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ルカ・スーリッチが語る「2CELLOS以降」の現在地、坂本龍一との記憶、炎に包まれたMV制作

Rolling Stone Japan / 2025年1月29日 17時30分

ルカ・スーリッチ

2022年11月22日、2CELLOSラストツアーの日本武道館公演から、もう2年以上の月日が流れた。「あの日はビタースウィートな瞬間でしたね」と振り返るルカ・スーリッチ(Luka Sulic)だが、「人気絶頂期に解散したとはいえ、僕らはミュージシャンとしても、人間としても異なる訳ですから……別々の道を歩むのは芸術面において自然な選択でした」と客観的に語る口調に淀みはない。

いかにもルカらしい優美なメロディを持つオリジナル曲で占められた新しいソロ作『LIFE』を昨年発表、その世界を表現するコンサートで間もなく来日する彼に(2月16日仙台、18日東京、20日京都、21日名古屋)、近況と新作の背景、力を入れて制作しているミュージックビデオの舞台裏について語ってもらった。




2CELLOSのラスト・ツアーの直前、2022年6月にエフゲニー・ゲンチェフと二人でソロツアーをした時の印象が、新作『LIFE』の表情と近く感じて、すんなりアルバムの全曲を楽しめました。ソロでやりたいことの方向性は、もうあの頃から見えていたのでは?

ルカ:はい。あの時点で既に(新作『LIFE』の)自作曲を書いていたので、音楽的方向性は見えていましたね。2CELLOSのラスト・ツアー中も、ずっと作曲していました。

―ちなみに、ハウザーやドゥーシャン(2CELLOSのサポートドラマー)のアルバムは聴きましたか?

ルカ:ハウザーの『Classic』と『Classic II』は、もちろん聴きました。彼がやることはどれも全てレベルが高く、素晴らしい内容でした。普通届かないような世界中のオーディエンスにクラシック音楽を届けている彼のことを尊敬しています。ドゥーシャンのアルバムは……まだ聴いていないので、今度聴きます。彼とは長いこと話していないので、久々に連絡してみます(笑)。

―『LIFE』に収められた曲は、いつ頃から書き始めていたのですか? 中でもアルバムの柱になったと思う曲があったら教えてください。

ルカ:2021年、2022年あたりから書き溜めたので、3〜4年前からですね。アルバムの柱になる曲というよりも、まずは音楽的にどの方向に進むべきかを考えました。例えば、どういったオーケストラで、どの楽器をアルバムに入れるか、という風に。初期に書いた「SHINE」と「BLUE HEART」の2曲は2021年に最初のデモを作りました。ストリングスの方向性は決まっていて、ストリングス、ピアノ、そしてチェロを中心にした楽曲制作を考えていました。とてもクリーンな音で、オーケストレーションとインストゥルメンテーションを極めたいという考えもありましたね。




クラシックとポップの融合、坂本龍一との記憶

―『LIFE』を聴いて思ったのは、どの曲も構造的にAメロ+Bメロ+コーラスという作り方ではなく、あなたの中から湧き上がってきたメロディを展開させた、織物のような曲、と感じました。曲の作り方も、そんな風に思いついたメロディを膨らませていく感じなのでしょうか?

ルカ:『LIFE』をとても注意深く聴いてくれたようで、うれしいですね。僕の場合、ルーツとなるクラシック音楽はもちろんですが、2CELLOS時代に楽曲構成から楽曲アレンジ、プロダクション、レコーディング手法を学んだ、ポップスやロック等を含めた自分の好きな全ジャンルの音楽を組み合わせながら作曲しています。ですから、ベートーヴェンのようなクラシック界の巨匠から、マックス・マーティンのようなポップス/ロックのソングライターやプロデューサーまで、あらゆる組み合わせで自由に作曲しています。両者の世界のベストな部分を取り入れて、新しい楽曲を創りたいと考えているんです。クラシック音楽のオーケストレーションやサウンドと、現代的でポップな音楽形式を組み合わせるのが好きですね。

作曲のアイディアは散歩中に思いつくことが多いですね。いいメロディが頭に浮かぶと、その楽曲案をiPhoneに自分で歌って録音し、帰宅後にピアノで即興演奏します。その即興演奏中に心を動かされるメロディが出てきた段階で、アレンジや曲構成を考えながら今度はコンピューターで譜面を書きます。僕は、モーツァルトのように頭の中ですべてを聴き取ることができる天才ではないので(笑)、Doricoというスタインバーグ社の楽譜作成ソフトを使っています。また、独りでレコーディング作業をする際はLogicとPro Toolsも使用します。


『LIFE』メイキング映像

―前にインタビューした時に、「いつか映画のスコアを書くことにも挑戦したい」と言っていましたが。そんな計画もあるのでしょうか?

ルカ:はい、いつか(映画のスコアを)書くことができればうれしいです。でも、今は自分が実現させたい音楽とアイディアの方に専念したいですね。映画音楽の仕事ではそのプロジェクトのために働きますから、音楽的自由があまりないと思うので。

―映画音楽といえば、坂本龍一とコラボして『怒り』の主題曲(「M21 - 許し forgiveness」)で演奏したことは、あなたにとってどんな経験でしたか?

ルカ:坂本龍一さんは真の「完璧主義者」でした。僕ら(ルカ&ステファン)はザグレブで自分たちの演奏箇所を録音し、坂本さんに送りました。すると、彼から何処を改善すべきかという細かいコメントが届いたんです。坂本さんは必要としている音や、僕らがどの部分を繰り返して演奏すべきかを明確に把握していました。(坂本龍一さんとの仕事では、)素晴らしい学びがありました。一緒にスタジオ入りできず、リモートでコラボ仕事をするのは簡単なことではありませんでしたが、僕らはベストを尽くしました。天国にいる坂本さんにとって満足の行く演奏だったことを願っています。

―坂本さんからは、具体的にどんなリクエストが届いたんですか?

ルカ:ある部分を繰り返し、より表現豊かに、もしくは表現を抑え気味に演奏するように、というフィードバックが来ました。そのコメントを通して、彼は自分のヴィジョンを遠隔で実現しようとしていました。坂本龍一さんとのコラボレーションは、僕たちにとって本当に大きな名誉でした。



「炎に包まれた」MV制作の舞台裏

―ところで、アルバムにマイナー(短調)の曲が多いのは何故でしょう? 明るく快活な曲を書きたい気分ではなかった? それとも、単にあなたの傾向がこういう曲を生みやすいのでしょうか。

ルカ:僕の魂の傾向なのか……確かに短調で書くことが多いですね。今後は長調で書いてみます(笑)。

―「NOIR」の陰影に富んだ情感豊かなメロディは、ショパンを思い出しました。彼やヨーロッパのコンポーザーたちのロマンティックな旋律は、やはりあなたのルーツにあるのでしょうか。

ルカ:もちろんです。 ショパンが書いた作品の大半はピアノ曲ですから、(他のクラシック作曲家と比べると)そこまで「ルーツ」という感じではありませんが、彼は歴史上最も美しく、ロマンティックなメロディーを書いた作曲家の一人です。ショパンは数多くのワルツ作品で有名ですが、確かに「Noir」はショパン同様にワルツ形式の楽曲ですね。でも、ショパンのワルツ作品よりシネマティックかもしれません(笑)。

―その「Noir」はビデオも面白かったです。Alice Lovrinic のダンスをフィーチャーした、これまでのビデオとはかなり違うタイプの作風でしたが、あれは気に入ってますか?

ルカ:もちろん気に入っています。あのビデオは影の使い方に特徴があり、ヴィジュアル的にとても面白いですよね。そして、ダンスはこの楽曲に更なる魅力を別の次元で加えていると思います。僕は常に何か新しいものを生み出すことを心がけていて、今回の新作に収録された全曲に映像を制作しました。各曲のビデオ制作は……大変な作業でしたね(笑)。昨今、アルバムのシングル曲のビデオしか制作しないアーティストが多いですが、僕はミュージックビデオの制作が大好きなんです。大きな進歩があるし、(映像は)永遠に残るものですから。



―「PHOENIX」のあなたが炎に包まれるビデオには驚きました。あれはどんな風に撮影したんですか? CGではなく、実際に燃えているように見えたんですが……。

ルカ:CGじゃないですよ! あのビデオでの僕は、実際に炎に包まれて燃えていたんです(笑)。実は、炎に包まれた時間が最長というギネス世界記録を持つ、映画界で火の演出を担当しているプロフェッショナルを雇いました。これまでにない、クレイジーな体験でした!



―スタントは使わなかったんですか?

ルカ:スタントは一切使用せず、実際に僕が炎の中で燃えていたんです(笑)。CGも一切なしで、全てアナログ。ファイヤー・ジェルとウォーター・ジェルという2種類のジェルを使用しました。まず、僕は服の下にF-1ドライバーが着るレーシング・スーツを着て、そのレーシング・スーツをウォータージェルで覆う。そうすることで、燃えても何も感じないんです。そして、更に重ね着をして、耳の後ろや服にまたウォータージェルを塗りたくり、続いてファイヤージェルを塗った後に炎を使うプロフェッショナルの彼が僕に火をつけました。

僕はプロのスタントではないので、撮影は一回につき30秒以内に終わらせました。火をつけると1秒で一気に燃えますから、ウォーター・ジェルが止まったら終了。ですから、ウォーター・ジェルが蒸発したら、すぐに撮影を止めました。そして、地面に横になった僕の身体についた火をスタッフが消火器で消しました。僕は同じパーカーとズボンを何枚も重ねていたので、燃えて穴が空いた服は脱ぎ捨て、同じ服装で再度撮影しました。安全第一ですから、着替えた後には、再びウォーター・ジェルとファイヤー・ジェルを塗り直しました。

―ご無事で良かったです。

ルカ:はい……生還しました(笑)。



―曲は普段の生活から得たヒントがモチーフになっているとか。公演や旅行がなく家で過ごしている時は、毎日どんな暮らしをしているのですか?

ルカ:4人の子供たちがいるので、家族との暮らしですね。僕の生活は家族と音楽から成り立っています。創造性、家族愛、自然、スポーツ、健康的な生活、シンプルかつ物質的ではない生活。シンプルで、音楽的で、家族的な生活を送っています。毎日、自分の人生を振り返り、どんな瞬間もベストな自分でいたいと考えています。また、一瞬一瞬に感謝することも大切です。自分と家族の健康に感謝し、謙虚であること。こういったことは、僕にとって非常に大切なことです。

―今はお子さんが4人もいるので、子育てに参加しないと家が回らないと思いますが。家事への参加や、お子さんの世話も積極的にやる方ですか?

ルカ:もちろんです! 子育てに関わることが大好きなので。僕にとって、人生のバランスを保つことは、とても大切なこと。子供はあっという間に成長しますから、子供たちが幼いうちに貴重な時間を過ごすことができるのは、とても幸せなことですね。

―最後に、次の来日公演ですが。今言える範囲で、編成や内容を教えてもらえますか?

ルカ:スィモン・クラヴォス(Simon Kravos)というスロベニア出身の若手ピアニスト兼作曲家と、オーストリアのアーツィエス四重奏団(Acies Quartett)と共に、合計6人で演奏します。アルバム『LIFE』からの曲はもちろんのこと、僕が大好きで、皆にも愛されているクラシック曲の新たなアレンジの他、ポップスやロック・ナンバーも演奏するので、誰もが楽しめる内容になると自負しています。会場のエネルギーや流れに任せて、きっと激しいライヴになると思いますよ!

オーディエンスに僕の燃えるステージをお見せして、皆さんの魂に僕の音楽で火をつけます(笑)。日本公演が待ちきれません!





ルカ・スーリッチ来日公演

2025年2月16日(日)SENDAI GIGS
17:30開場/18:00開演
チケット:¥12,000 ※ドリンク代別途必要

2025年2月18日(火)TOKYO DOME CITY HALL
18:15開場/19:00開演
チケット:
S席 ¥12,000 A席 ¥11,000 ※ドリンク代別途必要

2025年2月20日(木)京都劇場
18:30開場/19:00開演
チケット:¥12,000

2025年2月21日(金)名古屋市芸術創造センター
18:30開場/19:00開演
チケット:¥12,000

公演詳細:https://udo.jp/concert/LukaSulic25


ルカ・スーリッチ
『LIFE』
発売中
再生・購入:https://sonymusicjapan.lnk.to/LukaSulic_LIFE

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