「ダサく見られたら終わる」ラッパー般若が真っ向から演じた異色のドラマ 監督・志真健太郎とともに語る
Rolling Stone Japan / 2025年2月3日 19時30分
2025年1月9日からABEMAにて配信が開始された『警視庁麻薬取締課 MOGURA』は、主演を般若が務め、その他にもJin DoggやG-k.i.d、Red Eye、CYBER RUIといった現役の若きラッパーたちが役者として出演する異色のドラマで2月6日に第5話の放送を迎える。ラップ好きの警察官・伊弉諾(劇中でのMCネームはIZA)が隠された麻薬畑の調査をするために地元のラップ・クルーに潜入捜査をする、という筋書きは、実際に起こったエピソードを下敷きにしている。ヒップホップ、ラップ、大麻、違法薬物という、刺激的であり厄介でもあり、センセーショナルなトピックを扱う本作は、さまざまな点から見ても挑戦的、いや、挑発的でもある。今回、作品のメガホンを撮った監督の志真健太郎(BABEL LABEL)と、主演の般若を迎え、本作の立ち上がりから現場での様子、そして表現の領域とそこに伴う葛藤、そもそも”ラッパーがラッパーを演じること”とは何なのか?と、長編のインタビューを行った。
ーまず『警視庁麻薬取締課 MOGURA』ができた経緯から教えてください。企画・プロデュースには鈴木おさむさん、原案には漢 a.k.a. GAMIさんのお名前もクレジットされています。どのように志真監督へお話が?
志真健太郎: 最初、本作のプロデューサーのBABELの山田(久人)から、鈴木おさむさんと漢さんとの間で「警察官の中からラップが上手いメンバーを選抜して、ラッパーたちの間に潜り込ませていた」という話があるって聞いて。ほぼ同時に、般若さんのところにも映像化の話が行ったと思います。そもそも(ドラマ化の実現は)般若さんありきだったし、「このストーリーをどう成立させるか」というのが最初の壁でした。
志真:なので、山田プロデューサーも含めて僕たちBABEL LABELがやろうと思っている方向性と、今までMVやライブを通して築いてきた般若さんとの関係性も擦り合わせながら、作品のセットアップの部分は本当に刻むぐらい般若さんと密にやり取りをして、今の形になっていきましたね。
ーコンセプトやストーリーなど、般若さんからの要望も多かったですか?
志真:いえ、般若さんから直接言われたことはあまり多くなくて。潜入捜査のテーマとして大麻を扱うことになるので、そこの扱いは僕らもすごく考えました。
般若:そうですね。大麻を扱うことは全然大丈夫なんですけど、「ただ大麻がダメ」っていう作品になったら俺は絶対出ない、という話は先にしました。
ー大麻を取り巻く日本の現状も含め、非常に繊細なテーマですよね。
志真:本作の企画を聞いた時に、個人的にも、ラッパー=大麻=犯罪者のようなステレオタイプを助長する内容になるのでは、と心配な気持ちもありました。
ただ、自分が描きたいものはもっと遠くに大きくあって。それは「法律が規定しているものというのが本当に正しいのかどうか」というテーマなんです。今、社会的に見ても(題材として)大麻はリトマス試験紙として分かりやすいじゃないですか。海外の状況や日本の中での歴史もあるから、意見も割れる。色んな思惑があって社会のルールが成り立っているから、そこに目を向けてもらう、という狙いが一番にありました。「大麻がうんぬん」みたいなところにフォーカスが当たることは作る前から分かってはいたんですが、そこはちゃんと言っておきたいところです。
なので、作中でも般若さんが演じるIZAや、Jin Dogg演じる火薬にそのような「そもそも法律に従うことは正しいことなのか」というような、”当たり前にあることを疑う”的な台詞を意識的に入れました。これがこの作品の本質なので。
ー般若さんは刑事でありラッパー、そしてシングルファーザーとしての顔を持つ伊弉諾翔吉という役を演じられていますが、伊弉諾のことを理解するためにご自身の中で大変だったことや気を付けていたことはありますか?
般若:うーん……今回僕が演じる伊弉諾は、一歩引く立場なんですよね。でも前に出る時は一気に出なきゃいけない。難しいんですよ、こいつは。でも不器用で一本気な性格、っていうのはあんまり外さないように努力したつもりですね。撮影期間は、伊弉諾の人生設計というものを僕なりに考えて作ってやってきたんですけど、クランクインした5月よりももっと前から、伊弉諾が自分の中に入っている感じはありましたね。
志真:正直、伊弉諾をどう演じるかは般若さんに全部任せました。なので逆に、僕から「伊弉諾って、こういう時はこんなふうに動くんですかね?」と聞くこともあって。というのも、多分般若さんはご自分の中ですごく設計しているんです。それに、僕は昔から般若さんの音楽が好きだったので、「伊弉諾翔吉」を書いている時にも、そのイメージが乗っかっているんですよね。だけど、あえてそこからずらしていく、などの細かいところは般若さんに相談しました。
ー撮影期間中も、ご自身のライブやレコーディングがあるじゃないですか。何となく「今、自分の中にIZAが入っていたな」と思う瞬間はありましたか?
般若:クランクインしてからは、ライブなどの活動は全部やめたんですよ。できなかったですね、これは。精神的にも肉体的にも無理でしたし、『MOGURA』の撮影の後も次の作品がすぐに入っていたこともあって、キツかったです。俺、本当に撮影期間の2か月ぐらいはほとんどまともに寝ていないんですよ。だから正直、撮影の詳細に関してはあんまり覚えてないところもあります。
ー『MOGURA』には現役のラッパーたちが多く参加しています。先ほど、作品は般若さんありきともおっしゃっていましたが、他の配役に関してはどう決めていったのでしょうか。
志真:配役も、般若さんに意見をもらいました。そこに関しては、実際、音楽性だけじゃなく好みとかもあったりすると思うんですよ。そこを般若さんに「どう思いますか」って聞いて。ラッパーたちだけじゃなく、俳優さんたちに関しても、般若さんの意見を聞きました。結果的に、俳優さんたちもラッパー陣も、それぞれ個性がある中でまとまる方向にいきました。まとまらない作品も経験したことがあるし、途中で気持ちが離れちゃったり、スケジュールをもらえなくなっちゃったりということもあったので、そんな中でみんな最後まで一緒に走ってくれたのはすごく幸運でしたね。
般若:(脚本を)見て、すぐに「当て書きしてんな」って思ったし、「ここまで当て書きして、断られたらどうすんだよ」って思ってました(笑)。
―演技経験がゼロのラッパーも多いですよね。どのように彼ら、彼女らをまとめていったのでしょうか。
志真:うーん……そうですね。初めてドラマをやるメンバーに関していうと、(台本や演出において)彼らがやらなそうなことを極力外しましたね。できるだけパブリックイメージを考えながら、脚本の段階で「これはやってもセーフかな」とだいぶ揉んで。それでも、もちろん逸脱するところはあるんですけど、演出の方法としては彼らのリアルさや持っているものから大きくずれないように意識して進めていきました。
ーラッパーがラッパーの役を演じることって、ある意味難しい気もします。
志真:AbemaTVの藤田社長にこのドラマの企画を持って行った時、「俳優がラップをすることは避けたい」とはっきり言われたんですよ。僕は社長の言わんとしていることがすごく分かったし、僕自身も、俳優にラップの訓練をしてもらったものが見たいか、ラッパーが演技をしてラップをする方が見たいかというと、後者でした。今回、参加していただいたラッパーたちには撮影に入る2カ月ぐらい前から事前に演技のワークショップを行ったんです。その方が僕たちが見たいものや作りたいものに近づくだろうなと思っていましたし。
ー般若さんの立場から、普段から接しているラッパーたちが演技に挑戦している姿を間近でご覧になっていかがでしたか?
般若:ある程度は頭の中で描いてきたものがあって、それが具現化するまでってどうしてもちょっと時間がかかるんですよね。でも、そもそもラッパーのみんなもカメラの前に立つこと自体には慣れているんで、事前のワークショップももちろん効いていたし、あれがなければもう少し(撮影に)時間がかかっていただろうなとも思います。クランクインしてから、2日や3日ぐらいやれば皆それなりにこなしていたって感じでしたけど、疲弊してきてからが、ちゃんと役に入ってきたんじゃないかなと僕は思います。
【1-4話】ダイジェスト無料公開|最終章突入
「ラップを通して演技をしているということ」が伝わったシーン
ードラマの撮影期間は2カ月と伺いました。みんなが疲弊してきたのは具体的にどんなタイミングでしたか?
志真:2日目ぐらいには、もうだいぶ絶望を感じてたんじゃ……「もうダメだ」感が(笑)
般若:うん。「もうダメだ感」が出てましたよね。「これがまだ続くんだ」みたいな。
志真:MVなどの撮影経験はあれど、やはり一日中、朝から晩まで時間を縫って移動しながら撮っていくというスタイルでやっていくので、序盤から「これがあと2か月続くの、やばくない?」という感じは皆さんあったと思います。般若さんのおっしゃる通り、後半の大事な部分に進むにつれて、各メンバーがものすごく(役に)入って行く感じがありました。そういう変化って、スタッフが一番わかるじゃないですか。カメラマンや照明、美術のスタッフが口々に「すごいね」って言っているのを聞いた時に、けっこうイケるというか、「これを逃しちゃダメだ」と思ったのは覚えています。
ー今回の撮影現場では、般若さんはラップと演技の経験を両立し続けている先輩でもありますよね。若手ラッパーたちのケアというか、接し方にも気を配っていましたか? それこそ両サイドの潤滑油となるような。
般若:ラッパー達の言い分も分かるし、スタッフサイドの言いたいこともめちゃくちゃわかる。キャストとしてだけじゃなくて、スタッフサイドにも立たなきゃいけないようなところもあったから、それはしょうがないですよね。僕の台本、他の人のセリフまで覚えてたからボロボロだったもんなあ。
志真:セリフを覚えて来ないとか、その場のフィーリングを重視する人もいるんですけど、逆に般若さんはすべてセリフが頭に入っていて。なので、相手が(セリフが)抜けた場合は、般若さんがそのセリフが出るように言ってあげることもありました。
般若:現場を円滑に回すためにセリフをつけるとか。それって別に俺の仕事じゃないんですよ、正直。でも、そういうこともありましたね。
志真:だから、そういうところも引っくるめて般若さんは”座長”ですよね。
般若:それと、やっぱり個人的にも負担が大きいと感じる部分もありました。映画でもドラマでも、山場が何個かあるんですよね。今回の撮影中も、「これ、結構危険だな」とか「僕が想定していた山場と山場が近いけど、このままで持つかなあ」とか。しかも撮影時期も暑くて、やっぱり事故がないようにしてもらいたいと思うし。何だかんだ事故もなく無事に終わったので良かったんですけど、今となっては本当に全員良くやったんじゃないかと思います。最後まで撮影できて本当に良かった。
ー『MOGURA』と他の撮影現場を比べた時に、般若さんから見て「違うな」と感じた部分はありましたか?
般若:これまで、誰もが知っているような役者さんたちがいるような中でご一緒させてもらったこともありますが、そういう時に見るすごさと、今回みたいにほとんど初めてのような人たちが集中して出すすごさの両方があるんです。未経験だから出せる何か、っていうのも絶対あると思うし、今回、そういう意味での良い瞬間は本当にたくさんありましたね。粘ったらダメになる場合もあるから、何テイクも重ねたからいい、というわけでもない。僕も、1話に出てくる伊弉諾が初めてラップするシーンは最初に「2回しかやらないよ」って言いました。
志真:はい、言ってました。
般若:でも、結局3回ぐらいやらされたんですけど、あれは絶対に慣れて撮っちゃ絶対ダメなシーンだったと思います。ていうか、そもそも無理なんですよ。自分がやっている曲の上で演技をしながらラップをするって、とても無理難題でめちゃめちゃ意地悪なことだし、他のラッパーも同じことを言うと思います。あそこは、僕の中では一つの山場ではありましたね。
―伊弉諾が初めてステージに立ってラップをするシーンでは、般若さんも参加した「ビートモクソモネェカラキキナ 2016 REMIX」のビートが使われていました。般若のラップではなく伊弉諾のラップとしてあのシーンを撮ることに関して、どう工夫されたんでしょうか。
般若:うーん……。若干なんですけど、いつもの発声はしていないですね。あの時は入りの部分とケツの部分をすごく大事にしました。けっこう、リリックを作り直したんですよ。
志真:何度もやり取りさせてもらいましたね。般若さんにリリックを書き直させるなんて、自分でも頭おかしいなと思いながら。
般若:でもまあ、そこで伝わるかどうかだと思うので。
ー視聴者として観ていても、普段の般若さんのこなれたラップとは全く違う、伊弉諾のぎこちなさと圧のようなものを感じ取ったシーンでした。
志真:現場ではめちゃくちゃこだわって般若さんに「(撮り直しを)何回できますか?」とか「このリリックが……」と注文を入れさせてもらったんです。編集した時に、改めてあの時の般若さんは新人ラッパーとしての初期衝動を演じてくれたんだと感じました。あのシーンで、多分他のラッパーたちにも「あれがラップを通して演技をしているということなんだ」と伝わったと思います。
般若:(志真監督は)苦労したと思うんですよ。僕は普段、演技の方で「ラップして」と言われたらもちろんNGを出してるんです。いいことになんないから。だからそこって、ラッパーのみんなけっこう葛藤があると思うんですよね。ダサく見られたら終わるし、すごく怖さもあったと思う。けど、ここからそういう(ラッパーがラッパーを演じる)シーンもいくつかはあるんで、そこも見ていただけたら。
ー他にも、ラップとストーリーの構成ということでいうと、Mummy-Dさんがモノローグのようにラップをしていて、ドラマの案内役として機能していました。
志真:あれは……何小節書いてもらったんだろう。
般若:あの方が一番大変でしょう。俺だったら絶対にやりたくない(笑)。
志真:最初は全編ラップで、という話が出たんですよ。だけどそれは出来ないとなり、今の形になったというのが、正直なところです。ただそれをやる時に、何か面白いことができないかなと考えて。個人的に、ドラマでナレーションが入るのがちょっとタルいなと感じることがあって、最初無邪気に(企画を)書いてDさんのところに持って行ったら、「やるよ」と即座に言っていただけたんです。
ー『MOGURA』は、6話完結の連続ドラマ形式です。そして、これまでにUVERworldやRed EyeらのMVも手掛けてきた南虎我監督と二分して制作されています。志真監督から見て、連続ドラマならではの醍醐味や大変さはありましたか?
志真:僕は元々、6話を全部自分で撮ろうと思っていたのですが、実際は南監督と3話ずつ担当することになりました。そこの意思疎通とか、ひとつの作品にするための擦り合わせなどは大変でした。ただ、絶対に自分にはない感性や演出を見て、勉強になることも多かったです。また、今回、ある種(ラッパーやヒップホップという)土俵を借りているわけじゃないですか。般若さんはじめ、好きな人たちと仕事をしているわけですけど、そっちの土俵に行って映像を撮るということ自体がかなり……苦労ではないんですけど、楽しい反面、一番神経をすり減らしたところではあります。それもあって、南監督とその苦労を分け合えたことは、精神的にかなり助かりました
般若:志真監督も南監督も、お互いにタイプが違う。だけど、なるべく要望には応えたい気持ちはあるので、(監督がたちが)何をやりたいのとかをキャッチしつつ、でも意見があったら言わせてもらうという形で対応していきました。やっぱり俺も納得しないとできないんで。南監督は力強いと言ったらいいのかな。特に、南監督が担当した5話が大変だったじゃないですか?あそこは、命の危険を感じるところがあったんで。
―具体的に教えていただけますか?
志真:大麻畑のシーンの話ですよね?大麻畑はどこにあるのか、ということは物語のセントラル・クエスチョンでもあるんですけど、時間が限られてきていた中で撮影しなきゃならない、かつ、全員の拘りもある。それをどうやって見せるのか、というところはだいぶ大変でした。
般若:そうですね。ああいうアクションが出てくるシーンはどうしても時間が掛かるじゃないですか。正直「ちょっと無理かな」と感じていました。最終的に何とかなったとは思うんですけど。あのシーンに2日、3日費やしたんでしたっけ?
志真:結果、2日だったんじゃないかな。
―5話に関しては、大麻草の再現もすごくリアルだと感じました。
般若:いやあ、今回美術さんが本当にすごいんですよ。
志真:半年前から栽培してましたから。すごいこだわりですよね。
ーそうだったんですね。さっきも志真監督がおっしゃっていましたが、物語として「大麻畑がどこにあるのか」と迫っていく。同時に、視聴者としては「ではその大麻をどうするのか」「栽培そのものをアリにするのか」とすごく気になりました。そういったストーリーの展開はどうやって創作していったのでしょうか。
志真:すごく脚本家的目線ですね(笑)。でも確かに、そうした問題については脚本の段階ですごく悩んだところなんです。さっき、般若さんが「山場が何個かある」と言っていましたけど、大麻畑のシーンはかなりトップレベルの山場でした。
ABEMAならではの自由な表現
―今回は、ABEMAというプラットフォームでの配信作品となります。民法のテレビ局との違いというか、ABEMAならではの自由さを感じる点もありましたか?
志真:民法ではタバコの表現もほとんどダメですし、「大麻」という言葉ももちろんダメなんです。なので、表現の領域に関してはABEMAは全然違いますね。今やりたい表現、かつ尖った表現があるのであれば、ABEMAはNetflixくらい自由にやらせてくれるプラットフォームだと思います。
―表現という点で言うと、物語の中には大麻畑を巡る騒動がありつつ、後半には伊弉諾がジョイントを吸うシーンも出てきます。こうした直接的なシーンをどのように撮影し、物語に挿入して行ったのでしょうか。
志真:ここは編集で一番悩んだところです。吸うか吸わないかって、大きな問題ですよね。伊弉諾が(ジョイントを)吸う時は、絶対にノリだけで吸ってはダメなんです。編集で色々試したんですけど、ドラマを観ている人たちは、あの時になぜ伊弉諾が吸うのか分からないはずなんですよ。でも、あえてそうやって分かりにくくしました。その後、伊弉諾が安堂に銃を向けながら「俺は今まで誰かのルールの上で生きてきたけど、今は違う」と言っていて、理由づけが後になるんです。あのシーンは一番大事なシーンですし、わざとこうして複雑にしました。まず、視聴者に「なんで吸うの?」と思って欲しかった。
―そのほか、表現に関してせめぎ合うことはありましたか?
志真:子供の表現についてもすごく悩みました。そもそも、このドラマに子供が出てきてもいいのか、ということ自体も悩みましたね。そこに関しては、脚本家やスタッフたちと意識を共有しながら「どんな表現だったらセーフか」ということを複眼的に観ていきました。みんなでチェックして、表現が行き過ぎないようにコントロールを効かせたつもりです。どう評価されるかは別ですが。
―個人的には子役が中指を立てるシーンだけが気になったんですが、そこも「なぜこのシーンを撮るべきなのか」ということを監督やスタッフの皆さんで話し合った結果なのかな、と感じました。
志真:言葉通り、中指を立てるイコール反抗する、という意味でそういう演技にしたんですが、そうやって言われるとやはり複雑な思いもあります。
―そのほか、小学生がMCバトルを見ているシーンや、学校の放送室でラップの曲を掛けようとしているシーンもリアルで。
志真:あれはだいぶ描きたかったところですね。僕も、親友と一緒に学校の隅っこで「般若聴いた?」「キングギドラ聴いた?」とやりとりしていたので、あそこで描いているのはかつての自分なんです。同時に、僕も子供が二人いるんですが、子供達に伝えていくヒップホップとして、今、表に出ている問題っていうのは避けては通れないな、とも思っています。
―キャストの話に戻りますが、吹越満さん、成海璃子さんら、魅力的な俳優陣が揃っています。
般若:やっぱり、草田勘九郎を演じてくれた吹越満さんが飛び道具だったね。あの人のことは自分も昔から見ているんで、撮影している姿を見ながら「こういう感じでドラマを作っていくんだ」って思いました。
志真:吹越さんと般若さんのお芝居、めちゃくちゃいいんですよ。撮影が始まってから生まれる俳優同士のコミュニケーションってあるんですけど、吹越さんの投げるものに対して般若さんが反応しているところがとても良くて。(台本に)書いていないやり取りとかちょっとした会話とか、実際に使っているところが多いと思います。
般若:そうですね。「ちょっと気持ち悪いな」って思うシーンや瞬間があっても、吹越さんがちゃんと橋を架けてくれていました。
―成海璃子さんが演じる高橋舞子も、二面性のあるすごく複雑な役どころですよね。観進めていくうちに「高橋にはこんな面もあったのか!」と驚くことが多くて。
志真:高橋という役は本当に複雑で、クランクインまでにキャラクターの整合性が取れずに入ったんです。
般若:そうなんだよな……。話が進んでいくごとに、ドラマの最初に見せていた高橋とは違う方向に変化していく。あの役が成海さんで、本当に良かったと思います。
志真:成海さん以外だったら成立していないと思いますし、ご本人にもそう伝えました。さっき正直に言いましたけど、役の整合性が立っていないまま撮影に入るというのは、監督としてはヤバいしダメなこと。実際に、撮影がインしてから成海さんと話していく中で高橋という役の方向性を見つけていったというところもあります。成海さんは大変だったと思いますね。
般若:そうだと思います。あと、安堂誠役の風間俊介君に関しては、台本に描かれている安堂の想像を超えてくることを本人が軽くやってくるだろうと想像が付きました。だから、ラッパーたちには「結構すごいものを出してくるから、気をつけろよ」って言いましたね。
役者とラッパーが認め合う
ー逆に、Born-D役の吉村界人さんは”ラッパーに混ざってラッパーを演じる”という役どころでしたが、吉村さんにはどのようにアドバイスなどを送りましたか?
志真:界人には「ラッパーたちのお手本になってほしい」と一言だけ伝えました。ラッパーたちは、演技が下手とか上手いではなく、格好良いかどうかを見るので。「Born-Dの役が格好良かったら彼らも着いてくるし、格好悪かったら着いてこない。そこは本当に勝負だから一緒に頑張ろう」と。結果、界人はラッパーのみんなとも信じられないくらい仲良くなっていました。彼はラップクルー、REDHEADのトップを張る役でしたけど、クルーのメンバーを演じてくれたラッパーたちは、実際に界人のことを「ボス」と呼んだり、敵対クルー、9門のリーダーである火薬役のJin Doggさんとはプライベートでも仲が良くなったりして。そうなったのはやっぱり、お互い違う分野で活躍する者同士として認め合ったっていうことだと思うんです。だから、「仲良くなってくれて本当にありがとう」って思っています。
ーJin Doggさんの配役も大抜擢だなと感じました。火薬は、ストーリーの鍵を握る人物です。
般若:僕、たまたま彼の俳優としての初作(映画『Sin Clock』)で一緒だったんですよ。で、その時に「絶対に役者の道で売れるだろうな」って個人的に思ったんですよね。マジな話、火薬は僕が演じる伊弉諾よりもいい役だなとも思ったんです。火薬を演じるための条件ほぼ確実に満たしていたのが、ジェイク(Jin Dogg)だと思っています。もし彼にオファーを断られたら、「(台本を)変えなきゃいけないレベルで難しいよな」って思っていましたし。
志真:彼とは、本人が東京に来たタイミングで直接会って話しました。会った瞬間に「本当に火薬だな」って思ったんです。それってあんまりないことなんですよ。正直、反応は五分五分という感じでした。これはクランクアップした後に聞いたんですが、「演技をするのはこれが最後」という気持ちで出演を決めてくれたらしいです。だから、俺もその気持ちに応えなきゃなっていう思いはありました。
―役者としてのJin Doggの可能性、みたいなものを感じる瞬間はありましたか。
志真:現場で本当に一番変化した、と思うのは彼ですかね。そういう変化って、映り方は変わらないままだからアウトプットされているものは変わらないんです。でも、現場の前後で変わっていって、その姿がものすごく魅力的だった。「画面に映っていない部分すら見てほしいな」って思えるぐらいでし
般若:(Jin Doggの)初作の時には俺とやり合ってお互い死ぬっていうストーリーだったんですけど、「あれも辛かったっすよね」って言うから「いや、これからやるやつに比べたら辛くないよ」っていう話をして「マジっすか? あれ辛くないんですか!?」みたいな反応をしてましたね。
ーG-k.i.dさんはABEMAの他番組の企画でオーディションを受ける様子も配信されていましたが、堂々とした演技でした。
般若:G-k.i.dはよくやったんですよ。G-k.i.dがこのメンバーの中でも一番(役を)作ってきてましたし、そういうふうに努力しているんだろうということは、一貫して俺には分かっていました。自分の中で、「OG-Tという役はこういう役なんだろうな」って作ってきていた割合が高かったですね。あと、CYBR RUIちゃんは一番大変だったと思う。でも一番頑張ってた。
ー『MOGURA』を見ていると、いわゆる今の現実の日本語ラップシーンとリンクしているように感じるシーンも出てくるように感じました。これはこのクルーのことをイメージしているのかな、とか、このラッパーは既存の誰それに似ているな、とか。そうした部分のリアリティというか、バランスは狙っていましたか?
般若:そこは、あんまり関係ないですよね?
志真:。そうですね。結果としてそういうふうになっているところもあるとは思うんですが、「今の日本語ラップシーンを描いてやろう」っていう気持ちは全くないです。自分の経験をもとに脚本家と相談して、今の形になっているので。ただ、本当に一つ確実に言えるのは、「この作品はフィクションです」ということですね(笑)。
ーエンディングテーマにはNORIKIYOさんの「五月雨」という曲が起用されています。この曲は”獄中からの手紙”というテーマの曲にもなっていて、「法よりも自分に従う」というリリックが非常に重く響きました。
般若:当初、NORIKIYOはこの作品に関わりたかったんですよ。結果的にこういう関わり方になったけど、『MOGURA』のエンディングにはこれ以上の曲はないんじゃないですかね。
志真:本当にそう思います。「五月雨」は、山田プロデューサーが選びました。撮影している時も編集している時も、やっぱり「五月雨」がどんなストーリーも受け止めてくれるんです。
ーさっきも般若さんが少し触れていらっしゃいましたが、こうした生々しいストーリー然り、ヒップホップやラッパーたちを扱う映像作品って、少し間違えるとダサくなってしまうというか、その匙加減が非常に難しいと思うんです。端的にいうと、”ダサくしないために”というか、作品をより輝かせるために、大事にしていたものやモットーみたいなものはありますか?
志真:僕は、ラッパーってすごくかっこいいと思っているんです。「その人たちがカメラの前に映っているんだから、それを格好良く撮る」という原点の部分を大事にしました。変な小細工をせずに、目の前にいる本人をどう格好良く撮るか、みたいなことをずっと考えていたんです。でも、”ダサくなる”っていうのはわかります。例えば変な演技をした時には絶対そうなってしまうんで、そういう姿は絶対に撮らないように気を付けました。
ー個人的な話で恐縮なのですが、私も、特に若いラッパーの方に取材する際は”ヒップホップやラップがいかにポジティブな変化を与えてくれたか”ということを聞くようにしているんです。やはり、ヒップホップやラッパーというだけで、ネガティブなものだと捉えられたり、嫌なステレオタイプを押し付けてきたりする人もいる。『MOGURA』を観進めて行くと、Red Eyeさん演じるZEROことYoung06や、 CYBER RUIさん演じるHaruが同じように「ヒップホップ出会ってよかった」ということを言っていて。その姿が、実際の本人たちとも重なりました。同時に、ここまでラッパーの心理を映し出してくれた日本の映像作品はなかなかなかったのでは、と感じたんです。
般若:こういう作品は、ここ10年以上なかったと思うんですよね。僕たちもそうだと思うんですけど、メッセージやストーリーの結末は各々で考えてほしいなと思います。このメンツが揃って、まがいなりにもこういうものを作ったんだっていうところは、ぜひ観てほしいですね。
ー今現在、撮影からしばらく経って、やっと配信がスタートしたという感覚だと思います。お二人の耳にはどのような声が届いていますか?
般若:あんまりわからないですけど、今のところはまあ……「観ました」とかですね(笑)。だから色んな人が観てくれているんだっていうことは受け止めています。
志真:そうですね。もし、他人がこの作品をやっていたら自分でもヘッズの立場から色々言うと思います。だから、それでいい。般若さんがこの前の20周年の時(『般若 20th LIVE』@TOKYO DOME CITY HALL/2024年9月)に、ステージ上で「まあ、色んな人がいるから」と仰っていたんです。全部ひっくるめて、色んな人の意見があっていいと思います。まずはヒップホップ好きな人が観てくれて、そこから染み出すようにいろんな人に伝わって、ヒップホップ好きじゃない人にまで連鎖していくといいな、と。それが一番、僕がやりたいことだったんで。自分も、兄弟の影響で般若さんのアルバムを借りて聴いて、そこからどんどん好きになっていったんです。なので、『MOGURA』の全6話がすべて配信された時に、そういうことが叶うといいなと思います。
写真左から、般若、志真健太郎
ー最初の方にも伺いましたが、般若さんは今回連続ドラマの主演という形で座長のように皆さんを引っ張っていかれていたわけですが、無事にオンエアが始まった今振り返ってみて、率直なご感想はいかがでしたか?
般若:それはもう、全員無事に終われてよかったなと。怪我もなく……多少はあったかもしれないですけど、とりあえず無事に撮影も編集も終わって、こうやって放送できているところまで来れてよかったです。これ、民放だと無理じゃないですか。それに、誰も捕まらずに無事に配信できているぞ、と。
志真:本当にそうなんです。最初に「捕まらないでください」って現場で言ったのは、僕も初めてでした。
般若:「配信が終わるまでは捕まんないでください!」って感じだよね。
ー般若さんの中で『MOGURA』というドラマは、ご自身にとってどんな作品になりましたか?
般若:もうちょっと時間が経たないと分からないところではありますね。俺の中ではもう終わってはいるんですけど、配信が終わって、みんながある程度の答えを出していってからですかね。でも別に「犯罪をやめよう」とかそういう話じゃないので、作品の真意を感じてもらえたら嬉しいと思っています。
ー志真監督は『MOGURA』という作品を撮り終えて、ご自身がこれまで関わってきた作品と違う、自分にとってこういう作品になりましたというのは振り返ってみていかがですか?
志真:そうですね。山田プロデューサーも僕もヒップホップが好きで、一緒の会社にいてMVを作ってきて、勝手に好きで続けてきたことが『MOGURA』という新しい形のドラマを作るところまで行けた。色んな出会いや関わってくれた人たち一人一人に感謝したいし、そういう作品に巡り会えて良かったなと思っています。今回は特に、関わってくれたスタッフと出てくれたキャストにすごくありがたいという気持ちがあるので、自分の中でもすごく大事な作品になりました。
■ABEMAオリジナルドラマ『警視庁麻薬取締課 MOGURA』 概要
<第4話 衝撃の急展開…裏切り者は誰だ>
放送日時:2025年1月30日(木)夜11時〜
見逃し配信:https://abema.tv/video/episode/90-2004_s1_p4
番組ページ:https://abema.tv/video/title/90-2004
<あらすじ>
ラップバトルに負け「9門」を去ることとなったボスの火薬(Jin Dogg)。
火薬不在により、伊弉諾翔吉(般若)の大麻畑捜査も暗礁に乗り上げていた。
伊弉諾と同じく大麻畑を探す「REDHEAD」もまた、「9門」のアジトに押しかけ手がかりを探す。
そんな中、大麻リキッド・ヘブンの製造に疑いを持つハルク(眞木蔵人)は、ラッパー達を争わせ、裏で手を引いている「黒幕」の存在に気がついていく。
<キャスト>
般若 成海璃子 吉村界人 Jin Dogg G-k.i.d Red Eye CYBER RUI Jinmenusagi ELIONE Ashley 葛飾心
板橋駿谷 Mummy-D 眞木蔵人 吹越満 風間俊介
<スタッフ>
企画・プロデュース:鈴木おさむ
原案:漢 a.k.a. GAMI
監督:志真健太郎、南虎我
脚本:ナラミハル
制作:BABEL LABEL
<『警視庁麻薬取締課 MOGURA』公式SNS>
公式X:https://x.com/drama_abema
公式Instagram:https://www.instagram.com/abema_drama_mogura/
公式サイト:https://abema.tv/lp/mogura-onair
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週刊女性PRIME / 2025年2月4日 16時0分
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