革新と普遍を併せ持つ10組の共演、「ツタロックDIG LIVE vol.16」現地レポ
Rolling Stone Japan / 2024年11月25日 18時0分
「ツタロックDIG LIVE Vol.16」が2024年11月9日(土)に東京・Spotify O-EASTにて開催された。今、チェックしておきたい次世代のシーンの主役を集結させる「ツタロックDIG」。Vol.16はChevon、ブランデー戦記、レトロリロン、yutori、名誉伝説、ハク。、606号室、pachae、G over、そしてオーディションを勝ち上がったミーマイナーと、期待を集めるロックバンド10組が出演。10組それぞれの個性がふんだんに出たこの日のライブレポートをお送りする。
今イベントはメインに当たるホールような広さを誇るMASSIVE STAGEと、その正面から右手にあるライブハウスのステージそのもののCOSMIC STAGEの2ステージ制。転換時間も少なく、体を向けるだけで2ステージが堪能できる。ミーマイナーからChevonまで、ほぼノンストップで駆け抜けた。
【写真】「ツタロックDIG LIVE Vol.16」ライブの様子(全135枚)
ミーマイナー、憧れの景色の前でロックに輝く
オープニングアクトとして登場したのは、Eggs Passオーディションを勝ち抜いてステージを掴んだ結成2カ月・邦ロックバンド、ミーマイナー。
ミーマイナー(Photo by 清水舞)
美咲(Vo&Gt)は開演前のサウンドチェックの時から、ずっとニコニコワクワクしていた様子だった。そして迎えた本番は、さすけ(Ba)、わたさん(Sup.Gt)、葵(Sup.Dr)と力強く音を鳴らし「ミーマイナーです! どうぞ始めまーす!」と力強く挨拶。ただここでトラブルが発生し、曲が始まるまで美咲が話して繋ぐ。その中ではここまで決してキラキラとした歩みではなく、ずっと音楽をやることさえ止められ、何年も隠れてやるしかなかった過去も赤裸々に話す。そんな中やっと掴んだ大舞台を噛み締めるように始まった1曲目は「君の言う通りだった」。ステージから促すよりも前に大きなクラップが起きる。そしてサビでは拳も後ろまで上がる。美咲は「この景色を見るのが夢でしたー!」と叫ぶ。2曲目も疾走感溢れる「オンリーロンリータウン」。ただその疾走感の中にも彼女のノスタルジックがあり、それと掛け合わさったエモーショナルはしっかりライブハウスの熱量。さすけのコーラスもそれを支える。
最後のMCでも、紆余曲折を経てさすけと出会い、バンドを組めた今に感謝し、「周りは色々言ってくるけど、誰も人生の責任は取ってくれないから、あなたがあなたらしくロックに輝いてください! それを証明しに来ました! これがミーマイナーという音楽です!」と決意表明。そして今のこのバンドの代表曲「ワンルームナイト」を最後に演奏。しっかりと盛り上げるだけでなく、フロア1人1人が”やりきれない夜に聴きたい曲”として、この曲を覚えただろう。最後に「いつかツタロックのメインステージに立ちます!」と宣言し、ライブは終了した。
この日はこれからSpotify O -EASTのフロアはブチ上がっていくのだが、間違いなく最初にバンドリスナーを揺らしてくれたのは傷だらけのロックバンド・ミーマイナーの音楽。彼女たちの夢は続く。
<セットリスト>
1. 君の言う通りだった
2. オンリーロンリータウン
3. ワンルームナイト
名誉伝説、ユーモラスと奥深さが同居する関東初ライブ
名誉伝説(Photo by 清水舞)
意外にも関東で初ライブという名誉伝説。赤の衣装のこたに(Vo)がギターを持って始まったその1曲目は「ラヴィング」。すぐさま暖かい愛の温度が充満し、この数日で感じ始めた秋冷を忘れさせる。5人の鳴らす音にはナチュラルで味わい深いキラキラが付随していて、唯一無二のPOPセンスを感じさせる。ただ歌詞を聴くと、いろんな解釈もできそうで……このバンドの面白みにハマりすぎちゃいそうで逆に怖い。いや、もうこの日ライブ見た人は手遅れです。そしてこたにがハンドマイクに変わり、大波メロディ(Dr)のドラムカウントから「シャバイライ」へ。「飛べる?」というこたにの合図から飛び跳ねるフロア。サビではこたにと歌詞に合わせて、フロアもちゃんと指を3本→1本→2本と変えて掲げていたのがハッピー。ひだまりユトリ(Ba)も体全身でリズムを取って、けっさく(Gt)のギターもこの曲の持つ不思議なゴージャス感を演出する。
「来週リリースの新曲やります」と告げてから「ルビを振れ」へ。紫の照明が似合う怪しげで少しサイコなサウンド。そこにサビで繰り返す<私と書いて〇〇と読め>という歌詞がしっかり脳内をリフレインさせ、フロアに1人1人を洗脳する。新曲で少し違った側面を見せた後、元々彼らの中でもダークさの強い衝動的なロックチューン「地獄でスキップ」を演奏。深い赤の照明と共に、鳴り響くギターロックで圧倒していく。この2曲の流れはフロアを完全支配している。こたに支配感。今後も見せ所になりそうだ。この後に続いたのは「今晩の喧嘩」。ダウナーな世界観がガラッと変わるユーモア溢れる1曲。「まだまだいける?」とこたにがフロアに聞くと大きな歓声が返ってきた。きっちりSpotify O-EASTをその自由自在なメロディで掌握していた。
「後半戦ですがツタロックDIG楽しんでますか?」という問いにはもちろん大きな拍手。そして「一緒にドライブしよう!」という言葉から「ナビゲーター」へ。助手席で好きな人と一緒に鼻歌を歌うような幸せがフロアを包む。安心安全運転な穏やかなサウンドが進むが、間奏のけっさくのギターは少しアクセルを踏んだように思えて心地よい風を感じたし、スローになるところでは歌詞通り渋滞に捕まった感じもあった。最後に感謝と「また必ず会いましょう!」と告げて、「プロポーズ文句」へ。”タン、タタン”のクラップが最後まで心地よい。ステージ上の5人がどこまでも自然体にバンドを楽しんでいる様子に、こちらもまた名誉伝説のライブで”これからも愛を作って守っていきたい”と感じさせた。
<セットリスト>
1. ラヴィング
2. シャバイライ
3. ルビを振れ
4. 地獄でスキップ
5. 今晩の喧嘩
6. ナビゲーター
7. プロポーズ文句
ハク。、彼女達にしか出せないライブの雰囲気
ハク。(Photo by キラ)
ツタロックは大阪編の出演からは2年ぶり、東京では初出演となったハク。。登場した4人はステージ上でセッティング完了すると集まって気合を入れる。まゆ(Dr)のドラムが鳴り出し「ハルライト」からスタート。先ほどの名誉伝説とはまた違い、カーテンの隙間から差し込む暖かな春の光のような温度が会場を包む。あい(Gt.Vo)の伸びやかな歌声とは裏腹に演奏は実にタイトで、加えてコーラスも効果的。ここに高校時代から積み上げた高い演奏力とコンビネーションを感じる。フロアもその演奏に合わせて小刻みに揺れていた。続けて最新曲「頭の中の宇宙」へ。右肩上がりなアップテンポなナンバーに会場も高揚していく。
丁寧に挨拶をした後、「今の時期にぴったりな歌を」と始まったのは「自由のショート」。なずな(Gt)とカノ(Ba.Cho)の鳴らす1音1音にも、冷えてきた風の持つその虚しさを含んでいるが、それを真っ直ぐに鳴らす4人の姿に少しずつ自分の中の血流が良くなっていった。そんな整ったフロアにちょうどいいリズミカルなテンションのドラムが鳴り出し「dedede」へ。あいも時にスタンドマイクを触りながら力強く歌を届けるし、そもそもこのアトラクション的なサビには抗えず楽しくなっていくSpotify O-EAST。その心地よいリズムの余韻が抜けないまま「回転してから考える」へ。まだまだ余韻でクラクラしている僕らにAメロでゆっくりと紐を巻き付けて、待ちに待った力強いサビで一気に4人に回されるコマになったような感覚。まだまだ目が回っているのに、そのサビは何度もくるから……さよなら重力。
「ツタロックでまた会いましょう」と告げてラストナンバーは「無題」。先ほどのアトラクション的なロックチューンも彼女たちの魅力だが、やはりこのじっくり深呼吸するような生命力溢れる、時間をじっくり使った楽曲も魅力。最後は白の照明と共に、僕らが聴いていて浮かんでいた情景もホワイトアウトして終了した。
最近はSNSでも話題になった彼女達だが、全編通じて感じたのは高校時代から4人で大阪のライブハウスシーンで積み上げてきたコンビネーションから生まれる独特な中毒性。このサウンドは非常にタフであり、目標となるものになるだろう。
<セットリスト>
1. ハルライト
2. 頭の中の宇宙
3. 自由のショート
4. dedede
5. 回転してから考える
6. 無題
yutori、あなたの感情を受け止める音楽
yutori(Photo by キラ)
「ツタロックDIG、yutori始めます。よろしくどうぞ」
佐藤(Vo.Gt)がそう言うと力強く音を鳴らし、1曲目「君と癖」からスタート。「全力でウチらと遊んでくれ」という佐藤の言葉通り、フロアが大きなクラップを鳴らしたり拳を上げる中、内田(Gt)、豊田(Ba)も大きくステージを使って楽しそうに演奏する。サウンドはキレッキレな”動”の中にも、感情を刺激する”静”もあり、佐藤の歌声はより強く、浦山(Dr)のドラムの細かな音まで、しっかり届けいてくる。熱量高いまま繋いだ「センチメンタル」。さらに4人のロックな攻撃的な姿勢は増したが、フロアからのクラップの音量もさらにすごい。その光景に豊田も思わず何かを叫んでいた。ラストの「1、2!」の掛け声もステージ、フロアの双方タイミングばっちり。
「今日はここにいる全員で忘れられない1日を作っていきましょう」というMCに続いて始まったのは「白い薔薇」。佐藤の落ち着きの中に潜む、今にも崩れそうな儚さが表現された歌声が寂しげなメロディラインと絡み、サビではそのギリギリの感情が爆発する。歌詞に合わせた白の照明もさらに会場を引き込ませた。ただ良い意味でそのセンチメンタルさを打ち切るようなドラムとベースラインが鳴り響き、カオスな世界観にご招待する「有耶無耶」へ。こんな色素も持ってるのかと思わせたが、「教えて……ねぇ、ギター⁉︎」からの内田のギターソロで会場の熱狂は最高潮へ。彼ららしい洗練さや骨太さとはまた違う新しい姿を見せており、最後の佐藤の「ありがとう」も別人格のようだった。
「楽しい時間はあっという間で残り3曲です。最後までお付き合いお願いします」と話し、最新リリース曲「合鍵とアイロニー」と「巡ル」を繋げる。この2曲の流れと<情けないな>と今日一番の絶叫を見せる佐藤の姿を見ていると、自分の弱さを必要以上に否定してはいけないと感じた。最後の曲の前に佐藤は2年前の初出演からメインステージに出演できたこと、今日出会ってくれたことに感謝し「私たちは一生ライブハウスで音楽を鳴らしています。歌っています。あなたが何か嫌なことがあったら、あなたの泣く場所に、帰る場所になれるよう、いつでもあなたを待ってます。yutoriでした。ありがとう」というMCから「煙より」へ。大きな音楽への愛、バンドへの愛を彼らと確認しあったフロアは、サビ前の佐藤の「おいで」の一言で、ついに本当に大切にしたい感情が解放された空気に。ただそれはフロアだけでなく、ステージの最前に駆け出してギターを弾く佐藤と内田、フロアへ愛を叫んでいた豊田もそのように見えた。そんな全員を等身大に変えて<何でもできる>気持ちにさせる浦山の作る楽曲が本当にすごい。最後は全員一体となって歌い、佐藤は「音楽はあなたを否定することはない」と伝え、万感の思いが詰まった拍手を巻き起こして終了した。
<セットリスト>
1. 君と癖
2. センチメンタル
3. 白い薔薇
4. 有耶無耶
5. 合鍵とアイロニー
6. 巡ル
7. 煙より
606号室、力を出し切った大阪のピアノロック
606号室(Photo by 清水舞)
never young beachの「Hey Hey My My」のSEで登場。そして4人で音を鳴らし昇栄(Vo.Gt)の「大阪から、606号室です!」と高らかに叫び「未恋」からスタート。東京でのツタロックDIGは、Vol.13で15分尺のClosing Actも経て、ようやく辿り着いた初の30分尺。彼らの何度も演奏してきた代表曲だが、この日は一層の気合を感じ、そのステージ上の熱気に煽られるかのようにフロアからクラップが鳴った。2曲目「おとぎ話」は一転メルヘンで冒険感のあるワクワクなサウンド。楽曲を色付ける円花(Pf.Cho)のピアノと昇栄のギター、そしてワクワクの下地になっているのは、躍動感の演奏をするゆうあ(Ba)とくわ(Dr)のリズム隊のパワフルな演奏だ。そして畳み掛けるように「次の曲、めちゃくちゃ楽しい曲やるんで! 俺たちと飛んでくれますか!」と伝えて始まったのは「スーパーヒーロー」。後ろまでしっかりジャンプするフロア。円花の右手の拳を掲げたままのキーボードソロは、その後ろでも大きく見えた。
MCでは出演の感謝を述べた後「今、自分達が持ってる力を全部出し切るので、どうぞよろしくお願いします」と話し「私」へ。ストーリー性のある楽曲で引き込み、「ここから後半戦! まだまだいけますか!」の言葉から彼ららしい青春ロック「いつだって青春」を投下。その疾走感溢れるPOPナンバーにフロアも軽やかに染まり、頭の上で力強いクラップを鳴らす。その疾走感そのままに4人が4人の激しい音を鳴らしてから始まったのは「君のことは」。「未恋」と同じく長く愛される楽曲で、私も何度も彼らの地元・大阪のライブハウスで聴いてきた曲だが、またライブでの圧力が増していると感じる。そのスケールは初見のお客さんにもしっかり届いただろう。
拍手が鳴り終わると、円花がドビュッシーの「月の光」を静かに演奏し始める。その演奏の中、昇栄が「ラスト1曲。僕がギターも弾けなかった18歳の時に書いた歌を」と話し「静寂の夜」へ。今までの熱狂とは一転、重い闇夜に包まれたように変わる会場。1人の少年の不安と強い願いをそのまま書いた歌詞と歌声、それを受け取って大事にかつ全力で演奏する姿と音を、最後にじっくり受け取ったことが分かる拍手が鳴った。
今回のライブには「もうここまで来たら引き返せない」という強い気迫のようなものを感じた。4人だからこそ出せるロックで、これからも1歩ずつ上がっていってほしい。
<セットリスト>
1. 未恋
2. おとぎ話
3. スーパーヒーロー
4. 私
5. いつだって青春
6. 君のことは
7. 静寂の夜
レトロリロン、友達と作り上げた30分
レトロリロン(Photo by 清水舞)
前のyutoriと606号室が気迫のこもったライブを見せたからだろうか。リハーサル中に少し緊張感が漂っていたが、涼音(Vo.Ag)が「全然喋ってていいよ」とほぐす。まずこのバンドのフレンドリーな雰囲気が多くのリスナーに愛されている理由だと感じた。登場の際もオリジナルのSEで徐々に期待感を上げていき、最後に涼音が「イエーイ! ツタロックDIGライブー!」と元気よく登場。「さぁ中盤、疲れてない? 大丈夫? じゃあもっと疲れていこうかー! よろしくー!」と気遣いながらも、しっかりテンションを上げさせる。
そんな彼らの1曲目は「ヘッドライナー」。コールアンドレスポンスもあって、大きいステージでもしっかり巻き込む楽しいミュージックだが、どこか1人部屋で気楽にヘッドフォン付けてノリながら聴いている感覚も思い出させる。そんな曲の親近感も保ちつつ、続く「DND」はホーンサウンドも加わって情熱的なナンバー。涼音もお立ち台に上がってフロアを指して会場を盛り上げる。<誰にも止められない>という歌詞の通り、レトロリロンのライブは天井知らずにキラキラが加速していく。
続くMCでは「乾燥が嫌になる季節ですね」「ステージの作りがすごい」「今、休憩してます。最近前半戦で飛ばす傾向があるので」「いつもは皆さんのタイミングでライブ来てねって言ってるけど、ワンマンぐらいは来てって言っても良いよね? 顔覚えておこう」と軽快なトークで沸かす。そして3曲目は「Document」。大人しくも印象的なイントロで始まるこの曲は、紫色の逆光も相まって、直接脳内に響き渡ってくるよう。徐々に理性をアンコントラブルにさせられ、サビでの<oh oh oh oh oh>の合唱の声は大きくなる。ただそれはステージ上の4人も同じで「自由に!」と言い放った涼音もステージ上を駆け回って、飯沼(Ba)と肩を組んだり、miri(Key)と向き合って踊ったりしていた。そんな自由な空間を少しだけ引き締めるような永山(Dr)のドラムの入りから、オシャレでアーバンなイントロが鳴り出せば「アンバランスブレンド」の合図。そのどこか切なくも煌びやかで温かいサウンドはちょっと先取りのクリスマス的な感じも。涼音もステージ上で1人1人の手を握っているようで、その温かみが曲を通して伝わってくる。
そして軽快なバンドサウンドの中「この曲を書いてから少しずつ友達も増えてきて、みんなと友達になって帰りたいんですけど、どうですかね?EAST」と訊ねると大歓声が返ってくる。「じゃあツタロックDIGライブ全員友達になってくれますか!」と「TOMODACHI」がスタート。飯沼も最後まで体全身でリズムを取り、miriのキーボードも1つ1つ明かりを灯すように会場を明るくする。終盤の永山のパワフルなドラムは曲のメッセージをさらに後押しする。そして最後は<ラララ>の合唱が起こり、友達との楽しい時間が終了した。
<セットリスト>
1. ヘッドライナー
2. DND
3. Document
4. アンバランスブレンド
5. TOMODACHI
pachae、高い完成度で魅せた。大阪のPOPの担い手
pachae(Photo by キラ)
Welcomeと書かれた電飾がステージに飾られ、SEでクラップが巻き起こる中で登場し、「チョウチンカップル」からスタート。バンバ(Gt)の巧みなギターの音は深海を探るようなドキドキ感を演出する。サビでさなえ(Key)が拳を上げると、奥の方までしっかり手が上がる。早速巻き起こった盛り上がりで、首だけ向けて聴いていたお客さんも少しずつ正面を向く割合が増える。2曲目「ハツがハツラツ」でも奥から隅への広がり、なんならDNAまで浸透していくpachaeの音楽。軽やかなリズムにゆらゆら揺れながら弾くみっつー(Sup.Ba)もいい味が出る。お茶っ葉みたいだ。3曲目は攻撃的で強めのギターイントロと力強いサビで雰囲気を変える「トロイメライ」へ。どんなタイプの曲にも対応する笠置(Sup.Dr)含めたいつもの5人での演奏力の高さに驚くが、個人的にはさなえがいつもより遠くまで届けようと強くキーボードを叩いているように見えた。
MCで音山(Vo&Gt)は多くの人に見てもらえて最高な気分なのと、頭上のライトが近くてフロアの人が思っている8倍暑いことを伝える。そして先ほどのレトロリロンと被せた乾燥の季節に関するトークへ。病院で喉を見てもらうと生後1カ月の赤ちゃんにしかできない症状が出ていたそうな。しっかり”ベシャリ”でも沸かせた後、新曲「アイノリユニオン」へ。現在、アニメ主題歌にも起用され、フロアの反応を見ても「これ知ってる!」という反応が多い。生で聞くと各パートの音の重なりが秀逸で音山のギタープレイにも魅せられる。何よりそっと寄り添うPOPさが、今後もpachaeの代名詞となる可能性を示した。そして「ツタロックまだいけますかー!」という煽りから、「ダンシング・エモーション」へ。少し忘れかけていた夏を思い出させるダンスナンバー。バンバと笠置の複雑なコーラスやノリにも、どんどんフロアがついていけるようになっていく。音山も素足で、2ℓ飲料をがぶ飲みしていて、夏。
最後のMCでは「我々pachaeは最近多くの人に見てもらえる機会が増えているのですが、フォロワーが全く増えないという病に陥っているので、皆様ポチッとフォローしていただければ、ものすごく笑顔になりますのでフォローしてください。よろしくお願いします!」と切実に伝え、残り2曲へ。「愛は並ぶ」はクラップも巻き起こるだけでなく、間奏では自然とステップも踏みたくなるギターのリズム。まだまだ引き出しを感じさせながらラストは「遣る方ないブルース」。キーボードのイントロでまた新鮮な奥行きが生まれ、そういった押し引き、緩急、サビではフロアが楽しく手を横に振り、本当に最後まで飽きさせない。大歓声の中「ありがとうございました! 大阪からpachaeでした! おおきに!」と伝え、浪速の良質ポップスをしっかり届けた日となった。実際に見に来ていた私のXのフォロワーはライブ後にフォローしていましたよ!
<セットリスト>
1. チョウチンカップル
2. ハツがハツラツ
3. トロイメライ
4. アイノリユニオン
5. ダンシング・エモーション
6. 愛は並ぶ
7. 遣る方ないブルース
ブランデー戦記、雰囲気をガラッと変えた轟音
ブランデー戦記(Photo by 清水舞)
ボリ(Dr)は登場するやいなや会場を広く使って煽り、みのり(Ba.Cho)は一礼、蓮月(Gt.Vo)はピンクが印象的な衣装で目を引く。眩しい逆光の中、1曲目はギターの弾き語りで始まる「Coming-of-age Story」。そのザラついた感触があるロックンロールにフロアも手を上げて応えるが、先ほどまで続いたポップな雰囲気とは変わる。最後にギターを静かに鳴らし「よろしく」と蓮月が言った後の拍手に続いたのは「Musica」。やはりこの曲の持つ、音楽リスナーに与えるニュース性は唯一無二だ。子供の純真性と大人の色気を表したような、水色とピンクの強いバックライトもこの曲でないと似合わない。蓮月が前に出てギターを弾き、フロアを見渡す場面もあった。3曲目「Kids」はまず蓮月とみのりの息の合ったギターとベースのイントロに息を呑む。そこからさらに鋭度を増したサウンド。みのりのコーラスでもしっかり捕まえて、そのギザギザなロックサウンドを素肌にぶつけてくる。ボリのドラムの程良いシンバルの甲高い音も、さらに攻撃力を高める。
感謝を伝えた短いMCの後、「悪夢のような」で非現実感に没入させられて、どこか時間の感覚を忘れそうになる。それを目覚めさせるようなドラムが鳴り「二十日(11/20)リリースされる新曲をやります」と言い「27:00」を初披露。彼女達らしいダウナーさや無常感の味わいがありながら、非常に肉体的な疾走感があるナンバー。会場のボルテージを上げたのは書くまでもない。そのままみのりのベースと会場のクラップが合わさって一体感が高まった後、それを吹き飛ばすような強烈なギターを鳴らして「ストックホルムの箱」へ。スリーピースだからこそ出せる爆音と、やはり蓮月とみのりの歌声のハーモニーは曲の持つ感情の幅を広げていて、このバンドの持つ大きすぎる武器であることを証明する。そしてラストは「僕のスウィーティー」。僕らは破滅に向かう暴走機関車に乗せられていることに気付く。制御不能な車輪が轟音を立てながら猛スピードで駆け抜けていく。3人はというと蓮月も最後は倒れながらギターを弾き、フィニッシュ。
一応、会場出入り自由のイベントではあったが、そこまで終始大きく客層は変わってなかったはず。だがこのバンドが演奏を終えた時に上がる歓声は今までとは違ってどこか狂気を引き出されたように聞こえたし、それは邦ロックというよりは海外のライブの雰囲気も漂っていた。
<セットリスト>
1. Coming-of-age Story
2. Musica
3. Kids
4. 悪夢のような
5. 27:00
6. ストックホルムの箱
7. 僕のスウィーティー
G overのトリの務め方
G over(Photo by キラ)
板付でYoki(Gt)とibuki(Dr)が控える中、雨の中でのクラッシュを思わすようなSEの後、その2人がセッションを始める。激しいサウンドで生バンドとしての実力を示したところで、満を持してNao(Vo)がバンドのロゴタオルを掲げて登場。「G over始めます!」と力強く宣言し、「drive」からスタート。初っ端から「歌えるかい!」「ジャンプ! ジャンプ!」「盛り上がっていけるかい!」と積極的にフロアとコミュニケーションを取る。しっかり後ろまで飛び跳ねさせ、フロアからの<lalala>の声も大きくなる。2曲目の「スニーカー」でも「ツタロックまだまだいけますよね⁉︎」と煽っていく。大人びたクールなサウンドや歌声とはある意味裏腹に真っ向勝負な3人の姿は好意的に映っているはずだ。
MCではCOSMIC STAGEのトリを任されたことに感謝し、Naoは初見の人に向けての一言でウケを取る(私は結構笑いました。ネタバレしたくないので書きません)。そして「まだまだ盛り上がれるかーい!」と煽って、「Pluse120」を投下。飽きさせないメロディに紡いでいく言葉、そこに加わる会場のクラップで高揚感が増していく。しかし次の「I」では一気にシリアスな空気に。ステージ上で時に座ってNaoは愚痴るように、吐き捨てるように歌う。Yokiのギターも物寂しげで、そのNaoの孤闘感を引き立てる。そして、この闇な雰囲気をさらに引き継いで強くする「Hood」へ。この曲ではNaoはスタンドマイクで歌い、その指先まで何かが取り憑かれたかのように歌う。放たれる歌声だけでなく、吸う息にも狂気が込められ、Yokiとibukiの演奏もよりダークでアグレッシブに。3曲目までとは全く違う存在感に圧倒されながらも、終わるとフロアから大きな拍手が起こった。
最後のMCでは見てくれた人に再度感謝し、「トリにChevonさんが控えてますけども、体力残させるつもりは毛頭ないんで全力で盛り上がれますよね!」と今日一番強く煽り、「崩壊堕落サワー」へ。フロアからは初っ端から「ハイ! ハイ!」と完全に飲み会のテンションのコールが。そしてもう曲が進むとビールかけ、いやサワーかけ会場並の狂喜乱舞。飛んでよし、狂ってよし。Spotify O-EASTに”ライブバンド・G overのトリの務め方”をきっちり刻むライブとなった。
<セットリスト>
1. drive
2. スニーカー
3. Pulse120
4. I
5. Hood
6. 崩壊堕落サワー
Chevonのエースストライカーは君でもある
Chevon(Photo by キラ)
トリを務めたのはChevon。本日のイベントというだけでなく、実はツタロック10周年を飾るイベントのトリということでもある。本人達も「大トリってもんを見せに来た!」と気合を見せる。
Chevonは谷絹茉優というボーカルが圧倒的な声量と音域を誇り、そのキャラクターもあって注目が集まりがちだが、ライブではKtjm(Gt)、オオノタツヤ(Ba)、サポートドラム、そして観客との一体感で迫ってくる圧力のほうが印象に残る。それはまるで強豪サッカーチームの雰囲気で、実は点取り屋は谷絹だけでなく、フロア側も大部分を担っているように感じた。ただその谷絹から出されるパスがミュージシャン史上一番容赦ないかも! この日も何度も「こんなもんじゃないでしょ!」「あんたら最近たるんでるから一番大きな声聴かせろ!」「暴動を起こせ!」とドSなパスをフロアへ何度も出す。Ktjmやオオノも和やかな雰囲気に見えて、Ktjmはライブの展開を変えていく正確すぎるセンタリング(ギタープレイ)で何度も盛り上がりを演出してるし、オオノはベース演奏はもちろん、また谷絹の歌声とは違った魅力あるコーラスで曲の魅力を崩さず、むしろ押し上げている。そうやってできたお膳立てを谷絹の常人離れした肺活量で派手にシュートを決めるシーンも勿論ある。しかしそのハイレベルなお膳立てに120%で応えようと「大行侵」の重厚なサウンドに負けじと会場を揺らしたり、<冥冥!><正義、正義!>と声を張り上げるフロアこそが最大のChevonの武器だと感じた。
ただこの日は中盤から「薄明光線」「愛の轍」とバラードをしっかりと聴かせるパートも。加えて「ツアーを通じて思ったんですが、この曲は大事に歌ってみたいなぁと思いました。だから今日は大事に歌ってみたい」と「サクラループ」もスタンドマイクでいつかの春を懐かしむかのように歌っていた。その谷絹の目や指は変わらず力強く、Ktjmのギターソロもあって、美しき愛で会場は包まれた。
ただ「奥の方まで見えてるからね!」という「ダンス・デカダンス」、そして「アンコールはありません! ここで全部出し切ってください!」とラストの「Baquet」で150%のアドレナリンを互いに出していく。谷絹は最後まで煽るが、ここではオオノが煽る場面も。そして最高のエネルギーを充満させ「よくできました、O -EAST!」とピースを掲げながら谷絹は伝え、万雷の拍手の中「これからもどうぞよしなにー!」と絶叫して約束し、ツタロックDIGライブVol.16は終了した。
<セットリスト>
1. 大行侵
2. 冥冥
3. 光ってろ正義
4. 薄明光線
5. 愛の轍
6. サクラループ
7. ダンス・デカダンス
8. Banquet
今回は令和以降、独自のクリエイティブやPOPセンスをバンドに落とし込み、バンドによってはインターネットもしっかり活用しながら発信するという出演者の色が目立ったと感じる。
そういった新しいバンドの戦い方、新しいバンドの自由な在り方を提示しながらも、いつの時代も変わらないライブで必要な制圧力や巻き込む力も持っている。振り返ると、新世代はここから始まっていたと、そう思えるような日になったに違いない。
<イベント情報>
「ツタロックDIG LIVE Vol.16」
2024年11月9日(土)Spotify O-EAST
出演:Chevon、G over、ハク。、pachae、ブランデー戦記、名誉伝説、yutori、レトロリロン、606号室、ミーマイナー
主催・企画:CCCミュージックラボ(株)
制作:ライブマスターズ株式会社
協力:Rolling Stone Japan
公式HP:https://cccmusiclab.com/tsutarockdig16
公式Twitter:https://twitter.com/tsutarockliv
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