CLAN QUEEN、WWW Xで送り届けた壮大で深淵な総合芸術
Rolling Stone Japan / 2025年1月8日 18時0分
アートロックを標榜する新世代ユニット・CLAN QUEENの快進撃が止まらない。
【ライブ写真】CLAN QUEEN、WWW X公演の様子(全5枚)
CLAN QUEENは、yowa(Vo)、AOi(G)、マイ(B)の3人によるユニットで、前身バンド・WARS iN CLOSETからボーカルが脱退したことをきっかけとして、2022年11月、現在の3人体制での活動を始動した。重要なポイントは、楽曲制作にとどまらず全てのクリエイティブを自分たち自身で手掛けていること。AOiは、作詞作曲に加えて、アートワークの制作を担当。マイは、映像監督としてミュージックビデオの監督やライブの映像演出を務めている。(マイは、水曜日のカンパネラ「バッキンガム」「織姫」をはじめ、他のアーティストのミュージックビデオの監督も手掛けている)。それぞれのメンバーが活動の幅を広げ続けていることが、そのままCLAN QUEENの”アートロック”の進化・拡張へと繋がっていて、言うまでもなく、3人の表現は、楽曲、ビジュアル、映像、それら全てが結集するライブの空間でさらなる真価を発揮する。
4月28日、1st ONEMAN SHOW「The VeiL」がShibuya eggmanで開催された。チケットは、公演3カ月前の時点でソールドアウト。11月から始まった1st ONEMAN TOUR「PARADE OF TOYS」は、7月末の時点で追加公演も含めた全4公演がソールドアウト。これらの動向から、今のCLAN QUEENに寄せられる期待と注目の大きさを窺い知れる。このツアーにおいては、それぞれの公演ごとにテーマが設けられていて、それに伴いセットリストも公演ごとに刷新された。11月9日、東京・WWW公演「Outer Cinema」(映画のような物語形式の映像演出)。11月15日、大阪・Yogibo METAVALLEY公演「Showtime Clock」(楽曲に合わせた映像演出)。11月17日、愛知・ell. FITSALL公演「Live in Chest」(ライブそのものの価値)。そして、その3つの公演を解剖して再構築したのが、12月20日、東京・WWW Xで開催された追加公演「TOYS ANATOMY」だ。この記事では、同公演の模様をレポートしていく。
まず会場に入って目に飛び込んできたのが、「ヘルファイアクラブ」から「自白」までのミュージックビデオのポスターの展示だった。一つひとつのポスターが一堂に並ぶ光景は、あまりにも壮観。これはライブ本編にも通じるが、楽曲、ビジュアル、映像をはじめとしたCLAN QUEENの全てのクリエイティブには、明確な意図と妥協なき意匠が宿っている。ライブ会場に足を踏み入れた瞬間から、3人の創作にかける想い、いや、人生をかけて創作に挑む揺るがぬ覚悟がはっきりと伝わってきて、まだライブが始まる前にもかかわらず、さっそく圧倒されてしまった。
「全神経を研ぎ澄ませて、お楽しみください」という開演を告げるアナウンスが流れ、いよいよライブがスタート。まず、マイが手掛けた映像がスクリーンに映し出される。自己と他者、そして、全てを取り巻いていく世界。不安定で、不透明で、不条理なこの世界を生きる中で、否応もなく胸の中に去来する不安や葛藤、迷い、そして、孤独。そうした切実な心情風景を伝えていくナレーションは、「街は喧騒に溺れている。」「静かな夜に辿り着けるまで、私たちはパレードを続ける。」という宣戦布告のような言葉で結ばれる。
そして、オープニングナンバー「Loud Land」へ。yowaとAOiのマイクリレーによって次々と放たれる言葉たちは、私たち一人ひとりに絶えず思考を促す。それは、音源を聴く時にも通じる感覚ではあるが、ライブでは、生身のダイレクトなコミュニケーションを通して、一つひとつの思考を促す言葉たちが、より深く脳裏に突き刺さっていく感覚を抱く。AOiはギターを掻き鳴らしながら「歌え!」と叫び、一人ひとりの観客にこのライブの当事者であることを求め、そして、彼の想いに呼応するようにフロアから熱烈な合唱が巻き起こる。続く「サーチライト」では、yowaが台の上に立ち、並々ならぬフロアの熱狂をさらに容赦なく牽引していく。「プルートー」では、AOiの呼びかけを受け幾度となく一斉ジャンプが巻き起こり、「Tokyo Mood」「ファンデーション」では、フロア全体が妖艶なフィーリングが満ちたダンスフロアへ一変。マイによるベースは、全ての曲において一貫してグルーヴの要を担っていて、どの楽曲からも、音源を聴く時とは似て非なる熱い高揚感が伝わってくる。まだライブは始まったばかりだというのに、既にして凄まじい情報量と体験の密度だ。
幕間映像を経て、「アリスの嘘」へ。yowaは、時おり声を震わせながら切実なエモーションを全身全霊で歌い届け、曲の最後には、言葉にならない想いを圧巻のフェイクに託して伝え抜いていく。「天使と悪魔」におけるハイトーンも圧倒的で、彼女のシンガーとしてのポテンシャルに改めて驚かされた。幕間映像(「自白」の《純粋でいたいだけです》《それが君にとっての 悪でも構わないです》という歌詞に通じるナレーションが届けられた)を経て披露されたのは、「HARU」。3人ともアクショは小さめだったが、鮮烈なライブパフォーマンスを通して、この楽曲に宿る切実な感傷が痛いほどひしひしと伝わってくる。そして、「ハッピーエンドを望む、私はきっと、バッドエンド。」と告げる幕間映像を経て、「Bad End」へ。まるでダムが決壊したかのように、壮絶な轟音が容赦なく轟いていく圧巻の展開。その上に重なる、凛とした響きを放つ美しい歌のメロディ。その2つが分かちがたく溶け合うアンビバレントな表現に、思わず息を呑んだ。
AOiの「皆さんが知らないかもしれない一曲を持ってきました。」という言葉を添えて披露されたのは、未音源化楽曲「幽体離脱」だ。AOiが、12月8日、Xで、「フルを作る気がなかった『幽体離脱』」を最後まで作ってみることにした」と投稿していたことを踏まえると、同曲のフルver.は完成したばかりであることが推測できる。粋なサプライズに驚かされたし、また、この曲の他にもTikTokで一部が公開されている楽曲がまだまだあることを思うと、CLAN QUEENが誇るポテンシャルの底知れなさに痺れる。続いて「NEW ERROR!!」、そして「ヘルファイアクラブ」へ。《僕らは きっとどうしようも無くて 死に行くが 希望を今でも》という歌詞が、3人と観客がお互いに連帯を確かめ合う言葉として輝かしく響く。
CLAN QUEEN(Photo by エドソウタ)
会場全体を満たす熱狂は、「求世主」でさらに昂っていく。ステージとフロアの境界線が溶けていくかのような猛烈な熱気。3人と観客がお互いに手を取り合いながらカオスの彼方を目指していくかのような熾烈な展開。熱すぎてもはや清々しさすら感じる中、マイが下手の台の上に上がって大らかにバウンスする豪快なベースを轟かせ、そして、AOiの「渋谷、好きに踊ろうぜ。」という呼びかけと共に「APPLE」へ。地獄の底を蠢くような壮大な合唱。その一体感は、続く「花一匁」「踊楽園」へと引き継がれていき、さらにここで最新曲「ゲルニカ」がドロップされる。まるで全てのパラメータを攻撃力に全振りしたかのような熾烈なロックチューン、圧巻だ。容赦なく爆走する展開に、懸命に拳を突き上げながら伴走していく観客たち。熱烈な疾走感を湛えたまま、ついにライブはクライマックスパートへ突入。yowaの「CLAN QUEENでした、ありがとう」という感謝の言葉と共に披露された「自白」で、会場全体の高揚感と一体感はさらなるピークを更新。熱烈なムードの中で幕締めを迎えるかと思いきや、この日のラストを飾ったのは、「PSIREN」だった。思わず身の危険を感じるほどの重低音が轟き、鮮烈なライティングによって視界が白く染まっていく。まるで、白い轟音の中に溺れていくようなショッキングな体験。同時に、どこか懐かしく、心地よい感覚も湧き出てくるから不思議だ。リミッターがぶっ壊れてしまったかのように昂り続けてるAOiのディストーションギター、その残響が耳を突き刺すように鳴り響く中、メンバーは無言でステージを去っていく。フィードバックノイズが鳴り止んだ後も、いつまでもフロアから拍手が止まることはなかった。
総じて、あまりにも壮絶なライブ体験だった。五感をハックされるような感覚。逆に、五感を解放されるような感覚。その両方が同時に去来する。矛盾するようではあるが、そうした得も言われぬ感覚を、壮大で深淵な総合芸術を通して送り届けてくれることこそが、CLAN QUEENのライブの真髄であると強く感じた。会場を出た後も、その鮮烈な余韻がいつまでも胸に残り続けた。前々から発表されているように、来年には、さらに規模を拡大した2nd ONEMAN TOUR「NEBULA」の開催が控えている。会場がスケールアップするのに比例して、3人が届ける”アートロック”のスケールと深度も飛躍的に高まっていくはず。期待して待ちたい。
セットリスト
1. Loud Land
2. サーチライト
3. プルートー
4. Tokyo Mood
5. ファンデーション
6. アリスの嘘
7. 天使と悪魔
8. HARU
9. Bad End
10. 幽体離脱
11. NEW ERROR!!
12. ヘルファイアクラブ
13. 求世主
14. APPLE
15. 花一匁
16. 踊楽園
17. ゲルニカ
18. 自白
19. PSIREN
<ライブ情報>
6月27日(金) 愛知THE BOTTOM LINE
7月6日(日) 大阪BIGCAT
7月12日(土) 東京 Zepp Shinjuku
8月23日(土) 神奈川 KT Zepp YOKOHAMA(追加公演)
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