トム・ヨーク立川に降臨 レディオヘッドの名曲も披露、集大成ツアーで見せた「劇的に美しい内面世界」
Rolling Stone Japan / 2024年11月18日 14時25分
絶賛来日ツアー中のトム・ヨーク(Thom Yorke)。ライター・小野島大のオフィシャルレポートをお届けする。
「Everything : Playing Work Solo From Across His Carrier」と題したトム・ヨークのソロ・ツアー、東京初日の11月15日立川ステージガーデン公演と翌16日渋谷LINE CUBE SHIBUYA公演を見た。どちらも事前の期待をはるかに上回る素晴らしいライヴだった。ここでは主に15日立川公演について述べる。
バンドもバックアップミュージシャンもマニュピレーターもいない完全単独のライヴ。ひとりでギター、ベース、キーボード、3台のシンセサイザー、モジュラーシンセ、リズム・マシーンなどをあちこち移動しながら目まぐるしく演奏する。リズムにあわせ激しくカラダを揺さぶり、演奏しない時はステージの前に出てきてくねくねと踊りながら歌う。「Hearing Damage」では長いシンセのソロも披露する。この手の打ち込みを使ったワンマン・ライヴでありがちな、ミュージシャンがラップトップの前にへばりついて離れないような頭でっかちのクールで自閉的なイメージはまるでない。機械を使っていてもそれはあくまでも彼の肉体の延長上にあるものであり、リズム・マシーンのビートは彼の心臓の鼓動なのだ。ソロ・ライヴではあるが、まるでバンドが演奏しているかのようなフィジカルな躍動感があった。
Photo by SHUN ITABA
MCはほとんどなく、楽曲はほぼ切れ目なく次々とプレイされる。観客に余韻に浸る間や考え込む余裕を与えない。その性急さ、ピリピリとした緊張感が聴く者の居住まいを正させる。このツアーのこれまでのセットリストは事前にざっと目を通していたので、どんな曲をやるかはある程度わかっていたはずだが、それでも次にどんな曲がくるのかまるで予測ができない。ギターやピアノでの弾き語りに近い曲もあったが、全体の生々しく力強い流れは途切れない。といっても決して堅苦しいだけのものではなく、16日渋谷公演ではリラックスしたムードもうかがえ、短く「ドウモ」「アリガト」と何度も口に出していたが、それは観客の反応がヴィヴィッドだったからだろう。
音響もまた素晴らしい。「Packt Like Sardines in a Crushed Tin Box」の激しく打ちつけるマシン・ビートの重低音が会場の壁を震わせても決して音が歪むことはなく、新曲「Back in the Game」のヘヴィーでカオティックなインダストリアル・サウンドも混濁せず、クリアで、トムの良く伸びるエモーショナルな声が引き立って聞こえた。このツアーでは特にトムのヴォーカリストとしてのうまさ、凄み、エモーショナルな説得力が際立っていたように思う。
ツアーで到達したひとつの極点
特筆すべきがヴィジュアルで、歌い演奏するトムをさまざまな角度から捉えた映像をリアルタイムでエフェクト処理して背後の巨大スクリーンに投影する。楽曲ごとのヴィジュアル・イメージがしっかりあって、通常の照明の代わりにスクリーンからの光が会場を照らす形となって雰囲気を作り、アブストラクトでカラフルでサイケデリックなプロジェクションマッピングが楽曲と融合して、まるで会場全体がトム・ヨークの内面世界になったような、劇的に美しい空間を作り上げていた。その没入感覚はとんでもなく新鮮であり、現実逃避感覚は強烈だった。筆者の席は比較的後ろのほうで会場全景が見えたので、そうした演出効果がよくわかった。
ソロ曲のほかレディオヘッドの曲を10曲もやったのは、いかにもトムのキャリアの集大成と思わせた。反面ザ・スマイルやアトムス・フォー・ピースの曲を1曲しかやらなかったのは残念だったが、バンドならではの楽曲でありメンバーが揃わないと再現できないということなのかもしれない。そう考えるとレディオヘッドの楽曲がいかに自由な発想の元に生まれてきたか、いかに汎用性が高いか思い知らされる。
たっぷり2時間のライヴの締めはトムが生ギターを弾き語る「Lucky」。もちろん『OKコンピューター』の名曲だ。息を呑む圧倒的な静寂の中、トムの声とギターの音しか聞こえない。それは今回のツアーでトムが到達したひとつの極点を示していた。
Photo by SHUN ITABA
ザ・スマイル
『Cutouts』
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