ウィル・スミスの音楽人生を辿る ラップと俳優業、平手打ちからの復活劇と「チーム友達」
Rolling Stone Japan / 2024年11月19日 17時45分
「大谷みたいにヘイトをよけてきた 俺はウルフマン」。グローバル化が著しい音楽界に、驚きの日米コラボがやってきた。2024年の日本語ラップシーンを代表する千葉雄喜のアンセム「チーム友達」リミックスにハリウッドスターのウィル・スミスが参加したのだ。米国で頂点にのぼりつめた大谷翔平選手と自分を重ね合わせるなど、親日家らしいリリックも炸裂している。
KOHHこと千葉雄喜による「チーム友達」は、海外でも関心を集めてきた。アメリカでは、すでに米南部の伝説UGKのBun Bがリミックスに参加している。同曲に反応していたミーガン・ジー・スタリオンの場合、千葉を客演に呼んだ新曲「Mamushi」を制作し、米大統領選挙の応援集会でパフォーマンスするほどのヒットを記録した。
ウィル・スミスとのタッグは、ヒップホップの本場アメリカで千葉雄喜が勢いを決定づける一大ニュースだ。同時に、アカデミー賞での平手打ち事件を経たウィルにとっても、ラッパーとしてのカムバックの一打と言える。
映画と音楽のクロスオーバー
ラッパーとしてもスーパースターだったウィル・スミスのキャリアを振り返ってみよう。1968年、フィラデルフィアの中流階級に生まれたウィルは、高校時代、幼馴染とともにヒップホップデュオ「DJジャジー・ジェフ&フレッシュ・プリンス」を結成。1988年のブレイク曲「Parents Just Dont Understand(親はわかってくれない)」からもわかるように、イメージはコメディ寄り。アウトローや社会派のイメージが強かった当時のヒップホップシーンにおいて、ジャンルの大衆化を牽引した人気者になっていった。
ミュージックビデオでの演技が評価されると、俳優活動も花開いた。ラッパーとしての人格を基にしたテレビドラマ『ベルエアのフレッシュ・プリンス』や映画『インディペンデンス・デイ』など、大ヒットを連発。彼のハリウッドスターダムは、音楽と切り離せない。主演俳優兼ソロラッパーとして『メン・イン・ブラック』とその主題歌「Men In Black」を同時に成功させるなど、映画と音楽のクロスオーバーによって1990年代エンタメをウィル一色に染めていったのだ。
映画俳優としてトップの座を確立した2000年代後半に入ると、音楽活動は控えめになっていった。ただしマルチなタレントは健在で、SNSやビジネス分野に本格進出。実写版映画『アラジン』を大ヒットさせた2010年代には、本田圭佑とファンドも立ち上げている。子どものジェイデンとウィローもミュージシャンになったことで、ハリウッドを代表する芸能一族にもなった。
平手打ちが転機に「明るいイメージは虚像だった」
2022年には、テニス選手ウィリアムズ姉妹の父親役に挑戦した『ドリームプラン』によってアカデミー主演男優賞に輝く。しかし、ここでキャリア最悪の事態、平手打ち事件が起きてしまう。端的に言うと、アメリカの授賞式では、コメディアンが来場スターたちを痛烈にいじって笑わせるのが通例になっている。当時登場した人気芸人クリス・ロックは、ウィルの妻ジェイダ・ピンケット・スミスの髪を(彼女が脱毛症を告白しているとは知らず)侮辱した。かねてよりクリスと因縁があったウィルは、本人いわく怒りで「我を失い」、舞台にあがって相手を平手打ちしたのだ。
厳粛な場での暴力行為は、世界中で議論を巻き起こしていった。衝撃とされたもののひとつは、ウィルの楽天的イメージとのギャップ。しかしながら、こうしたウィル・スミス像は、すでに解体される最中にあった。
「本当の自分をずっと隠してきたんだ」。アカデミー賞の前、50代になっていたウィル・スミスは、フレッシュ・プリンス時代からつづく明るいイメージは虚像だったと告白していた。同世代のラッパーの中では恵まれた育ちとして知られるものの、暴力をふるう父親におびえながら育ったのだという。周囲を笑わせるようになっていったのは、そうすれば誰も怒らず暴力をふるわなくなるからであった。
父の暴力から母親を救うことができなかった罪悪感を抱えてきたウィルは、家族を喜ばせるため、仕事の成果を出すことにこだわり、キャリアを上昇させつづけた。しかし、父の死を節目に、自分や家族と向き合い、人に好かれるための演技をやめると決意したのだ。その直後、アカデミー賞で過ちを犯してしまったものの、結果的に、家族の絆は深まったようだ。事件を「聖なる平手打ち」と呼ぶジェイダが言うには、危機がもたらされたからこそ夫婦の絆が盤石となり、良いことがつづいていったらしい。
「どうか信じてくれ。ウィル・スミスは打ちのめされそうになったが バックミラーで振り返ってみれば あれは神がくれた機会だった 俺という人間をさらに高めてくれたんだ」
(ウィル・スミス「You Can Make It」)
平手打ちについて謝罪して活動を控えめにしていたウィル・スミスは、原点の音楽に向かっていった。自分を見つめ直すなか、歌詞があふれてきて止まらなくなったのだという。「新作のコンセプトは、人生真っ暗なときにこそ踊ること」。
ゴスペルと怒涛の復活劇
2024年は、ウィル・スミス復活イヤーとなった。春のコーチェラ・フェスティバルでは、人気レゲトン歌手J・バルヴィンのエイリアン・ステージにサプライズ登場。代表作『メン・イン・ブラック』シリーズの衣装でテーマソングをラップするエンターテイナーぶりを発揮した。サマーヒットを記録した新作映画『バッドボーイズ RIDE OR DIE』では、レゲエの大御所ショーン・ポールとの新曲「LIGHT EM UP」も手がけている。
授賞式カムバックに選ばれたのは、ブラックカルチャーを表彰するBETアワード。カニエ・ウェストことイェのサンデーサービスやカーク・フランクリンとともに披露されたゴスペルラップ「You Can Make It」は、逆境こそ成長の機会なのだというメッセージだ。
「音楽から映画へスイッチしたけど 俺から名言が出たらちゃんと覚えておけ
スタンディングオベーションで拍手を受けて ライトに照らされカーペットの上を歩く」
(Yuki Chiba ft. Will Smith 「Team Tomodachi (Remix)」)
怒涛の復活劇のなかドロップされた新作こそ、千葉雄喜との「Team Tomodachi (Remix)」だったのだ。冒頭で紹介した大谷翔平のラインは、幾多もの困難を乗り越えてきたラッパーとしての重みも内包している。シリアスな近作から打って変わって成功を誇示していくハードなスタイルは、ウィル・スミスが唯一無二のスーパースターであることを世界中の人々に思い出させることだろう。
Yuki Chiba - TEAM TOMODACHI (WILL SMITH REMIX)
配信:https://willsmith.lnk.to/team_tomodachi_remix
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