはクリックを使っていないしね。

―ちょっと質問の方向性は変わりますが、最近触発された音楽や経験は何かありましたか?

長塚:直近だと、先日NHKホールで観た久保田さんのライブですね。最強でした。セットリストも、「LALALA LOVE SONG」、「Missing」、「LOVE RAIN」といったヒット曲をやるタイミングも、演出もMCも良くて、これぞショーだなと。

江﨑:この前の「LIVE AZUMA2024」でのWONKのライブ(10月20日)の長塚さんのMCが様変わりしていて、久保田さんが完全に憑依していました(笑)。久保田さんのライブが素敵だったのは、MCで何度も「自分もみなさんと同じひとりのミュージック・ラヴァーだ」とおっしゃっていたこと。事実、開演前にDJの人がプレイして、みんな立って踊ってディスコみたいになるんですよ。ミラーボールまで回っているし。しかも、久保田さんのライブ前の最後の曲がブルーノ・マーズの「24K Magic」で。そこでめちゃくちゃ盛り上げてから、自分のライブをやっていた。そういうミュージック・ラヴァーとして盛り上げていこうというマインドがインストールされたMCを長塚さんもしていました(笑)。

井上:自分も、WONKをきっかけにして、僕らが影響を受けた海外の音楽をリスナーの人が聴いてくれたら嬉しいです。そうやっていろんな人に音楽を届けて自分たちが好きな音楽も知ってほしいという気持ちと、自分たちがやりたいように音楽をやっていればいい、というあいだで悩むというのはわりと普遍的なテーマとしてあるじゃないですか。コロナ前ぐらいまではどうすれば広く届けられるかというのを考える時期だったけど、ここ数年は自分たちが表現としてやる音楽に、意識的に教育的な意味を持たせることはないんじゃないか、良い曲をやれば自然と伝わるんじゃないかと思うようになっていて。そのことをより強く思ったのは、昨日NHKの収録でいっしょだったエモーレスさんが歌うイーグルスの「Desperado」の歌を聴いたのが大きいです。

長塚:ストリートで往年のJポップの名曲をはじめいろんな曲をカヴァーして歌って、その映像をインスタにアップしていらっしゃる方です。本当に素晴らしい。

井上:僕らも、方向性さえ間違えなければ、好きな音楽をやりたいようにやれば、伝わる人に伝わる、そう思った。

―なんでしょう、いまの話を聞いていると、WONKによるカヴァー・アルバムとかあるとすごく面白そうだなと思いました。

荒田:じつは何年も前からそういう話は出るんですよね。でも、まだ早いかなと。いつか作りたいですけど。

井上:おじいちゃんになったらやりたいね(笑)。


<リリース情報>



WONK
『Shades of』
配信中
https://virginmusic.lnk.to/Shades_of
特設サイト:https://shadesof.tokyo/
=収録曲=
1. Fragments / WONK
2. Essence / WONK
3. Fleeting Fantasy / WONK,Kiefer
4. Skyward / WONK,BewhY
5. Life Like This / WONK,久保田利伸
6. Here I Am / WONK,Jinmenusagi
7. Passione / WONK
8. Shades / WONK
9. Endless Gray / WONK
10. Voice_03.10.2023 / WONK
11. Miracle Mantra / WONK,Bilal
12. One Voice / WONK,T3,K-Natural,Bilal

CD
発売日:2024年11月13日(水)
形態:紙ジャケ見開き仕様
品番:POCS-23055
定価:¥3300(税込)
Label:EPISTROPH
Distributed by VMG / UNIVERSAL MUSIC LLC;



LP
発売日:2024年12月25日(水)
形態:12inch 180g重量盤 2枚組 MADE IN JAPAN
品番:EPST-048
定価:¥5940(税込)
予約:EPISTROPH STORE https://shadesof.tokyo/#cd
Distributed by EPISTROPH

<ライブ情報>

11月30日(土)オープンフェスティバル2024(秋川)
12月7日(土)Montreux Jazz Festival Japan 2024(横浜)

WONK ”Shades of” Tour
大阪公演 2024年12月22日(日)Yogibo META VALLEY
東京公演 2025年1月12日(日)Spotify O-EAST
札幌公演 2025年2月1日(土)札幌SPiCE
福岡公演 2025年2月7日(金)BEAT STATION
名古屋公演 2025年2月11日(火・祝)Shangri-La
金沢公演 2025年3月2日(日)GOLD CREEK
仙台公演 2025年3月8日(土)MACANA

WEBSITE https://www.wonk.tokyo
X https://twitter.com/WONK_TOKYO
Instagram https://www.instagram.com/wonk_tokyo/
YouTube https://www.youtube.com/@WONKTUBE

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