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シガー・ロスが語る日本との絆、オーケストラ公演の全容、希望とメランコリーの30年

Rolling Stone Japan / 2024年11月21日 17時30分

Photo by Rachel Deeb

彼らの公式ウェブサイトのツアー・アーカイブによると、初来日は2000年のサマーソニック。以来計11回日本を訪れ、実に36回の公演を行なってきたシガー・ロス(Sigur Rós)。一度観たら虜になる、そのマジカルなライブ・パフォーマンスの呪縛はこの間解けることがなく、彼らがやって来るたびに我々は熱狂的に迎え入れてきたわけだが、来年2月に東京と兵庫で予定されている計3回の公演では、これまでのどの回とも趣を異にしたパフォーマンスが目撃できる。そう、昨年発表した10年ぶり8枚目のアルバム『ÁTTA』をオーケストラと録音したシガー・ロスは、現在進行中のツアーでも同様にオーケストラと共演。旧作の収録曲もアレンジを刷新して披露している。

思えば、脱税疑惑(のちに無罪判決が下されている)などのスキャンダルに見舞われ、ラインナップも入れ替わり(オーリー・ディラソンが2018年に抜け、2012年に脱退したキャータン・スグヴィーンソンが2022年に復帰)、前作『Kveikur』リリース後様々な試練にさらされた彼らは、どこに行き着いたのか? ツアーの話はもちろんのこと、『ÁTTA』のレコーディングから今後の展望に至るまで、アメリカでのツアー日程を終えてレイキャヴィクの自宅に戻っていたゲオルグ・ホルム(ベースほか)が、シガー・ロスの現在地について広く話してくれた。

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オーケストラは41名編成、それぞれのツアー先で現地の奏者を迎える


「シガー・ロス・オーケストラ」になりたかった

―オーケストラル・ツアーと銘打った今回のツアーはこの秋本格的にスタートし、まずはアメリカ各地での公演が終わったところですが、手応えはいかがですか?

ゲオルグ:どの公演も素晴らしい体験だったよ。会場は格別に美しいし(※今回の彼らはフィラデルフィアのメトロポリタン・オペラ・ハウスやシアトルのパラマウント・シアターなど歴史あるコンサートホールを会場に選んでいる)、オーディエンスも、オーケストラを交えたライブというアイデアを歓迎してくれているように感じたし。

―そもそもこういう形態でのツアーが実現したのは、『ÁTTA』にロンドン・コンテンポラリー・オーケストラをフィーチャーしたことが発端だったわけですよね。

ゲオルグ:うん。『ÁTTA』には大々的にオーケストラを導入していて、アルバムがオーケストラを求めていた――と言うべきなのかな(笑)。着手してしばらくすると、曲が「オーケストラを入れてくれ!」と大声で僕らに訴えかけているように感じたんだ。そしてリリース後にツアーを始めて、当初は通常のバンド編成でプレイしていた。でもオーケストラとの共演にも挑戦したくて、去年ヨーロッパとアメリカで何度か試験的にやってみたんだよ。それがすごくうまくいって、トラディショナルなロックンロールではなくこの表現をさらに掘り下げて、全日程オーケストラとツアーするべきなんじゃないかという結論に至った。シガー・ロスがトラディショナルなロックンロール・バンドだったことがあるのか否か、疑問ではあるけどね(笑)。




Photo by Rachel Deeb

―ファンがYouTubeにアップした映像を幾つか観たんですが、オーケストラがバンドの背後に控えているのではなく、あなたたち3人もオーケストラに混ざって、指揮者に従って演奏していたことに驚きました。

ゲオルグ:そこも非常に重要なポイントで、オーケストラと共演しようと決めて、最初に僕らが考えたのは、”シガー・ロスとオーケストラ”にはしたくないということだった。オーケストラを従えるだけなら、過去に何百回も他のアーティストがやってきたことと変わらないからね。もちろん彼らはそういう形態で充分に成果を得てきたわけだけど、僕らが望んでいたことは違った。どうせならオーケストラの一部になりたかった。ロックンロールとクラシック音楽をミックスするのではなく、”シガー・ロス・オーケストラ”になりたかったというか(笑)。一貫性のある体験を提供することをゴールに掲げて、僕ら自身をオーケストラのサウンドの中に組み込むような感覚だね。バンドの場合はリズムが全体をしっかり束ねているわけだけど、オーケストラは常に浮遊しているようなところがあって、これらふたつの世界はいつもスムーズに混ざるわけじゃない。だから苦労はあったけど、ロバート・エイムズという指揮者(※ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラの芸術監督。アルバムで指揮を担当し今回のツアーにも同行している)がいてくれたし、うまく形に出来たと思う。ロバートは多様な要素をまとめ上げる術を心得ていて、僕もロバートを信頼することの大切さを学んだよ。演奏中に自分のパートがオーケストラから浮いていると感じることがあっても、彼の指揮に従えば、ほかのパートとの関係性が見えてくるんだ。




Photo by Rachel Deeb

―セットリストは当然ながら『ÁTTA』の収録曲を中心に構成されていますが、ほかの曲についても、オーケストラとの互換性を踏まえて選んだんですか? 『()』『Takk...』『Valtari』からの曲も目立ちます。

ゲオルグ:そうだね。言うまでもなく『ÁTTA』の収録曲はオーケストラ無しにはライブで再現できなかったし、ほかにも候補はあったけど、結局オーケストラでの演奏に適さなかった曲はプレイするのを諦めた。これらの曲の仕上がりを僕らが気に入っていて、アレンジに成功したと感じているからこそ、セットリストはほとんど変わっていない。ツアーを始めるにあたって僕らはまず、オーケストラと聞かせたら素晴らしいんじゃないかと思う曲をずらっと挙げてみたんだ。いかにもそれっぽい曲は避けつつ。中には、さっき言った”シガー・ロス・オーケストラ”ではなく”シガー・ロスとオーケストラ”になってしまう曲もあった。でもその一方で、これまでに色んなアプローチを試したけどライブではしっくりこなかった曲が、ようやくポテンシャルを全うしたケースがある。例えば「Starálfur」がそうだ。以前、限りなくエレクトロニックに傾けてプレイしたことがあって、それはそれで成立していたけど、100%満足できていなかったんだよね。「Hoppipolla」も然りで、ここにきてオーケストラを起用することで、そういった曲を従来とは全くことなるバージョンでプレイできたのは、本当に楽しかった。

―『Kveikur』からは1曲も入っていませんね。やっぱり、あまりにも異質なアルバムだったということでしょうか。

ゲオルグ:言われてみるまで気付かなかったよ(笑)。恐らくあれはすごくアグレッシブで、ロックンロールで、終始ガンガン突き進むタイプのアルバムだから、候補に挙げるべき曲がなかったのかもしれない。でもこうして改めて訊かれると悩んでしまうし……バンド内でミーティングを開く必要があるな(笑)。

―あなたが個人的にセットのハイライトだと感じている曲はありますか?

ゲオルグ:僕はやっぱり、みんなが楽しみにしている曲をプレイするのが好きなんだ。例えばさっきも挙げた「Hoppipolla」や「Starálfur」みたいに、広く知られている曲だね。なんだかんだ言って、オーディエンスから熱狂的なフィードバックを得られるのは気持ちがいい(笑)。すごく暖かい気持ちになるし、バンドにとって励みになるから。




『ÁTTA』で向き合った「世界の終わり」

―次に『ÁTTA』についても伺いたいんですが、まずリリースまでに、これまでで最も長い10年の空白が生まれました。

ゲオルグ:確かにそうなんだけど、実際の作業にはそこまで時間を要したわけじゃないんだ。バンドが休止状態にあった期間が長かったというだけでね。誰にとっても不愉快な出来事が重なって、本当に大きな試練に直面したよ。まずオーリーの脱退があって、脱税云々のゴタゴタが起きて、結果的には無駄に苦しめられたわけだけど、卑劣な仕打ちだったと思う。そんなわけで当分は何もやりたくなかったというか、「僕らはバンドなんだから音楽を作ろうじゃないか」という気持ちにはなかなかなれなかった。楽しいと思えなかったんだ。

そういう状態が長く続いたのちに、キャータンがLAに住んでいるヨンシーの家に遊びに行ったのが、活動再開のきっかけになった。キャータンは別の仕事でたまたまアメリカにいたのか、よく覚えていないけど、とにかくふたりはヨンシーの家で曲作りを始めて、ある日「アルバム作りをスタートできそうだから君もこっちに来てくれ」と呼び出されたんだ(笑)。で、2人と合流して本格的に作業を始めると、それからは結構速かったよ。曲が生まれてくるままに任せたというか、曲が自ら進むべき方向を示してくれたようなところがあってね。



―では、このアルバムから読み取れるシガー・ロスの現在地とは?

ゲオルグ:キャータンとヨンシーがどう考えているのかは別にして、このアルバムは僕にとってすごく内省的な作品で、自分たちの内面に目を向けていると思う。非常に美しく、希望とメランコリーが入り混じっていて……まあ、希望とメランコリーと言えばシガー・ロスのデフォルトなんだろうけど(笑)、今回はそれを異なる形で表現しているように感じるんだ。決して敷居が低い作品ではないし、シガー・ロスを初めて聞く人には向いていないのかもしれない。……いや、そうとも言い切れないのか。このアルバムを気に入ってくれて、ほかの作品でビックリするというパターンもあり得るよね(笑)。とにかく『ÁTTA』にはどこか、2ndアルバム『Ágætis Byrjun』に似たところがあるんじゃないかな。”ágætis byrjun”にはアイスランド語で”新しい一歩”とか”良き始まり”といった意味があって、このアルバムも何かに向かう新しい一歩になるのかもしれない。それは果たして、終焉に向かう始まりなのか? 今は何もかもが終焉に向かっているようなところがあるからね(笑)。ひとつの始まりは常に何かの終わりを意味し、ひとつの終わりは何かの始まりになる。




―内省的な作品になったのは、外の世界から自分たちを守りたいという想いも影響したんじゃないでしょうか? 当時バンドに起きていたことにしろ、パンデミックや紛争など世界に起きていたことにしろ、リアリティから距離を置いて、自分たちが安心できる場所を作り上げたかのような、ドリーミーで静謐なサウンドが広がっています。

ゲオルグ:そうだね。間違いなく影響したと思う。ああいう状況下で、じゃあ僕らはバンドとしてそれをどう受け止めるのか?と自分たちに問うていた。と同時に、そこから外の世界を眺めてもいる。ほら、何かの内側に入らないとその外側を眺めることはできないと思うし、内面と向き合うと共に今の世界はどういう状況にあるのか、何が起きているのか、ちゃんと目を向けていた。そういう意味で僕らの頭には、”世界の終わり”というアイデアがあったんだよね。

さっきも触れたけど、実際に、色んな面で世界が終ろうとしていると実感させることが起きていた。パンデミック然り、幾つもの紛争然り。そういう状況は今も変わっていないし、フェーズがさらに変化して社会が二分化され、ふたつの極に振り切れてしまったよね。何が正しくて何が間違いなのか、人々の捉え方が完全に分断されている。誰が正しくて誰が間違っているという話じゃなくて、みんながひとつになれる合意点が失われてしまった気がする。アルバム・ジャケットも、そういう分断された世界の象徴として選んだんだ。アートの解釈は人によって違うからどう捉えてくれても構わないし、必ずしも”レインボー・フラッグが燃えている”図だとは限らない。僕の解釈では、この虹は不可侵の美の象徴なんだよ。北欧神話では虹の橋を渡った先にヴァルハラ(※主神オーディンの居城であり、天国に相当する)があってね。何とかして虹に近付いて触れようと試みるんだけど、決して触れることはできない。そんな虹を燃やす――つまり、不可侵なものを破壊するというのは、本当に強烈なイメージだと僕は思うな。

結成30周年の絆、日本との信頼関係

―さて、今年はシガー・ロスの誕生30周年ですよね。結成メンバーであるあなたとヨンシーがこれだけ長くクリエイティブなパートナーでいられた理由は、どこにあると感じますか?

ゲオルグ:それはいい質問だ。僕らふたりはとにかく昔からお互いを敬い、理解し合えていたんだよね。家族同然だし(笑)、色んなことを共に体験してきた。だからその理由は、究極的には相手に抱く愛情であり、敬意であり、お互いに全く異なる人間で、考え方も違うってことをちゃんと理解しているという点も、重要なんだと思う。それでいて美的感覚が一致しているんだ。音楽的にも、何をもって美しいとするのか、基準を共有している。もちろん常に意見が一致するわけじゃないよ。例えば、曲の出来の良し悪しだったり、その曲を完成したと判断するのか、まだ手を加えるべきだと感じるのか、意見が分かれることは多々ある(笑)。だからと言って自分の意見に固執したりはしない。僕が常に正しいわけじゃないからね。意見が分かれるのは当然で、自分たちがやるべきことは何なのか、必ず全員が同意できるんだよ。


ヨンシー(Photo by Rachel Deeb)


ゲオルグ・ホルム(Photo by Rachel Deeb)


キャータン・スグヴィーンソン(Photo by Rachel Deeb)

―オーケストラル・ツアーは来年10月までの日程が発表されていますね。その後の動きについて、バンド内で何か話していることがありますか?

ゲオルグ:うん。新たな曲作りをしたいなと思ってる。実はツアーをしながら、折を見てスタジオで作業をしようと試みてはみたんだけど、うまく行かなくてね。30年活動していれば、ツアーと曲作りを並行して進めるのは僕らには向いていないと分かっているはずなんだ。やるたびに失敗してきたから(笑)。でも、スタジオに入って何が生まれるのか見届けたいという意欲があって、「こんなことをやりたいな」というぼんやりとしたアイデアもある。コンセプトみたいなものが徐々に形成されつつあるように思うし、それが作品に発展するとは限らないけど、何らかのきっかけさえあれば充分なんだよ。だからスタジオに戻って、曲を作って、願わくば次のアルバムを完成させたい。それだけのエネルギーが僕らにはあると思っていて、ここにきて忍耐力を身に付けられた気がするんだ。まあ、年を取ったってことなんだろうけど(笑)、忍耐力があって、お互いを理解していて、今の僕らはバンドとしてこのままずっと活動を続けるために必要なものを、全て手に入れられたんじゃないかな。

その一方で、結成から30年が経って、年も取った今、「お前はザ・ローリング・ストーンズになりたいのかい?」と疑問がよぎったりしないわけじゃない。自分たちをストーンズと比較するのもおこがましいけど(笑)、分かるよね? でもここにきて、自分たちは人生の選択をしたんだと悟った。それを尊重して活動を続けるべきなんだと思っているよ。シガー・ロスを結成した時に僕らは、楽しめている間は続けようって話していたものだけど、今も相変わらず楽しめていると明言できるし、バンドとしてすごくいい場所にいると思うんだ。

―じゃあ、今度は10年待たせないで下さいね。

ゲオルグ:僕らも、そうならないよう願ってるよ(笑)。


Photo by Rachel Deeb

―最後に、来日公演を楽しみにしているファンに、何か伝えたいことはありますか?

ゲオルグ:そうだな……多分、観に来てくれるどの人より僕らのほうが、また日本に行けることを楽しみにしているんじゃないかと思うよ(笑)。少なくとも、僕はものすごく楽しみにしている。一番好きな国のひとつだし、家族を連れて1週間くらい早く行けないか、可能性を探っているところなんだ。それに、日本でライブを披露できるのは、僕らにとって喜びでしかない。日本では、会場にいる人たち全員の意識がこちらに集中していると実感できる。そこにいることを全員が心から望んでいるというか、言葉で説明するのはすごく難しいけど、僕が思うに、ほかの国々でプレイするのとは違う。ライブが観たくてそこにいるのは、全体の85%程度っていう国も少なくないし、残りの15%は、チケットをたまたまタダでもらって来たみたいなノリで(笑)。でも日本はそうじゃない。本当に美しい時間を過ごすことができる。全員がその体験を僕らと分かち合っているように感じられて、ひとつになれるんだ。だから、小さなクラブでプレイしろと言われても、喜んでそっちに行くよ(笑)。

―何しろ今度が12回目の来日ですから、日本のファンとシガー・ロスの間には、それなりの信頼関係が確立されているんだと思います。

ゲオルグ:僕もそう思うよ。日本でプレイする時は、バンドとオーディエンスの間に火花が散る。本当に素晴らしいことだよね。


Photo by Rachel Deeb

Sigur Rós performing with Orchestra

2025年2月15日(土)・16日(日)東京ガーデンシアター
OPEN 17:00 / START 18:00
S席¥21,000(税込)
A席¥18,000(税込)

2025年2月19日(水)神戸国際会館こくさいホール
OPEN 18:00 / START 19:00
S席¥21,000(税込)
A席¥18,000(税込)

公演詳細:https://www.creativeman.co.jp/artist/2025/02sigurros/

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