サブカル文脈から読み解く2010年代以降のアイドルシーン、BiSとBiSHの快進撃
Rolling Stone Japan / 2024年12月29日 7時30分
音楽評論家・田家秀樹が毎月一つのテーマを設定し毎週放送してきた「J-POP LEGEND FORUM」が10年目を迎えた2023年4月、「J-POP LEGEND CAFE」として生まれ変わりリスタート。1カ月1特集という従来のスタイルに捕らわれず自由な特集形式で表舞台だけでなく舞台裏や市井の存在までさまざまな日本の音楽界の伝説的な存在に迫る。
2024年7、8月の特集は、「サブカルとJ-POP」。802でもやらない夏休み自由研究というテーマのもと、2カ月間に渡ってサブカルと音楽の話を渡り掘り下げていく。
こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND CAFE」マスター・田家秀樹です。今流れているのは中島みゆきさんの「時代」。1975年発売の2枚目のシングル、2018年の『中島みゆきライブ・リクエスト -歌旅・縁会・一会-」からお聴きいただいています。先月と今月の前テーマはこの曲です。
時代 / 中島みゆき
というわけで、「サブカルとJ-POP」。今月は「新アイドル伝説」。メインストリームのアイドルとは違う音楽的な流れをあらためて辿ってみようという4週間なのですが、そういうサブカルのアイドルシーンを見続けてきたライター・編集者。株式会社SWの代表取締役・西澤裕郎さんをお迎えしております。
西澤:今週もよろしくお願いします。
田家:先週もお話をしたんですけども、西澤さんはこの番組には欠かせない方でありまして、雑誌Rolling Stone Japan。これのWeb版にこの番組のアーカイブが文字で読めるようになっております。その文字起こしをしてくださっているのが西澤さんなので、放送されたものをあらためて聴き直して、またつまらないことを言ってるなとか、ここ間違っているなとか言いながら文字起こしをされている(笑)。
西澤:そんなことないです(笑)。勉強させていただいております。
田家:サブカルアイドルを見続けているんだということを知りまして、ぜひ番組でその話をしてくださいということで、実現しました。さらに選曲もすべてお願いしているという、おまかせカフェであります。今週はBiSとBiSH。西澤さんがこういうアイドルに興味を持った入り口でもあった。
西澤:もともと僕がOTOTOYという音楽配信サイトに勤めていまして。そこにBiSのプロデューサーの渡辺淳之介さんが来て、始まったのがBiSというグループだった。そういう意味ではBiSもBiSHも最初から全部見させていただいている形ですね。
田家:OTOTOYに渡辺淳之介さんが来られたときはどういう?
西澤:当時編集長だった飯田仁一郎さんのもとに、渡辺さんがプロモーションで訪れたのがきっかけで。そのときはプー・ルイさんというソロシンガーを担当されていて、何かプロモーションしたいんですって来たんですけど、当時、プー・ルイさんが渡辺さんのことをあまり好きじゃなくて(笑)。
田家:はははは! ありがち、ありがち(笑)。
西澤:困らせてやろうと思って、一番この人がやりたくないことを言おうと思っていたらしいんです。飯田さんから「何をやりたいの?」って訊かれたときに、「アイドルグループをやりたいです」って言ったら、プー・ルイさんは嫌がると思っていたんですけど、渡辺さんも飯田さんもおもしろそうだねということで始まったのが、BiSというグループだったんです。
田家:OTOTOYというのはアイドル専門のサイトじゃないでしょう?
西澤:当時はインディーズ・バンドを扱うサイトだったので、全員アイドルのことは全く知らなかったですね(笑)。
田家:西澤さんもそんなに知らなかったんだ。
西澤:はい、全然知らなかったです。最近アイドルが流行っているらしいね、ぐらいしか知らなかったので、本当にみんな見様見真似で始めた感じですね。
田家:なるほどね。BiSの始まりからご存知ということで、今週はBiSとBiSH。2組についての話をいろいろ伺っていこうと思います。
nerve / BiS
田家:今日の1曲目、2011年3月発売、BiSの「nerve」。デビュー・アルバム『Brand-new idol Society』の中の曲。
西澤:この曲は当初、こんなに代表曲になるとは思ってなかった楽曲なんですけど、2010年代のアイドルソングの中の代表曲になるぐらいアイドルシーンでは有名な曲で。サビでみんな海老反りをする振り付けがあるんですけど、元をたどると、先週放送したももクロの「行くぜ! 怪盗少女」という曲のサビのオマージュなんです。
田家:真似ているわけだ(笑)。
西澤:BiSというグループ名が、Brand-new idol Societyの略で。新生アイドル研究会という名前の英語訳なんです。
田家:そうか、新しいアイドル社会じゃなくて、新生アイドル研究会。
西澤:先程言ったみたいに誰もアイドルのことを知らないから、みんなで勉強をしてアイドルを作っていこうということで、メンバーたちもいろいろなアイドルのミュージック・ビデオを見てこれいいねとかっていう感じで(笑)。
田家:はははは! ももクロのこれいいよねって(笑)。
西澤:取り入れていったら、この曲が2010年代を象徴する代表曲になったという。
田家:そういうももクロとのつながりがあった。でも違いもあるわけでしょう?
西澤:そこは、やっぱり楽曲ですね。この後聴いていただく曲もそうなんですけど、ロックをメインに取り入れているというところ。しかも海外のパンク・ロックとかを取り入れているというところは一番違う。研究員と言われるファンと、文化祭みたいな感じで全員で一緒になって盛り上げていこうという部分も、かなり違った部分かなと思いますね。
死にたい夜にかぎって / アイナ・ジ・エンド
田家:今流れているのは2021年に出たアイナ・ジ・エンドの「死にたい夜にかぎって」。彼女のソロ・デビュー・アルバム『THE END』の中の曲なのですが、アイドルのことはよく知らないんだけど、アイナ・ジ・エンドちょっと気になるのよねっていう方が、わりと最近いらっしゃるのではないかと思います。アイナ・ジ・エンドは元BiSHのメンバーでありました。今話しているのはBiSHではなくて、BiSですね。
西澤:BiSHの大元のグループになりますね。
田家:Brand-new idol Society。結成が2010年。始まりがさっきおっしゃったプロデューサーを困らせようとして、アイドルやってみようかって言ったところから始まっている。
西澤:そしたら本当に始まっちゃったという。プー・ルイさんはもともとモーニング娘。などが好きで、アイドルグループへの憧れはあったみたいなんですね。
田家:渡辺さんという方はどんな方だったんですか?
西澤:渡辺さんは、もともと海外のロック、ニルヴァーナだとかセックス・ピストルズとかが好きな方で。自分でもアーティストを手掛けたいということでオーディションをして見つけたのがプー・ルイという女の子だったんです。どうやってここからやっていこうかというときに、プロモーションの相談でOTOTOYに来たら、まさかそういう展開になっていくという。
田家:アイドルやることになっちゃったんだ(笑)。BiSのことをいろいろ見ていたら、つばさレコードという名前がありましたね。
西澤:事務所がつばさレコードなんですけど、もともと川嶋あいさんをマネジメントしている会社で。なので、渡辺さんも川嶋あいさんのマネージャーをやったりしたこともあって。
田家:そうなんだ。川嶋あいさんは渋谷の路上で歌っていて有名になった人ですから、路上発のシンガー・ソングライターの女性の走りみたいなところがありますもんね。
西澤:そうですね、本当に。
田家:ももクロも路上だったし、BiSもそう意味では路上から始まっているというふうに言っていいわけだ。
西澤:まさにその精神は持っているグループだと思います。
田家:なるほどね。アイドルやりたいと言っても、すぐにやれるものでもないわけでしょう。メンバーを集めなきゃいけないし。
西澤:幸運だったのが、その過程を全部記録してほしいということで、OTOTOYでBiSの活動記録をずっと連載していたんです。
田家:それは西澤さんがおやりになっていたんだ。
西澤:最初は別の方が担当していたんですけど、あまりに人間ドラマがありすぎて。もともと担当してくれていたライターさんが、自分を背負い込みすぎてしまって。
田家:背負い込みすぎて(笑)。
西澤:それで僕が引き継いでガッツリやるようになったんです。BiSは2010年に結成して2014年7月8日に解散していて。4年たらずだったんですけど、本当に苦しかったですね。
田家:苦しかった?
西澤:追いかけるのが。この後お話をするんですけど、知ってもらうためにいろいろなことをやる中で、メンバーも疲弊したり、追っている側もそれを見てつらくなってしまったり。楽しかったんですけど、苦しかった部分もありますね。
田家:最初のライブ出演が吉祥寺のイベントで、『Brand-new idol Society』っていうデビュー・アルバムのレコ発イベントが阿佐ヶ谷ロフトだった。その後も下北の小さなお店とか、かなりサブカルっぽいですよね。
西澤:インディーズのバンドと対バンしたりもしていましたし、活動の仕方は本当にアイドル文脈というよりてロック文脈だったなというのは思いますね。
パプリカ / BiS
田家:2011年3月発売、BiSの「パプリカ」。アルバム『Brand-new idol Society』の中の曲ですが、先週と全然違いますね(笑)。
西澤:そうですね(笑)。この頃のアイドルの多様性がすごいわかるかなと思いますね。
田家:この曲を選ばれているのは?
西澤:ライブでびっくりしたんです。普通のアイドルは基本歌に合わせてダンスをするんですけど、この曲は、1番でラジオ体操をする。2番になると、みんなでヘッドバンキングをするんですね。ステージ上のメンバーだけでなく、お客さんたちもみんなでヘッドバンキングしているので、メンバーは歌っていないし、お客さんもステージを見ていない(笑)。
田家:ただ、音が流れているんだ。
西澤:その光景が異様で、すごいおもしろいと思って。曲もロックが好きだし。
田家:ヘヴィメタっぽいですもんね。
西澤:すごくいいなと思って、それでハマっちゃって。
田家:そういうライブのエピソードっていろいろありそうですね。
西澤:先ほど文化祭みたいな話をしたんですけど、研究員もおもしろい人が多くて。メンバーがおもしろいことをやると、研究員はさらにおもしろいことで返そうとする。アイドル文化って、サビでステージに手を伸ばしたりするんですけど、BiSの後期の方になると手じゃなく、逆さまになって足がステージに向かっていたり(笑)。あと、自転車に乗った研究員が、他の研究員の上に乗っているとか。かなりおもしろい現場でしたね。
田家:プロモーション・ビデオを全裸でというのがありましたね。
西澤:「My Ixxx」っていうシングル曲のPVなんですけど、メンバー3人が全裸で樹海を走るMVで。それも賛否両論というか、炎上したんですけど。とは言え、もともとはシガー・ロスの海外の自然の中を男女がネイチャーな感じで走るみたいなMVがあって。
田家:メッセージがありますもんね。
西澤:それをオマージュしているんですけど、やっぱりアイドルが全裸で走っているというので、かなり話題というか賛否両論で盛り上がりましたね。それでグループがすごく知られた部分もありましたね。
田家:プロレスとコラボしたというのもありましたよ。
西澤:リング上でプロレスラーとプロレスをしたりとかもありましたし、それこそ非常階段とライブをしたときはステージから豚の臓器が客席に投げられたりとかもありましたし。
田家:それはかなり試行錯誤的にやっていたんですか?
西澤:BiSの場合は、ロックとかパンク、ハードコア界隈の方がすごく興味を持ってくださって一緒にやろうということがすごく多かったんです。お客さんもハードコアとかパンク好きな人が来ていたので、それもあって結構激しかったのがありますね。
田家:その話はこの曲の後にも続きます。
primal. / BiS
田家:2011年12月発売、BiSの「primal.」をお聴きいただいておりますが、作詞がBiSで作曲が松隈ケンタさん。
西澤:これは本当にBiSというか、渡辺さんのエモーショナルを体現したような楽曲ですね。この曲もそうなんですけど、メンバーも作詞に参加することが多くて。プラス、そのときの彼女たちの状態が曲に盛り込まれているんですね。この曲に「繰り返す思い出は 振り向かずに駆け抜けてきた」という歌詞があるんですけど、メンバーの脱退とかがあったり、グループ内が混乱するようなこともあったりした。そういうものも乗り越えて、このまま私たちは突き進んでいくみたいな。そういうものが曲に盛り込まれているという意味で、それまでのアイドルとはまた違う部分なのかなというところはすごくありますね。
田家:「primal.」というタイトルで、THE YELLOW MONKEYに「プライマル。」ってあったなというのを思い出す方もいらっしゃるでしょうけどね。
西澤:渡辺さんが実際THE YELLOW MONKEYがすごく好きで、リスペクトしているので、まさにTHE YELLOW MONKEYのラスト・シングル「プライマル。」からオマージュでタイトルはつけていると思いますね。
田家:イエモンの「プライマル。」は「卒業おめでとう、今度は何を食べようか」っていう歌詞ですが。
西澤:BiSでも「今度はほら何を食べようか」と歌っている。
田家:いろいろな好きな音楽があって、自分たちでそれをやりたいんだという方たちが集まって始まっている。それがサブカルアイドルだったという1つの例なんでしょうね。
西澤:そうですね。ももクロが間口を広げてくれたおかげで、何をかけ合わせてもおもしろくなる可能性があることにみんな気づいた。好きなものをかけ合わせて新しいものが生まれていった。
田家:なるほどね。BiSは2014年7月8日に横浜アリーナで解散するわけですが、解散コンサートのタイトルが「BiSなりの武道館」。
西澤:活動を始めて、途中から武道館をやって解散をすることを目標にしてやっていたんですけど、解散発表前に諸事情で武道館公演ができなくなってしまったんですね。それで急遽横浜アリーナでBiSなりの武道館だということで、最後ライブをやって解散をした。
田家:武道館側から使用を断られたということなんですかね。
西澤:直前まで決まりかけていたんですけど。
田家:矢沢永吉さんが会場を拒否されたというのに近いですね(笑)。
西澤:さっき言っていたみたいに、いろいろ諸刃の剣でやってきたグループなので、それを良しとする人たちもいれば、なかなか受け入れてくれない人たちもいるというところもあると思うので、致し方ないとは思うんですけども。
田家:武道館に使用拒否されたアイドル、かっこいいじゃないですか(笑)。
西澤:そうですね(笑)。2024年7月8日に、解散10周年イベントということで、一夜限りの復活ライブを新宿のトー横の広場でやったんですよ。
田家:トー横広場でやったの(笑)。
西澤:フリーライブを平日の夜にやったんですけど、本当は8曲ぐらいやる予定だったんですけど、「nerve」って曲をやったら、会場に入りきれなかった外のお客さんたちが盛り上がりすぎて、警察が集まって(笑)。
田家:すごいなあ、トー横キッズとBiSなんだ(笑)。
西澤:最後の曲をやる前に中止になったという。
田家:で、その後にBiSHが誕生するわけですね。この曲の後にその話を始めたいと思います。
BiSH-星が瞬く夜に / BiSH
田家:2015年5月発売、BiSHの1stアルバム『Brand-new idol SHiT』の中の「BiSH-星が瞬く夜に」。この曲を選ばれているのは?
西澤:これはBiSHがライブで必ずやっていた楽曲で、清掃員と言われるファンも盛り上がる楽曲ですね。
田家:あ、研究員ではなくて清掃員なんだ(笑)。
西澤:BiSHはBrand-new idol SHiTということで、SHiTを清掃するという意味で。
田家:まあ、クソですもんね。そういう自虐タイトルみたいなところから始まっている。
西澤:しかもBiSの解散から1年経たずに始めている。このスピード感はなかなかすごいなと思います。
田家:メンバーは違う人たちなわけでしょう?
西澤:また1からオーディションをして集めたんですけど、そのときのオーディションも僕は全部見させていただいていたんです。BiSが過激なグループというイメージがついちゃったので、オーディションを受けにくる女の子も、私全裸になれますとか、そういう変わった子ばかりいっぱい来ちゃって(笑)。
オーケストラ / BiSH
田家:2016年10月発売、BiSHの「オーケストラ」。3枚目のアルバム『KiLLER BiSH』の中に入っておりました。
西澤:BiSHの活動においてターニング・ポイントになった楽曲で、この曲でより多くの人に知られるきっかけになったんですね。
田家:さっきの曲にあったバケモノな感じはないですもんね。
西澤:渡辺さんも公言しているんですけど、BUMP OF CHICKENみたいな楽曲を作りたいということがもともとのテーマにあって、「オーケストラ」という曲につながっていった感じなんですね。
田家:これは作曲が松隈ケンタさん。渡辺さんと松隈さんはその前からのお付き合いがあるんでしょう?
西澤:BiSが始まる前からの付き合いで、2人で音楽業界でのし上がっていこうぜというところで始めたところがあるので。
田家:このアルバム『KiLLER BiSH』はエイベックスから出た。アルバムチャート1位になりましたもんね。
西澤:BiS時代もエイベックスと一緒に途中からやっていたんですけど。できるだけちゃんと楽曲が伝わるように一緒に話し合ってやっていこうというところで。もともと「オーケストラ」も1stシングルの『DEADMAN』のカップリングに入れようとしていたんですね。いい曲ができたからって。じゃなくて、もっとちゃんと伝わるにはこのタイミングでアルバムに入れた方がいいんじゃないですかというところで、エイベックスといろいろ考えてアルバムに入れた。それによりちゃんと伝わったというところがあったのかなと思います。
田家:ちゃんとメジャーというものを意識しながら、メジャーでやっていくにはどうすればいいのかということで始まっているんですかね。
西澤:ただ最初からメジャーを考えていたらSHiTとかつけないと思うので(笑)。
田家:同じようなことをやろうとしてたのかもしれない(笑)。楽器を持たないパンク・バンドというのはどこから作ったんですか?
西澤:まさにメジャー・デビューをして生まれたキャッチコピーですね。
NON TiE-UP / BiSH
田家:2018年6月に発売になりました、BiSHのシングルで「NON TiE-UP」。ノンタイアップというタイトルのシングル。
西澤:この頃には、オリコンチャートの上位に入るようになったり、いろいろなタイアップ曲もつくようになっていて。ちょうど同じ日に「Life is beautiful」と「HiDE the BLUE」という両方ともタイアップがついているシングルの発売日だったんです。そこで、告知なしにゲリラ・リリースで、「NON TiE-UP」という曲が発売された形になりますね。
田家:両A面シングルがタイアップで出て、同じ日にタイアップのない「NON TiE-UP」という曲をぶつけるんだ。
西澤:はい、ゲリラで。
田家:メジャーにいながら、ゲリラ的なおもしろさを必ずつけるみたいなものがずっとある。
西澤:そうですね。『THE GUERRiLA BiSH』というアルバムもあるんですけど、そのアルバムも発売日の前に、突然タワーレコードにブックレットがないCDを300円で販売するみたいなこともやったりしていました。思いついてもやらないようなプロモーションを思い切ってやってきたというところもBiSHのおもしろいところかなと思います。
田家:それはショップもちゃんとおもしろがってやりましょうと、歩調が合わないとなかなかできないですもんね。
西澤:本当にお店の方もすごい好きで、一緒に盛り上げてやってくれいたんだと思いますね。
田家:例えばレコード店がすごい力を入れていたみたいなものはあるんですか?
西澤:やっぱりタワーレコードさんは全店舗協力的で。ゲリラ・リリースとかも情報とか漏れちゃったら元も子もないんですけど、一切そういうのはなく、突然パッと並びましたからね。
田家:なるほどね。西澤さんはBiSHに関するも作られているとか。
西澤:僕は「BiSHぴあ」という本のインタビューをしたり、ZINEを作ったりと、少し外側から記事を書いたりしてご一緒させていただくことが多かったですね。
田家:近くでご覧になっていたライター・編集者の方だった。
西澤:そのうち一人という感じだと思いますね。
LETTERS / BiSH
田家:2020年7月に発売になりましたBiSHのアルバム『LETTERS』のタイトル曲「LETTERS」。これはアルバムチャート1位になって、前の週にやはりBiSHの『FOR LiVE -BiSH BEST-』というアルバムが1位で、2週間続けて彼らのアルバムが1位だった。
西澤:コロナ禍の中で出た作品なんです。コロナ禍のときって、外出もできなければ人とも会えなくなって。特にライブハウスがすごく危険な場所みたいな感じでニュースで報道されたり、悪者にされていた時期だったんですね。その中で、当初リリースする予定だったものを前倒しにして、3.5枚目のアルバムという形で『LETTERS』というアルバムを作って発信したんです。それまでお客さんと会っていたライブの機会がなくなって、お客さん側もつらいというところに、作品でつながりを持ちたいということで、『LETTERS』という作品を出した。もう1枚のベスト・アルバムも急遽作って、売上を全部、それまでBiSHが出たライブハウスに寄付した。今はみんなしんどいけど、なんとか乗り越えようということで、ベスト・アルバムを急遽作ることになったという経緯があるんです。
田家:それはメインカルチャーの集団的アイドルの人たちとは全然違う生き方ですね。
西澤:そうですね。最初路上とかっていう話も出ましたけど、現場主義というところがあるグループだったのかなと思いますね。
田家:さっきアイナ・ジ・エンドの曲をお聴きいただいたのですが、メンバーがそれぞれキャラクターがあったでしょう。
西澤:やっぱり6人6様でした。セントチヒロ・チッチさんはフロントマンとしてMCと歌でお客さんの気持ちを掴んでいたし、アイナ・ジ・エンドさんは歌とダンスの部分でグループを引っ張っていました。モモコグミカンパニーさんは作詞が得意で、グループにいながら本を書いたり、今も作家として活躍していますし、ハシヤスメ・アツコさんは今バラエティ番組に出たり活躍していて、ちょっとおもしろキャラクター。リンリンさんはパンキッシュかつ芸術家として今独自の活動をしていたり、アユニ・DさんはBiSHに新しい風を吹き込み、いまはPEDROというバンドで活躍している。6者6様、見事に全員バラバラな個性を持っていたのが、すごくおもしろかったのかなと思いますね。
田家:そういうメンバーが2023年6月に東京ドームで解散するわけですが、解散コンサートのタイトルが「Bye-Bye Show for Never」。今日最後の曲をお聴きいただきます。
Bye-Bye Show / BiSH
田家:BiSHの19枚目、最後のシングル「Bye-Bye Show」。作詞作曲プロデュースがTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉さんで、演奏はTHE YELLOW MONKEY。
西澤:最後にTHE YELLOW MONKEYの楽曲で終わるというのが、BiSの時代から考えるとつながっている。
田家:見事に完結していますね。この「Bye-Bye Show」もシングルチャート1位で、「PAiNT it BLACK」っていう曲も1位でしょう。シングル1位が2曲あって、アルバム1位が2枚ある。
西澤:そう考えると僕が見てきた中でもあまり歴史上ないようなスタイルで、しっかり世の中に突き刺さったグループだったんだなということは思いますよね。
田家:彼らの功績というのはありそうですね。
西澤:言い方は難しいんですけど、もともとすごく歌が上手いとかダンスが上手い子たちが集まったスーパーグループではないんですね。なんですけど、それぞれの個性をかけ合わせ、ライブハウスだったりお店の方だったりお客さんだったりを巻き込んで、ちゃんと世の中に響くものを作った。そういうたくさんの人たちと作り上げたというのが、BiSH、ひいてはBiSというグループが残した功績なのかなと思いますね。
田家:先週のももクロもそうですし、今週のBiSとBiSHもそうなんですけど、所謂アンチアイドル的な、選ばれた人たちがなるアイドルじゃないという流れは来週も再来週もずっと続いている感じですね。
西澤:来週はBiSをさらにもっとコアにしていったところで生まれたグループを紹介したいなと思っています。
田家:最後はどこになりそうですかね。
西澤:それがさらに外に飛び抜けて、世界につながっていくみたいな。
田家:なるほどね。来週も再来週もよろしくお願いします。
静かな伝説 / 竹内まりや
流れているのは竹内まりやさんの「静かな伝説」です。
ゲストにお迎えしているのはこの番組の文字起こし、Rolling Stone Japanでアーカイブをしてくれている西澤裕郎さん。編集とライター、そして本も出したりしている会社、株式会社SWの代表取締役であるのですが、そういうアイドルの出会いだったんだなと。彼個人のこともなかなか興味深く聴きながら、今週はお送りしました。
BiSとBiSHというのがどういう関係だったんだろうと思ったりもしていたのですが、そういう流れだったんですね。BiSはまさにサブカルですね。地下、アングラそのもの。昔新宿ロフトでやっていたようなことをやっている。ある種、破れかぶれと言うんでしょうかね。とにかく何か変わったことをやらないとというような切羽詰まった感じもありながらアイドルを始めたんだなというのが、BiSに対しての感想でしたね。
そしてBiSHはそういう精神を活かしながら、渡辺淳之介さんと松隈ケンタさんが自分たちの音楽的なノウハウや蓄積を持ち寄ってメジャーで勝負している。そういう2組なんだなと思いました。BiSHは最後、東京ドームですからね。ソロのシンガー・ソングライターも送り出しているわけで、パンクなラディカリズムとポピュラリティというのを、両方とも備えて成功したグループだと言っていいでしょう。
AKBと坂道系に飽き足らない音楽に詳しいアイドルファンがたくさんいたから、シーンに人が集まったんでしょうけど、この10年間こっちの方がおもしろいなという気がかなりしていますね。アイドルと言われると、AKB、坂道を思い浮かべる僕らはなんだったんでしょうと思ったりしながら、来週に行きましょう。メジャーの世界の人たちは何を見ていたんでしょうね。
<INFORMATION>
田家秀樹
1946年、千葉県船橋市生まれ。中央大法学部政治学科卒。1969年、タウン誌のはしりとなった「新宿プレイマップ」創刊編集者を皮切りに、「セイ!ヤング」などの放送作家、若者雑誌編集長を経て音楽評論家、ノンフィクション作家、放送作家、音楽番組パーソリナリテイとして活躍中。
https://takehideki.jimdo.com
https://takehideki.exblog.jp
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