U2が語る『How to Dismantle an Atomic Bomb』20年目の真実、バンドの現状と未来
Rolling Stone Japan / 2024年11月22日 17時55分
U2が『How to Dismantle an Atomic Bomb』20周年記念盤をリリース。リイシューの全容、ドラマーとして復帰したラリー・マレン・ジュニアとのレコーディング、新たなツアーの計画、楽曲の膨大なストックなどについて、ジ・エッジが語った。
ジ・エッジは最近ノエル・ギャラガーに、U2が2004年にリリースしたアルバム『How to Dismantle an Atomic Bomb』のアウトテイクを集めたニューアルバム『How to Re-Assemble an Atomic Bomb』の収録曲を聴かせた。ノエルからは「俺の支払った金を返してくれ」とクレームを付けられたという。「最高の作品だって言うから、当時の俺は大金を支払ってU2のアルバムを買ったのに、君らはまだこんなに素晴らしい隠し玉を持っていたなんて……まるで詐欺だ!」
2024年11月29日、レコード・ストア・デイのブラックフライデー・セールで『How to Re-Assemble an Atomic Bomb』が解禁される(※編注:同日に単体LPがリリース。単体配信アルバムも11月29日リリース)。その日になればU2ファンは、ギャラガーの発言の真偽が確かめられるだろう。バンドが「シャドウ・アルバム」と称する同アルバムに収録の「Picture of You」「Luckiest Man in the World」「I Dont Wanna See You Smile」「Are You Gonna Wait Forever?」は、ファイナルバージョンか別バージョンの形で既に公開されている。一方で「Evidence of Life」「Treason」「Country Mile」「Happiness」「Theme From Batman」は20年もの間、人知れずストックされていた作品だ。
U2の原点回帰とも言える2000年のアルバム『All That You Cant Leave Behind』に続く『How to Dismantle an Atomic Bomb』は、全体として、バンドが2003年から2004年にかけて辿った魅力的でクリエイティブなプロセスを垣間見せるような作品だった。当時はポストNapster時代で、20世紀のロックバンドがヒットチャートから次々と姿を消している状況だった。アルバムの制作途中でバンドは、プロデューサーをクリス・トーマスからスティーヴ・リリーホワイトへと変更した。結果、何カ月もかけて作り上げてきた楽曲の多くを破棄するなど、U2にとっては困難なプロセスでもあった。
オンラインで行ったインタビューでジ・エッジは、苦労の末に完成した『How to Dismantle an Atomic Bomb』のセッションや、『How to Re-Assemble an Atomic Bomb』のために掘り出した過去のストック、次回作の進捗、ラリー・マレン・ジュニアの健康状態、そして将来的な未発表曲集の可能性などについて語ってくれた。
『How to Dismantle an Atomic Bomb』の制作背景
―今あなたはどちらにいますか?
ジ・エッジ:ダブリンだ。ちょうどレコーディング・セッションを終えて帰ってきたところさ。デモを作ったり、何曲か仕上げてレコーディングもした。ボノと僕の2人だけの作業だったが、楽しかったよ。
―『How to Dismantle an Atomic Bomb』ですが、当時ボノはギター中心のアルバム作りを目指して、ザ・フーやザ・クラッシュ、バズコックスなどからインスピレーションを得た、と話していました。あなたも同じ目標を持っていたということでしょうか。
ジ・エッジ:全くその通りだ。メンバーが結束して、バンドとしてのインスピレーションを模索していた時期だ。僕たちはギター、ベース、ドラムというシンプルな構成の曲作りを突き詰めながら、U2のクリエイティビティを初めて確立した。使う楽器に制限を持たせた創作作業は、刺激的な挑戦だった。創作プロセスにおいて、ダイナミクスがとても重要だからね。だから当時は、かなり意識しながらアルバム制作に打ち込んでいた。
―どのように方向性が定まったのでしょうか。
ジ・エッジ:僕たちが「パワー・アワー」と名付けた、ダニエル・ラノワと一緒に築き上げた方法論がある。週に1度か2度のペースで全員が集まって、とにかく即興で演奏するんだ。そうする中で曲のアイディアが生まれたことが、何度もある。
即興だから、メンバー同士がお互いの演奏にリアルタイムで反応しなければならない。想像もしていなかったような結果が生まれることもある。いい意味で常識外れなU2を聴けるコレクションだと思う。僕たちが積極的に採り入れた斬新な方法が生み出すカオスの良い面を、上手く利用できているんだろう。きっかけとなるのはラリーのドラムかもしれないし、アダム(・クレイトン)のベースかもしれない。あるいは僕のギターの時もあるだろう。とにかく思いがけず魅力的な音楽が生まれたりするのさ。
Photo by Anton Corbijn
―当初はプロデューサーとしてクリス・トーマスと制作を進めていました。セックス・ピストルズ『Never Mind the Bollocks(邦題:勝手にしやがれ)』という、歴史に残る素晴らしいギター・アルバムを手がけた人です。しかし数カ月後に、スティーヴ・リリーホワイトへと乗り換えました。クリス・トーマスとの仕事には、どんな不満がありましたか。
ジ・エッジ:クリスとはある程度上手くやれていたと思う。でもラフ・ミックスの段階になって、僕たちがどんどん作り出そうとするカオスを、クリスが懸命に鎮めようとしているのに気づいたんだ。彼の仕上げた作品が、僕たちにはとてもお上品に聴こえた。でもプロデューサーをパッと切り替えてしまう前に、僕たちは「スティーヴ(・リリーホワイト)と何曲かセッションしてみて、どんな仕上がりになるか試してみよう」という感じでまず様子を見たのさ。
誰と組むかは、全く偏見なく選んだ。それでも、僕たちがスティーヴと時間をかけて築き上げてきたより有機的なプロセスに、割とすんなり落ち着いた。彼はとても前向きかつ協力的で、経験豊富な人間だ。それに僕たちの能力や弱点もよく心得ていて、バンドの限界に縛られることなく、僕たちから最高の結果を引き出す力を持っていた。ポストパンク時代の僕たちは、とにかくシンプルかつストレートさを求めていたからね。
―スティーヴ・リリーホワイトとはデビュー当時からの付き合いなので、4人のメンバー全員のことをよく把握していたでしょう。
ジ・エッジ:その通り。僕たちはいくつか良いアイディアを温めていたし、磨けば光る曲の原石も持っていた。磨いてダイヤモンドになった代表的な例が、「Vertigo」だ。元々は「Native Son」というタイトルの曲で、既に仕上がっていた。完成度が高くソリッドで美しいロックンロール曲だと思っていた。ところがスティーヴが「君らならもっと良いバッキング・トラックを作れるはずだ」と言うので、ボノを除くアダム、ラリーと僕の3人でスタジオに入った。結局新たに3テイク録って、そのうちの1つを選んだ。
新しいバッキング・トラックに乗せて歌ってみたボノは、「”Native Son”よりもいいじゃないか!」という感じだった。そこでボノは、新たなバッキングによりフィットするメロディを考え、歌詞も真面目なドキュメンタリーチックなものから、もっと遊び心を持たせてみた。すると全くカラーが変わり、深みのある良い曲に仕上がった。これこそ僕たちが求めていた、理想的なカオスだ。
―「Beautiful Day」が大ヒットして、あなた方に再びスポットライトが当たりました。そんなアルバム『All That You Cant Leave Behind』に続く作品ということで、プレッシャーを感じませんでしたか?
ジ・エッジ:答えはイエスでノーだな。前作と同じ路線で行くつもりはなかったし、「Beautiful Day」が成功したことで、逆によりハードなギター中心の作品にしようと僕たちは決めていたんだ。
U2のアルバムは、常に過去の作品を意識して作られている。だから常にプレッシャーがあると言えばあるが、だからといって成功例をコピーするつもりもなかった。僕たちは二番煎じでは絶対に満足できなかったし、ベストなものを作り出すには常に新しいものを求め、音楽的に新たな領域へ踏み込まなければいけない。そういう僕たちの決意の延長にあるのが『How to Dismantle an Atomic Bomb』だ。
"Re-Assemble"収録のレア曲について
―間もなくリリースされるアルバムに収録される楽曲について聞かせてください。「Picture of You」には、「Fast Cars」や「Xanax and Wine」といった既に私たちも耳にしている別バージョンがあります。
ジ・エッジ:U2としては決して珍しいパターンではない。例えば『Achtung Baby』の時に「Lady With the Spinning Head」というデモ曲があって、最終的に「The Fly」と「Zoo Station」に細胞分裂した。同じようにひとつのギターリフから、「Xanax and Wine」と「Fast Cars」「Picture of You」が生まれた。
―ボノがボーカルを焼き直したように聴こえる曲もあります。
ジ・エッジ:全てではないが、一部はそうだ。収録曲を仕上げていく課程で、自分たちが20年前に抱いていたスピリットや当時の作品に忠実でありたい、と思った。だから、手を加えなければならないと思って作業したのは、1曲か2曲だけだ。だから「Picture of You」はコーラスの歌い方を含めて、ほぼオリジナルのままさ。それから「All Because of You 2」や「Are You Gonna Wait Forever?」なども正にそうだ。ほとんど手を加えなかった。一方で「Treason」には歌詞が欠けている部分などがあって、ボーカル・パートを付け加えた。それから「Luckiest Man in the World」の一部は、元々は「Mercy」という曲から来ている。
―「Evidence of Life」は、初めて耳にする曲でした。
ジ・エッジ:スティーヴがプロデューサーとして加わる直前に作られた曲だ。断片的なアイディアだけをスタジオへ持ち込んで、数日間で曲の形にした。確かドラムも僕自身で叩いたと思う。ドラムのプロではないから、曲全体を通じて演奏するのは無理だった。だから、上手く叩けた部分を8小節ずつ切り取ってつなぎ合わせたのさ。
物事は常に進んでいる。いろいろなものが脇へ追いやられて、振り返ることがない。B面の曲を検討する段階になって初めて立ち止まり、「どうしよう?」ってなるんだ。「Country Mile」や「Happiness」に関しては当時、「B面にするにはもったいない。いつかきっと日の目を見るだろう」と思っていた。
―「Treason」はデイヴ・スチュワートがプロデュースしています。どのような経緯で仕上がった曲でしょうか?
ジ・エッジ:南アフリカで開催したネルソン・マンデラのコンサートを前に少しレコーディングしていたが、その時点ではグルーヴとコーラスとギターの一部しか出来上がっていなかった。歌詞もなく、放置状態だった。でもU2らしくないユニークな曲で、とても気に入っている。
―「Country Mile」を初めて聴いた時、「どうして今までリリースされなかったんだろう?」と思いました。
ジ・エッジ:これもお気に入りのひとつだ。ラジオ向けにイントロ部分を少し変えたバージョンもある。僕はそっちの方が好きだ。作った当時は、メインの歌詞が今とは違っている。「Country Mile」の歌詞は、曲を焼き直しながら作り上げていった。当時はこの曲の歌詞の内容が、アルバムの他の曲で既に網羅されているような気がしたんだ。今振り返ると、「僕たちは何を考えていたんだ?」と思うけどね。
―ファンキーなグルーヴの「Happiness」も同じく素晴らしい未発表曲です。
ジ・エッジ:これもまた、時間の制約で最後まで仕上げられなかった曲のひとつだ。アルバムをリリースするまでの締め切りに追われて、妥協せざるを得ない時もある。「こっちにするか、それともこっちがいいか?」という中で、どういう判断だったのか覚えていないが、その時もまた歌詞が未完成だった。作りかけの曲をたくさん抱えていたが、「いい曲だから、いつかリリースしよう」と思ったのを覚えている。
―「Are You Gonna Wait Forever?」は、ブライアン・イーノとダニエル・ラノワも加わった『All That You Cant Leave Behind』のレコーディング・セッション時に作られた曲ですね。
ジ・エッジ:そうだ。僕たちは基本的に1枚のアルバムで完結させるんだが、次のアルバムに取り掛かる時にアイディアが継続することもある。例えば(『How to Dismantle an Atomic Bomb』に収録の)「City of Blinding Lights」は、『Pop』のセッションで原型が作られていたが、最後まで仕上げられなかった。でもこの曲を完成させて収録するにあたり、クリス・トーマスが大きく貢献してくれた。
―「Theme From The Batman」も初めて聴いた作品です。これはバットマンのどのシリーズ向けに書かれた曲ですか?
ジ・エッジ:以前、バットマンのアニメシリーズ向けのテーマソングを依頼された時に作った曲だ。YouTubeなどには上がっているかもしれないが、U2のレコードとしてはリリースしていなかった。だから今回「収録しよう」ということになった。
―ご自身でプロデュースして、ミュージシャンとしてのクレジットもあなただけです。まるでジ・エッジのソロ作品のようです。
ジ・エッジ:正にその通りさ。でもこの曲も、あの時、あの時代に生まれた作品だし、今回のコレクションは、当時の僕たち全員の考え方や志向をよく知る上で意義深いアルバムだからね。
―「All Because of You 2」は明らかに「All Because of You」の初期バージョンですね。
ジ・エッジ:そうだ。ボーカルと歌詞に少し手を加えて、バッキング・ボーカルを新たにアレンジした。でも、当時の僕たちが目指していた要素は凝縮されていると思う。エネルギッシュな曲だったが、メロディに満足が行かなかった。だからアルバムに収録するために焼き直した結果、よりメロディックな仕上がりになった。でも作品として完成したとはいえ、何かが失われたような気もした。今回取り上げた「All Because of You 2」には、どこか惹きつけられる純粋さを持ったありのままの姿が感じられる。
ラリー・マレン・ジュニアの復帰、バンドの現状と未来
―現在は、次のアルバムへ向けた準備に取り掛かっていますか?
ジ・エッジ:今はあらゆることに取り組んでいる。コロナ禍は、曲を仕上げたりアイディアを書き溜めたりしていたから、ものすごい量のネタがストックされている。いろいろ試したり音楽的な可能性を探ったりできる、良いタイミングだと思う。次のアルバムはギター中心になると思うが、ヘヴィなロック・アルバムにはならないだろう。典型的なロックにはなかったギターの使い方をするかもしれない。
僕たちはいつも、まとも過ぎる普通のやり方では演奏しない。ノーマルではU2らしくない。常にユニークなギターサウンドを追求してきた。それが僕たち自身も盛り上がれる重要な要素だと思う。
世の中の動向や流行をフォローするのでなく、自分たち自身がカウンターカルチャーの一部となり一般に広めていくのが、僕たちのやり方だ。今もそれは変わらない。それぞれの楽曲が、アルバムの向かうべき方向性を示してくれる。楽曲を仕上げていくうちに音楽が少しずつ明確な形になっていくんだ。
―ラリー・マレン・ジュニアの健康状態はいかがですか。スタジオで演奏できるまでに回復しているのでしょうか。
ジ・エッジ:ラリーとは1度セッションをしたよ。近々もう1度スタジオに入る予定だ。いい感じでできている。もちろんいきなり無理はさせたくないが、彼の状態は良い。スタジオというクリエイティブな空間で彼と過ごせるのは、本当に素敵な時間だ。
―現時点で、次のアルバムのプロデューサーは決まっていますか?
ジ・エッジ:ジャックナイフ(・リー)とはずっと一緒で、彼とは上手くやれている。いくつか別のプロジェクト向けのセッションも、同時並行で予定されている。最終的にはU2のプロジェクトとして組み込まれると思うけどね。いろいろな人間と一緒にやれて、楽しいよ。今はいろいろなことを試す実験段階で、音楽が僕たちを導いてくれるのを待っている状態だ。とにかく今は状況を楽しんでいるよ。
―スタジアムやアリーナを含めて、ツアーの予定はありますか?
ジ・エッジ:ツアーについて今のところ具体的には決まっていないが、何度か話し合いはした。さっきも言ったように、僕たちのアルバムは過去の作品を意識して作られている。次は、スフィアでのコンサートを踏まえて、また全然違ったものを打ち出そうと思っている。でも具体的な形はまだ見えていない。
ファンの前で演奏できる日を楽しみにしているよ。ファンに来てもらうというよりも、僕たちの方から出向くというスタンスが大事なんだと思う。ツアーに伴う温室効果ガスの排出量を削減しつつ、僕たちがファンのいる場所へ出かけてコンサートをする方法がきっとあるはずだと信じている。
―2027年にリリース30周年を迎える『Pop』のボックスセットを心待ちにしているファンも多いと思います。それから『No Line on the Horizon』の姉妹版としてリリースされるはずだった未発表アルバム『Songs of Ascent』も、リリースが期待されています。どちらか一方でも実現の可能性はありませんか?
ジ・エッジ:どちらも可能性は高いと思う。でも今のところ積極的に進めてはいない。でもきっと実現すると思うよ。さっきも言ったように、取り組むべき曲の素材が山のように溜まっている。過去にリリースしたU2のアルバムそれぞれから、多くの曲のアイディアが生まれている。『Pop』に関しても何かしらの取り組みができると思う。当時は、クールで実験的な試みをたくさん採り入れていた。とても懐かしいよ。だからきっと、ファンの期待は実現するだろう。
―新作としてのアルバムのリリース間隔は、今回が最長になっています。多くのファンが、次の展開を期待しています。
ジ・エッジ:僕自身もそうさ。ニューアルバムのリリースも、そしてツアーも待ち切れない。
From Rolling Stone US.
U2『 How To Dismantle An Atomic Bomb (20周年記念盤)』
2024年11月22日リリース
日本盤のみSHM-CD仕様
5CDスーパー・デラックス:UICY-80532/6 / 23,100円(税込)/ 輸入国内盤仕様 / 完全生産限定盤 / 写真集翻訳・解説・歌詞・対訳付
1CD通常盤:UICY-16260 / 3,300円(税込)/ 解説・歌詞・対訳付
再生・購入:https://umj.lnk.to/U2_ht20
日本盤先着購入特典:https://www.universal-music.co.jp/u2/news/2024-10-18/
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