¥ellow Bucksが語る、引き算で核心を捉えるラップ、地元凱旋ライブの意味
Rolling Stone Japan / 2024年11月18日 10時0分
目まぐるしくトレンドが変化する現在の日本のヒップホップ・シーンにおいて、¥ellow Bucksは目先のトレンドを生み出すと言うより、自分が信じる(そして彼のルーツとなる)ヒップホップの美学や芯となる部分をガッチリ固めたまま、着実にスター・ラッパーとしての歩みを進めてきた。彼のアルバム作品を聴けば、随所に散りばめられたヒップホップの粋な魅力を感じることができる。デビューアルバム『Jungle』をリリースしてから4年半あまり。この期間、彼はどれだけ大きく成長してきたのか。地元、飛騨高山での凱旋ライブも控える中、ニューアルバム『Jungle 2』を中心として、その歩みを振り返ってもらった。
―今回のアルバムは『Jungle2』というタイトルですよね。下敷きになっている『Jungle』は2020年にリリースされた¥ellow Bucksさんの1stアルバムですけど、このタイミングでその続編を出そうと思ったきっかけを教えてください。
いろんなタイミングがあったという感じですかね。アルバムとしては今回で3枚目になるんですけど、『Jungle 2』を出したいなという思いは前からあったんです。1枚目のアルバムから4年経って、自分も成長してきた。そこで、1枚目からのアップデートとして「今はこんな感じだぜ」っていうところを表したくて。
―アルバムというタームで数えると、2ndアルバム『Ride 4 Life』(2022)から2年が経過しています。その間にEP『Survive』のリリースやAK-69とのコラボEP『AK¥B』のプロジェクトもありましたが、改めてこの2年間はどのような期間でしたか?
すごく大変だったし、色々と悩まされる時期でもありました。考えさせられることも本当に多い時期だったし、曲の制作が進まないということもあった。例えば、自分自身は結構成長していても、そうじゃない仲間もいるわけじゃないですか。そんな中で、俺が正しいと思っていやってきたことに対して「あれ? 間違ってるのかな?」と悩む時期もあったんです。そんなことを考えているうちに捕まってしまったこともあるし。
―そうした状況を打破したものは何だったんですか? ラッパーとしてのスタンスや意識が変化することもあった?
スタンスとしては、変化はないですね。身の回りの面倒臭いことに対して「どうしよう」って考えるより、自分がやるべきこと、やりたいことにフォーカスして、という感じですかね。普通に、面倒臭いことってあるじゃないですか。でもそこにフォーカスしてると、(マインドが)そっちに行っちゃう。それよりも、例えばアルバムを出すとか、自分のやるべきことにフォーカスするだけですね。
―先ほども”自分のアップデートしたところを表現したい”と仰っていましたが、2024年の現在、ラッパーとしてどんなところがアップデート、ないしはレベルアップしていると感じますか?
どうなんだろうな。『Jungle』の時は、まだルーキー感があったと思うんです。でも今は若手でもなくて、”中堅ラッパー”みたいに言われることもあるし、業界の中での立ち位置も変わってきた。(オムニバスの)ライブでもトリをやらせてもらう機会も増えてきましたし。そういうところが、あの頃とは違うところですね。前はがっつりガムシャラって感じだったけど、今はちょっと余裕さが出てくるようになりましたね。もちろん、今もガムシャラな気持ちはあるんですけど。
―アルバムに収録されている「My Resort Pt. 2」を聴いたときに、その余裕さを感じたんです。『Jungle』に収録されていた「My Resort」と比べると、今回の方がリリックの中の描写も細かくなっているし、ライフスタイルそのものに余裕があるんだろうな、と。
そうですね。特に「My Resort Pt. 2」を聴き比べてもらえると、そういうところが分かりやすいのかなとも思いますね。
―今回は最初から「続編にしよう」と決めてからアルバムを作っているわけですが、制作のプロセスにも違いはありましたか?
制作そのものは楽しかったです。今年に入ってAK¥Bのプロジェクトが終わった後、すぐにタイのサムイ島に行ったんですよ。そのときに同じクルーにいるプロデューサーのTEEがビートを作っていたんですけど、それを聴きながら「まさに「My Resort Pt. 2だね」って話していて。それがきっかけで、次のアルバムは『Jungle 2』にしよう、と方向性が固まっていった感じなんです。1枚目の『Jungle』は、別に「こういうタイトルのアルバムを作ろう」と思って作ってないんですよ。曲をバーっと作っていって、「どうしようかな?」と思いながら『Jungle』というアルバムにまとめたんです。今回は最初から『Jungle 2』を作ると決めて作っていったので、曲のチョイスなどは”Jungle”ってテーマに寄せて作っていった感じですね。
―フィーチャリング・アーティストについても教えてください。
人によって進め方やオファーの仕方は違うんですけど、今回は「こういう曲が完成したから、この曲にはこの人に入ってもらいたい」と思ってオファーすることもありました。逆に、例えばBenjazzyくんとかWILYWNKAだったら、前から一緒に曲をやりたいと思っていたので「じゃあ、こういう曲に持っていこう」と制作を始めることもありましたし。
―WILYWNKAさんとの「Drop It」には”鼻ほじって作ったのにできてるBOPS”という歌詞があって、”どんな制作風景なんだろう”と想像を掻き立ててしまいました。
基本的には「余裕だぜ」っていうスタンスですかね(笑)。カジュアルに作ることもありますし、思いが乗っているものもある。基本的には楽しく制作を進めています。
―最初にも言っていたアップデートという意味では、リリックの作り方や言葉の選び方も変わりましたか?
大きく変化したかというとそうでもないかもしれないですが、でも変わっていますね。かっこいいパンチラインや誰も聞いたこともないパンチラインっていうのももちろん欲しいんですけど、それよりも<無駄のないラップ>がかっこいいなと思うんです。余計なことを言わない、っていうことでもなく、パッと聴いた時に「無駄がねえな」って思うようなラップ。だから、いい意味で引き算出来ているのかなと思います。
―そういう無駄のなさからも、先ほど言っていたような余裕さが滲み出ているのかもしれないですね。続いてゲスト・ラッパーというと「Where Did You Go?」にはAKLOとSOCKSの2名が参加していて、ビートも含めてこれまでにないコラボだなと感じました。フックはAKLOが歌うようなフロウを披露していますよね。
「Jungle」がテーマということで、今回、アフロビーツの曲を絶対に入れたいと思っていたんです。DJ RYOWさんから送ってもらったビートの中にそういうテイストの曲があったので、ビートはそうやって選んで。「あの曲は失恋ソングなんですか?」って聞かれることがあるんですけど、そうじゃなくて、クラブで可愛い子がいたけど気がついたらいなくなっちゃって「しまった!」という場面を表現した歌なんです。チャンスを逃したっていう意味なんですけど、その対象が女の子じゃなくても、いろんなことに当てはめることができると思うんですよね。で、まず自分でその歌詞を書いていたんですけど、ある意味、面白い落とし方にしたかった。なので、まずSOCKSくんに連絡しました。
―DJ RYOWとSOCKSといえば、愛犬のお散歩をテーマにした「OSANPO」をはじめ、独特のユーモア漂う曲がトレードマークでもありますし。
単純に面白さだけを狙ってSOCKSくん、というわけではなくて、SOCKSくんがいるからこそ、俺が求めているオトし方に収まるというか、俺だけじゃ行けないところにもっと落としてくれるんじゃないかと思って。あと、AKLOくんはアフロビーツが得意ということも知っていたので、この曲に必要な存在だなと思って。しかも、フックをお願いしたいなと思っていたので。おかげで、日本人離れしたフックを歌ってもらうことができましたね。
―個人的には、フィーチャリング・ゲストなしで¥ellow Bucksさんが一人でラップしている曲も魅力的でした。最初の話に戻ってしまいますけど、「ラッパーとしてどれだけ成長しているのか?」というところを確認するには、やはりソロでラップしている曲に聴き応えを感じて。特に終盤の「Night Time」と「One More」も秀逸で、今回はアルバムを聴いた後の余韻をすごく感じたんです。
嬉しいですね。「One More」は確かに、余韻を感じさせるものがあるかもと思います。前回の『Jungle』は最後、どんより終わっていくんですよ。最後に収録した曲のタイトルは「After」で、”のちに”という意味も持つ。そう考えたら『Jungle 2』は出るべくして出た作品なのかなと思います。今回はしっとりというか、ちゃんとエンディングっぽい締め方にしたかったんです。「One More」は自分らがクラブにいる時、「帰りたくないからもう一曲流してよ」という曲で、華やかな雰囲気もありつつ、「また会えるから」という感じで終わる。こういう終わり方にしたので、もしかしたら『Jungle 3』という3作目もあり得るのかもしれない。
―こうなったらぜひ三部作として完成して欲しいです。新たなアルバムをリリースしたばかりの今のモードは?
具体的にいうと、11月に地元での凱旋ライブを控えているので、そこに向けて準備をしているというモードですね。
ローカルとグローバル ¥ellow Bucksのストーリーは続く
―地元である飛騨高山(岐阜県高山市)でのライブに関しては、いつから準備を進めていたのですか?
ずっと昔からやりたくて、1年半くらい前から計画はしていたんです。でも、なかなか場所がなくて。最終的に色々と決まったのは今年の春くらいですね。
−このタイミングで凱旋ライブを開催するということは、¥ellow Bucksさんにとってどんな意味を持ちますか?
意味か……。原点回帰ってところなんですかね。それこそ、AK¥Bのプロジェクトの時にも原点回帰とはよく言ってたんですけど、今回は改めて<自分が来たところに戻る>という気持ちが強いです。でも、ただ<戻る>だけじゃなくて、僕自身は進んでるんですよね。
―物理的には戻っているけど、キャリア的にはずっと進み続けている。
はい。だから、ただ<戻る>だけじゃない。あとやっぱり、どのジャンルにおいてもストーリーがあるアーティストっていいなと思うんですよね。結局、そこなんじゃんじゃないかと思うんです。じゃないとマンネリ化するというか。例えば、その場所と関連するストーリーがない俺が武道館でライブするのと、俺が飛騨高山で凱旋ライブをするのとでは全く違うものになるじゃないですか。アーティストとして、意味があるものをやりたいし、見ているファンもそっちの方が面白いと思うんです。だから、今回の凱旋ライブはいいタイミングなのかなと思いますね。
―ライブ自体はバンドセットになるとも公開されていますが、どんな内容になりそうですか?
去年の夏のボトムラインでのツアーファイナル以来のバンドセットなんですけど、今回はメンバーも変わりまたさらにパワーアップしたバンドセットになりそうです。各パートの一人ひとりが凄いスキルの持ち主の集まりなので、高山の人たちもビックリするライブになるかなと思います。自分としても楽しみです。
―¥ellow Bucksさんといえばもちろん東海地方を代表するラッパーというイメージがありますが、地元・高山市に関連するプロジェクトも進行している?
はい。もともと、地元に自分たちが歌っていたクラブみたいなところがあったんですけど、その場所が買われてしまって、もう使えなくなってしまったんですよ。だから、2年くらい前からそうした場所をもう一回やりたいなと思っていたんです。そこで「どうしようかな」と思って物件を探していたら、古い街並みの中にいい物件が出てきて。それを友人と見に行って、「何かできたら面白いね」という話になり、本格的に動き出しました。基本的には友人に任せているんですけど、「ONDO」という屋号で10月26日にオープンしたところです。
―お店はライブもできるような場所ですか?バーみたいな?
コーヒーを提供するカフェがあって、夜はお酒も提供できる場所。これからできることもたくさん増えていくと思うんですけど、お店の中に蔵があるんですよ。最初はそこにレコードバーを作りたいという話もあって、今後は蔵のスペースに色々と手を加えていく予定です。それに、海外から観光に来た外国人の皆さんがコミュニケーションを取れる空間になっていけばいいとも思うし。飛騨高山って、海外から来るインバウンドのお客さんもたくさん来ているんですけど、よその会社が仕切っているところも多くて、地元の高山の人たちが稼げていないんですよ。だから、ちゃんと地元の人が運営して収入を産むことができる場所があればいいなと思っていて。今後市長さんともお会いする機会が作れればとも思ってますし、自分が高山市に戻る機会も増えたりしていますし、自分の活動が町おこしにつながればなと。
―すごい。続々と地域貢献的なプロジェクトが進行しているんですね。
そうですね。地域貢献と言えると思います。自分の凱旋ライブもあるし、複合的に盛り上げていければ。
―ちなみに、今現在の高山市におけるヒップホップ・コミュニティーはどんな風に盛り上がっていますか?
音楽人口は減っていると感じるんです。今、ヒップホップがブワーッと盛り上がっていますけど、そうなる前の方が(高山市では)栄えていた気がしますね。今は逆に過疎化している気がします。クラブもないしDJも少ない、ラッパーも少ない。それが高山の現実かなと思います。でも、そんな中でも音楽をやっている子はいるので、だからこそ地元で俺のこういう姿を見せることができたらと思いますし。「場所とか関係なく、自分の好きなことは全然やれちゃうよ」っていうところも感じてほしい。
―今後の展望や、すでに決まっているプロジェクトなどありますか?
そうですね。年末の11月にはタイで開催されるヒップホップフェスのRolling Loudにも出演するんですけど、自分にとっては初めての海外でのライブなんです。なので、ちゃんと日本のカルチャーも大事にしつつ、日本人のラッパーとして背負うものを背負いながら、そういう場所でも勝負したいと思っています。来年以降、もっとそんなプロジェクトができたらと思いますね。
¥ellow Bucks ライブ情報
11/22 TOKAI X BULLSHIT
11/24 Rolling Loud Thailand 2024
11/29 凱旋 LIVE IN HIDA TAKAYAMA (チケットリンク:https://eplus.jp/yellowbucks/)
3rdアルバム『Jungle 2』
¥ellow Bucks
配信中
https://yellowbuckstttg.bfan.link/Jungle2
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
国内最大級のHIPHOP fes「THE HOPE 2024」総勢59組のライブアーティストと29組のDJが出演し、約4万人のオーディエンスと共に初の2daysが閉幕
PR TIMES / 2024年11月14日 18時45分
-
「THE HOPE 2024」から見えた傾向と展望 変わらないものと変わりゆくもの
Rolling Stone Japan / 2024年11月13日 17時30分
-
SKY-HI、Novel Core、CHANGMOが語る、日韓コラボレーションの狙いと意味
Rolling Stone Japan / 2024年10月31日 12時0分
-
11月2日(土)に沖縄「JAPAN NO.1 HIP HOP NIGHT CLUB EPICA」にて2年連続となるAK-69のキャリア史上最大の全国ツアー、昨年の31ヶ所を超える全国33ヶ所にて開催中「AK-69 LIVE TOUR 2024 -Enlightenment-」が開催決定!!
@Press / 2024年10月29日 9時45分
-
【インタビュー】LL・クール・J、11年ぶりの新作に込めた「ヒップホップへの愛」
ニューズウィーク日本版 / 2024年10月25日 15時20分
ランキング
-
1夕方ニュース勢力図に変化? TBS「Nスタ」好調の理由は 井上貴博アナとホラン千秋の…コンビ8年目
スポニチアネックス / 2024年11月18日 7時31分
-
2テレ朝「有働Times」で珍現象 野球中継延長で有働アナ出演ないまま“枠”終了 「放送あった?」の声
スポニチアネックス / 2024年11月18日 0時17分
-
3本木雅弘が本音をポロリ「誰かから小さくてもいいから丸をもらいたい、認められたいと思って生きている」
スポーツ報知 / 2024年11月18日 7時42分
-
4宮根誠司「大手メディアのある意味、敗北」 斎藤元彦前知事の兵庫県知事再選で率直な思い
スポニチアネックス / 2024年11月17日 23時17分
-
5兵庫知事選 斎藤氏再選確実で「兵庫県民」トレンド入り ネット真っ二つ「これが民意」「県民やめたい」
スポニチアネックス / 2024年11月17日 20時38分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください