「ベートーヴェンからアフリカのリズムが聴こえる」ジョン・バティステが語る音楽の新しい可能性
Rolling Stone Japan / 2024年11月15日 17時45分
世界各地のアーティストを迎えた『World Music Radio』で作風をそこまで広げるかと驚かせたジョン・バティステ(Jon Batiste)。彼は音楽における「自由」みたいなもの、例えばジャンルに捉われないことに常に意識的だ。
そんな彼の最新アルバムはソロピアノ作品。3曲の自作曲を除いて、全てがベートーヴェンの楽曲を演奏しているという、前作ともグラミー賞で8部門ノミネートされた『WE ARE』とも全く異なるベクトルのサウンドだ。
しかも、単なるクラシック音楽の名曲カバー集ではない。そこにはジョン・バティステらしい意図が聴こえてくる。タイトルに『Beethoven Blues』と名付けているように「エリーゼのために」や「運命」からアメリカのブラック・ミュージックの要素が聴こえてくるチャレンジングなアルバムだ。
どのアルバムにも様々な意図や文脈を仕込んできたのがジョン・バティステ。今作についてもおそらく彼には語りたいことが山ほどあるはずだ。しかも、このアルバム以前には交響曲「アメリカン・シンフォニー」をカーネギーホールで披露していること、『WE ARE』収録の「MOVEMENT 11'」がグラミー賞のクラシック現代作品部門にノミネートされたことが物議を醸したことなどがあり、ここに至るまでにジョン・バティステとクラシック音楽の間にはいくつかのトピックがあった。それもあってドキュメンタリー映画『アメリカン・シンフォニー』の中で何度も自身とクラシック音楽の関係にも言及していた。
この取材ではそんな経緯を経て、彼が今、どんなことを考えているのか語ってもらった。その話は今日、多くのジャズミュージシャンたちが向かい合っている「現代における新たな黒人性」の模索とも繋がっていた。
ベートーヴェンの音楽が変貌しうる可能性
―『Beethoven Blues』のコンセプトを教えてください。
ジョン・バティステ(以下、JB):コンセプトは……言ってみれば、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの音楽に、ジョン・バティステ、つまりこの僕の発想から生まれる音楽的および文化的レファレンス、時には新たなテーマやセクションすら加えて、より拡張された音楽にするということだね。
―あなたにとってベートーヴェンはどんな作曲家ですか?
JB:最高峰の作曲家だ。ベートーヴェンの音楽は誰もが楽しめる。彼の音楽で盛り上がることもできるし、結婚式や誕生の場面でも葬儀でも演奏できるし、あらゆる年代の人々の音楽だ。シンプルなのに複雑で、洗練されているのに親しみやすい。ベートーヴェンはヨーロッパのクラシック音楽の形式を拡張させ、確立させた。まさに時代を超えたあらゆる音楽の象徴と呼べるのがベートーヴェンだ。
―ピアノソロでクラシックの作曲家の曲を取り上げるなら、バッハとかショパンとか他にも大勢いますが、なぜベートーヴェンだけを演奏したのですか?
JB:ベートーヴェンが唯一無二の存在だからだ。僕にとって、長年子供の頃から演奏してきた音楽と学んできた音楽との間につながりを築くことが、音楽の旅そのものだった。音楽は修練の道だ。ベートーヴェンの作品には、様々な音楽的方向性や含蓄が詰まってる。リズム的には驚くほどアフリカ的なアプローチが見られる部分もあって、そこから導き出せるものには、他のどんな偉大な作曲家にもない独特なものがあるんだ。
そのいい例が、クリス・ウォレスと行なったインタビューで、ベートーヴェンの「エリーゼのために」を例に挙げて、ゴスペルからジャズ、クラシック、そしてブルースまで次々とスタイルを変えて演奏したこと。1分間のその映像は世界中に広まり、たくさんの人から「この曲をレコーディングする予定は?」「クラシックのアルバムを作るつもりは?」と言われた。これは、そうなるべきタイミングなんだと思った。僕もいつかやりたかったことだし、世間もそれを求めている。しかもその時は『World Music Radio』をリリースし、「アメリカン・シンフォニー」も終え、次のアルバムの制作は本格的には始まっていなかった。ちょうど狭間だった。それで、ブルックリンの自宅のスタジオでピアノに向かい、2日間でレコーディングをし、2カ月も経たずにリリースしたんだ。
2023年10月、米CNNのクリス・ウォレスが司会を務めるトーク番組『Who's Talking to Chris Wallace』に出演したときの動画
―なるほど。では、これまで最も研究したベートーヴェンの曲はどれですか?
JB:アルバムで弾いた曲はどれも同じくらい学んできたよ。でも研究した曲は他にもたくさんある。だからもしかしたら、ピアノ・シリーズのVol.2として、ベートーヴェンの世界をさらに探求するかもしれない。もしくは、もう一人のお気に入りであるショパンをやるかもしれない。僕がひとりで作った一枚目のアルバム『Hollywood Africans』(2018年)の「Chopinesque」はショパンを再解釈した曲だった。そもそも今回、ピアノ・シリーズをスタートさせようと思ったのもそういうこと。大きめの編成のプロジェクトが続いたあとは、ピアノに戻って向き合い、余計なものを取り払い、シンプルなアレンジの音楽に取り組むのが、僕にとって自然なパターンだってことだね。
―「Chopinesque」や『Beethoven Blues』のようなプロジェクトを、かなり以前から構想していたということですかね?
JB:そうそう! 子供の頃からね(笑)。いつもクラシック音楽は僕にとって特別なものだったし、演奏する時は常に作曲家と共演する気持ちだった。楽譜に書かれた通りに弾くんじゃなく、そこに自分なりのアイディアを加えて弾いていた。その後、ジュリアードで本格的にクラシック音楽の歴史を学び、ベートーヴェンを筆頭に多くの偉大な作曲家たちが、実は瞬時(spontenous)に作曲をしていたことに初めて気づいたんだ。彼らはいわば即興演奏家。現代のジャズ・ミュージシャンと一緒で、彼らはその場で音楽を生み出していた。でも、それを「即興」と呼ぶのはちょっと違う気がして……。だって即興なら誰でもできるけど、彼らは学んだことや経験のすべてをその瞬間の作曲(spontaneous composition)に込めていた。もしベートーヴェンが今の時代に音楽を演奏したら、毎回同じ演奏にはならなかったと思う。彼も音楽も演奏するたびに進化しただろう。その意味で、このアルバムはクラシック音楽本来の在り方に近いものだと思うし、よりこういったアプローチに戻るべきなんじゃないかと、僕は思うんだ。
―先ほどの「ベートーヴェンのリズムのアプローチにはアフリカに通じるものがある」という話を、もう少し聞かせてもらえますか?
JB:アフリカ音楽というか、アフリカのディアスポラが生み出したアメリカン・ブルースのシャッフルのリズムは、二つの異なる拍子を同時に用いるという考えに基づいている。例えば、1-2、1-2の2拍子と、1-2-3-4-5-6、1-2-3-4-5-6の6拍子が同時に存在し、演奏される。つまりはマーチとワルツの組み合わせってこと。この世界で最初のリズムとも呼べる、西アフリカのディアスポラから生まれたドラムサークルの音こそ、ベートーヴェンの音楽に色濃く表れ、彼が欧州クラシック音楽に新しいリズムの考え方を取り入れた一例だ。ベートーヴェンが革新的だったのはハーモニーやメロディだけじゃない。リズムに関してもそうなんだ。同時に複数の拍子が用いられるというのは、アフリカのディアスポラの概念の継承と言えるものなんだよ。
―なるほど。
JB:ベートーヴェンの最も有名な作品でも、必ず2拍子と3拍子が同時に演奏されるんだ。ジャジャジャジャーン[運命(交響曲第5番)のメロディ]が乗るのは、1-2 1-2、1-2-3-4-5-6 1-2-3-4-5-6 のリズム……(歌う)つまりアフリカの6/8のリズムが聴こえたんだよ! そこから「交響曲第5番- イン・コンゴ・スクウェア」は生まれた。偉大なアーティストというのはそうやって、生まれ育った文化的要素に他の文化的要素を取り入れ、融合させるものだ。例えばピカソがスペイン以外の様々な文化を取り入れたように、デューク・エリントンもアジア・ツアーに触発されてアメリカのブラックミュージックと極東を融合させた『Far East Suite』を作った。そんなふうに、僕がソーシャル・ミュージックと呼ぶ音楽コンセプト、つまり異なる文化やコミュニティの経験をつなぎ、自分自身の特別な何かに昇華させるという考え方を示す例はたくさんあるんだ。天才とは自分に最も忠実だ。それは世の偉大なるアーティストに共通する特性だよ。
―つまり、今回あなたがやったことは、ベートーヴェンを再解釈するだけでなく、これまでにあなたが演奏してきた様々な音楽要素がベートーヴェンの中に実は隠れていたので、それを掘り起こして演奏したとも言えるのかもしれませんね。
JB:ああ。それは「人間的なコンセプト」の中には存在していたけど、直接的に「音楽」としては表現されていなかった。だって(アフリカ的なリズムは)まだ(ベートーヴェンの時代には)発明されていない音楽だったからね。でも音楽が生まれ変わり、進化を遂げた今の時代に聴くと、ベートーヴェンの音楽の中にあった要素がいかに変貌しうる可能性を秘めていたかがわかる。実際、僕は何年も音楽を学び、考察し、音楽をコネクトさせることで、それを現実に変えることができた。
そして、もしベートーヴェンが今の時代に音楽を作っていたら、それを反映していただろうと思ったんだ。それで、ベートーヴェンが生きていて、僕と対話をし、僕とコラボレーションをしたら、こんな音楽になるんじゃないかと想像してみた。「エリーゼのために」が(アルバム中に)2バージョン収録されているのもそれが理由だ。これは今の時代の「エリーゼのために」がどうなりうるか、その無限の可能性のうちの2例に過ぎないんだよ。さらに例は増えていくはずだよ。だって、この曲はライブで演奏するたびに、同じ曲にはならないから。テーマは同じで、構造も似ていたとしても、その瞬時のエネルギーを取り入れれば、作品は進化させ続けることができるんだ。
歴史と技術を学び、真実を伝えること
―ちなみに今回は譜面に書いたり、事前に編曲をしていたのか、それともほとんど即興なのか……どうでしょう?
JB:例えば「エリーゼのために」は長年演奏していたし、どう弾くべきかを考えてきた曲だ。だから、8割のアレンジは頭の中にできていた。でもそれはあくまでも頭の中の話で、実際に演奏する時はその場で作り上げる形だった。一旦、演奏を始めると色々なことが起きるし、新しいアイデアが浮かんでくる。それをその場で取り入れていくんだ。そんなふうにいくらでも頭の中のスコアから離れ、また元に戻れるのが、瞬時に作曲する方法の魅力なんだ。ほとんどの曲でそんなプロセスをとったよ。演奏前に、ある程度構成し、ピアノに向かい、弾く。その場で新しい発見があれば、頭の中で組み立てたものにそれを取り込みながら演奏を続ける……というように。
―特にその場で作った要素が多い=即興的なのはどの曲ですか?
JB:アルバム中の曲なら「ライフ・オブ・ルートヴィヒ」。あれは瞑想のように捉えたいと思った曲。僕はそういう曲をストリームと呼んでいるんだ。水の流れや、意識の流れ、あるいは神から溢れ出る何か。人はストリーミング(配信)サービスで音楽を聴くけれど、これは神から送られ、届けられる何かだ。ピアノの前に座り、僕はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの音楽のバイオグラフィを数分で表したいと思った。だから聴けばわかる通り、曲はどんどんと進んでいく。最初から最後まですべてその場で作曲をし、ワンテイクで録音した。曲は瞬間ごとに、彼の人生に訪れた試練の数々を表している。そんな中、彼が聴力を失う瞬間が訪れ、そこでは調が変わり、彼の無意識の思いが聴こえてくる。つまり曲全体が彼の人生を音楽で表すアレゴリーなんだ。
―今作では「交響曲第5番 - ストンプ」「月光ソナタ - ブルース」など、原題の後にその曲の性質を示す副題のような言葉がついています。結果的に出来上がったあと、ストンプ、もしくはブルースになったからそう名付けたのでしょうか? それとも最初から「第5番をストンプでやろう」と考えたんですか?
JB:音楽が僕に何をすべきか教えてくれたという感じかな。例えば「月光ソナタ」の第1楽章からはマイナーブルースとも言うべき、深い情感が感じられる。そこで同じマイナーブルースのイディオムで、”月光”の対となる”夕暮れ”の「ダスクライト・ムーヴメント」を(自身の新曲として)書いたんだ。
「交響曲第5番- ストンプ」に関しては……元の「交響曲第5番」に多くのリズム的な含みがあるので、「エリーゼのために」を2つのバージョンにしたように、「第5番」でも同じテーマから2つの解釈の可能性を示したいと思ったんだ。1つは「ストンプ」。こちらは初期のストライドやラグタイムに近いスタイルだ。もう一つはアフリカン・ディアスポラの6/8のリズムの「イン・コンゴ・スクウェア」というわけだ。
―ラグタイムの話題が出たので伺いたいんですが、ドビュッシーの「ゴリウォーグのケークウォーク」や……。
JB:YEAH!!!
―(笑)他にもストラヴィンスキーの「ピアノ・ラグ・ミュージック」はクラシック音楽として聴かれていますが、ラグタイムからの影響を反映させた曲です。クラシック音楽とラグタイムの関係を考えると、『Beethoven Blues』であなたがやったことは一見挑戦的にも見えつつ、実は何度も行われてきたことで、ものすごく自然な方法だとも思えるのですが、どうですか?
JB:ああ、ものすごく自然なことだ。でもクラシック音楽を始めとした音楽を取り巻くコミュニティには、狭い考えに囚われ、音楽を区別したり、何が本物で何がそうでないかを定義したがる人もいるので、そういう人たちには挑戦的に映るんだろうね(笑)。権威とか基準を守る役割を持つ、いわゆる”門番”がいることも重要だ。でもそういった権威を持つ人たちが考える規制の枠を超えて、別の方向へと挑戦することも大切だ。自分たちが何なのか、自分たちが何者なのかを見失い始めると、本質が見えなくなる。本質に戻って、真実を表現する者が必要になるんだ。
―そもそもジャズはヨーロッパのクラシック音楽やフォークソング、アフリカに由来する音楽、カリブ海の音楽、そういったいくつもの要素が混じり合って生まれた音楽でした。あなたがこのアルバムを作ったこと、ドビュッシーが「ゴリウォーグのケークウォーク」でやったこと、実はベートーヴェンの中にアフリカ的な要素があること……それらはすべて繋がっていて、音楽は簡単にジャンルで捉えられないことの裏付けになっていると思ったんですが、どうでしょう。
JB:そうだね。音楽とは繋がっているものだ。でも現代の音楽業界や、何を聴き、どう受け取り、どう教えられるべきかを決めたがる色んな人たちの影響で、音楽が僕たちの生活に届く方法が歪められてしまっているんだ。だからこそ、僕らアーティストが音楽の歴史と技術を学び、音楽を通じて真実を伝えることが必要になる。自分たちをジャンルの枠に閉じ込めないようにするのが大事なのは、そのためだ。だって、優れた音楽が生まれるときに、もともとそんな枠があったわけじゃない。それは真実ではないよね。音楽は人間の営み、つまり人々が形成する集団やコミュニティを通じて、互いに学び合う過程から生まれるものだ。それは一人の人間から始まることもある。僕は普遍的なものとパーソナルなものを融合させることが大切だと思うんだ。今は、パーソナルなことばかりが注目され、あらゆる文化と人類の普遍性とのつながりが忘れられがちなんだよな……。
―今、あなたが言ったような感じで、いろんなものが奇跡的に混じり合って、新しい音楽が生まれてしまったのが「ブラック・アメリカン・ミュージック」の面白くて不思議なところですよね。僕はこのアルバムを聴いて、あなたはそれをあなたらしい新しい形で見せようと思ってるんだろうなと思いました。
JB:100%、それが今日の音楽カルチャーにおける僕の役割だと信じているよ。
―それこそがつまり「ソーシャル・ミュージック」だと。
JB:その通り! ソーシャル・ミュージックという概念は、最初から僕のすべての作品の土台だったんだ。
「黒人アーティストはこうあるべき」という固定観念に抗う
―最新作には「アメリカン・シンフォニーのテーマ」も収録されていますよね。この取材の前にNetflixドキュメンタリー『アメリカン・シンフォニー』を見返しました。あなたは「黒人アーティストと言えば、思いつく概念はひとつかふたつ。人はそういう特定の固定観念に慣れ過ぎている」と語っていましたよね。それについても聞いていいですか?
JB:うん。メインストリームと呼ばれる音楽において、ヒップホップを筆頭に限られたカテゴリー以外で、ブラック・アーティストは数えるくらいしか存在しないのが現状で、活躍できる分野は非常に限られている。だって、黒人の指揮者やチェロ奏者やバレエダンサーの姿なんてほとんど見かけないだろ。いくつかのジャンルのメインストリームでは黒人アーティストが評価されているかもしれないけど、他の分野では認められていないのが現状だ。そして、それは才能や能力がないからではなく、別の理由によるものだ。音楽の世界では「黒人アーティストはこうあるべき」というナラティブが出来上がっていて、それに当てはまない価値観は軽視される。黒人アーティストがやって許されることを決めるのは、音楽界の権力者たちだ。
―たしかに。
JB:僕のこれまでのキャリアやメインストリームでの成功は、常にそういった固定観念と真っ向から対抗するものだった。だからこそ、僕がシンフォニーを作曲し、それがNetflixでドキュメンタリーとして制作され、1位になったことも、バラク&ミシェル・オバマがプロデュースに関わっていることも……(グラミーで『WE ARE』が)最優秀アルバム賞を受賞できたことも、(『ソウルフル・ワールド』で)オスカーを受賞し、ピクサー映画のためのジャズのスコアを書いたことも……僕は意図を持ってやってきた。僕が表現したいのは”反主流”のカルチャー。つまり、これまで示されることのなかった真の黒人カルチャーだ。メインストリームで人が目にする黒人カルチャーは全体のごく一部。僕は黒人である僕らの真実の姿を世界に示したいと思う。だから(「The Late Show with Stephen Colbert」の音楽ディレクター兼ハウスバンドのリーダーとして)テレビに週5日出演し、何百万人もの人に見てもらったことも、賞賛やパフォーマンス、多くのことを成し遂げたことにも誇りを持っている。どれもすべて自分よりも大きな使命に奉仕するためであり、今後もさらに推し進めていきたいと思っていることなんだよ。
―僕は『アメリカン・シンフォニー』を見た時も、『Beethoven Blues』を聴いた時も、あなたはそこに大きな意図をもってやっていて、自分の役割を意識しながらやっているんだろうと思っていました。そんなジョン・バティステにとってのロールモデルは誰なのでしょう?
JB:WOW! インスピレーションを与えてくれた人達は大勢いたよ。僕のコミュニティ、父や母、ニューオーリンズで出会った音楽のメンターたち。今の僕がいるのは、そんなふうにコミュニティに身を捧げ、独創的で優れた音楽の伝統を次の世代へと渡すことに熱心だった先人達のおかげだ。彼らの教えは僕の中に植え付けられ、早い時期から、僕は自分が何者かを理解した。自分が引き継いだ文化遺産の価値に疑問を抱くことは一度もなく、その重要性を理解していた。それが僕を作り上げた大きな部分だ。アルヴィン・バティステ、エドワード・キッド・ジョーダン、エリス・マルサリス、従兄弟の故ラッセル・バティステJr……大勢の素晴らしいアーティストに溢れたコミュニティだったんだ。世の中が彼らのことを知ってるか、知らないかなんて関係ない。僕は世の中との橋渡しになるべく生まれたのだから。僕の文化と音楽のために。
―もうひとつ『アメリカン・シンフォニー』で印象的だったのは「(黒人アーティストの)成果は矮小化され、カノン(聖典)の一部とは見なされない」と語っていたことです。
JB:存在が知られていないものは見えにくい、ということだよ。黒人アーティストの偉大な業績の多くは正しく記録されていないか、もしくはその本質が評価されていない。ルイ・アームストロングほどの人物ですら、彼の実像に見合う認識はされていない。家族って身近にいるから当たり前の存在だと考えがちでしょ? もしかすると身近な誰かが偉大な英雄なのかもしれないのに、ただの親類としてしか見ていない。黒人の芸術というのは、特にアメリカではそう見られがちなんだ。みんなブラック・ミュージックに合わせて踊ったり、歌ったりするのは大好きなのに、その存在を当然のことと見なし、直視することを避けているようにさえ思える。例えば、デューク・エリントン、ルイ・アームストロング、ジェイムス・リーズ・ヨーロップ、ウィリアム・グラント・スティル、メアリー・ルー・ウィリアムズらのブラック・アメリカン・ヒーローたちを祀った博物館や伝記はその価値に比して、ほとんど存在しない。他にも名前を挙げればキリはないよ。でも、これは僕らが克服すべき課題の一つに過ぎないんだ。それでも、音楽の影響力とパワーには何ら変わりないし、そこにあることを忘れず、当然のこととして疎かにしてはならないっていうことだね。
―あなたが「アメリカン・シンフォニー」のような音楽を手がけるということは、ウィリアム・グラント・スティルやフローレンス・プライスといったアフリカ系アメリカ人クラシック作曲家を意識していたと思っていました。きっと研究もしていたんですよね?
JB:もちろんさ! ああ研究したとも!(笑)
Photo by Eyerusalem Yaregal Seyoum & Melketsadek
―ジョン・バティステといえば、いろんなジャンルを水平に並べ、平等に扱って融合させるイメージがあります。一方で歴史を大事にし、先祖の音楽、例えば、古いストライドピアノ、ブギウギスタイルをたびたび取り入れています。あなたは先人の成果を明るいところに出して、ふさわしい評価にさせたいってことも考えているんでしょうね。
JB:ああ、それが僕にとっての、とてもとても大きなインスピレーションであり、重要だと考える部分だ。
―最後にひとつ。あなたのアルバムは毎回スタイルが違いますよね。そうやって毎回違うものを出すのは意図的にやっていることですか?
JB:ははは、僕には実現させたいプロジェクトがとにかくたくさんあるんだよ。『アメリカン・シンフォニー』でツアーもやりたい。あれをライブで演奏したいんだ。日本のオーケストラと一緒にやるのもよさそうだと思っているよ。実現できたら素晴らしいだろうね。ピアノ・シリーズもさらに出していく。アイデアはたくさんあるので、世の中とシェアしたいんだ。実は、2つめの交響曲の作曲も始めたばかりなんだよ。
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