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吉村界人が語る『地面師たち』出演の影響と最新作への思い

Rolling Stone Japan / 2025年1月8日 11時0分

Rolling Stone Japan vol.29 Coffee & Cigarettes 54 | 吉村界人(Photo = Mitsuru Nishimura)

音楽、文芸、映画。長年にわたって芸術の分野で表現し続ける者たち。本業も趣味も自分流のスタイルで楽しむ、そんな彼らの「大人のこだわり」にフォーカスしたRolling Stone Japanの連載。2024年、話題になったドラマの一つがNetflixドラマ『地面師たち』だろう。ホスト役を演じた俳優・吉村界人が主演を務める最新映画『Welcome Back』。「一個人の内面的な勝敗に焦点を当てた」と語る、ボクシングロードムービーの魅力とは?

Coffee & Cigarettes 54 | 吉村界人


Netflix配信ドラマ『地面師たち』でNo.1ホスト楓を演じ、一躍脚光を浴びた吉村界人。これまでも様々な映画やミュージックビデオに出演し独特の存在感を放ってきたが、大根仁監督が手掛けたこのドラマは彼にとって大きなターニングポイントとなった。

「『地面師たち』の反響ですか? うーん、どうなんだろう……。そういえばさっき友人から『今度メシおごってよ』と連絡があったんですよ。『え、なんで?』と尋ねたら、『吉村界人の年収推定5000万』と書かれた記事を読んだからだと。……もう、ありえないですよ(笑)。そんなわけないじゃないですか。これまでずっと贅沢とは無縁の生活を送っていますからね」

 そう謙遜する吉村だが、やはり『地面師たち』の反響は大きく街中で声をかけられることも増えたという。「ただ、名前まで覚えてくれている人は少ないですね。『あ、地面師の人』みたいに言われます(笑)。この役が決まったのも、たまたまマネージャーの勧めでオーディションを受けたから。運良く合格し、それが今につながっているんですよね」



 彼にとってこれが初となる大根監督の現場は、他に類を見ない特別な体験をもたらした。「あるシーンで『ハンバーガー屋をやる』と夢を語るセリフがあるんですけど、何度やってもOKが出なかったんです。10テイク以上繰り返した後、監督に呼ばれて『全然ダメ』と言われた時は、何がどうダメなのか正直なところまったくわからなくて」と苦笑する。



「監督は、『界人は俳優だろ? この場にいる俳優さん、スタッフ全員をそのセリフで感動させてくれよ』って。そんな指示を受けたのは初めてでしたね。大抵は会話のテンポや、演技の際の所作についてのテクニカルなリクエストが多いのですが、『俺たちを感動させてくれ』と言われた時のプレッシャーは半端なかったです」

 ドラマがクランプアップした後、しばらくして大根監督からLINEで連絡があったという。「一応、LINE交換はしていたんですけど、ほとんど連絡を取ってなかったし、僕から何か送っても大抵は既読無視(笑)。なのに、『楓、めっちゃいいよ』ってメッセージが来たんです。大根さんを知っている方なら誰しも分かると思うのですが、大根監督って滅多に人を褒めないんですよ。なのに、『この作品は絶対ヒットすると思うから、界人もバズる準備をしておけよ』って。嬉しい反面、少し驚きもありましたね」



 吉村が俳優業に興味を持ち始めたのは学生時代だった。「夜間の大学に通いながら、本を読んだり映画を観たりしていたんです。親も本が好きだった影響もあり、夏目漱石をはじめとした古典文学から海外の作品まで幅広く読んでいました。そこからさまざまなカルチャーに興味を持つようになっていきましたね」

 古本屋や映画館に通い詰めた日々を振り返り、当時の情熱を語る吉村。「19歳や20歳の頃って時間だけはたっぷりあるじゃないですか。映画も『ウォーターボーイズ』みたいに大ヒットした邦画から、香港映画や海外のインディーズ映画まで何でも観ていました。母親がブラッド・ピットの大ファンだったので、彼の出演作もよく観ましたね。特に『トゥルー・ロマンス』はお気に入りで、何度も繰り返し観ました。

 俳優の道を選んだのは、ある意味で「消去法」だったという。

「監督になるには勉強も必要、だけど映像学校に通うお金はなくて。技術部や演出部も難しいし、テレビ業界もどうやったら監督になれるのかわからない。そんな中で、俳優なら自分にもできるかも?と思ったんです」

 そんな吉村のプライベートは、役者仲間よりも異業種の友人と過ごすことが多い。「休日は友達の車に乗って、ドライブすることが多いですね。運転はできないので、助手席に座って他愛のない話を延々としています(笑)。普段あまり派手な遊びはしないんですけど、車に乗ってちょっとした小旅行をすると気分転換になりますね」

 ある意味「界隈」と程よい距離をとっている彼は、そのライフスタイルも「我が道」を突き進んでいる。「髪型もファッションも、流行に左右されず自分が『いい』と思っているものを選んでいますね。周りの人には『あんまりカッコよくないよ?』と言われることも多いですが……(笑)。特にお気に入りのスタイルやジャンルもないし、特定のお店へ行くわけでもなく、ふらっと立ち寄ったお店で『いいな』と思ったら買っているだけなんですよね」


 そういって笑いながらタバコに火を灯す。実は彼、自身が作詞作曲を務めたその名も「CigaretteCoffee」を、2018年にリリースしミュージックビデオではSUMIREとの共演も果たした。奇しくもこの連載記事のタイトルは、『Coffee and Cigarettes』。何やら浅からぬ縁を感じるが、吉村にとってタバコとコーヒーは特別な存在だ。

「撮影前の緊張している時や、リラックスしたい時に吸うことが多いですね。銘柄はラークマイルドで、1日1箱くらい吸っています。コーヒーも、友人からもらった手動のミルで豆を挽いてドリップしていますよ。タバコとコーヒーで気持ちをリセットするというか、一人の時間を作ることができる。そういう意味で、僕にとってどちらも単なる嗜好品ではないんです」



 そんな吉村が主演を務める映画『WelcomeBack』は、第40回ワルシャワ国際映画祭に選出された話題作。粗暴ながらもヒールとして人気の新人ボクサー・テル(吉村界人)と、彼の強さを誰よりも信じている純粋無垢なベン(三河悠冴)の強い絆、そしてやがて変わりゆく関係性を描いたユニークなボクシングロードムービーだ。「僕の父がボクシング好きで、子どもの頃は家の地下にサンドバッグがあったんです。父と一緒に遊び半分でそれを叩いていた記憶がありますし、試合もよく一緒に見ていました。そんな家庭環境だったので、この役が回ってきた時は感慨深いものがありました」

監督の川島直人とはプライベートでも親交があり、この映画の構想も早い段階から耳にしていた吉村。ようやく仕上がった台本を読んだ時には「絶対に俺が演じたい」と強く思ったという。「普通のボクシング映画って、派手なエンタメ要素が強いことが多いですよね。でもこの作品は、そういうド派手な感じではなく、一個人の内面的な勝敗に焦点を当てているんです。ボクシングって、勝ち負けが数字でハッキリと示されるシンプルな世界ですよね。でもこの映画では、試合結果以上に『その後の人生をどう生きるか?』が描かれていて、そこが面白いと思いました」


 『Welcome Back』©2025 GunsRock

 テルというキャラクターには、吉村自身の心情を重ねる部分も多かった。「冒頭のセリフにもあるように、ヒール役って一度演じてしまうと後には戻れなくなる。僕は自分のこと、今までヒールだなんて思ったことなかったんです。不良でもないし、割と普通で真面目なほうなんじゃないかなって。でも、役者の道を目指すようになってからは、自分はいつも窓際にいるような感覚がずっとあったんですよね。同期の俳優ともあまり馴染めないし……もし自分を主人公かヒールかで分けるなら、やっぱりヒール寄りかもしれないと最近は思っています」

 川島監督は吉村の3つ年上で世代も近い。他のスタッフも若い世代が多かったこともあり、撮影現場は常に風通しが良かったと話す吉村。「だからこそ、新しい撮り方を試してみるなど、普段やらないようなことにみんなで挑戦する感じが楽しかったし、それ自体が現場の一体感にもつながっていましたね」
 この映画をどんな人に見てもらいたいかという質問には、彼は少し考えた後にこう答えた。「勝ち負けについこだわってしまう人にこそ観てもらいたいかな。日常のほんの些細なことでも『あの時、ああしていれば……』と感じることってあるじゃないですか。そういうのを気にする人って、僕はピュアだと思うんです。この映画は、人生における『次の一歩』をどう踏み出すか迷っている人に、響くものがあるんじゃないかなと」

 そして、これからの俳優人生をどう送っていきたいか最後に尋ねてみた。「世の中って何かしらカテゴライズしないと商品として売れない部分があるじゃないですか。でも僕自身はその枠にとらわれたくないんです。馴染めない界隈に対し、以前はヒップホップっぽいというか好戦的なスタンスを取っていたけど、今はどちらかといえばレゲエの気持ち?(笑)。常にユーモアを忘れずにいたいんですよね。俳優同士のマウント合戦や過剰な承認欲求に巻き込まれず、遊び心と共に『自分らしい生き方』を貫いていけたら最高ですね」

Rolling Stone Japan vol.29(2024年12月25日発売)掲載


『Welcome Back』
2025年1月10日より、
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか
全国順次公開
©2025 GunsRock

監督:川島直人/脚本:川島直人・敦賀零/撮影:岩渕隆斗
出演:吉村界人、三河悠冴、遠藤雄弥、宮田佳典、優希美青、松浦慎一郎、テイ龍進、菅田俊
2024年/日本/DCP・BD/カラー/119分/シネマスコープ/ステレオ/製作・制作会社:GunsRock /配給:パルコ

吉村界人
2014年、内田俊太郎監督の自主制作作品「ポルトレ PORTRAIT」で映画に初主演し、以降、映画やTVドラマなどで異彩を放つ唯一無二の存在として活躍の場を広げている。主な出演作に『ミッドナイトスワン』(2020年・内田英治監督)、『神は見返りを求める』(2022年・田恵輔監督)、『サイレントラブ』(2024年・内田英治監督)などがある。16年、青春群像劇「太陽を掴め」に主演した。2024年は大根仁監督によるNetflix ドラマ『地面師たち』にホスト役で出演し話題に。TBS1月期火曜22時の連続ドラマ『まどか26歳、研修医やってます!』、ABEMAオリジナルドラマ『警視庁麻薬取締課 MOGURA』(1月9日配信開始)が控える。

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