Tuxedoが語るブギーの定義、メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンの現在地
Rolling Stone Japan / 2025年1月18日 11時0分
タキシード(Tuxedo)が新作『Tuxedo IV』をリリースした。5年ぶり、4作目となるオリジナル・アルバムだ。
メイヤー・ホーソーンとジェイク・ワンからなるこのモダン・ディスコ/ファンク・ユニットは本格始動から10年を迎えたが、そもそも共通の趣味が昂じて自然発生的にスタートしただけに、その気負いのなさが彼らの音楽の楽しさに繋がっている。これまでスヌープ・ドッグやバトルキャットとも共演してきたタキシードは、Gファンク的なフィルターを通してザップやギャップ・バンドのような70~80年代のディスコ/ファンクのグルーヴを再現し、その音楽は前作で共演したデイム・ファンクなどと一緒に”ブギー”というタームで語られ、紹介されてきた。そこで今回は、収録曲の着想源や制作プロセスとともに、筆者も含めて気軽に使いすぎているきらいがある”ブギー”についても当事者に語ってもらおうではないか、と。新作には折よくNYディスコ/ブギーのレジェンドであるリロイ・バージェスも参加している。
1月20日(月)、21日(火)、25日(土)に東京・ビルボードライブ東京、23日(木)にビルボードライブ大阪で行う来日公演を控えての最新インタヴュー。”タキシード”と名乗るだけあり、Zoom画面越しのふたりはジェントルマンそのもの。そして、屈託なく楽しげに話す彼らを見ながら、このふたりにしてこのユニットありと改めて感じた。
4作目の”らしさ”と試行錯誤
―タキシードは最初のシングル「Do It」を発表してから10年が経過しましたが、それ以前におふたりが出会ってユニットとして本格スタートするまで9年近く……ということは20年来の付き合いとなるわけですね。
メイヤー:もうそんなになるっけ……知らなかった(笑)。最高だよ。僕たちなんかよりずっと有名なのに長続きせず解散したグループも多いからね。仮に続いていても実は険悪な関係だったり……。その点、僕たちはずっと仲がいいんだ。
ジェイク:そもそも最初は人に聴いてもらおうと思って曲を作っていたわけじゃなかったのに、結果的にこうして長年一緒に活動できているのは感慨深い。今回のアルバムも、「そうか、まだ楽しみにしてくれている人がいるんだ」って思うと、ちょっとグッとくるものがある。
―タキシードとしてのオリジナル・アルバムは今作『Tuxedo IV』で4作目となります。これまでもアルバム・タイトルにローマ数字を用いていましたが、インスタグラムにも投稿されていたように、タイトル(アルバム枚数)をローマ数字で表すのはザップやギャップ・バンド、ブラス・コンストラクションなどを思わせます。しかも今回は、曲のタイトルで”For”を”4”にしていて、プリンスみたいだなとも思ったのですが、何か意図があったのでしょうか?
ジェイク: 今回の新作はタイトルに”4”を入れた曲を作りたいっていうアイディアから始まったんだ。それでまず3曲出来たんだけど、やっぱり4作目のアルバムだし、計4曲で完結しないと”IV”というタイトルもしっくりこないな、ってことで出来たのが「4 Sure」だった。
Mayer:そう。いつもまずジェイクが曲のアイディアを出して、音源にタイトルをつけた状態で僕のところに送ってくる。僕の作業としては、彼がつけたそのタイトルをもとに歌詞を書いていく。だからこのアルバムは、まさにふたりの努力の結晶だね(笑)。
―2020年には日本独自(タワーレコード)企画のベスト盤もリリースされましたが、オリジナル・アルバムは約5年ぶりで、途中コロナ禍があったからだとも思いますが、タキシードにしては長いブランクを経てのアルバム発表となりました。
メイヤー:確かにコロナ禍もひとつの大きな理由ではあったけど、実際4枚目ともなると、「次はどうしよう?」って試行錯誤する時間が必要になるものだと思うんだ。
ジェイク:サウンド的にタキシード独特のスタイルが世間に知られているから、その”らしさ”を今度はどう出そうかっていうことを考える時間が必要だった。あまりにも路線を逸れるわけにはいかない、とはいえ、一定の枠の中でも自分たちにとって楽しいものでないと意味がないから。もちろん(コロナ禍で)お互い2年ぐらい会えなかったのも大きかった。2019年から2021年くらいまではまったく会えなかった。やっと再会したのがマイアミでのギグの時で、その晩にスタジオ入りして3曲ぐらい仕上げたんだ。やっぱり会うと(作業が)速いなって思ったよ。
メイヤー:タキシードにはルールがあってね。ジェイクはシアトルで、僕はLAに住んでいるけど、リモートで音楽を作るのは嫌なんだ。ふたりの間では、曲作りは同じ場所で顔を合わせてやるという決まりがある。だから長期間会えないと当然(曲作りは)難しくなるよね。
―曲作りのプロセスとしては、先ほどもお話しされていたようにジェイクが作った曲にメイヤーがメロディとリリックを乗せる感じのようですが、おふたり以外のミュージシャンも参加していますよね。
ジェイク: そうだね。いつもまず僕が思いついたアイディアから始まって、それからふたりで会って一緒に具体化していく。僕のアイディアは、曲によってはサクッと作ったメインのグルーヴだけの時もあるけど、それをメイヤーに送ると、すぐに彼がフックを思いつくんだ。ふたりで作業する時には”タキシード第3のメンバー”と言っても過言ではないサム・ウィッシュ(鍵盤)も参加して、サムとメイヤーがBメロを作る。彼らだと僕がやるよりもちょっとだけいい感じというか、若干洗練された感じに仕上がるんだ。僕たちのプロジェクトは、ほぼ全てそういうスタイルで作ってる。僕はアイデア自体は無限に浮かぶんだけど、メイヤーはそれをフィニッシュしてくれる担当。だから僕たちふたりはいいチームなんだ。
メイヤー:今回の新作に関しては、今まで以上に自分たちの友達の力も借りたと思う。サム・ウィッシュにライアン・シーゲル(Ba, Gt)、それにベンジー・デンプス(Dr)やギャヴィン・テューレック(バック・ヴォーカル)とか、ライブの時のバンドのメンバーも参加してくれた。
ジェイク: できるだけ多くの友達に参加してもらったよ。自分たちのプロジェクトはファミリーな感じにしたいと思っているから、参加してもらうなら仲間たちにお願いしたかったんだ。
メイヤー:その方が楽しいしね。
―ディスコ/ファンク・ユニットとしての基本軸は変わらないと思いますが、新作はどんなテーマ/コンセプトで制作に取り組んだのでしょう?
メイヤー:タキシードのコンセプトは”人生を楽しもう、踊ろう”であることには間違いないんだけど、今回のアルバムに関しては、そこにもうひとつ追加されたテーマがあるんだ。それは、自分を信じることだったり、生きがいや希望を含めた励ましのメッセージを曲に込めること。”本当に成功を掴みたいなら、挑戦して挑めばいい。そうすれば絶対に叶うから”っていうね。
ジェイク: 特にコロナ禍が明けてすぐの頃って、歌詞を曲に落とし込んだ時に、そういうメッセージを理解してもらえる感じがしたんだ。何の目的もなく、ただ楽しんで踊る……まあ、それはそれで僕たちの得意分野ではあるけど(笑)、それだけっていうのも違うと思ったんだ。
メイヤー:それと今作についてはゴスペルのアルバムからかなりインスピレーションを得たね。
ジェイク: そうそう。ゴスペルはかなり聴き込んだ。エンライトメントのような(ゴスペル・)ブギーのアルバム(筆者註:84年にリリースした『Faith Is The Key』がカルトな人気を集め、2017年に7インチ付きで限定アナログ再発されるも瞬く間に完売。配信はあり)とか、D.J. ロジャースの曲もね。僕たちは、彼らのような”君ならできる!”っていうメッセージが根底にある向上心溢れる曲をアスピレーショナル・ブギーとかインスピレーショナル・ブギーと呼んでいる。ファンクのアルバムにも同じようなメッセージが込められているものは多いんだ。
メイヤー:高い目標に向かって頑張るというメッセージだね。
―D.J.ロジャースの名前が出ましたが、彼についてもう少し話してもらえますか?
ジェイク:D.J.ロジャースはゴスペルのピアニストだったわけだけど、伝統的なゴスペルだけじゃなくてファンクもやるミュージシャンだった(筆者註:地元LAでゴスペル・クワイアを率い、セキュラーのソロ・シンガーとしては70年代、リオン・ラッセル主宰のシェルターを経て、RCA、その後モーリス・ホワイト主宰のカリンバ・プロダクション入りしてコロムビアからも作品をリリース)。彼がすごかったのは、まずコードの弾き方。これがGファンクに通じていて、それがタキシードのスタイルとも合致してるんだ。聴いていると、「このコードってデス・ロウの曲っぽいよね」とか「ザ・ドッグ・パウンドっぽいよね」とか、一見接点があるとは思えないジャンルなのに、D.J.ロジャースのグルーヴにはそれが感じられるんだ(筆者註:息子のD.J.ロジャースJr.はデス・ロウ発の映画サントラ『Above The Rim』(94年)で”Doggie Style”という曲を披露していたGファンク周辺のR&Bシンガー)。そうしたミュージシャンは他にもいるけど、彼らが奏でる音には、コード感とか、僕たちが目指しているウエスト・コーストのヴァイブがあるんだよね。
メイヤー:そうだね。D.J. ロジャースは元気付けてくれるような、美しいゴスペル(ソウル)を演っていたけど、同時にちょっとギャングスタ感があった。
ジェイク: 単なる心地よい音楽でなかったのは確か。自分たちも、ただ聴いていて心地よいだけの曲は作らないってことを常に心がけている。もうひとり挙げると、バトルキャットもそんな人だよね。ビートは間違いなく美しいけど、決してソフトではない。
―そのバトルキャットとは前作『Tuxedo III』の「OMW」でコラボしていましたが、新作でも冒頭の「Hold Up」などで彼をトークボックス奏者として招いています。
ジェイク: 「Hold Up」に関しては、もっとヒップホップな曲にしようと思っていたんだ。タキシード以外で自分が作る(ヒップホップ的な)スタイルとのギャップを埋めたいと思ってね。
メイヤー:同時に最初のアルバム(『Tuxedo』)に立ち返るみたいな意味もあった。
ジェイク: そう、『Tuxedo』に入っている感じの曲。実際にそういう路線を目指していたしね。それでなんとなくバトルキャットがしっくりくる気がしたんだ。彼に連絡をしてスタジオに来てもらったんだけど、いやー、すごかった! いろんなパーツをプレイしてくれたんだけど、それがすごすぎるので、編集して彼の参加パートを減らさないと、下手したら”バトルキャット・フィーチャリング・タキシード”になっちゃうところだった(笑)。
メイヤー:曲を手掛ける際、僕たちはGファンクの元祖のひとりであるバトルキャットのようなプロデューサーを手本として、それを目指しているところはあると思う。だから彼が気に入ってくれたら、うまくいったんだってわかる。
ジェイク: 間違いないね。バトルキャットにトラックを聴いてもらった時、彼の表情が変わって踊り出したのを見て、これだ!って確信した。毎回そうとは限らないから、うまくいったってことが確認できた。バトルキャットのお墨付きをもらえたんだ。
―新作のゲストとしては、バトルキャットのほかに、「4 Sure」にリロイ・バージェスが客演しています。リロイ・バージェスといえば故パトリック・アダムスの音楽パートナーで、70年代から80年代にかけて、ブラック・アイヴォリーのようなスウィート・ソウルのグループから、イナー・ライフ、ロッグ、アリームなどといった数々のディスコ/ブギー・ユニットの作品で歌ってきたレジェンドです。
ジェイク: この曲は、僕がまずビートを作って、シアトルに来ていたメイヤーがこれにピアノを入れようって提案したことが始まりだった。それで彼が弾くピアノを聴いてたら、リロイ・バージェスに参加してもらったらいいんじゃないかって思ったんだ。すごく彼っぽいサウンドだったからね。それで本人に頼もうってことになった。
メイヤー:実はリロイ・バージェス風に弾いてみたんだけどね(笑)。だけど、僕が”なんちゃってリロイ・バージェス”をやるより、本物に頼めるかトライしようってことになって。彼とは友人のジョン・モラレス経由で知り合いだったんだ。ジョンはみんなと繋がっているからね。
ジェイク: リロイ関連のアルバムも何枚かジョンがエンジニアとして参加していたからね。リロイ・バージェスには、彼のようなミュージシャンに対して敬意を表する意味でも参加してもらいたいと強く望んでいたんだ。とにかくすごい影響を受けた人物だし、僕とメイヤーが出会ったきっかけも彼だった。ふたりともリロイをはじめとするあの時代のミュージシャンが大好きで、そこからすべてが始まったわけだから、本当に彼のおかげで今の僕たちがある。だから今回参加してくれて最高に嬉しかった。まさか歌までは無理だろうなって思っていたけど、すごく気に入ってくれて「歌いたい」って言ってくれた。
メイヤー:ブルックリンで一緒にレコーディングした時、スタジオに入るやいなや、「今日は歌わないから」って言われたから、「OK、ピアノだけで全く問題ないよ」って答えた。それが、セッションが終わる頃にはもうノリノリで、「マイクをくれ、歌うから!」ってなってたよ(笑)。
―両者を繋いだのがジョン・モラレスとは美しい話です。
Jake :ジョンには僕たちの最初の2枚のアルバムをミックスしてもらったけど、すごく大切な友達のひとりだよ。彼も僕も周りのミュージシャンより年上な場面が多いから、若いミュージシャンたちのメンターになることが多いけど、ジョンは僕よりもさらに先輩だから、僕にとっては昔の時代のこととか、エンジニア関連の質問とかを聞ける相手なんだ。なんでも包み隠さず教えてくれるのがありがたい。
メイヤー:彼はズバッと言うタイプだからね。いろいろと経験してきた昔ながらのニューヨーカーだから(笑)。70年代後半から80年代のアンダーグラウンド・ディスコ・シーンを肌で体験しているわけで、彼ほどすごいエピソードを持っている人はいないよ。
―ただ、前作『Tuxedo III』では11曲中7曲にゲストを招いていたのに対し、今作は表向きのゲストとしてはリロイ・バージェスとバトルキャットのふたりにとどまっています。
ジェイク:前作では、当初すべての曲にゲストを入れようと思っていたんだ。というのも、最初の2枚のアルバムでは(ゲストとして)誰もフィーチャーしなかったからね。今回は結果的にちょっと足りなかったな(笑)。
メイヤー:それなりに頑張ったけどね(笑)。
ジェイク: まあね。今回(ゲスト以外で)参加してもらったメンツで言うと、「This Is 4 You」でフィーチャーしたアール・ウィリアムス。彼はタキシードのバンドのドラマー、ベンジー・デンプスの叔父で、70〜80年代に活躍したシンガーなんだ。もともとあの曲にはウィスパーズに参加してほしいと思っていたんだけど、ある時アールに会って歌声を聴いたら、「ウィスパーズのメンバーみたいじゃん。これは参加してもらわないと!」ってことになったんだ。
メイヤー:実際にウィスパーズに負けないぐらい良かったし、しかも僕たちにとっては仲間だから願ったり叶ったりだった。
―曲自体がウィスパーズの「Its A Love Thing」(80年)や「Keep On Lovin Me」(83年)あたりのブギーっぽい感じですよね。リオン・シルヴァーズIII(シルヴァーズのメンバーで、ウィスパーズが所属したソーラー・レコーズの名匠)の作風を思わせますが、タキシードの曲はソウルやファンクのリスナーからするとリファレンスを探し当てたくなると言いますか、”何かの曲に似ている、でも同じじゃない”という絶妙な塩梅で作られていて、既聴感がありながらもオリジナリティを感じさせます。そうしたリファレンスとの距離感みたいなことは、どれくらい意識していますか?
メイヤー:難しい質問だな……。
ジェイク:うまく言えないけど、原点に立ち戻るって感じかな? リファレンスにしたい楽曲って自分たちの頭の中で、ずーっとグルグル回ってる時があるんだ。だから無意識に、それと同じビートを10回作っていたりすることもある。で、「そのベース・ライン、前にも演ってたけど」って言われたりすると、「そうかも」ってなる(笑)。例えばリオン・シルヴァーズIII(が作る音楽)なんかは、それこそ何度も繰り返し聴き倒してきたから、無意識にそのエッセンスをリファレンスとして取り入れていることはあると思う。でも僕がやっているのは単にリフを取り入れてるわけではない。むしろリオンがベースラインをリードから離れた感じで弾いている、そのやり方に耳を傾けているという感じなんだ。どちらかと言うと、トラックだったりグルーヴを作り出した方法、あるいはスペース(空間)の活かし方というか、絶妙なスペースを見つけ出すという感じ。リファレンスからは何よりもそういったことを取り込ませてもらっていると思う。
メイヤー :そうそう、曲作りとか新しいアイデアを形にする時って、大事なのは音符とかサウンドじゃなくて、例えばジュニーだったり、カシーフやジョージ・クリントンから感じるフィーリングなんだよね。僕たちが求めてるのは、まさにそこなんだよ。
―それを踏まえてあえて言いますが、「Back 4 More」で鳴るシンセの音にパトリース・ラッシェンの「Forget Me Nots」(82年)を連想したり、「Ride With Me」には初期の「Number One」と同じくスヌープ(・ドギー)・ドッグの「Aint No Fun (If The Homies Can't Have None)」(93年)へのオマージュ的な雰囲気を感じました。
ジェイク: 「Back 4 More」に対してのパトリース・ラッシェンに関するコメントは結構たくさん耳にしたけど、実際はまったく意識せずに出来上がった曲なんだ。パトリースの曲から取り入れたのは、あの「ティ、ティ、ティ、ティ」っていう(シンセの)一音だけなんだよね。それ以外はこの曲からインスパイアされたわけじゃない。でも、そういうたったひとつの要素によって曲への親しみが生まれるのは面白いと思う。「Ride With Me」については、実はもともとあのトラックは2008年頃に作ったものなんだ。
メイヤー:あれはめちゃめちゃ古い曲で、それこそファースト・アルバムの時からずっとジェイクに入れようよって言い続けてきた曲なんだ(笑)。今まで出さなかった理由は、僕がカチッとハマる歌詞を書かなかったからだと思う。やっと出来て、ジェイクが「オッケー、じゃあ、このめちゃめちゃ古いビート使おう」って言ってくれたんだ。
Jake : 確か当時マイアミにいて、彼がビートをプレイして聴かせてくれたんだけど……あれiPodで聴かせてくれたんだよね。時代を感じるな(笑)。それくらい昔の話だよ。
タキシードにおける”ブギー”の定義、来日公演の展望
―タキシードの音楽は”ブギー”というタームを用いて紹介されてきましたが、おふたりにとって”ブギー”とはどんな音楽を指し、どう定義していますか?
メイヤー:ジェイクと初めて会った時、お互いにミックステープを交換し合ったんだけど、あの頃ふたりともポスト・ディスコ時代の81年から83年、あのたまらなく最高な時代のレコードに夢中だったんだ。バーナード・ライトの『Nard』(81年)に入っている「Just Chillin” Out」とか。ドン・ブラックマンなんかもそうだけど、あの時代の音楽って何て呼べばいいのか誰もわからない、言ってみればちょっと異様な時期で、当時音楽を作っていた張本人たちも知らなかったと思う。当時は世間で「ディスコは死んだ」って言われていて、シカゴではディスコのアルバムに火をつける騒ぎ(筆者註:”ディスコ・サックス”と呼ばれたディスコ撲滅運動。79年7月、ラジオDJの呼びかけで、シカゴ・ホワイトソックスの本拠地であるコミスキー・パークにて観客が持ち寄ったディスコやソウルのレコードを爆破した”ディスコ・デモリッション・ナイト”)があったり、みんなディスコに取って代わるものは何なのかを模索していたんだ。でも、名前があろうがなかろうが、あの頃の音楽はめちゃくちゃ魅力的だった。でも短命だった。
ジェイク:すごく特殊な音楽だった。言ってみれば、より簡略化されたファンク。リフやギターも少なめで、キーボードとベースにジャジーなコードだけみたいなシンプルなサウンド。カシーフの「I Just Gotta Have You(Lover Turn Me On)」(83年)みたいなワンマン・バンド的な曲のイメージだよね。ワン・ウェイもそう。ケヴィン・マッコードが書いた曲は、どれもシンプルなのにしっくりくるんだ。ちょっとギャングスタで、ハッピーな要素少なめ、みたいな感じ。うまく説明できないけど、どれも完璧で心地いいんだよね。
メイヤー: まさにシンプルな音楽。で、ハッピー要素少なめ、ギャングスタ感多め。
―新作には「Jakes Groove」というジェイクさんの名前を冠したムーディーなスロウのインタールードもあります。
ジェイク: 最近、あんな感じのスロウな曲を結構作ってるんだ。昔のファンクのアルバムには少なくとも1曲くらいはスロウな曲が収録されてたけど、最近はアップ・テンポな曲よりもそういった曲に惹かれる。メイヤーが「やってみなよ」って言うから数時間で作って彼に送ったら気に入ってくれたんだ。娘がヴィオラを弾いて、妻も歌で参加してるんだ。いろいろ取り込んで仕上がった曲だよ。
メイヤー:送られてきた音源を聴いた時、パトリック・アダムスが手掛けたクラウド・ワンを思い出したよ(筆者註:おそらく「Dust To Dust」のことだろう)。
―ところで最近、クインシー・ジョーンズやメイズのフランキー・ビヴァリーといった、あなたたちも少なからず影響を受けているであろうレジェンドが相次いで亡くなりました。彼らから学んだことがあるとしたら、どんなことでしょうか?
ジェイク: フランキー・ビヴァリーに関連して言うと、僕のメンターでシアトル出身のフィリップ・ウーはメイズのキーボード・プレーヤーを務めていた。今彼は日本に住んでいるけど、あの頃(80年代)のアルバムにはかなり参加してたよね。彼にはよくメイズ時代の話、それに(ユビキティのメンバーとして)ロイ・エアーズとツアーしていた頃の話を聞くんだ。なんてったって数々の素晴らしい作品が生まれた時代だからね。それとクインシー・ジョーンズは僕の高校の先輩なんだ。だから偶然だけど、ふたりともシアトルにゆかりがある。クインシーは最近まで地元の音楽事業に寄付をし続けて、すごく貢献していた。音楽的にも我々はクインシーから学ぶことがあると思う。あれだけ長年に渡っていろんなことに挑戦して、しかもそのすべてにおいて一流だった。みんなが目指す目標だよね。
メイヤー:クインシー・ジョーンズの凄さは、自分が手掛けたアーティストたちのベストを引き出すところだったと思う。すごい才能。プロデューサーをしている者は誰しもそうなりたいと思っている。みんな彼を目指しているけど、あれは稀な才能だね。フランキー・ビヴァリーに関しては、僕のメイズのフェイヴァリットは「We Are One」(83年)。あと「I Love You Too Much」(83年)も。
ジェイク:あー、「We Are One」はいい曲だよね。
―ジェイクさんのメンターがフィリップ・ウーだとは初めて知りました。おふたりともシアトル出身だとは知っていましたが、繋がっていたのですね。
ジェイク: フィリップとの出会いは今から10年ぐらい前。彼は毎年夏にシアトルに戻ってくるんだ。面白いのは、彼は僕よりたぶん15歳ぐらい年上なんだけど、彼の話にはめちゃめちゃ共感できる。というのも、あの(おそらく控えめな)性格でメイズやロイ・エアーズのバンドに参加してたってのが場違いというか、僕もヒップホップに関わってる時に同じ感覚になるんだよね。彼とは家がめちゃめちゃ近所で、5ブロックぐらいしか離れてないんだ。彼がここで育って、世代は違えど同じ学校に通ってたっていうのが信じられない。クレイジーだよ。実は今回のアルバムに参加してもらいたかったんだけど、実現しなかったんだ。次作に期待かな。
メイヤー:日本公演で飛び入り参加してくれたりして。
ジェイク:そうなったら最高だけどね。
この2人だから作れる音楽、「新プロジェクト」への抱負
―その来日公演ですが、2023年のビルボードライブ公演ではジェイクの地元仲間であるシアトルのバンドとともに、ディスコやニュー・ジャック・スウィングの小ネタを挿みつつ楽しいライヴを披露してくれました。ギャヴィン・テューレックの歌も素晴らしかったです。今回の公演では新作からの曲も披露してくれると思いますが、どんな感じになりそうですか?
ジェイク:前回とまったく同じメンバーで行くよ。僕たちのGファンクとディスコの融合という特殊なスタイルに、やっとメンバーたちが慣れてきたしね。リズム・セクションのグルーヴ感、あれは簡単に真似できるものじゃない。(地元で)15〜20年一緒に音楽をやってきただけあって、そんな友情と仲間意識あってこその一体感。彼らとは以前にも何回か一緒にショウをやったけど、最高に楽しいんだ。だから今回もそのメンツで行く。以前よりもさらに仲が深まっているしね。新作からも何曲かやる予定だよ。
メイヤー:僕たちはもうファミリーだからね。ダンス・ステップも前よりキレッキレだし(笑)、曲から曲への移行もいい感じだし。とにかくこのメンツはもう一体だから、思いっきり楽しめる。もちろんギャヴィンも連れて行くよ。彼女はスターだからね!
ジェイク:サインが欲しい人はしてくれると思うよ(笑)。
―前作からは、以前所属していたStones Throwを離れて、おふたりが設立したFunk On Sightからのリリースとなっていますが、このレーベルはどんなことを目指していますか? 今後、他のアーティストを送り出したりするのでしょうか?
メイヤー: 簡単に言うと、自分たちのマスターを持つために立ち上げたんだ。最初はタキシード以外のプロジェクトをリリースするつもりはなかったけど、僕たちも年齢を重ねるにつれて、そういうの(他のアーティストのバックアップ)も面白いなって思えるようになってきたから、今後はあるかもしれないね。
ジェイク: 振り返ると(ふたりで)他のアーティストを手掛けたりすることをあまりしてこなかったけど、もっとすべきだったのかもしれない。いろいろ曲が出来てもタキシード用にしがちで……。でも将来的には他のアーティストと共演したりプロデュースをして、僕たちのレーベルからリリースするのもありだと思う。今の音楽ビジネスって、自分のお金を投じて自らリスクを負って、うまく行けばすごく儲かるし、そうでなければ自分が損害を被るっていうところがいいと思う。昔みたいに結果をレーベルのせいにできないからね。自給自足っていいと思うよ。ファンもそう感じてると思うんだ。自分たちがサポートした分が、全然知らない組織じゃなくて、ちゃんとアーティストの手元に入ってることがわかるからね。
―タキシードの活動と並行して、おふたりはそれぞれのプロジェクトにも取り組んでいます。メイヤーさんはソロ・アーティストとしても作品を出し続けていますが、タキシードでの活動とソロでの活動ではどんな部分が違うか、改めて語ってもらえますか。
メイヤー:僕自身の音楽はもう少し多種多様だと思う。影響を受けている音楽も幅が広い。タキシードはすごくニッチで独特なジャンルだけど、僕がソロで作る音楽はブラジリアンからボサノヴァ、ジャズ、それにフランク・シナトラまで、明らかにもっと幅が広い。
ジェイク: プロダクション上のチョイスも違うよね。(メイヤーが2011年に発表した)「Henny & Gingerale」がいい例だよ。ふたりで最初に作った、デュオの誕生のきっかけとなった曲でもあるけど、オリジナルのヴァージョンはもっとシンセとベースが効いていたと思う。それをメイヤーがプロデュースしたら、たちまち”メイヤー・ホーソーン”のサウンドになるんだ。聴き分けるのは難しいと思うけど、僕にはすごくはっきりした違いがわかるんだ。あと(2013年に発表した)「Designer Drug」もそう。もともとのヴァージョンはもっとタキシードな雰囲気が強かった。メイヤーがプロデュースすることによって曲が彼のサウンドになる過程を見るのがすごく好きなんだ。
メイヤー:あと、歌詞の内容も全然違う。ソロの曲では自分の人生や人間関係における感情の部分を深く描いているんだ。一方、タキシードでは、みんなで踊って楽しんでパーティーして祝おうよ、といった感じ。
―ジェイクさんはフリーウェイとのコラボ・アルバムも含めて、J.コール、ケラーニ、ブレント・ファイアズなど、ヒップホップやR&Bの作品を数多く手掛けています。タキシードとして作る音楽とは違うと思いますが、逆にタキシードでしかやっていないことはありますか?
ジェイク: そうだな……タキシードではほとんどがタキシードでしかやらないことなんじゃないかな。だから楽しいとも言える。ふたりともタキシード以外のプロジェクトに費やす時間の方が多いから、タキシードとして一緒に曲に取り組む時は、「よし楽しもう……普段と違うことができるぞ!」って大興奮するんだ。そもそもこのデュオはそういう感覚から始まっているしね。たまにタキシードとそうでない(自分の)プロジェクトがクロスオーバーする時もある。リリースはされていないけど、以前、タキシードの音源を使ってドレイクに曲を作ったことがある。タキシードの曲をサンプリングしたトラックにドレイクがラップを乗せて録音したんだ。出してみたら面白かったかもね。あと、タキシードの曲からヴォーカル・パートを使うこともあった。フューチャーの「Lookin Exotic」(2017年)がそう。あの曲ではタキシードの曲のバック・ヴォーカルを使ったんだけど、ある意味メイヤーとフューチャーがデュエットしたってことになるよね(笑)。フューチャーとタキシードが交差することなんてないと思われるだろうけど、そういうアイディアが好きなんだ。ただあれは特殊なケースで、普段はタキシードのためにビートを作って、それが最高の出来だった場合、他のアーティストに提供することはないよ。
―タキシードの曲は他のプロデューサーにリミックスもされていますが、「The Right Time」のリミックスを手掛けたケイトラナダのサウンド・プロダクションに関してはどう感じていますか?もちろんそれぞれのカラーがありますが、現代のモダンなダンス・ミュージックの作り手としてタキシードと共通する部分が少なからずあると思うのです。
ジェイク: ケイトラナダはホントにすごいと思う。彼みたいに人と違うことをやって成功しているのを見ると嬉しいよ。彼が今ほどビックになる前に何度か一緒にギグをしたことがある。僕たちの新作に入っている「Cake」、あの曲のバウンス感ってタキシードがやるケイトラナダ風の音楽だと思うんだよね。あの曲を聴くとそう感じるんだ。
メイヤー:あー、わかる! 同じことを思っていた。彼のバウンスってすごくユニークで、いわゆるありがちなウケ狙いじゃない。本当に人と違うことをやって、あれだけヒットを生み出してるってすごいと思う。
ジェイク:僕たちはみんなにも彼を見習うべきだって言ってるんだ。ありがちなルートを辿らないって、たやすいことではない。ジャンルにとらわれないであれだけの成功を収めているのは本当に並外れているよ。
―今後、タキシードとしてコラボしてみたいアーティストはいますか?
ジェイク: 共演で言うと、最近何曲か録ったよ。なるべく早くリリースできたらいいなと思っているんだけど、そのうちの一曲がさっきも話したアール・ウィリアムス、通称アンクル・アールと僕たちのバンドで作った曲。一緒にスタジオ入りして曲を録ったんだけど、これがめちゃめちゃイケてるんだ。その後メイヤーが「今、自分とアンクル・アールが一緒に歌ってるのを聴いてるんだ」って(興奮して)電話してきたくらい(笑)。
メイヤー:いい感じだったよ。長年こうやって活動していると、一緒に音楽を作るなら自分たちにとって大切な仲間、ファミリーと呼べるメンツと作りたいって思うんだ。ビッグスターだけど僕たちの仲間ではない人と共演するより、そのほうがずっと意味があるからね。
―新しいプロジェクトに期待しています。
メイヤー:今、人生でもっとも大切なアルバムに取り掛かっている最中なんだ。僕の娘、シモーンの子育て。今まで手掛けた中で一番手がかかるアルバムだよ(笑)。
ジェイク:最大かつナンバーワンのプロダクションだな(笑)。
タキシード来日公演
2025年1月20日(月)、21日(火)、25日(土)ビルボードライブ東京
1stステージ開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ開場19:30 開演20:30
>>>詳細・チケット購入はこちら
2025年1月23日(木)ビルボードライブ大阪
1stステージ開場16:30 開演17:30 / 2ndステージ開場19:30 開演20:30
>>>詳細・チケット購入はこちら
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