ダフト・パンク解散、松本零士の死を経て、奇跡のコラボ『インターステラ5555』を今こそ再訪すべき理由
Rolling Stone Japan / 2024年12月9日 17時30分
世界中で愛され、2021年に多くの謎を抱えたまま解散したフランスの覆面エレクトロニック・デュオ、ダフト・パンク。彼らと映画監督のセドリック・エルヴェ、東映アニメーション、そして『銀河鉄道999』『宇宙戦艦ヤマト』などを手がけた日本を代表する漫画家である松本零士によって共同制作されたアニメーション映画で、2003年に公開された『インターステラ5555』の4Kリマスター版が、この度映画館で12月12日より特別上映されることが決定した。
本作は、2001年に発表されたダフト・パンクの2ndアルバム『Discovery』を劇伴にしたセリフのないアニメーションミュージカルSF映画ではあるが、個々のミュージックビデオとしてカットされたため、映画館で全編を観ることができる機会はこれまで非常に少なかったと言っていいだろう。
本稿では、このタイミングであらためて本作『インターステラ5555』の魅力に迫ってみようと思う。
『インターステラ5555』予告編
音楽とアニメ、ジャンルを超えた化学反応
まず、『インターステラ5555』の前提から触れておく。劇伴となっているダフト・パンクのアルバム『Discovery』は、現在でも名盤として語り継がれる作品であり、2001年のリリース時点でさまざまな国のチャートで首位を獲得するなど、商業的な成功も収めた作品だ。ここで興味深いのが、現在よりも影響力の大きかったアメリカの音楽批評メディア、Pitchforkでは『Discovery』に当時(10点満点中)6.4点と極めて厳しいスコアをつけられてはいたが、その後に発表された映画である本作のスコアは8.0点と上昇している点だ(2021年掲載の「Pitchfork Reviews: Rescored」と題された過去作の評価を変更するPitchforkの記事では『Discovery』を6.4点から10点満点へとスコアを修正している)。
Pitchforkがはじめ『Discovery』に6.4点をつけた理由はもちろん記事にいろいろと綴られているが、その一つをざっくりと要約するのなら「歌詞が稚拙」ということになるだろう。しかし、『インターステラ5555』では、そんな歌詞を含んだ音楽がセリフの代わりとなり、物語を進める語り手とも呼べるものになっている。つまり、そうした歌詞に対する批判的な見方は本作の映像によって払拭されていると言っていいだろう。
『インターステラ5555』劇場公開を記念して、松本零士によるイラストを採用した『Discovery』日本盤アートワークを復刻し、ステッカーやダフト・クラブ・カードなどを同梱した完全数量限定盤『Discovery: Interstella 5555 Edition』が12月13日にリリースされる
加えて、ダフト・パンクのインタビューを読んでみると、そもそも『Discovery』を制作した際、彼らは音楽を視覚的に捉えており、映像制作を前提にしていたことがわかる(彼ら幼少期からお気に入りの作品で大きな影響を受けた『宇宙海賊キャプテンハーロック』の作者である松本零士に連絡を送り、はじめは返事がなかったものの、遅れて松本零士から連絡が返ってきたことで実現したコラボレーションだったとも語られている)。
要するに、『インターステラ5555』の魅力の核はそこにある。かたや音楽、かたや漫画/アニメーションという形で表現活動を行うダフト・パンクと松本零士、その両者のクリエイティビティがどのような化学反応を起こしているのか、という点だ。
というわけで、以降はそういった視点から『インターステラ5555』の内容にも踏み込んでみよう。すでに公開から長い時間の経った作品ではあるが、これから劇場で初めて観るという方はネタバレを含むのでご注意いただければ幸いだ。
レトロフューチャリスティックなときめき
今回上映されるバージョンでは、オープニングはダフト・パンクの2人に挟まれてインタビューに応える松本零士の発言を切り取った印象的な場面から始まる。詳細については劇場でご確認いただくとして、そこでわかることは、まず両者はお互いをリスペクトしていたということだ。シーンが切り替わり、幕を開ける『インターステラ5555』は、それを証明するように音楽と映像が互いを補い合い、不可分な存在として展開していく。
『Discovery』の収録順に流れていく曲と共に進むストーリーのあらすじをざっくりとさらっておこう。
(C)2003 DAFT LIFE LTD.
(C)2003 DAFT LIFE LTD.
(C)2003 DAFT LIFE LTD.
青い肌のヒューマノイドが住む未知の惑星で演奏するバンドが、突如飛来した地球人に拉致されてしまう。記憶を差し替えられたバンドは地球でヒット曲を産むための機械のように働かされるが、バンドを追って地球に辿り着いた(バンドのベーシストであるステラに憧れる青年ヒューマノイド)シェプの助力によって脱出。しかしシェプはバンドの脱出の際に追っ手から致命傷を負わされ帰らぬ人となってしまう。それでもバンドは力を合わせ黒幕を打倒し、記憶を取り戻したバンドは故郷である星に戻り見事な演奏を披露。未知の惑星と地球人の友好的な関係も築かれる。
比喩的にレコード会社の体質や音楽業界にある慣習を批判しながら進むこのストーリーは、比較的シンプルと呼べるものだろう。しかし、音楽とシンクロして切り替わる映像や場面のムードはもちろん、何よりダフト・パンクの過去に忘れ去られたものから新しい魅力を引き出すスタイル(『Discovery』にはウーリッツァー社のキーボードなど当時の時点で古い部類の機材が使用されている)と、松本零士のレトロフューチャリスティックな作風が混じり合うことで、ロマンやときめきに満ちた映画となっているのだ。
例えば、エドウィン・バードソングによる1979年の楽曲「Cola Bottle Baby」をサンプリングし、チープで弾力のあるサウンドが特徴的な「Harder, Better, Faster, Stronger」が流れる際、松本零士が乗せるのはオートメーションの機械が手際よくヒューマノイドの記憶を差し替えていく映像だ。それはまさに、ダフト・パンクが過去を生き生きと蘇らせ、松本零士がかつて人々が夢見た未来を具現化した瞬間の一つと呼べるだろう。『インターステラ5555』にはそんな瞬間が数えきれないほど存在するのだ。
「Harder, Better, Faster, Stronger」が流れる抜粋動画
ダフト・パンクはすでに解散し、松本零士も昨年この世を去っている現在、日々音楽は大量にリリースされ、同時にそれを映像と組み合わせたMVも数多く目にするが、ここまで高い次元で、それもアルバム全編を通してそれを成し得た作品はどれほどあるだろうか。あたらめて書いておくが、今回はそんな『インターステラ5555』を、しかも劇場の音響とともに楽しめる貴重な機会だ。ぜひ劇場まで足を運んで欲しい。
ちなみに今回の特別上映では、スパイク・ジョーンズの手がけた「Da Funk」、ミシェル・ゴンドリーの手がけた「Around the World」などダフト・パンクの象徴的なMVのいくつかが初めて劇場上映される。視覚的な表現の可能性を信じてきたダフト・パンクとそれに応えた映像作家のコラボレーションがいかに結実しているのか、『インターステラ5555』を鑑賞した後であればより深く楽しむことができるだろう。
ダフト・パンク&松本零士『インターステラ5555』
日程:2024年12月12日〜12月15日(劇場によっては2日限定)
公開作HP:https://culture-ville.jp
鑑賞料金:2500円一律(劇場およびスクリーンによりアップチャージ料金がある可能性あり。詳細は、直接、鑑賞予定の劇場へお問い合わせください)
本編尺: 93分
素材: DCP
※映写機材の仕様により、劇場によっては2Kでの上映となる場合もあり。
Aspect ratio: Flat (4:3)
Sound: 5.1
オリジナル言語: 日本語
ダフト・パンク&松本零士『インターステラ 5555』劇場公開記念トークイベント
日時:2024年12月12日(木)19:00〜トークイベントを開催後、本編上映
※トークイベントは19:30からの本編上映の回をご鑑賞される方がご覧になれます
会場:TOHOシネマズ 日比谷
ゲスト:
清水慎治(東映アニメーション顧問、プロデューサー)
杉山民之(ユニバーサル ミュージック合同会社)
進行役:油納将志(音楽ライター、British Culture in Japan編集者)
チケット販売:12/10(火)の24時(12/11の深夜0時)
チケット購入:TOHOシネマズ 日比谷HPにて
https://hlo.tohotheater.jp/net/schedule/073/TNPI2000J01.do
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