ザ・ビートルズ秘蔵映像、最新ドキュメンタリー『ビートルズ ‘64』監督が語る作品の裏側
Rolling Stone Japan / 2024年12月6日 21時20分
ディズニープラス『ビートルズ ‘64』より 飛行機から降りて報道陣の群れに迎えられるビートルズ(Albert and David Maysles © 2024 Apple Corps, Ltd. All Rights Reserved.)
マーティン・スコセッシ製作のドキュメンタリー映画『ビートルズ 64』が、11月29日にディズニープラス「スター」で配信スタートした。その内情をデヴィッド・テデスキ監督が解説する。
【動画】ザ・ビートルズ最新ドキュメンタリー『ビートルズ 64』予告編
1964年初頭、ビートルズの襲来でアメリカは激変した。4人を乗せた飛行機がニューヨークに着陸すると、黄色い歓声を上げるファンの群れが空港に押し寄せた。2月9日の夜にビートルズが『エド・サリヴァン・ショウ』に出演すると、7300万人の視聴者が度肝を抜かれ、全米がビートルマニアと化した。そうした当時の様子をとらえたのが、マーティン・スコセッシ製作の新作ドキュメンタリー『ビートルズ 64』だ。『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』など、スコセッシ製作のドキュメンタリーを多数手がけたデヴィッド・テデスキが監督を務めた。
3年前にピーター・ジャクソン監督の『ザ・ビートルズ:Get Back』がそうだったように、『ビートルズ 64』も感謝祭の週末、11月29日にディズニープラスで初お披露目された。ポール・マッカートニーとリンゴ・スターの最新インタビューの他、ジョン・レノンとジョージ・ハリスンの過去のインタビューや、全米初のコンサート映像も登場する。「ニューヨークから始まって、ワシントンDCからマイアミへ。当時は大騒ぎっだった」と、ローリングストーン誌との独占インタビューでデヴィッド・テデスキ監督は語った。「17分強の未公開映像も収められている」。
映像の大部分は、『ギミー・シェルター』『グレイ・ガーデンズ』など、名作ドキュメンタリーを手がけたパイオニア、デヴィッド・メイスルズとアルバート・メイスルズ兄弟によるものだ。世界中が熱狂する中、2人はビートルズに密着し、メンバー4人の生活を3週間に渡って撮影。日々勢いを増すビートルマニアの様子をカメラに収めた。「僕たちはいつも通りで、僕ら以外がみんな大騒ぎしていた」とは、予告編に出てくるジョージ・ハリスンの発言だ。「ビートルズがやってくると、街中が狂喜乱舞した」。
『ザ・ビートルズ:Get Back』同様、ピーター・ジャクソン率いるWingNutスタジオが映像のリマスタリングを担当。2017年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』50周年アニバーサリー・エディション以降、ビートルズ作品をプロデュースしてきたジャイルス・マーティが音楽プロデュースを担当した。ジョン、ポール、ジョージ、リンゴの素顔に迫った本編は、本国イギリスの人気者が、自分たちはおろか、他の誰もお目にかかったことのない熱狂の渦に放り込まれる様子が映し出される。「台風の目にいるようだった」とは、予告編に登場するジョンの発言だ。「自分たちの身に起きていることなのに、何が起きているのか分からなかった」。
モータウンの生みの親ベリー・ゴーディや故ロニー・スペクターなど、アメリカ音楽業界のレジェンドがビートルズの衝撃を語るインタビューも収録。初期のビートルズが憧れていた作曲家スモーキー・ロビンソンは、アフリカ系アメリカ音楽との関連性について語っている。「これまで生きてきた中で、白人グループが『実は僕ら、黒人音楽を聴いて育ったんです』と言うのを聞いたのは初めてだった」。
『ビートルズ 64』はスコセッシの他、マーガレット・ボッド、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、オリヴィア・ハリスン、ショーン・オノ・レノン、ジョナサン・クライド、ミカエラ・ビアーズリーがプロデューサー陣に名を連ねる。エグゼクティヴ・プロデューサーはジェフ・ジョーンズとリック・ヨーン。デヴィッド・テデスキ監督は製作過程や見どころなど、作品の裏側をローリングストーン誌だけに語ってくれた。
ー監督もファンですか?
ビートルズの大ファンだ。ビートルズを聞いて育ったからね――DNAに刻まれている。僕はニューヨーク在住なんだけど、不思議に思うかもしれないが、ニューヨークの物語とも言える作品だ。ビートルマニアはニューヨークから広がった感もあるからね――エド・サリヴァンもニューヨーカーだった。ニューヨークからビートルマニアが始まったわけじゃないが、ここでワンランク・アップして、それからアメリカ中に広がっていった。そういう意味で、ニューヨークの物語なんだよ。ビートルズに熱狂したニューヨーカーの1人として、個人的にも格別の思い入れがある。
ーどのような経緯で製作が進んでいったんでしょう?
マーティン・スコセッシの『ジョージ・ハリスン/リヴィング・イン・ザ・マテリアル・ワールド』を編集したのがきっかけで、オリヴィア・ハリスンと親しくなった。あの作品ではポールとリンゴにもインタビューした。それにAppleとのコネもあった。Appleに知り合いがいてね。Appleも手元に映像があることを知っていて、上手く活用したいと考えていた。それで向こうからコンタクトしてきた。
ーその映像の出所は?
60年代後期に超有名になったデヴィッドとアルバートのメイズルス兄弟だ。この作品の前に、2人は知る人ぞ知る『Whats Happening!』を製作していた。『Whats Happening!』があまり知られていないのは、2人が諸々の権利を持っていなかったからだ。代わりにAppleがメイズルス兄弟の撮影したネガの所有権を取得したんだ。
ー『Whats Happening!』を見た人はほとんどいないでしょうね。
メイズルス兄弟はとにかく型破りな製作者で、時代の先駆けだった。2人のやり方は常識外れだった。それで『Whats Happening!』はアメリカのTVで放映されたんだけど、それでもなんというか、過激でつかみどころがない作品だとみなされた。それにTVで放映された時はキャロル・バーネットのMCが間に挟まれていた。
ー『Whats Happening!』にはビートルズが機体から降りて、空港から車に乗り込む場面あります。ポールがトランジスタ・ラジオを掲げて、ラジオから流れる自分たちの曲に耳を傾け、カメラに向かって「この曲最高だ!」と語るシーンは、まさに素の表情ですね。
そうなんだ、メイズルス兄弟は本人たちが「ダイレクトシネマ」と呼ぶジャンルのパイオニアだ。映像を見ると、ビートルズがすごくリラックスしているのが分かる。カメラに映る彼らはオーラに満ちている。ファンもそうだ。プラザ・ホテル(現サリヴァン・シアター)の前に集まった若い女性たちも、活き活きとしている。メイズルス兄弟のエネルギーには、人々をリラックスさせてオーラのようなものを発散させるところがある。具体的に何なのかは分からないけど。アルバートとはマーティン・スコセッシの『ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト』で一緒に仕事したことがあってね。ストーンズのリハーサル中にアルバートの仕事ぶりを眺めていたが、本当に巧みだった。みんなカメラの存在には気づいても、すぐに忘れてしまうんだ。
ー予告編には、リンゴがマーティン・スコセッシと会話するシーンもあります。スコセッシ本人がインタビューしたんですか?
リンゴとポール、あわせて2回インタビューをした。リンゴとのインタビューの際にはマーティンも現場にいて、主に彼がインタビューを進めたと言っていいだろう。普通のインタビュー形式にはしたくなかったんだ。リンゴは長年衣装をずっと保管していて、ワシントン行きの電車に乗った時のスーツも持っていた。『エド・サリヴァン・ショウ』で演奏した時と同じドラム・キットまで、なんでもかんでも持ってるんだよ。ポールとは写真展『Eye of the Storm』の会期中、ブルックリンミュージアムで僕がインタビューした。「抱きしめたい」の手書きの歌詞カードは感無量だよ。
ー『ビートルズ 64』では、1964年当時をどこまで掘り下げているのでしょう?
たった3週間――ニューヨークに到着して、たしか4~5泊して、それからワシントン、マイアミ。メイズルス兄弟は道中ずっと撮影していたけど、その映像以外にもいろんな映像が収められている。優秀なスタッフが、マイアミの現地のアーカイブから地元TV局の映像をたくさん引っ張りだしてくれた。秘蔵映像がたくさんあって、探し出すのにかなり手間ひまかかった。そこが見どころだね。
ー映像もサウンドも鮮やかですよね。
ニュージーランドのWingNutが16ミリのフィルムのリマスタリングを担当して、非の打ちどころのない映像に仕上げてくれた。WingNutは音声のリマスタリングもやってくれた。音楽プロデューサーはジャイルス・マーティンだ。ワシントンのコンサートは過去イチの音質だよ――ビートルズにとっては初のアリーナコンサート、全米初のコンサートだった。ジャイルスの得意分野はスタジオ収録の楽曲だけど、今回はライブコンサートなので、ライブの雰囲気を感じられるところがポイントだ。
ーファンは数週間前までドキュメンタリーの公開を知らされていませんでした。それほどあっという間に製作が進んだということですか?
自分たちにとっては本当にあっという間だった。僕のところに話が来てから完成するまで2年。1年ぐらいずっと編集にこもりきりだた。自分たちにとってはあっという間だ。まわりからは全然そんなことないと言われるけどね。
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