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Hippo Campusが語る、インディー・ロックの夢を受け継ぐバンドが歩んできた軌跡

Rolling Stone Japan / 2024年11月27日 17時30分

Photo by brit o'brien

高校時代に同級生と結成したバンドで世界中のライブハウスやフェスを回り、有り余るアイデアをアルバムに落とし込んで拡散する。ヒッポ・キャンパス(Hippo Campus)は、そんなインディー・ロック・キッズたちの夢を、今日的なアプローチで叶え続けている存在だ。

2013年にミネソタ州セントポールの高校で結成され、作品をリリースするたびにアレンジのアプローチを変えながら、2010年代以降のロック・サウンドをポップな形で体現してきた彼ら。アメリカのみならずヨーロッパでも継続的にツアーを行い、先日の初来日公演でも超満員のオーディエンスを熱狂で包み込んだばかりだ。

バンドのディスコグラフィを辿ると、ロウ(Low)のアラン・スパーホークやBJバートンといった名プロデューサーが活動の初期から並走していたことがわかる。ボン・イヴェールやスネイル・メイルとも協働するブラッド・クックを招き、装飾のないシンプルな演奏を収録した最新作『Flood』は、そんなヒッポ・キャンパスの現在地を示す好作だ。雄大なスワンプ・ロックの影からは、バンドの10年間の労苦と、息を合わせて演奏することへの素朴な喜びが伺える。

ヒッポ・キャンパスというバンドはどのように形成され、彼らの出会ってきた人々や音楽は現在の活動へどのように繋がっているのか。(図らずも)バンドにとっての記念すべき日であった東京公演の初日、ライブ直前のジェイク・ルッペン(Vo, Gt)とネイサン・ストッカー(Gt)に、その足跡をたっぷりと語ってもらった。


左からネイサン・ストッカー、ジェイク・ルッペン、ザック・サットン(Ba)。2024年11月19日、下北沢シェルターにて撮影(Photo by brit o'brien)


初来日公演は初日・新大久保アースダム、2日目・下北沢シェルターのどちらも超満員(Photo by brit o'brien)


—実は、今日(取材日:2024年11月18日)はヒッポ・キャンパスの最初のEP『Bashful Creatures』のCDリリースからちょうど10周年なんです。

ジェイク・ルッペン(以下、ジェイク):本当!? 初めて知ったよ! 今夜のセットリストを考え直さなきゃかもね。

ネイサン・ストッカー(以下、ネイサン):ヤバいね。

—そんな記念すべき日に合わせて、今回はこれまでのバンドの活動を振り返らせてください。まず、同級生同士でバンドを結成してから2014年の『Bashful Creatures』をリリースするまでの話を聞かせてください。当時のことは覚えていますか?

ネイサン:僕らはとても奔放で、ただエネルギーが有り余ってるだけの高校生だった。バンドの一員として演奏することに興奮していたし、お互いのケミストリーに感動していたよ。

ジェイク:好きなバンドも同じだったからね。

ネイサン:そう。放課後とか週末になるとベースのザック(・サットン)のお父さんが持っていた地下室に集まって、みんなで曲を作っていたよ。あとはエアガンを撃ったり、『スマッシュブラザーズ』をやったり(笑)。



—そもそも、最初にバンドを結成した時はどういう音楽をやろうと思っていたんですか?

ネイサン:僕はUKロックが好きだったんだ。リトル・コメッツやボンベイ・バイシクル・クラブ、あとはラスト・ダイナソーズとかも聞いてたよ。ギターの主張が強くて、メジャー・ペンタトニックを使いがちで、ボーカルの声が面白いバンドとかが多かったかな。

ジェイク:トゥー・ドア・シネマ・クラブはまさにそうだね。僕はポリスとかのクラシック・ロックが好きで、そこから派生したサウンドのバンドも聞いていたよ。

ネイサン:僕らはいわゆる”インディー”という概念に縛られていたね。そういう音楽ばかり聞いていたよ。

ジェイク:だからこそ、僕たちは”インディー・ロック”というジャンルの中でユニークであり続けようと思って、色んなプロデューサーとコラボレーションをしているんだよね。ヒッポ・キャンパスの音楽がユニークなのは、単にインディー・ロックを経由しているからでなく、新しいバージョンのサウンドを発明している人たちと仕事をしているからなんだ。




—最初のEP『Bashful Creatures』はロウのアラン・スパーホークのプロデュースですよね。

ネイサン:アランは今でも僕らのインスピレーションの源なんだ。もちろんロウはずっと好きだったし、『Bashful Creatures』を作った時もクールだと思っていたけど、彼がどれほど偉大なのかは分かっていなかったよね。当時の僕らは未熟だったよ。

ジェイク:最初にアランがスタジオに入ってきた時、僕らはリヴァーブのツマミを10まで上げて演奏していたんだよね。そうしたら彼が「リヴァーブは禁止だ」と言って、全部オフにしたんだ(笑)。

ネイサン:そうそう。「誤魔化しちゃダメだ」って感じでね。

ジェイク:最高のレッスンだったよ。アランのような、僕らと違う音楽性のプロデューサーと一緒に仕事ができたのは有意義だったね。もしあの時にLAへ行って、ポップスのプロデューサーと仕事をしていたら、今のヒッポ・キャンパスはなかったかもしれない。僕らはデビューの頃から偉大なプロデューサーの下で学ぶことができたし、だからこそ今でもバンドを続けられているんだ。


Photo by brit o'brien


Photo by brit o'brien

—2017年リリースの1stアルバム『Landmark』と翌年の2ndアルバム『Bambi』はBJバートンのプロデュースでした。彼との制作はいかがでしたか?

ネイサン:プロダクションについて、とても多くのことを勉強させてもらったよ。自分たちのアレンジの可能性を広げてくれたし、画期的なものを作ろうとしている僕らを後押ししてくれたね。『Landmark』と『Bambi』を作っている時はツアーやライブの連続で、自分たちがバンドに何を求めてるのかわからなくなるような時期だったんだ。BJバートンはそれを前向きに支えてくれたよ。





—確かに、当時はフェスの出演や他のバンドのサポートアクトも多かった印象です。その頃に観て印象に残っているバンドはいますか?

ジェイク:モデスト・マウスと一緒にUKツアーを回ったことがあったんだ。ずっと好きなバンドだったし、アイザック・ブロックのキャラクターも知っていたから、リヴィング・レジェンドと一緒にライブをすることが信じられなかったよ。最初、僕らは隅っこの方で縮こまってたんだけど、アイザックが「こっちにおいで!」って招いてくれたんだよね。

ジェイク:今はサミアチャーリー・ブリスのような、自分たちがプロデュースをしているバンドと一緒にツアーを回ることが多いんだ。同じコミュニティにいる素晴らしいミュージシャンたちだね。




—2022年の北米ツアーはCHAIと一緒に回っていましたよね?

ジェイク:そう! 最高だったね、解散しちゃったのが悲しいよ。彼女たちの演奏が素晴らしかったから、そのあとに出るのは大変だった(笑)。ディナーの時に翻訳ソフトを渡し合ってチャットしてたよ。

ネイサン:マナとカナだね、覚えてるよ。そういえば渋谷のLemonteaっていうビンテージ・ショップに行ったら、そこのオーナーが「マナと友達だよ!」って言っててね。世界は小さい(笑)。


CHAI、ヒッポ・キャンパスのサポート・アクトとして回った北米20公演の様子

最新作『Flood』までの歩み、バンドの深い絆

—CHAIとの北米ツアーは『LP3』のリリース後でしたよね。パンデミックを挟んで、長らく共同プロデューサーとして一緒に活動しているケイレブ・ブライトと共に作った、セルフ・プロデュース的な作品でした。なぜ外部からプロデューサーを呼ばずに『LP3』を作ったんですか?

ジェイク:BJバートンがミネソタから離れて、スタジオが空いていた時、僕らにそこを貸してくれたんだ。両親が留守の間、子供たちが好き勝手に遊ぶみたいな感じでね。その時に「もしこんな感じでヒッポ・キャンパスのアルバムを作ったらどうだろう?って話になったんだ。それで『LP3』は自分たちの機材だけを使って制作したんだ、初めての体験だったよ。普通じゃ考えられないような実験をスタジオで繰り返して、狂気的な音楽を目指したんだ。

ネイサン:当時、ケイレブはジェイクと一緒にベイビー・ボーイズというプロジェクトを一緒にやっていたんだ。そもそもケイレブは僕らと同じ高校に通っていて、どんな形で一緒に仕事をするかずっと話し合っていたんだ。ケイレブのスタイルやプロダクションからはいつも刺激をもらっているよ。




—前年リリースのEP『Good Dog, Bad Dream』と合わせて、エレクトロニカやハイパーポップからの影響を強く感じます。

ジェイク:『LP3』はパンデミックの前には曲が揃ってたんだけど、一年半くらい活動を止めてたんだよね。その後に、まずはEP『Good Dog, Bad Dream』を一週間で作って、そっちを先に出したんだ。本当にセルフ・プロデュースだったね。

ネイサン:自分たちだけでスタジオに入って、やりたいことが本当にできる空間を見つけたと思ったよ。ただ『Good Dog, Bad Dream』はアルバムを作るのと同じくらいのプレッシャーの中で作ったね。

ジェイク:あぁ、大変だったけど楽しかった。



—そして最新作『Flood』が今年リリースされました。『LP3』から本作に至るまで、膨大なストックを捨てたり、新しいプロデューサーとしてブラッド・クックを招いたり、大きな変化があったとお聞きしました。

ジェイク:そうだね、簡単にはまとめられないけど……アルバムをいくつも作っては、それを壊すような作業だったね。

ネイサン:これまでのアルバムと比べても、『Flood』には10倍くらいの時間を費やしているよ。

ジェイク:思い返すだけでも圧倒されるね。ただ、『Flood』を通じて、バンドとしても個人としても誇りを持てるようになったんだ。それに、メンバーとの距離がすごく近くなった。今では同じ時間を共有できたことに感謝しているよ。多分、向こう10年ぐらいの間に『Flood』の成果が見えてくるんじゃないのかな。そういう意味では、今はバンドの転換期なのかもね。




—『Flood』は心機一転してPsychic Hotlineからのリリースとなりました。個人的にも好きな作品の多いレーベルです。

ジェイク:シルヴァン・エッソ(注:Psychic Hotlineのファウンダー)とは、よく一緒にライブをしていたんだ。実はブッキング・エージェントが同じなんだよね。新しいマネージメントを探していた時もPsychic Hotlineとは相談をしていたんだよね。そして『Flood』が完成したときに手を挙げてくれて、本格的にリリースすることになったんだ。彼らは常にフレッシュなアーティストのフレッシュな音楽を世に送り出しているし、ヒッポ・キャンパスの進みたい方向に後押ししてくれるんだ。


Psychic Hotlineのカタログ(公式ホームページより引用)。青葉市子も在籍

—ここまでヒッポ・キャンパスの活動に関わってきたプロデューサーやミュージシャンについて聞いてきましたが、最後はメンバーに関する話を聞かせてください。高校の同級生で集まった4人は、お互いにとって現在どのような関係なのでしょうか?

ジェイク:最初は友達だったけど、今は家族だよ。メンバーのいない生活なんて考えられないね。個人的に、家族であるためには、友人関係よりも多くのメンテナンスが必要だと思うんだよね。でも、僕らはこの10年間でお互いの変化を見続けてきた。多くの刺激と信頼をバンドの中で交換してきた。安っぽい言い方かもしれないけど、時が経つにつれてより深い愛情が形成されていくのがわかるんだ。

ネイサン:僕らはバンドの初期の段階から、自分たちにとっての神聖な空間を守ることに心血を注いでいた。それはつまり、ザックのお父さんが持っていたあの地下室なんだ。僕らはこれからも、お互いの生活を尊重しながら、家族のようなバンドを続けるために活動をしていくつもりだよ。



ヒッポ・キャンパス
『Flood』
再生・購入:https://ffm.to/hippocampus

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