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Ela Minusが語る、ディストーションに込めた叫びと彼女が見た光「私は諦めることに抗う」

Rolling Stone Japan / 2025年1月30日 18時15分

Photo by Alvaro Arisó

3年前の一時期、私はエラ・マイナス(Ela Minus)の音楽に救われた。具体的に言うと、彼女がDJパイソンと作った「Pájaros en Verano」という楽曲にだ。プライベートで大きな喪失を経験した時に、コーラスで繰り返し歌われる”After all the days that never happened, And the nights that didn't exist (なにも起こらなかった日々の後、存在しなかった夜)”という詞に、やるせなさを解決する糸口を見出した。

この曲が収録されたEP自体も、DJパイソンの得意とするレゲトンと、ミニマルなエレクトロニカを掛け合わせた、エポックメイクなプロダクションが光る傑作。そんな中で、マイナスのポップセンスと、キュートでアンニュイな歌唱、リリシストとしての非凡でキレのある才能に心奪われた。

最新作『DÍA』の4曲目に収録されている「IDK」の冒頭、”光はいつも私の目を悩ませる、自分が何をしているのか分からない”というラインも好きだ。善き人であることの難しさを描いた曲の中で、象徴的に先制パンチを喰らわせる。最初のアルバム『acts of rebellion』から約4年半のスパンを要した今作は、その間に経験したパンデミックの鬱屈、そしてその解放が反映されている。内省的ではあるが、内なるものを曝け出すことに躊躇がない。ライブアクトとしての自信を得たからこそ、そういうアルバムを作るべきだと決断できたのかもしれない。

極個人的ではあると共に、外界との繋がりを求める作品を作り上げた、そんな今の彼女の話を聞けるのは絶好の機会であったし、マイナスも作品について余すことなく話してくれた。


Photo by Alvaro Arisó


どこまでも広がる「光」を見つけた瞬間

—前作『acts of rebellion』は反骨精神に満ちたリリックとともに、内省的かつ親密なムードも印象的でした。今作の1曲目「ABRIR MONTE」は、序盤は前作のムードを引き継ぎつつ、”鬱蒼とした茂みの間に道を開く”という歌詞の通り、徐々にオープンな展開を見せます。この曲は前作からの連続性、もしくは変化を表現している部分もあるのでしょうか?

マイナス:そのどちらでもあると思う。前作からの連続性は間違いなくあって、最初の曲は2つのアルバムの架け橋になるように意図したところがある。それと同時に、前作では、イントロとしてインストゥルメンタルの曲で幕を開けて、その後に一際ポップな曲を持ってきたんだよね。そこへの手応えがすごくあったから、今回のアルバムでも意図的に同じような作りにしたの。その連続性が気に入っていたし、ある種のトレードマークのように感じられるのもいいなと思って。




—冒頭2曲は組曲のような構成ですが、コードプログレッションや幽玄なアンビエントサウンドから、U2の「Where The Streets Have No Name」を連想しました。あなたがU2を意識したとは思いませんが、広がりのあるサウンドスケープというのは、この2曲のテーマとしてあったのでしょうか?

マイナス:そうね。(U2は)有名な曲以外は聴いたことがないはずで、その曲を参照したというわけではないけど。実は、2曲目の「Broken」はもともと、1曲目の一部だったの。とても長い曲だったから、いくつかのパートに分けて、最初の2つだけ残してそれぞれをひとつの曲にしたんだ。

もともと1つの曲だったから、この2曲にはどんどん大きく成長していく性質のようなものがあって。このアルバムはひとつのシンセサイザーと単一のコード進行から始まり、徐々に壮大になっていき、その広がりが2曲目で最高潮に達するところで「着地した」感じがあると思う。ようやく広大な空間に辿り着いたような。そこからアルバムが幕を開けるというよりは、この徐々に描かれてきた世界の中にいるような、ただただ「そこにいる」という感覚に近いかもしれない。

—この2曲で使われているコードは、ある日の夜、メキシコの山間のキャビンで作業していた時に発見したそうですね。その体験について聞かせてください。

マイナス:もちろん。その時、私は本当にフラストレーションを感じていたの。というのも、ずっとこのアルバムを、もしくは音楽そのものを作ろうと試みていたものの、作ったものがどれも気に入らなかったから。それで、環境を変えることが助けになるかもと思って、どこか違う場所に行こうと考えた。その場所で何かを創ろうというよりも、休暇みたいな気持ちだったんだけどね。それで、メキシコシティのとある人里離れた場所にある、古いガラス張りの美しいキャビンを借りたの。心をクリアにして、スタジオに戻ってまた曲作りができるように。私の計画としては、ただ自然の中に身を置いて本を読んだりすることで、心をリフレッシュさせることだけだったんだけど。

でも、10日くらい経った頃かな。1台のシンセサイザーとコンピュータを持ち込んでいたから、ちょっと遊んでみたくなったの。そのシンセサイザーは自分で作ったものなんだけど、専用のスピーカーが付いていて。何も考えずに夜の窓越しの真っ暗な景色を眺めながら演奏を始めてみた。コードを弾いて、シーケンスを作ってループさせてみたの。深くは考えずに何となくやっていたんだけど、それがすごく気に入ったんだよね。

それで、そのシンセサイザーを再生させたまま夕食を作りに行って、食べ終わった後もずっとそのコード進行がバックグラウンドで流れていた。その音をしばらく聴いているうちに、どんどん愛着が湧いてきて、アルバムのイントロにぴったりだと思ったの。それでこのサウンドをレコーディングして、それがアルバムのスタート地点になった。この瞬間があったからこそ、そこから数カ月でアルバムを完成させることができたんだと思う。そこに辿り着くまでにはすごく時間がかかったけれど、一度見つけたら「これが新しいサウンドへの扉だ」と感じられた。本当に特別な瞬間だったな。

—『DÍA』、スペイン語で「一日」という言葉をアルバムタイトルにしたわけですが、様々な意味に解釈できるかと思います。明確な意図を持って命名したのでしょうか? もしくは複合的な意味が込められているのでしょうか?

マイナス:どちらもかな。自由な解釈ができるところが気に入っている。今回やりたかったことのひとつは、前作のタイトルがそのままの文字通りで、解釈の余地がほとんどなかったことへの反動として、もっと解釈の幅が広がるようなタイトル、聴く人がそれぞれの意味や考えを込められるようなものにしたかったんだよね。ただ、名前を決めるのはすごく大変だった。

このアルバムは、私にとって制作プロセスそのものが、自分の内面と外側の両方に光りを灯すような体験だった。目にしたものをただ観察して、エゴも入れずに書き留めていく。そんな作業だったの。だから、このアルバムは「光の存在」によって定義された時間そのものなんだ、って思うようになった。そう考えた時に、じゃあ「光の存在」で定義される時間って何だろう?と思って、それが「一日」であることに気づいたの。だから、この名前がぴったりだと思った。

あなたが言ってくれたように、色々な意味を持っているところもいいよね。例えば、プロモーション活動をする中で、ドイツ語やギリシャ語では「移ろい(through)」という意味もあることを知って、それもすごく美しいと思う。アルバムのあり方をうまく表現している感じがする。そんなふうに、この作品を聴くことで新しい感情を発見したり、新しい場所に辿り着いたり……みんな自由に意味を付け加えてほしい。


『acts of rebellion』と『DÍA』のアートワーク

—アートワークに関しても、前作の匿名性のあるモノクロ写真とは打って変わり、あなたをロウに写したカラー写真という正反対なものです。明確なディレクションがあったのでしょうか?

マイナス:イエス、そしてノーね。実は、最初はまったく違うアイデアがあった。それは前作に近い感じで、もっとパンクでダーティな、スキャンした解像度の悪い雰囲気のもの。その時のアイデアは、横を向いてフレームの外にある何かを観ている私の顔の写真だったの。というのも、1stアルバムでは、顔が隠れてはいるものの、カメラをじっと見つめている写真だったから。視線の先に対峙しているような、直接的で挑発的なイメージだったと思う。でも、今回のアルバムには、自分が何か見えないものに向き合っているような感覚があった。だから、カメラではなくて、フレームの外にある何かを見ている写真にしたいと思ったんだけど、試してみたらあまり上手くいかなかったの。このアルバムのサウンドはもっと違うものを求めているように感じたのね。

それで色々試して、最終的にアートワークに使われた写真を撮るまでに時間がかかってしまった。この写真には何かがあって、私の表情にある憂鬱な雰囲気や、メイクをしていなくてすごく生々しくもあり、私的でもある雰囲気がこのアルバムのサウンドにぴったりだなって。長い試行錯誤の末に、音楽が求めているものだと自分が感じるアートワークに辿り着いたという感じかな。

ディストーションで表現したかった「叫び」

—「ONWARDS」から「UPWARDS」にかけてのシークエンスで、ヤー・ヤー・ヤーズのようなダンスパンク的なサウンドを鳴らしているのも興味深いです。なぜこのようなアプローチを試みたのでしょうか?

マイナス:ヤー・ヤー・ヤーズは大好きだけど、この曲では彼女たちを意識していたわけではなくて。その2曲とトランジションの「AND」は、すべてライブで作ったもの。2022年にフェスティバルでプレイしていた頃、ディストーションがしっかり掛かるような特定のペダルを通して、たくさんのサウンドをレコーディングしていて。1台のシンセサイザーから始まって、複数のシンセサイザーを通して即興で演奏していた。そのペダルが創り出す、独特で特別なサウンドがそこにはあって。ただただ実験をして、そのサウンドをMP3に保存していたの。

「ONWARDS」はコーチェラで即興演奏したところから始まったのを覚えている。コーチェラは物凄くストレスフルなフェスで、あまり良い時間を過ごせていなかった。だから、あの曲をライブで作ったのは、ある種のフラストレーションからだったと思う。「叫びたい」という衝動があって、それがパンクで攻撃的なサウンドを創り上げたというわけ。「UPWARDS」も似たような体験から生まれた曲。別のフェスだったけど、ほぼ同じような状況でね。この2曲は、2〜3年くらい前からずっとライブで演奏してきた曲なんだ。



—今作は、それらのパンキッシュな曲以外でも、全体的にディストーションやサチュレーションへのこだわりが感じられました。サウンドメイクに関して意識したこと、新たに挑戦したことはなんでしょうか?

マイナス:うん、ディストーションもドライブもすごく効いているよね。最初はさっき話した3曲から始まったんだと思う。それらのトラックには、すごく特別で風変わりなサウンドがあって、そこに興味を持ったの。それで、さらに実験を重ねて、ディストーションについて深く考えるようになった。ディストーションの「歪み」というものが、現実世界には存在しないことに興味を持ったんだよね。日常生活の中でも、ディレイやリヴァーブを空間の中で感じることはあるけど、ディストーションを現実の世界で体験するためには、耳をものすごく近づけないといけない。だから、物理的な痛みを伴うことが多いんじゃないかな。でも音楽であれば、物理的な痛みを感じることなく「歪み」を表現することができる。その点がすごく面白いと思ったの。

ディストーションは叫びや絶望を表現しているというか、多くのことを語ってくれるような気がする。自分が伝えたかったこと……歌詞ではなく、エモーショナルな部分をディストーションを通して表現できたと思う。私にとってはまったく新しい体験だった。もちろん完全に新しい手法というわけではないけど、プロダクションの観点から言えば、新しいことだった。以前から、音をハードウェアでクリッピングすることで歪ませて、それをできるだけ大きい音で再現したらどうなるかに興味があって。そうすることで、物理的にどんな影響が秘密裏に生まれるのか、というところが新鮮だった。

それ以外にも、今回のプロダクション面は大きな挑戦だった。前作とはまったく違った方法で作ったからね。最初のアルバムでは、居心地のよい自分のアパートで、使い方を熟知した、慣れ親しんだシンセサイザーを使って一人きりで作業をしていたから、時間の制約も外界からのインプットもなかった。でも今回は正反対で、よく知らないスタジオで作業したから、そのスタジオにある機材も使いこなさなければいけなかったの。そこが大きなチャレンジだった。

今回の楽曲制作は、パーソナルな自分自身のアイデンティティと対峙するような感じだった。長いこと自分のシンセサイザーに依存していて、それがなければ音楽を作ることはできないと思っていたから。だから最初は、そういう環境がとてもハードに感じられたけど、終盤に向かうにつれ、エキサイティングなものへと変化していった。自分が楽器を弾いていることが大事であって、どんな楽器を使うかは問題じゃないと気づいたの。だからそうね、プロダクションのプロセスも曲作りも、完全に前作から脱却した作品になったと思う。


Photo by Alvaro Arisó

「私は諦めることに抗う」

—「私は今回のレコードを1曲ずつではなく、40分の一つの作品と捉えていている」と他のインタビューで語っていましたが、そのなかでアルバムの軸となっている曲、もしくは自身が1番気に入っている曲はどれでしょう?

マイナス:「IDK」と「QQQQ」という2曲のトランジションが、このアルバムの核心を表現していると思う。特に「IDK」は、自分の腹の底から感じるような、特別な何かを感じさせるような曲だから。自分が何者なのか、どんなことを経験してきたのか、レコーディングの時に感じたことや、すごく多くの情報が凝縮されているように感じるから。この曲はあまりにもパーソナルで率直だから、最初は収録したくなかったんだよね。でも、その正直さの中に力強さがあって、それでアルバムに入れることの重要性に気づいた。実際、この曲を(トラックリストの)真ん中に入れた瞬間、「ああ、アルバムが完成した」と感じられたし、単なる曲の寄せ集めではない、「何かを発信する」アルバムになったと思う。

でも、その後にガス抜きのようなものが必要だと気づいたの。このアルバムには強い緊張感や不安感が詰まっていて、それを解放する瞬間が必要だと感じたから。そのギャップを埋めるために「QQQQ」を作ったの。「IDK」に対する返答としてね。少なくとも私にとっては、アルバムを通して聴いた時に、緊張から解放され、ある種の喜びに変わる瞬間にとても満足感があって、そこにこのアルバムの魂が宿っているように感じる。光と闇、昼と夜、苦しみと解放、悲しみと喜び……そういった相対するものがこのアルバムの中にすべて詰まっていて、とりわけこの10分間の中に完璧な形で表現されていると思う。



—歌詞にも感銘を受けたのですが、今作でお気に入りのラインを教えてください。

マイナス:スペイン語で歌っている「Combat」の一節かな。「私達は鳥籠の中の暮らししか知らない鳥/そして私達を脅かすものなど何もない」というライン。最近このアルバムの曲をライブで演奏するようになって、毎回この曲を歌うたびにしっくりくるというか、これこそが自分だって感じるから。

—あなたは今作を通じて、絶望と向き合いながら希望を歌おうとしているようにも感じました。「Combat」というタイトルも象徴的ですが、このアルバムを通じて何と戦おうとしたのでしょうか?

マイナス:希望と信念の欠如だと思う。そうしたものがこのアルバムの中では、どん底の状態から始まるの。でも、アルバムを通して、最後の「Combat」で終わる頃には、まったく新しい高み……希望と信念、それに前に進みたいという強い思い、希望を見つけること、信念を見つけること、ニヒリズムに立ち向かう美しさや強さを見つけること、皮肉や諦めにも抗うこと、そんな高みへと辿り着く。みんなが「もう諦めるしかない」と感じるような暗い時代、そんなものに抗うアルバムだと思っている。

私は諦めることに抗い、希望を与えようとしているの。自分自身は楽観主義者ではあるけれど、これは現実的な視点に基づくもの。つまり、「たしかに暗闇も困難もあるけど、それでも希望や光、前に進む強さもある」というのを受け入れるということ。それが「Combat」の意味するところだと思う。とても希望に満ちていて、オープンな終わり方にもなっている。それは、みんなにそれぞれの希望を見つけるためのインスピレーションを与えたいからなの。



—そんな「Combat」という曲が、パンク的とも言えるタイトルに反して、ビートレスになったのはどういう意図があったのでしょう?

マイナス:その理由は自分でもわからない。ただ、そういう仕上がりになったという感じで。作ってみたら、歌詞が自然と出てきて……それがとても直感的なものだったんだよね。実はこの曲は、ずっとインストゥルメンタルになると思っていたの。でも、ある日作業をしていたら、このメロディが頭に浮かんできて。それでボーカルのメロディを録音するためにマイクを手にした瞬間、歌詞も同時に、一気に溢れ出てきた。それがどこから来たのかを合理的に説明しようと試みるのは無意味だと思う。ただ、そういうふうに出来上がったというだけだから。もちろん、ああいうビートレスなトラックで、メロウでソフトな雰囲気がありつつ、歌詞がその真逆の雰囲気を持っているという対比も気に入っている。

—そういった歌詞やアティテュードの影響源として、どういったものが挙げられそうでしょう? 例えば、自分にとって重要な文学作品があったりするのか。

マイナス:私は読書家で、アルバムの制作期間に読んでいたものからの影響も大きかったと思う。例えばレコーディングの間、ノルウェーの作家、ヨン・フォッセの本をずっと読んでいたの。ミシェル・ウエルベックも影響を受けた作家のひとりね。あとは、これまでに読んだことがなかったラテンアメリカの古典もいくつか読んだりした。というのも、普段は英語の作品を読むことが多くて、歌詞も英語で書くほうが簡単なんだけど、今回はもっとスペイン語でも書きたいと思ったの。それで、スペイン語の本をもっと読むようにした。

好きな歌詞も参考にしている。トム・ヨークは大好きだし、レナード・コーエンもそう。好きなミュージシャンの歌詞に注目して、彼らがどんなふうに歌詞を書いているのかについて学ぶことで、インスピレーションを得ようともしていた。

—今作に影響を与えた音楽や作品があれば、その理由も併せて教えてください。

マイナス:たくさんあるからちょっと考えさせてね……ロイ・アンダーソンの映画をたくさん観た。ブリュノ・デュモンの作品も。どちらも繊細でありつつ広がりのある雰囲気を持っていて。特に何かが起こるわけではないけれど、彼らの作品には独自の宇宙のような世界観があって、その中に入り込んでしまうような何かがあると思う。

音楽は……何とも言いがたいかな。今回は自分の家ではなくて、旅先でこの作品を作っていたから。移動中にレンタカーに乗ることが多くて、車の中でラジオを聴いていたの。音楽に触れる唯一の時間が、空港やレストラン、移動中のラジオを聴く瞬間だけだった。だから、ラジオで流れているようなメインストリームのポップソング、普段なら聴かないような音楽に触れる機会が多かった。その影響で、前作よりも壮大なコーラスが取り入れられているんじゃないかと思う。


ロイ・アンダーソン監督作『散歩する惑星』

DJパイソンと作り上げた「存在しなかった夜」

—あなたのDJセットをいくつか聴いたのですが、テックハウスが今のムードなのですかね?

マイナス:状況にもよるけどね。普段はテクノをプレイすることが多いかな。インターネット上に残るとわかっていてリミックスをする時は、家で聴いている誰かのためにプレイしているような感覚になるから、もっとリラックスした雰囲気のセットにしたくなる。

自分はあくまでライブ・ミュージシャンであって、純粋なDJだと思ったことはないから、DJセットやミックスを引き受けるときは少し迷いがあるの。何をすべきか考え込んでしまう。最近、BBC Radio 1のEssential Mixをやったんだけど、すごく大変だった。ネット上に残り続けるものだから、「自分が好きな音楽をすべて入れたい」と思うんだけど、そうすると8時間くらいの長さになってしまう(笑)。もちろんそんなことはできないから、いろんな曲を厳選して、ユーフォリアの瞬間を作ったり、もっと落ち着いた瞬間を作ったりした。最近はBlawanの新作をよく聴いていて、次のDJセットでプレイしようと思っている。



—DJパイソンのコラボEP『♡(corazón)』が大好きで、当時、日本の音楽好きの間でも話題になったので、その話もいくつか聞かせてください。2000年代のIDMやエレクトロニカを、デンボウのビートなどのラテン音楽的解釈で表現したのは革新的だったと思います。この作品を今どう振り返りますか?

マイナス:私は長いこと彼のファンで、前作のときにリミックスを依頼したの。そこから友人になって、パンデミックの最中にお互い自宅に籠もりながらショートメールでやりとりをしていたら、彼がループを作っていると話してくれて。「それを送って、歌を乗せてみるから」みたいな感じで、そこからすべてが始まったの。本当に自然な流れで、お互いへの愛とから生まれたコラボね。すごくスムーズに誕生して、それに人々が共感してくれるというのは本当に素晴らしいことだと思う。



—EPの中でも「Pájaros en Verano」は、私にとって特別な曲です。DJパイソンのビートも最高ですし、あなたのラブリーなメロディと、列挙法を用いた詩の小気味良いフロウ、そしてリアリスティックで普遍的な愛が歌われるコーラスパート……すべてが完璧です。

マイナス:まず最初に、ありがとう。あの曲は私のお気に入りでもあるの。この曲を作るのは素敵な体験だった。2021年頃だったと思うけど、サビの歌詞が自然と出てきて、これは壮大なポップソングにできるんじゃないかって思ったの。とてもキャッチーで、しかもパンデミックが起こった直後だったから、歌詞にも共感してもらえるんじゃないかと思った。「起こることのなかった日々、存在しなかった夜」というラインが正にそれで、(パンデミックの影響で)計画していた予定がすべて消え去ってしまったことを歌っている。

それで、もっと壮大な曲にすることもできるんじゃないかと考えたの。でも、ブライアン……DJパイソンと、この曲は本当に美しくて誠実だから、このままでもいいんじゃないか、壮大なものにする必要はないんじゃないかって話になって。悲しいことについて歌っているけど、どこか特別なノスタルジアを感じさせる音楽でもある。それで、ささやかなまま保つことに決めたの。親密な感じを残したかったから。

あと歌詞については、先にサビを書いて、お互いそのサビが気に入ってはいたんだけど、それ以上どう進めていいのかわからなくなって。特にヴァースについてはスランプに陥ってしまったの。それで、目の前に見えるものをただただリストアップしてみたんだ。だから、あの歌詞はただのリストなの。アイデアがそれ以上思い浮かばなかったから。でも、それが功を奏したわ。



—DJパイソンとのEPは、3年前にDomino内で設立されたばかりのダンスミュージックレーベル、Smugglers Wayからのリリースでした。かねてからダンス/エレクトロニック音楽にも注力しているDominoですが、共感するレーベルメイトはいたりしますか?

マイナス:パンダ・ベアね。アニマル・コレクティヴも好きだけど、とにかく彼の音楽が本当に大好き。Dominoに所属している他のアーティストにも共感はするけど、自分たちが同じ世界にいるとは感じないかな。それぞれのやっている音楽は好きだけど、必ずしも同じジャンルにいるわけではないから。でも、そういうところが好き。Smugglers Wayからリリースされた、ケイトリン・オーレリア・スミス&ジョー・ゴッダードの新しいEPもすごく良いと思う。



—昨年のチャーリーxcx然り、最近はクラブミュージックを用いるミュージシャン、特に女性アクトの活躍が目立っている印象です。この潮流に関しての見解を聞かせてください。

マイナス:快楽主義の台頭は間違いなくて、パンデミック以降、もしくはここ数年でエレクトロニック・ミュージックがよりパワフルになっているよね。チャーリーxcxだけでなく、アンダーグラウンドにまで浸透してきていると思う。昨年発表されたレコードの多くは、ダンスとクラブ、そしてクラブの中の出来事に関するものだった。今年はどうなるかな。とにかく見守ってみたいよね。恐らくこの流れはしばらくは続くんじゃないかと思うけど。



エラ・マイナス
『DÍA』
発売中
日本盤ボーナストラック追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14445

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