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バッド・バニー新作が世界を席巻 稀代のラテン・スターが素顔と誇りを刻む

Rolling Stone Japan / 2025年1月31日 17時15分

バッド・バニー(Photo by ERIC ROJAS)

バッド・バニーが大胆不敵な5枚目のアルバム『nadie sabe lo que va a pasar mañana』を(2023年)をリリースしてから、1年余りの時が過ぎた。ラップ色の強かった同作では、新居を構えたハリウッド・ヒルズの郵便番号やスーパーモデルの恋人など、セレブなライフスタイルを見せつけんばかりだった。だが薄暗いナイトクラブで鳴り響くトラップ色の濃いビートに身を預ける彼は、自身のキャリアを決定づけたアルバム『Un Verano Sin Ti』がもたらした圧倒的な名声を持て余し、どこか進むべき道を見失っているようにも見えた。どこか近寄りがたいその姿は、レゲトンの革新者へとのし上がる以前の"スーパーのレジ打ち"という素朴な素顔からはかけ離れていた。本来の自分を取り戻そうとしたバッド・バニーが向かった場所、それは彼の故郷だった。

6枚目のアルバム『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』に収録された全17曲を通じて、バッド・バニーは聴き手を様々なジャンルが万華鏡のように入り乱れるプエルトリコの豊かな音楽シーンに触れる旅へと誘う。自身のルーツを再訪し、喜びと新鮮さに満ちた本作で、ベニート(バッド・バニーの本名)は『Un Verano Sin Ti』の最も優れた部分を保ったまま、プエルトリコの伝統音楽やサルサとの邂逅を試みることで、その実験的なサウンドは未踏の領域に達した。彼は祖国とそこで暮らす人々の日常を称えることで、恋に悩む詩人にして夢追い人という自身の素顔、そして何よりもプエルトリコ人としての誇りを取り戻そうとしている。

その旅はLoisaida(ロウワーイーストサイド)からブロンクスまで、プエルトリコ系移民の重要な拠点であるニューヨークから始まる。サルサ歌手のウィリー・コロンや、90年代にヒップホップ界でヒットを飛ばしたビッグ・パンなど、道を切り拓いたプエルトリコの伝説的なアーティストたちに敬意を表した上で、バッド・バニーは自身の音楽家としての比類なき才能を強調する。彼は本作で、プエルトリコが生んだ"サルサのゴッドファーザー"ことアンディ・モンタネス・ロドリゲスが歌ったエル・グラン・コンボ・デ・プエルトリコの曲「Un Verano en Nueva York」をサンプリングし、陽気なデンボウビートと組み合わせている。アルバムの冒頭を飾る「NUEVAYoL」は『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』の方向性を明確に示している。立ち寄ったマイアミで2000年代初期のクラシックなレゲトンへのオマージュを散りばめた情熱的なペレオ(レゲトンダンス)を見せつけた後、バッド・バニーはついに自身の故郷にして、レゲトンの発祥地であるプエルトリコに到着する。



高揚感に満ちたタイトル曲「DtMF」で、彼は子どものように故郷の地を踏んだ喜びと興奮を爆発させる。同曲では2020年発表の傑作『YHLQMDLG』に見られたゲーム音楽風のビートと、プエルトリコのプレーナ(コール&レスポンスを軸とする活気に満ちた伝統音楽)を融合させている。この曲のチャントを聴いていると、ジャケ写のエメラルドグリーンの庭でバッド・バニーの友人たちが彼に声援を送っている光景が目に浮かぶ。そこでは彼がプラスチック製の白い椅子に座り、ラム酒を飲みながら人生を謳歌している。"派手なものや金ピカのチェーンはもういらない/俺たちは本当に価値のあるものを求めてる"という、30歳になった彼が書く歌詞は、2023年当時の心境とは異なる新たな人生哲学を反映している。彼にとって本当に価値のあるもの、それは家族や友人、美しい海に浮かぶ近隣の島々、それらを写真に収めるという他愛のない行為だ。



バッド・バニーは本作でプエルトリコ出身の新進アーティストたちを起用しており、それが見事に功を奏している。「PERFuMITO NUEVO」で優美な歌声を披露しているシンガーソングライターのRaiNao、トラップ調のドリーミーな「WELTiTA」で鮮やかなソプラノを聴かせるChuwiのローレン・トーレス、そしてオールドスクールなレゲトントラックで熱いヴァースの応酬を繰り広げるDei Vとオマー・コーツ。これらのコラボレーションでは、客演したアーティストたちの作家性が存分に発揮されており、バッド・バニーの方がゲストのようにさえ感じられる。中でも最も秀逸なのは、プレーナの伝道師ロス・プレネロス・デ・ラ・クレスタと共演した「CAFé CON RON」だ。牧歌的なプレーナとダイナミックなコンゴドラムを組み合わせた同曲は、リスナーをプエルトリコの山間部での心躍るトレッキングへと連れ出す。







「BAILE INoLVIDABLE」では、アルバム前半に見られるサルサのリファレンスが、バッド・バニー流のクラシックなカリビアン・ミュージックへのアプローチだったことが明らかになる。トロンボーンの重厚なコーラスと、クラベスが刻む一定のリズム、そして「Un Verano Sin Ti」にも参加していたプロデューサーMAGによるエコーの効いたシンセサウンドが絡み合う同曲は、メロディックでストーリー性に富んでいる。力強いリフレイン(「No, no te puedo olvidar / No, no te puedo borrar / Tú me enseñaste a querer / Me enseñaste a bailar」(君を忘れられない / 君を消せない / 君は僕に愛することを教えてくれた / 君は僕に踊り方を教えてくれた)」)のシンプルでノスタルジーを感じさせる歌詞には、曲が終わった後も聴き手の脳裏にはっきりと残る。





プエルトリコ人としてのアイデンティティ

深い傷を残した失恋や後悔を綴った曲が際立つ本作では、バッド・バニーの音楽の核である憧憬や思慕が主なテーマとして繰り返し描かれる。密かに燃え続ける炎を思わせる「BOKeTE」から、クアトロ(プエルトリコの伝統的な弦楽器)の音色が印象的なボレロ「TURiSTA」に至るまで、バッド・バニー史上最も物悲しいこれらの楽曲で、彼は悲痛な胸の内を曝け出している。これらの曲からはベニートのコラゾン(心)の知られざる一面が垣間見えるものの、プエルトリコへの情熱的なオマージュが全開の他の曲群と比べると、その印象はやや乏しいかもしれない。





一方で、『DTMF』では前作ではほとんど見られなかったバッド・バニーの政治観が再び表面化している。デシマ(プエルトリコの伝統的な詩形式)にインスパイアされた「LO QUE LE PASÓ A HAWAii」では、田舎や山間部に住むジバロ(プエルトリコの農民)たちのポエティックな伝統音楽と、リリックを警告のように響かせる挑発的なヒップホップのパーカッションを融合させている。ベニートは「No, no suelte la bandera ni olvide el lelolai」(「旗を手放すな、伝統を忘れるな」)と呼びかけ、アメリカからの独立か州昇格、あるいはその植民地のままでいるのかという選択肢の間で揺れ動く母国をハワイになぞらえている。



アルバムの最後を飾る「LA MuDANZA」では、全編を通して最も政治的なステートメントが発せられる。「ずっとプエルトリコに留まる」という宣言は、汚職が原因で多くの住民が国を追われている現状に対する痛烈なアンチテーゼだ。キャリアの絶頂期にプエルトリコ人としてのアイデンティティを誇る楽曲に満ちたアルバムを発表することは、ベニートにできる究極の抵抗に他ならない。ルンバのリズムと荒ぶるレゲトンのサイレンを臆することなく行き来するバッド・バニーは、プエルトリコの山々の新たなる頂上に上り詰めた覇者のようだ。『nadie sabe lo que va a pasar mañana』でキャリアの絶頂にあると宣言した彼は、本作『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』で疑いなくそのピークを更新してみせた。



BAD BUNNY(バッド・バニー)
ニューアルバム『DeBÍ TiRAR MáS FOToS』配信中
配信リンク:https://www.debitirarmasfotos.com/
レーベル:Rimas Entertainment LLC.

Tracklist:
NUEVAYoL
VOY A LLeVARTE PA PR
BAILE INoLVIDABLE
PERFuMITO NUEVO
WELTiTA
VeLDÁ
EL CLúB
KETU TeCRÉ
BOKeTE
KLOuFRENS
TURiSTA
CAFé CON RON
PIToRRO DE COCO
LO QUE LE PASÓ A HAWAii
EoO
DtMF
LA MuDANZA

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YouTube: https://www.youtube.com/@BadBunnyPR
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