【オースティン音楽旅行記Vol.3】音楽ファン垂涎のレコード店、ホテル、ディープなカルチャースポット巡り
Rolling Stone Japan / 2024年11月14日 17時0分
テキサス州の州都、オースティンの魅力を音楽ファン目線で掘り下げた観光レポート連載(全4回)。第3回はおすすめのカルチャースポットを紹介。最高のレコードショップとブックストア、絶対に行っておくべきテキサス州屈指の観光名所、音楽カルチャーへのリスペクトに満ちたホテルを案内する。
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West 6th Street:極上のレコード店と書店とカフェが揃う一画
「Keep Austin Weird」とはうまく言ったものだが、オースティンを特別な都市たらしめているのはライブミュージックだけではない。街を歩けば発見とサプライズが待っている。前回は6th Streetの東側で終わったが、今回は同ストリートの西側と縦に伸びるLamar通りの交差点からスタート。
「あらゆるタイプの音楽好きにとっての楽園。この象徴的なレコードショップはジャンルとA-Z順の区分けを採用しており、何時間でも余裕で過ごすことができます」
オースティン観光局のシンプルな説明がすべてを言い表している。Waterloo Recordsは夢の楽園だった、以上。もはや魅力を語ろうとすることすら野暮に思えてしまう。ベタ褒めしたくなるポイントが余りにも多いのだ。
※West 6th Street編の地図(Google Map)はこちら
Waterloo Recordsの入口(Photo by Shiho Sasaki)
本題に入る前に、歴史的背景について触れておこう。テキサスは1836年にメキシコからの独立を宣言し、その後アメリカに併合されるまでの9年間を「テキサス共和国」として過ごす。その過程で、1837年に設立された「ウォータールー」という小さな集落が新首都の建設地に選ばれると、イギリス系アメリカ人の入植を推し進めた「テキサスの父」スティーブン・オースティンにちなんで、1939年に現在の名称へと改められた。
お店のロゴが(キンクスの名曲「Waterloo Sunset」でも有名な)ロンドンのウォータールー駅に由来するのも、オースティンの郷土史を踏まえたもの。SXSWより5年早い1982年にオープンし、街の音楽文化が花開く前からシーンを支えてきたWaterloo Recordsは、600平方メートルもの店舗で様々なジャンルを扱いながら、今も売り場でテキサス出身ミュージシャンを積極的に紹介している。
入口そばにあるテキサス・コーナーでは、巨匠ジョージ・ストレイトやチャーリー・クロケットなどカントリー勢から、インディーロックのHovvdyまで紹介。ニューリリースの手書きまとめもセンスが光る
それにしても広い。品揃えも尋常ではない。目利きによるセレクトが棚の隅々まで冴え渡り、店頭に貼られたポスターの数々も守備範囲の広さを示している。新譜なら毎月のおすすめをまとめた「In the Groove」、旧譜ならスタッフの個性が光るセレクトなど、レコメンドが丁寧かつ信頼できるので次から次へと欲しくなる。さらに各ジャンルの棚、CD棚、中古の箱……と掘りだせば、誇張抜きで何時間あっても足りないだろう。
写真上の右側が新着中古棚、左側が雑貨コーナー。ジブリのBlu-rayなども販売していた。写真下はジャンル棚。通路が広く天井が高いのでディグってても疲れない(Photo by Shiho Sasaki)
音楽関連のグッズも手広く扱っている。個人的に嬉しかったのはTシャツの充実ぶり。一時期はバンドTをよく海外通販していたものだが、最近は円高のせいで送料が高すぎて二の足を踏むことが多くなった。でも、Waterloo Recordsならポンポン買える。これでもかと買った。
サイン会、リスニングパーティー、生パフォーマンスといったインストアイベントにも精力的で、SXSW期間中はライブ会場に早変わり。筆者の友人はここでFrikoを観たそうだし、過去にはウィリー・ネルソン、ニルヴァーナ、セイント・ヴィンセントほか到底挙げきれないほどの顔ぶれが出演している。
Friko、2024年SXSWで出演したインストアライブ。左側に映っているのがアパレルコーナー
この一画は近所の充実ぶりも凄まじい。Waterloo Recordsの隣には24時間営業のアメリカンダイナー、その名も24 Dinerがあるので腹ペコでも安心。Uberのおっちゃんも「ここは間違いないぜ」と絶賛していた。オースティン発祥のオーガニックスーパー、ホールフーズの旗艦店も目の前にある。
クールダウンしたければ最高のカフェバーに寄ろう。Better Halfは市内でも指折りのコーヒーやカクテルが楽しめるお店。「パートナー」を意味する店名は、ビールとハンバーガーが売りの隣接店Hold Out Brewingとニコイチであることに由来し、気分次第でどちらも味わえる。木目調をベースとした店内はやさしい雰囲気で癒された。屋外の広々としたパティオに座るのも落ち着くだろう。
Better Half Coffee & Cocktailsにて。ゆかりをまぶしたカクテル「Palo Duro」は、ニンジンをベースにウコン、生姜も。レモネードとチーズケーキ、カフェラテも美味しかった(Photo by Shiho Sasaki)
さらに出来過ぎな話だが、Waterloo Recordsのそばには極上の本屋も存在する。
BookPeopleは1970年に創業した独立系書店。2階建てのなかに書籍がぎっしりと並び、「ジャンルに貴賎なし」で創造性に富んだコーナーを展開する。階段にはイベントで訪れた人気作家の写真がいくつも飾られており、読書家にとっての聖地であることは疑いようがない。
BookPeopleの外観(Photo by Shiho Sasaki)
写真左はスタッフセレクション、右は翻訳文学コーナー。日本からは川上未映子、村田沙耶香、吉本ばなな、小川洋子らがフィーチャーされていた(Photo by Shiho Sasaki)
イベント出演した作家の写真がずらり。レイ・ブラッドベリ(中央のモノクロ写真)の上は、『夜のサーカス』で知られるエリン・モーゲンスターン。その左はなぜか食事中のサイモン・ペッグ(Photo by Shiho Sasaki)
店名はレイ・ブラッドベリ『華氏451』に由来し、スローガンは「本でつながるコミュニティ」を創出すること。キッズ向けに読み聞かせやワークショップを行なうなど、地元住民の交流や教育の場にもなっている。音楽本の並びも壮観で、フィリップ・グラスのピアノ練習曲全集に手書きのポップがついているのも文化レベルの高さに感動した。
ここでもう一つ歴史を辿ると、「Keep Austin Weird」という合言葉は、BookPeopleとWaterloo Recordsが大型チェーンの参入に反発し、ローカルビジネスのサポートを呼びかけたことが起源にある。自分たちの文化をDIYで築くオースティン精神が、素敵なカルチャーの楽園を生み出したという話はもっと知られてもいいと思う。
音楽系のコーナーも壮観。ヴァシュティ・バニヤンの自伝(写真左下)は邦訳化希望。ポップを読むのも楽しい
South Congress:カウボーイ・ファッションも揃う観光の大定番
翌日はオースティン観光の大定番、South Congressに向かった。コロラド川の南側を走るこの通りは、19世紀こそ凡庸な田舎町だったが、次第に交通の要所として栄えるように。1962年に州間高速道路35号線が開通すると、店舗や企業がそちらに流れ、しばらく荒廃の一途を辿るものの、90年代から2000年代にかけてV字復活を果たす。そして現在、アンティーク、古着屋、アートギャラリー、カフェ、レストラン、音楽ヴェニューなどが密集するSouth Congressは、SoCo(ソーコー)の呼称で絶大な支持を集めている。
こだわりの強いお店が一本道の両側に並ぶため、ノープランで街歩きしても好奇心が広がる。Jos Coffee、Amys Ice Creams、Home Slice Pizzaといった食の人気店もあるし、インスタ映えしそうな場所が盛りだくさん。シェアサイクルが路肩に設置されているので、買い物したあとは川沿いの公園までサイクリングするのもよさそうだ。スティーヴィー・レイ・ヴォーンの銅像がある公園、Auditorium Shoresまで自転車なら5分で行ける。
※South Congress編の地図(Google Map)はこちら
South Congressの街並み。抜け感のある景色が気持ちいい(Photo by Shiho Sasaki)
まずはBig Top Candy Shopへ。レトロなサーカスを思わせる内装や、キッチュで極彩色の店構えにもワクワクさせられる。目を引くのはタフィーの量り売り。フレーバーも豊富なので、いろいろ口に放り込んでみたくなる。個人的にはチョコチップクッキー味が好きだった。グミやガムボールも同様に充実している。
さらに、自家製スイーツやソーダにも力を入れており、ポッキーやハリボーといった定番から世界の珍味まで数千種類ものお菓子が並ぶ。楽しみ方は自由自在で、撮影担当の妻は「好きな日本人は見たことがない」と言われるTwizzlersで自爆していたがそれもまたよし。青髪の似合う店員の女の子が、BGMで流れるトーキング・ヘッズの「(Nothing but) Flowers」をラテンのノリで口ずさんでいたのもオースティンっぽくてよかった。
Big Top Candy Shopの外観。隣はMonkey See Monkey Doというおもちゃ屋さん(Photo by Shiho Sasaki)
写真左下がタフィー。お菓子がバケツや容器のなかにいっぱい(Photo by Shiho Sasaki)
SoCo巡りでもう一つ見逃せないのが、赤いブーツの看板が目印のAllens Boots。1977年の創業以来、家族経営を続けるウエスタンウェア専門店で、カウボーイブーツの品揃えは世界最大級の4000足以上。カスタムブーツも製作可能で、ハット、ジーンズや衣類/アクセサリーも取り扱い、エアロスミスやギレルモ・デル・トロといった大御所も足を運ぶ。
革の香りが漂う店内いっぱいに、上質なウエスタンブーツがずらりと並ぶ。これぞテキサスと言わんばかりの光景。つま先やヒール、ハート型の履き口、刺繍や装飾など一足ずつ確かめながら、クラフトマンシップの極みを堪能しよう。『クィア・アイ』シーズン6「男やもめの変身劇」にはAllens Bootsでブーツを試着する一幕があり、タン・フランスが言うところの「いい気分になれるセクシーな装い」がここなら手に入る。
Allens Bootsの外観。赤いブーツの看板が本当によく目立つ(Photo by Shiho Sasaki)
ウエスタン・ブーツがひたすらとにかく並ぶ。圧巻(Photo by Shiho Sasaki)
メンズやレディースを問わず、カウボーイ・ファッションに必要なものがすべて揃う(Photo by Shiho Sasaki)
近年はカントリー音楽がメインストリームで躍進していることもあり、ウエスタンスタイルが旬のトレンドとして脚光を集めている。Vogueは2024年を「カウボーイの年」と定義し、ビヨンセが『COWBOY CARTER』を発表した際にはカウボーイハットへの関心が前年比400%も増加。セレブの愛好家も枚挙にいとまがない。
そんな背景も後押しとなり、Allens Bootsに迫る勢いなのがTecovas。2015年創業のブーツブランドは全米35店舗を展開。デジタルネイティブ世代ならではの価値観でモダンスタイルを追求し、履き心地のよい逸品をリーズナブルな価格で提供する。SoCoの旗艦店も洗練されつつカジュアルな雰囲気で、自分のような一見さんも気軽に入りやすい。
Tecovasの外観と店内。オンライン販売にも力を入れているが、現時点でアメリカ国外への発送は不可。この感じは日本でも人気が出そうだが(Photo by Shiho Sasaki)
SoCoはミュージシャンに愛されてきた地域でもある。1955年創業のContinental Clubは伝統ある老舗で、ロック、ジャズ、ブルース、アメリカーナなどの一流が出入りし、300人程度のキャパながらスティーヴィー・レイ・ヴォーンや、近年ではロバート・プラントやレオン・ブリッジズも登場。同店のオーナーが2014年に立ち上げたC-Boy's Heart & Soulも、ソウル/R&Bに軸足を置く人気店だ。
「日本のジャズ喫茶をテキサス流に解釈すること」をコンセプトとするレコードバー、Equipment Roomも気になる。ハイファイな音響設備やスタイリッシュな内装に加えて、日本のお酒も扱いカクテルの評判も上々。オースティンの有名レコード店Breakaway Recordsとともに、一枚のアルバムを解説付きでフル試聴するイベント「OMAKASE VINYL」も開催している。今回は都合がつかなかったがぜひ行ってみたい。
Continental Clubの外観。夜は照明がついて名店の佇まいに(Photo by Shiho Sasaki)
Continental Clubで月曜のレギュラーを張っているロカビリーの重鎮、デール・ワトソン
Hotel Van Zandt:音楽愛が伝わる理想的なホテル
このオースティン編でも、音楽好きにお勧めのホテルを紹介しよう。今回宿泊したHotel Van Zandtは、不遇の生涯と切ない歌声で知られるアウトロー・カントリーの桂冠詩人、タウンズ・ヴァン・ザントにインスパイアされて2015年に創業した。
※Hotel Van Zandt編の地図(Google Map)はこちら
タウンズ・ヴァン・ザントの代表曲「Pancho and Lefty」。1972年に自身で発表後、1983年にウィリー・ネルソンとマール・ハガードによるカバーが大ヒット
ロビーからさっそくロックンロールな趣向を凝らしている。フレンチホルンを模したシャンデリア、美しい木目、房状のカーペット、フロントでふるまわれるマルガリータなど、どこを切っても「ライブ音楽の首都」にふさわしい。
Hotel Van Zandtのロビー。棚にはタウンズ・ヴァン・ザントのアルバム『Delta Momma Blues』も飾られている(Photo by Shiho Sasaki)
16階建てのホテルは街の景色に溶け込み、グレーとダークブルーを基調とした客室には、オースティンらしく古風なテイストと洗練されたひねりが同居する。部屋の窓からレディ・バード湖が一望できるのも素敵だ。個人的に嬉しかったのはターンテーブルのレンタルサービス。ホテル側が厳選したアルバムに浸るのも、お土産の一枚をさっそく試すのもよし。
最上階のプレジデンシャルスイート。壁には大理石を使用し、レトロなアップライトピアノ(!)、ポーカーテーブル、キングサイズベッド、大型バスタブ、簡易キッチンを完備。棚に置かれた書籍やマーシャルのアンプからも音楽愛が伝わってくる(Photo by Shiho Sasaki)
レコードプレイヤーは全室レンタル可能。LPコレクションにはクラシックな名盤からオースティンゆかりの作品まで揃う(Photo by Shiho Sasaki)
さらに4階のレストランGeraldinesでは、地元ミュージシャンのライブを観ながら、新鮮な食材を活かしたオースティンの郷土料理を味わうことができる。シェフの腕前も一級品で、ビーツサラダ、ハリバットのポワレ、クラフトカクテルのどれも絶品だった。アメリカでの食事は油っぽくボリューミーになりがちなので、繊細な味わいを楽しめるのは貴重だ。同じく4階では、屋上プールデッキで贅沢に寛ぐこともできる。
Geraldinesで堪能した料理とカクテル。テキサス名物のカウボーイ・ステーキも目玉の一つでブランチも人気(Photo by Shiho Sasaki)
Hotel Van Zandtはダウンタウンの中心部にあるため、主要スポットへのアクセスも良好。TREKの自転車をフロントで借りることもできるし、「小ぢんまりとした街」を探索するのに何かと便利だ。ホテルのそばには日本でいう成城石井に近い感覚のスーパーマーケットRoyal Blue Groceryもあるし、すぐ裏手のRainey Streetはバンガローを改装したバーが立ち並ぶ開放的な繁華街で、ここを飲み歩くのも大いにアリ。
個人的にはホテルの近所にあるIHOPで、起き抜けに食べたブランチの味も忘れがたい。ご存じのとおり、観光名所ではまったくない全国チェーンだが、24時間営業のありふれたファミレスこそリアルな日常が垣間見えるもの。何も起こらない時間を特別に思えるのも贅沢だったりする。眠そうな店員と早朝の静けさを尻目に、バターとシロップたっぷりの激甘パンケーキを無心で頬張りながら、残り少ないアメリカでの時間をじんわり噛み締めた。
【オースティン音楽旅行記】は全4記事
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【Vol.1】SXSWを生んだ街が「奇妙」であり続ける3つの理由
【Vol.2】「世界のライブミュージックの首都」どの会場から行ってみる?
【Vol.3】音楽ファン垂涎のレコード店、ホテル、ディープなカルチャースポット巡り(※本ページ)
【Vol.4】伝説の音楽番組『Austin City Limits』50年の歴史に触れる (※11/15 17時公開)
※取材協力:ブランドUSA、オースティン観光局
Photo by Shiho Sasaki
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