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メロディ・ガルドーが総括、「常にロマンチックで大胆不敵」な音楽人生を語る

Rolling Stone Japan / 2024年11月7日 19時0分

メロディ・ガルドー

米フィラデルフィア出身のシンガー・ソングライター、メロディ・ガルドー(Melody Gardot)が、自身の選曲による初のベスト・アルバム『The Essential Melody Gardot』をリリースした。

ベッドサイドのポータブル・マルチ・トラックで録音した6曲を『some lessons』という自主制作EPにして、ひっそりとリリースしたのが2005年。同じく自主制作による初アルバム『Worrisome Heat』をリリースしたのが2006年で、ヴァーヴ/ユニバーサルと契約して同作がメジャー流通されたのが2008年。そのメジャー・デビューから数えても16年と数カ月が経つわけで、ベスト・アルバムのリリースの頃合いとしては確かに悪くない。

「ユニバーサルからベスト・アルバムをリリースしようとリクエストされたの。ソングライターとしての私の旅はまだ終わっていなかったので、初めは驚いた。でもキャリアの中間点としてこのアルバムが出るのだと考えたら、それは素晴らしいことだなと思えた。私自身も、こういったアルバム(ベスト・アルバム)を通じてアーティストを発見することがよくあったし、このアルバムで初めて私を発見してくれる人もきっといるでしょうから」



2018年にリリースされた初めてのライブ・アルバム『Live in Europe』のブックレットには、メロディ・ガルドーからリスナーに向けて書かれた文章が載っており、そこにはこんな一文があった。

「いつか誰かが言っていました。”振り返るな。進む方向はそっちじゃないだろ”。素晴らしい考え方ですが、たまに振り返ってみないと、時が近づいていることに気づけません。皆、後ろを振り返ることをしないと、真っ直ぐ進むことができないのです」

今このタイミングで彼女がベスト・アルバムをリリースすることにも、これと同じような思いがあったのではないだろうか。そう考えて聞いてみると、彼女はこう言った。

「素敵な考え方ね。どうもありがとう。確かにそう。ときどき自分の作品を振り返り、これまでどんな方向に向かって歩いてきたかを確認することで、少なくとも今いるここが自分の到達点ではないのだということがわかる。もちろんこのアルバムに全てが詰まっているわけではないけど、長年に亘っていろんな旅を経てきたアーティストの世界を垣間見るのに役立つ作品だとは思う」


『The Essential』の1曲目を飾る「Baby I'm A Fool 」(2009年発表)

これまでに発表してきたスタジオ・アルバム6作品ーー『Worrisome Heart』(2008年)、『My One And Only Thrill』(2009年)、『The Absence』(2012年)、『Currency Of Man』(2015年)、『Sunset In The Blue』(2020年)、フィリップ・バーデン・パウエルとのデュオによる『Entre eux deux』(2022年)と、ライブ・アルバム1作品『Live in Europe』のなかから選曲されたCD2枚組。選曲は難しくなかったか、またどういったことを考慮して選曲したのか、聞いてみた。

「かなりスムーズな作業だった。振り返るなかで、隠れていたいくつかのトラックを見つけることができたのは良かったと思う。”Aint No Sunshine”(『My One And Only Thrill』来日記念エディションのみに収録されていた『Live in Europe』のアウトテイク)なんかは私自身ほとんど忘れていたトラックだったし」

「オーディエンスをムードと趣のある世界に連れていくレコードにしたいと考えていた。でもそれは容易いことではない。恐らくそれが、曲数の多くなった理由ね。曲から曲へと移る際の雰囲気を重視し、キーの並び方なんかも考慮しながら決めていったの。またレコード(アナログ盤)というフォーマットに相応しい曲の並びということも考えた。つまり、それぞれの面でそれぞれの雰囲気を醸し出せるように努めて曲順を決めたということ」

メロディ・ガルドーは自作自演のシンガーだが、過去にいくつかカバー曲を取り上げ、このベスト・アルバムにも「Over the Rainbow」「La Vie En Rose」「Moon River」といったスタンダードや、エルトン・ジョン「Love Song」、ビル・ウィザース「Aint No Sunshine」といったポップ/ソウルのカバーが収録されている。シンガー・ソングライターとしてというよりも、シンガーとしての私を感じてもらいたい。そういった思いの表れなのだろうか。

「それらの曲はほかの人が書いたものだけど、演奏しているときはまるで自分の曲であるかのように感じている。カバーに真剣に取り組むことで、アーティストはそれを自分のものにできると私は信じているの。自作曲かそうじゃないかに関わらず、私はただ芸術を創作できることに満足し、喜びを感じている」



また、『Live in Europe』収録の「Les etoiles」「Bas News」、『My One And Only Thrill』来日記念エディションのみに収録されていた「Aint No Sunshine」「Love Me Like A River Does」、それに未発表音源「La Llorna」と、生歌の迫力を伝えるライブ・テイクが5曲取り上げられたことも、このベスト・アルバムの奥行きに結びついている。ライブ活動に力を注いできたメロディ・ガルドーの魅力を知る上で、これらのテイクが収録されていてよかったと強く思えるものだ。

「ライブという、スタジオとは異なる環境で録音されたものには、それ特有の生々しさがある。録音環境の違いによって、同じ曲でも別のものとなり、私はそれを美しいと感じたの」

本人が答える「メロディ・ガルドーとは?」

このベスト・アルバムのなかで最も注目すべきは、2曲の未発表音源が収録されていることだ。CDのディスク2の初め(LPでは2枚目のA面1曲目)に収められているのは、亡きチャーリー・ヘイデンとの共演曲「First Song」。チャーリー・ヘイデンが作曲し、アビー・リンカーンが作詞をして歌った曲だ。ほかにもパット・メセニーら数組が録音した胸に染み入るこの曲は、チャーリー・ヘイデンが妻に捧げて作曲した曲でもある。

「ある日、私とチャーリーがスタジオ(ハリウッドのキャピトル・スタジオ)に一緒にいたとき、”この曲を歌ってみないか?”と彼に聞かれたの。私は”もちろん!”と答えた。彼はそのとき、自分の音楽を私とシェアしたかったんだと思うけど、それについて特に話し合うことはしなかったわ。私たちは何も言わずに、一緒に音楽の旅をした。とてもピュアな音楽だと私は思った」

「チャーリーは多くの人にとって、そして私にとっても、素晴らしい指導者であり教育者だった。一緒に時間を過ごす度に、音楽についての何かを学ぶことができた。彼がいなくて、本当に寂しいわ」



未発表音源のもうひとつは、最後を飾る「La Llorna」だ。切々と歌われるメキシコのバラードで、2019年、地中海に浮かぶマヨルカ島で行なわれたライブでの録音。彼女の歌がギターとチェロの伴奏と共に観客たちを魅了したことがよくわかる。

「私のお気に入りのフォークロア・ソング。美しいスペイン語に対するトリビュートの意味で歌った。感情を表現する方法のひとつとして様々な言語で歌えるというのは、私にとって楽しいこと。アルバムの最後にこれを入れたのは、一番相応しい場所だと思ったから」



全24曲の音楽の旅。そんなこのアルバムのブックレットには、『ジョン・コルトレーン「史上の愛」の真実』などの著作で知られるグラミー賞受賞作家/ジャーナリスト、アシュリー・カーンによるライナーノーツが付く。それは次のような書き出しで始まる。「メロディ・ガルドーとは一体何者で、彼女の音楽的アイデンティティをどう表現するのが一番良いだろうか。これは取り組むのが難しい質問だ。ある意味ではとてもシンプルに聞こえるが、別の意味ではそうではないからだ」。わかる。自分もときどきそう思う。こんなにも軽やかに歌い、こんなにも底の深さを感じさせる、そういうシンガーはほかにいないからだ。では彼女自身、メロディ・ガルドーとは一体どんなシンガーだと捉えているのだろうか。

「物語を語る声を持つひとりのコンポーザー/シンガー/ミュージシャン。薄暗く、ブルージーで、ジャズの色合いを持つ……。そして、常にロマンチックで、大胆不敵」



メロディ・ガルドーは19歳のとき、自転車で帰宅途中に信号を無視して飛び出してきたジープに轢かれ、瀕死の重傷を負った。骨盤が砕かれ、頭部の負傷で短期記憶障害に。それから1年を寝たきりで過ごしたが、集中治療で徐々に回復。だが光線・聴覚過敏症を患い、それは永久的な障害として残ることとなった(常にサングラスをしているのはそのためだ)。しかし彼女は早い段階で音楽療法が回復に最も効果的であることに気づき、「音楽には普遍的な力がある」ことを知った。やがて本格的にミュージシャンとしてのキャリアを歩み始め、デビューし、さまざまな国をツアーするようになり……そうして今日に至るまでの間、音楽は彼女のなかでどういうものであったのだろうか。最後にそれを聞いてみた。

「音楽は今でも私を養い、癒してくれる。音楽のない人生は想像ができない。そして音楽仲間やオーディエンスのみんなとそれをシェアできるのは素晴らしいことであり、そのことを幸福に感じる。だから音楽は祝福だと思う」



メロディ・ガルドー
『The Essential Melody Gardot』
発売中
再生・購入:https://melody-gardot.lnk.to/TheEssential

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