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フランツ・フェルディナンドが語る、新たな黄金期に導いた「らしさ」と「新しさ」の両立

Rolling Stone Japan / 2025年1月8日 17時30分

フランツ・フェルディナンド

デビュー・アルバム『Franz Ferdinand』(2004年)のリリースから20年が過ぎたフランツ・フェルディナンド。2022年に新曲入りベスト・アルバム『Hits To The Head』を発表、そのツアーで来日公演も行なわれたので不在感はまったくないが、純然たる新作は5作目の『Always Ascending』(2018年)が最後で、お預け状態が続いていた。長年在籍したポール・トムソンが脱退、新ドラマーとしてオードリー・テイトが加入してから初めてのアルバム『The Human Fear』がいよいよ到着。オリジナル・メンバーのアレックス・カプラノス(Gt, Vo)、ボブ・ハーディ(Ba)を核に、Miaoux Miaoux名義での活動でも知られるジュリアン・コリー(Key, Gt)、1990sのディーノ・バルドー(Gt)を擁する5人組となった彼らは、今まさに新たな黄金期を迎えている。

続くインタビューでアレックスが言っている通り、新作では”フランツ・フェルディナンドとしてのアイデンティティ”を守りながら、またしても時代の変化に呼応してサウンドをアップデートすることに成功。ツアーを経てバンドの結束力が増してきたタイミングでスタジオ入りし、皆でアイディアを出しながらレコーディングを楽しんだ様子が伝わってくる、躍動感溢れるアルバムに仕上がった。彼らに”踊れるリフ・ロック”のダイナミズムを求める向きにも、ひねりが効いたソングライティングの妙を期待するファンにも歓迎されそうな、バランスが良く無駄のない作品だ。

どの曲にも背景に何らかの恐怖があると気付いたという本作のソングライティングと、これまで以上に理想のサウンドを追求したというレコーディングの様子、カバーもしたチャペル・ローンなど、お気に入りの若手ミュージシャンについて、アレックスにたっぷり語ってもらった。


左からディーノ・バルドー(Gt)、ボブ・ハーディ(Ba)、アレックス・カプラノス(Gt, Vo)、オードリー・テイト(Dr)、ジュリアン・コリー(Key, Gt)


「恐怖」は生の実感を与えるもの

─前のアルバム、『Always Ascending』からは約7年と、これまでで最長のブランクがありました。その間にコロナ禍もありましたが、ここまでの数年間は、あなたにとってどんな時間でした?

アレックス:すごくポジティブな時間だったけど、時にはフラストレーションを感じることもあったね。確か前作をリリースしたのが2018年の前半で、そのツアーが終わったのが2019年の終わり頃。じゃあ次の作品に取り掛かろうということになって、まずはベスト・アルバムを2020年前半くらいに出して、新作を2020年末に出せたらいいなと考えていたんだけど、パンデミックでベスト・アルバムのリリースが遅れて、ツアーも新作も後ろ倒しになり、あまりにも時間がかかりすぎることが正直もどかしかった。

でも今は時間がかかって本当に良かったと思っているんだ。なぜなら曲を客観的に見る機会を与えてくれたから。もしも改めて曲に立ち返る時間と、バンドを今のような状態に仕上げる時間がなかったら、今ほど力強い楽曲群にはなってなかっただろうと思う。パンデミック後に再集結してベスト・アルバムのツアーで世界中を回ったことで、バンドとしてものすごく強固になったからさ。だから実際にスタジオでレコーディングをする時点では、5人で1つの部屋でただ演奏するだけでいいという状態になっていて。現代のレコーディングは大好きだし、技術的にもいろんなことが可能で素晴らしいけど、5人で一緒に演奏する感覚や、そのときに起こる魔法を再現できる手段は存在しないからね。ベスト・アルバムのツアーや、レコーディングの前に起こった全てのことがなかったら、ここまでのレベルには到達できなかったと思うよ。

─『The Human Fear』というタイトルについては、いろんなインタビューで訊かれていると思いますが。この興味深いタイトルをどうやって思いついたの?

アレックス:恐怖についてのアルバムを作ろうとは思っていなくて、作り終わったあとに、これは恐怖についてのアルバムだと気づいたんだ。「Hooked」の歌詞を最後に書いたんだけど、この曲は「不安を覚えた。人間らしい恐れを抱いた」という一節で始まる。それで他の曲も見返して共通するテーマを探したら、どの曲にもその根底に何らかの恐怖があることに気づいたんだよ。「Doctor」は組織から離れることの怖さについて歌っていて、というのも僕は子どもの頃に喘息持ちで入院したことがあったんだけど、入院中の見守られている安心感が名残惜しくて、病気が治ってきても退院したくなかったんだ。「Night Or Day」の場合は関係を築くことに怖気付いていて、それが正しいことで素晴らしいことだとわかっているけど、それは同時に自分の人生の多くのものを犠牲にすることを意味していて、その一歩を踏み出すまでにいろんな怖さを克服する必要があるっていう曲。

「Bar Lonely」という、東京に実在するバーにインスパイアされた曲は、一つの関係が終わることについて描いている。新宿のゴールデン街にロンリーというバーが本当にあって、ボブと一緒に行ったんだけど、そこから、”一人になるために行くバー”っていうアイデアが浮かんできた。二人の主人公が、一人になるためにそのバーに一緒に行くんだよ。だからこの曲は、関係を終わらせることへの恐れを描いている……もう終わりだということは二人ともわかっているんだけどね。それから「The Birds」は社会的に拒絶されたり、仲間に受け入れてもらえなかったり、社会的な居場所がないことへの恐怖。そして「Black Eyelashes」は僕が自分自身のなかにあるギリシャ人的な部分を見つけようとするんだけど、先祖や歴史や居場所がない、根無し草的であることへの恐怖感について描いている。

とにかくどの曲も、背後にそれぞれ異なる恐れがあるっていうことが明らかになってきたんだよ。それと同時に思ったのは、恐怖は生きているという実感を与えてくれるものだってこと。人生における最高の出来事だったり、価値のあることを経験するためには、何らかの恐怖を克服することが必要なんだ。愛の告白にしても、好きな人をデートに誘うことだったりしても、あるいはもっとくだらないところで言うとホラー映画も、怖いけどゾクゾクするよね。ジェットコースターもそう。恐怖って普遍的で誰もが感じるものだ。でも同時に、恐怖に向き合うことで自分の性格や個性がわかるんだ。恐怖のない人生って、正直言って人生とは言えないんじゃないかな。恐怖を感じるときは気持ちが高鳴るときだから。恐怖っていろんなものに大いに関係があると思う。

もしかしたらこのタイトルは誤解を招きやすいかもしれないな。恐怖心を植え付けるようなアルバムだと思われるかもしれないけど、そうじゃないからさ。初期のブラック・サバスみたいなものを想像するかもしれないけど、全然違うよ(笑)。怖がらせるのではなくて、恐怖について考えたり、その本質だったり、それぞれがどういう恐怖と向き合っているのかってことだったりを取り上げているんだ。


「Bar Lonely」のパフォーマンス映像

─『Always Ascending』ではフィリップ・ズダール、ベスト盤『Hits To The Head』に収められた新曲ではスチュアート・プライスをプロデューサーに迎えていましたが、新作では『Right Thoughts, Right Words, Right Action』(2013年)以来久々にマーク・ラルフが戻ってきました。人選のポイントは?

アレックス:まずエンジニアやプロデューサーにはスタジオやレコーディング技術に関する知識を求めるというのは前提としてあるけど、それは基本的な部分で、僕が今プロデューサーに求めているのはそれ以上のものなんだ。個人的な繋がりがあったり、同じ空間にいたいと思える人、一緒にいて楽しい人、一緒にアートを作りたい、一緒に笑いたいと思える人なんだけど、マークにはそれがあるんだよ。すごく気が合うし、彼は友達だからね。

今回レコーディングした場所はスコットランドの僕のスタジオだった。最初のロックダウン期間中に僕らは各々で活動して、人によってはパン作りを学んだりしていたんだけど、僕はスタジオの音響を再構築したんだよ。音響の物理的性質を深く理解するために学生以来初めてイチから勉強して、本もいっぱい読んでさ。それでかっこいい音響になったんだけど、スタジオが規格外なんだよね。昔の画家のスタジオみたいな感じで、北向きの大きな窓と暖炉があって、バンドが演奏するスタジオの中にコンソールがあって部屋が分かれていない。ほとんどのエンジニアは……まあプロデューサーもだけど、特にエンジニアはそういう環境での仕事を嫌うんだ。なぜならほとんどのスタジオはアーティストのためというよりもエンジニアのために作られているから。でも僕のスタジオはミュージシャンのために作られているからエンジニアが適応しなくちゃいけなくて、本来はそれが正しいやり方なんだ。マークはすごく順応性が高くて冒険心もあるし、「それは正しくない」とか言うような人じゃない。進歩的で、いろんなテクニックを試すことにも前向きなんだ。

2004年に戻りたいとは思わない

─1曲目の「Audacious」はいくつもの楽曲が合体したような、とてもフランツ・フェルディナンドらしい構造の曲ですね。どんなプロセスを経て生まれた曲なのか教えてください。

アレックス:これはピアノを弾くところから始まって……だからピアノ曲なんだ。ちなみに僕はジョン・レノン的なピアノ弾きで、つまりはすごく下手くそ(笑)。ジョン・レノンはピアノ弾きとしてはひどかったし僕もそうで、ポール・マッカートニーではない。でも下手なピアニストが弾いた場合に何が起こるかと言うと、本物のピアニストにとっては間違いで絶対にやらないようなことをやるわけ。そのおかげで面白い発見があったりするんだよ。セオリー通りに弾くのではなくて自分の手が動くままに奇妙なパターンを弾き始めたりしてさ。とにかく僕はピアノを弾きながらそのとき感じていたこと、自分の周りの世界が崩れ落ちていく恐怖を感じて、それについて歌ったりしていた。そしてそれに対する答えが、Audacious(大胆)だった。ピアノから始まった曲だけど、ピアノ曲のままにしておきたくはなかった。フランツ・フェルディナンドらしい曲にしたかったし……ボブとの会話がきっかけで生まれた部分も多い。

ボブが「Audacious」の歌詞をすごく気に入ったんだよ。元々このバンド自体も24年前にボブとバイト先の厨房で抽象的なアイデアを語り合ってから生まれたものだし、そういう話し合いは今も変わらずやってるんだ。それでこの曲に関しては、ヴァースとサビがQ&Aみたいな形になるようにしたいと思ったんだよね。まず現状に対する疑問を投げて、サビではそれに対して応答する形で、力強く、自信を持って、気持ちを高揚させるような返答にしたかった。そして音楽にもそれを反映させたかった。だからヴァースは倍テンポで、落ち着きがなくて緊張感があるんだけど、サビでは半分のテンポになって、それによって大胆で自信に満ち溢れた感じになって、歌詞にも合ってる気がした。

あと、曲の冒頭で僕が「Here we go with riff 1(リフ1からいくよ)」と言っている部分は、自分のスマホで録ったやつをそのまま使った。ボブも僕もこの曲にはリフが欲しいと思って、それでボブに「リフをいくつか作ったから聴いてみてよ」と6~7個リフを送ったんだけど、そのときに「じゃあまずリフ1から」と言いつつスマホでリフを録って、それをそのまま使ったんだ。というわけで、このアルバムは最もベーシックなデモ音源から始まっている。それから徐々にメンバーが入ってきて、サビで爆発して完全体の3Dサウンドになる。そうやってアルバムの1曲目でヴァースからサビにかけて進化していく様子に、何かとても詩的なものを感じたね。



日本語字幕リリックビデオ

─アルバム中盤の印象的な曲、「Night Or Day」はどのようにして生まれたんですか?

アレックス:「Night Or Day」を書き始めたのは前作よりも前だったんだけど、うまく完成させることができなかった。歌詞も今とは違っていて、結局は道を間違って突き進んでいたわけ。当時はどうしても完成させられなくて半ば諦めかけたんだけど、ギターのディーノ(・バルドー)がこれは素晴らしい曲だと言ってくれたんだ。ただし改善の余地があるって。まさにそれがバンドのいいところだよね。自分が自信を無くしたときに、「大丈夫だよ。もう一回見直してみよう」って元気付けてくれる友達がいるっていう。この曲もやっぱりこのアルバムらしさを反映していると思うんだよね……つまりグルーヴだったり、様式だったりはすごくフランツ・フェルディナンドらしくて、でもこれまでの曲にはなかったような、全く違う部分もあるという。結果的には特に好きな曲の一つになったよ。



─キャリアの長いバンドがこういう充実した作品をリリースすると「初期の個性が戻った」みたいに言われがちですが、このニュー・アルバムはフランツ・フェルディナンドらしさを残しつつ、きっちり”今”のサウンドに更新されていますよね。自分たちでも変化すること、進化することは意識しましたか?

アレックス:今回の目標が2つあって、これはボブともよく話しているし、ベスト・アルバムをやってからより明確になったことなんだけど、まず一つは、フランツ・フェルディナンドのアイデンティティに忠実でありたいということ。さっきも言ったように、どの曲もフランツ・フェルディナンドの曲だとはっきり認識できるようなものにしたかったんだ。でもそれはノスタルジアを意味しないんだよ。むしろノスタルジアを拒絶しているんだ。2004年を再現したいとは思っていないからね。もちろん2004年は楽しかったし最高だったけど、戻りたいとは思わない。僕らは一番売れたアルバムで何年も何年もツアーするようなバンドにはならない。僕にとってそれはすごく気が滅入ることだし、進歩的ではないから。僕は生きているアーティストで、何か新しいものを作りたいと思っている。だからこのアルバムも、自分たちのアイデンティティに忠実であると同時に新しいこともしたかった。自分の信念は2004年と変わってないかもしれないけどね。つまり余分な脂肪が一切ついていない、超引き締まったアルバムを作りたくて、どの曲もヒット曲のような感じにしたかったけど、自分が20年前に作ったようなものは作りたくなかったんだよ。なぜなら僕はその頃と同じ人間ではないからさ。このアルバムが発売される頃には52歳になっているわけで、そういう自分の人生も反映させたかった。今も当時と同じマネージャーで、当時と同じように人生を愛していて、音楽作りを愛しているけれど、僕は当時から20歳年を取っているわけだから、音楽にもそれを反映させたいんだ。

絶対に1stアルバムではやらなかっただろうなっていう曲を挙げると……「The Birds」みたいな曲は入らなかったと思う。「Hooked」も入ってないだろうね。あと「Black Eyelashes」も絶対に違う……楽器編成にしても、ブズーキを使ったりしているし。「Tell Me I Should Stay」や「Everydaydreamer」、あるいは「Audacious」のストリングスやオーケストラのアレンジにしても、1stアルバムではやらなかったことだと思う。だけど、どの曲もすごくフランツ・フェルディナンドらしいものになっているね。今のところはおそらく「Hooked」が今の自分と自分の考えを最も端的に捉えているかもしれない。理由はわからないけれど、今直感でそう思った。



理想のレコーディングを追い求めて

─そして何はともあれ、強力な新ドラマーのオードリー・テイトについて訊かないといけません。フランツ・フェルディナンドの新ドラマーとして定着するまでの間、彼女の努力をずっとそばで見ていたと思いますが。

アレックス:まずオードリーは、人として素晴らしい。不思議なんだけど、彼女がバンドに加入してから多くの記者が「どうしてバンドに女子を入れたんですか?」って訊いてきた。でも僕らは別に女性を入れたわけではなくて、スコットランドで最高のドラマーを選んだら、それがたまたま女性だっただけで(笑)。驚くほどすごいんだよ。でも一緒にバンドをやるにあたって重要なのは技術的な能力だけじゃないんだよね。ジュリアン・コリーとディーノも、どちらも驚くほど凄腕のミュージシャンだけど、性格が良いっていうのも大きい。それは間違いなくオードリーにも言えることだよ。一緒にいて楽しいんだ。さっきのマークの話と同じ。彼女はユーモアのセンスも最高だし、面白いからツアー中も一緒にいて楽しいし、ポジティブで、それって技術面と同じくらいの影響があると思う。一緒にスタジオに入るのが楽しみになって、実際レコーディング中も楽しくて。そうやって楽しんでレコーディングすると、それを聴く人も多分楽しんでくれて……そういうのってどんなに暗いテーマでも関係なくて、作っているときの喜びは聴く人にも伝わると思うんだ。

オードリーは僕が最も好きなタイプのドラマーというかミュージシャンで、ものすごく強靭なアスリートのように、必要な瞬間になって初めてその本領を発揮するタイプだと思う。このバンドにとってグルーヴが非常に重要な要素なのは彼女もわかっていて、実際すごく長けているんだけど、それをひけらかすようなことはしないんだ。自分のすごさに気づいてほしくて主張するドラマーもいるけど、彼女は全体像を見ることができる。全体における自分の役割を理解するというのが大事だからね。このバンドの良いところは、誰かが前に出過ぎることがないところで、”全体のサウンド”という意識があるんだよ。

The Dark of the Matinée live from Buenos Aires: Drum Edition. pic.twitter.com/TGDA2RybgB — Franz Ferdinand (@Franz_Ferdinand) December 30, 2024
─ジュリアン・コリーの存在感がこれまで以上に増したようにも感じました。レコーディングでの彼は、どんな役回り?

アレックス:まずオードリーと同じくジュリアンも一緒にいて楽しいというのがある。今回はジュリアンと2人でアレンジを考えることが多かったな。それからジュリアンはスタジオを作る上でかなり大きな役割を演じてくれた。彼は素晴らしいミュージシャンというだけではなくて非常に有能なエンジニアかつプロデューサーでもあるからね。フランツ・フェルディナンドに加入する前にBBCで長く働いていたんだ。スタジオを再設計するにあたって、配線とか配置とか大いに助けてもらったよ。今回のアルバムにはかなり独特のサウンドがあると思うんだけど、それは、演奏面だけじゃなくて、より広い意味でサウンドについて考えたことが大きかったと思う。ジュリアンといろんな音のアイデアを発展させたんだ。

僕はマイクをすごく近づけて録ったドラムが嫌いなんだよ。だってドラムに耳を当てて聴いたりしないし、もしもそんなことをしたら聴き心地は最悪だし、馬鹿げてる。だからジュリアンと一緒に、5人が一緒にライブ演奏しながら、ドラムとマイクを離して録っても音がかぶらないように録る方法を考えたんだ。マークともいくつかテクニックを編み出して、マイクのセッティングなんかも、僕が知る限り他のスタジオでは見たことがないような置き方をした。ちょっと専門的な話になってもいいかい?

─どうぞ、進めてください。

アレックス:ギターは全部SDI入力で、アンプシミュレーターを使った。でも単にシミュレーターを通して録るんじゃなく、出てくるギターの音をちょっと工夫して鳴らして……マイクは遠くに置いて、それによってすごく自然でオープンなサウンドが得られたんだ。どこから着想を得たかと言うと、ブルーノートとかの古いジャズのレコードを見たときに、ジャケットの裏側にイラストでマイクテクニックだったり、ミュージシャンの位置なんかが描かれていたんだ。そこではマイクは常に1本なんだよ。サックスがドラムよりも少しマイクに近いとか、そんな感じでセッティングされていて。だからアイデアとしてはそれと同じ方法を取り入れて、常に同じマイクを使いつつ、まるでその部屋に自分もいるみたいに感じられる自然なサウンドを作り出すための手法を開発したわけ。

部屋自体にも楽器と同様にその部屋特有のサウンドがあると思うんだよ。どの楽器にもそれぞれの調性があるように、部屋にもそこならではのサウンドがある。そういう部屋の音がアルバムからもちゃんと聞こえてくるようにしたかったんだ。さっき「Night Or Day」についての質問があったけど、あの曲のビデオはレコーディングしたスタジオで撮影したから、アルバムの音が鳴らされた部屋の雰囲気は、あのビデオを観ればわかるよ。



チャペル・ローンや若いバンドへの共感

─ところで最近、チャペル・ローンの「Good Luck, Babe!」をカバーしてましたね。彼女自身やあの曲のどんなところに惹かれたのでしょう?

アレックス:まず、素晴らしい曲だと思う。BBC Radio 2のセッションをやることになって、何か最近の曲を1曲カバーしてほしいと言われて、それで当たり前のようにあの曲を選んだよ。あんなに素晴らしい曲なのに誰もカバーしたことがなかったことに驚いたくらいだ。でも歌ってみたらすごく難しくて、誰もカバーしてない理由がわかったけどね(笑)。最高のポップソングが持つ即時性とパワーを持ちつつも、でも今どきのポップソングとは全然違っていた。なぜなら今我々が耳にするポップソングのほとんどは、何人ものソングライターによって書かれたものだから。そこには最高のフックと曲としての強さがあるんだけど、残念ながら歌詞はまるで単語同士を組み合わせただけみたいになってしまって、恋愛のさまざまな側面を表す一般的なフレーズを使っていても、特定の関係については何一つ物語れていない。それに対して「Good Luck, Babe!」は彼女自身の人生に実際に起こったことについて語っているように感じるし、紛れもなくパーソナルで、その点ですごく際立っていると思う。それに彼女はエキセントリックで風変わりで意志の強い人という印象で、ポップスターやロックスターはそうであるべきだと思うな。臆することなくエキセントリックな人が好きなんだよ。かっこいいと思う。



─他にも最近気に入っているアーティストがいたら教えてください。

アレックス:たくさんいすぎてどこから始めればいいか悩むけど。今回のアルバムに影響を与えたということではないけど、オススメというか最近刺激を受けたのは、たとえばライダー・ジ・イーグルとか。ライヴを一緒にやったこともあって、彼がこの前出したアルバム(『Autotango』)に収録された「The Fireman Is Blue」という曲がとても美しいんだ。素晴らしいソングライティングだよ。ちなみに彼はフランス人。あとオランダはロッテルダム出身のルースバーグ(Lewsberg)っていうバンドもすごく良くて、もしかしたら今一番のお気に入りかもしれない。彼らの音楽を言い表すとしたら、スモッグとヴェルヴェット・アンダーグラウンドを掛け合わせたような感じ。「The Corner」って曲(『In Your Hands』に収録)がいい。もしかしたら「The Birds」はそのバンドの影響が少し入ってるかもしれない。詩的でぶっきらぼうな歌い方とかね。現代のシーンではすごく珍しいタイプだと思う。他には……最近ロンドンで観たホーム・カウンティーズってバンドもすごく良かったよ。あとは今度のツアーで前座を務めてくれるマスター・ピースもすごく好き。グラスゴーのブレンダってバンドもすごくいいし、オーストリアのビルダーブッフ(Bilderbuch)ってバンドもすごく好きだし……というわけで、この話題なら何時間でも話せる(笑)。








─最後に、「Cats」という曲にちなんで訊いておきたいんですが。あの歌詞を聞く限り、あなたは犬より断然猫派みたいだけど、猫のどこがそんなに好き?

アレックス:猫も犬も同じくらい好きなんだ。ただ、自分の本性はどちらかと言うと猫っぽい気がする。でも皮肉なことに、かなり重症な猫アレルギーでね。猫が同じ部屋にいるだけでめちゃくちゃ顔が痒くなるわ、涙は出るわで。本当はあのモフモフに顔を埋めたいのに、そんなことをしたら死んでしまう(笑)。ちなみにあの曲は、猫と犬の性質の違い、飼い慣らされることと野性についての議論みたいになっている。犬って完全に飼い慣らすことが可能な動物だと思うけど、猫は家に住んでいても、どこまでいっても野生動物なんじゃないかと思ってるんだ。人間にもそういうタイプの人がいて、僕の性質も多分そっち寄りだと思うんだよね。家にいても、自分のどこかに「ウーッ」という、外に出たくて抑えきれない衝動がある(笑)。だからまだツアーをやり続けてるんだろうね。

【関連記事】フランツ・フェルディナンドが世界を制した本当の理由 メンバーが結成20年を総括







フランツ・フェルディナンド
『The Human Fear』
2025年1月8日 日本先行リリース
ボーナストラック1曲収録
輸入盤LP(帯付き)、Tシャツ付セットも発売
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14393




過去作が日本語帯付きLP/数量限定Tシャツセットにて発売

『Franz Ferdinand』
『You Could Have It So Much Better』
『Tonight:Franz Ferdinand』
2025年1月24日リリース

『Right Thoughts, Right Words, Right Action』
『Always Ascending』
『Hits To The Head』
2025年2月14日リリース

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14575

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