2025年グラミー賞まとめ:最高の瞬間、最低の瞬間、「?」な瞬間
Rolling Stone Japan / 2025年2月3日 16時50分
第67回グラミー賞授賞式を総括。ビヨンセとケンドリック・ラマーは大成功を収め、チャペル・ローンとサブリナ・カーペンターは忘れられないパフォーマンスを披露した。その一方で、ヒヤヒヤする場面もあった。
2025年のグラミー賞は、例年よりも厳しい状況に直面していた。ロサンゼルスで壊滅的な火災が発生し、数千人の生活が混乱に陥ったわずか数週間後に開催されることになり、授賞式が開催されるかどうかさえも疑問視されていたからだ。レコーディング・アカデミーは、この難題に素晴らしい対応を見せた。災害を認識し、それに対処するパフォーマンスを行い、同時にこの一年の音楽を主役の座に据えたのだ。もちろん、どんな授賞式も完璧というわけではない。このような善意に満ちたイベントでも、常に少なからず不手際は起こる。2025年のグラミー賞の最高の瞬間と最低の瞬間、「ちょっと待って、どういうこと?」と言いたくなる瞬間をご紹介しよう。
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最高:ビヨンセ、ついに最優秀アルバム賞を受賞
Photo by JC Olivera/WireImage
過去15年間、グラミー賞にノミネートされてきた2008年の『I Am...Sasha Fierce』、2013年の『Beyoncé』、2016年の『Lemonade』、そして2022年の『Renaissance』は、いずれも受賞してもおかしくないアルバムだった。そしてついに今年、彼女のカントリーアルバム『Cowboy Carter』が受賞した。ビヨンセの喜びと驚きが入り混じった表情がすべてを物語っていた。「とても満たされた気持ちで、光栄に思います」と、彼女は娘のブルー・アイビー・カーターと一緒に演台に立ちながら語った。「何年もかかりました」。そして、その日が来るとは思ってもみなかったかのように笑った。彼女がカントリーミュージックのパイオニアであるリンダ・マーテルに賞を捧げ、「私たちが扉を開き、前進し続けることを願っています」と語ったことも特筆しておきたい。
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最高:オールド・ハリウッド風に歌うサブリナ・カーペンター
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ビリー・ワイルダーのコメディ映画に登場するマリリン・モンローのように、グラミー賞でのメドレー中、サブリナ・カーペンターは次々と起こる(演出上の)ハプニングを魅力で乗り切った。彼女は杖を落とし、ゴールディ・ホーンばりに階段を下りながらジャズ・バージョンの「Espresso」を歌ったが、スポットライトが彼女に当たらない。また、衣装替えの間違いのように「When they act this way」と何度も歌わなければならなかった(バックコーラスも加わって、「誰かがクビになる」とハーモニーで歌った)。彼女のジョークは、もちろん短く、そして微笑ましいもので、すべてが古き良きハリウッドへの素敵なオマージュのように思えた。「Please Please Please」から「Espresso」に戻ったときなど、特にそう感じられた。カーペンターがダンキンドーナツやレッドケンのCMで素晴らしい存在であったことを思い出させる、魅力的な瞬間だった。彼女は自分の主張を貫き、テレビで「motherfucker」と言ったが、家にいた視聴者はそれを聞くことはできなかった(CBSの検閲官は違ったかもしれないが)。
最高:ドーチー、初のグラミー賞で脚光を浴びる
Amy Sussman/Getty Images
名だたる強豪をおさえて、ベスト・ラップ・アルバム賞を獲得したドゥージーは、つい最近ブレイクしたばかりだ。彼女は初めてのグラミー受賞式で涙を流した。「この部門は1989年に設けられ、これまで2人の女性が受賞しています」と彼女は語り、その後、自分自身を含め受賞者は3人であると訂正した。
この賞では、『Invasion of Privacy』で同賞を受賞した女性であるカーディ・Bがプレゼンターを務めた。カーディ自身も封筒を開けた瞬間、驚きと喜びで目を輝かせた。ドーチーは、この機会をとらえて感動的な証言を行った。彼女は、今回のグラミー受賞作となった『Alligator Bites Never Heal』を制作するにあたり、「禁酒に専念した。すると神が、努力は報われるだろうし、どれほど素晴らしいものになるか示してやると告げた」と語った。 彼女は故郷タンパを力強く代表し、隣に立つ母親を称賛したが、その後に観客を感動させ、盛大なスタンディングオベーションを巻き起こしたのは、彼女自身のような黒人女性たちへの励ましの言葉だった。「今、私を見ている黒人女性がたくさんいることを知っています。あなたたちに伝えたい。あなたにもできる」「この場にいるべきではない、肌の色が濃すぎる、賢くない、大げさすぎる、うるさすぎると言われるようなことがあっても、それに屈してはいけません。あなたは、今いるべき場所にいるべき存在なのです」と彼女は述べた。
そして、彼女は「Catfish」と「Denial Is a River」の高いレベルのパフォーマンスで、なぜこれほど多くの人々が彼女に魅了されているのかを証明した。このパフォーマンスは、ビリー・アイリッシュ、SZA、さらには会場にいたジェイ・Zさえも驚かせるものだった。他の最優秀新人賞候補者たちとのメドレーの中で披露されたものだが、彼女のパフォーマンスは際立っていた。
最悪:トレバー・ノアの悪趣味なジョーク
Photo by Christopher Polk/Getty Images
トレバー・ノアの冒頭モノローグは、コロンビアに関する無神経で使い古されたジョークを披露したことで荒れた展開となった。「グラミー賞を3度受賞したシャキーラがここにいます。コロンビア出身で犯罪歴のない最高の人物です」と彼は笑った。ここで時事問題に関するオチをいくつか披露する機会として利用することもできたはずだ。ノアは、米国中のラテン系移民が集団退去に直面し、トランプ政権によって人間性を奪われている状況下で、コロンビアに関する怠慢で有害なジョークを披露した。ひどくお粗末だ。
最高:Dawesが歌った「I Love L.A.」
JC Olivera/WireImage 今年の受賞式は、カリフォルニア出身のドーズ(Dawes)によるランディ・ニューマン「I Love L.A.」のパフォーマンスで幕を開けた。1983年のアンセムには歌詞の変更が加えられ、さらにオールスターバンドが参加したことで、ショーは高揚感のあるものとなった。ジョン・レジェンド、シェリル・クロウ、ブリタニー・ハワード、ブラッド・ペイズリー、そしてセイント・ヴィンセントのバックアップを受け、ドーズのシンガー兼ギタリストのテイラー、ドラマーのグリフィンは、火災で被害を受けたロサンゼルスに真摯なラブレターを届けた(2人は兄弟であり、ロサンゼルスのアルタデナ地区で自宅を失った)。ニューマンが書いたオリジナルの歌詞では「怠け者がひざまずいている」と皮肉っている部分を、ドーズは「立ち上がる」という内容に変えた。「彼らのような人はどこにもいない」と消防士たちを称えるために。 少しばかり真面目すぎたかもしれない。しかし、時にはそれが必要な局面もあるのだ。
最高:ケンドリック・ラマーの大勝
Photo by Christopher Polk ケンドリック・ラマーは2024年、ドレイクを辛辣な言葉で非難する曲を次々と作り続けた。その結果は? ヒット曲を手にし、批評家に絶賛され、名誉棄損訴訟を起こされ、そして2025年のグラミー賞を総なめにすることとなった。「Not Like Us」は最優秀ラップ・パフォーマンス、最優秀ラップ・ソング、最優秀ミュージック・ビデオ、最優秀楽曲、最優秀レコードにノミネートされ、すべてのカテゴリーで受賞を果たした。レコーディング・アカデミーは、可能であれば、この曲にオーディオブック賞も授与していたかもしれない。「ラップ・ミュージックほど強力な表現はない」と、ケンドリックはその夜の最後の受賞スピーチで語った。「私はただ、このアートフォームを尊重してほしいと願っている」
最高:チャペル・ローンのプライド讃歌
Photo by Amy Sussman/Getty Images
もしチャペル・ローンがグラミー賞で「Pink Pony Club」をひとりで歌っていたら、それはそれでパワフルなパフォーマンスになっただろう。しかし、最優秀新人賞を受賞した彼女はそれ以上のことをしてみせた。タイトルにもなっている子馬に乗って、ロデオ・ピエロたちと一緒に歌ったのだ。ピエロたちは楽しそうで、まったく怖くなかった。ピエロが一人だけだったら、そうはならなかっただろう。彼女は、このパフォーマンスを、クィアの権利と歴史への歓迎の意を示すものへと変えた。ピエロたちが踊るなか、ウェスト・ハリウッドについて歌い、かつてデヴィッド・ボウイがミック・ロンソンとそうしたように、彼女は四つん這いになってパフォーマンスのギタリストのもとに這い寄った。パフォーマンスの終わりには、彼女の仲間がトランス・プライドの象徴であるピンク、白、青の旗を振った。これで終わりではない、彼女たちはこれからも踊り続けるつもりだ。
最高:ビリー・アイリッシュのLA愛
Photo by JC Olivera/WireImage
ビリー・アイリッシュ、フィニアス、そして彼らのバンドは、驚くべき創造性を発揮し、アルタデナのサンガブリエル山脈とイートンキャニオンの中心でヒット曲「Birds of a Feather」を新鮮に感じさせるセットを成功させた。時折、美しい風景を背景に、兄妹スターの幼少期の写真が重ね合わされていた。それは、彼らが一生住み続けることになる家の近くの丘で、ハイキングや犬と遊んでいる時の写真だった。アイリッシュは、ロサンゼルス・ドジャースのシャープなデニムのユニフォームを着て、ラップをしながら「I love you L.A.」と甘くささやいてパフォーマンスを締めくくった。
最高:レディー・ガガとブルーノ・マーズの「夢のカリフォルニア」
Photo by VALERIE MACON/AFP via Getty Images
予想通りの路線で直近のヒット曲「Die With a Smile」を歌うのではなく、レディー・ガガとブルーノ・マーズは、ママス&パパスの名曲「夢のカリフォルニア」(California Dreamin')を披露し、ロサンゼルスに必要とされていた楽観主義をもたらした。マーズとガガは交互に歌い継ぎ、ガガは白い透け感のある花柄のドレスを着て、デニー・ドハーティの象徴的なセリフ「跪いて、祈るふりをする」を力強く歌い上げた。この陽気な60年代のアンセムは今年で発表60周年を迎えるが、このパフォーマンスは、今でも変わらずタイムリーであることを証明した。
最低:物故者リストの省略
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前回のグラミー賞以降に亡くなったミュージシャンや業界のレジェンド全員を追悼するのは難しいことは承知している。しかし、昨年亡くなった多くのレジェンド(クリス・クリストファーソン、シシー・ヒューストン、ディッキー・ベッツ、J.D.サウザー、フィル・レッシュ、セルジオ・メンデス、デューク・ファキール、ガース・ハドソンなど多数)を追悼したことは称賛に値するが、それでも追悼リストにパワーポップのヒーロー(グレッグ・キーン)、ヒップホップ(Ka、OG Maco)、インディーロック(リプレイスメンツのスリム・ダンラップ、ザ・チルズのマーティン・フィリップス、オリヴィア・トレマー・コントロールのウィル・カレン・ハート)、クラシックロック(アイアン・バタフライのダグ・イングル、モビー・グレイプのジェリー・ミラー)、ラップメタル(クレイジー・タウンのシフティ・シェルショック)、プログレ(キング・クリムゾンの作詞家ピート・シンフィールド)、プロダクション業界(シェル・タルミー)などの名前がリストに含まれていなかったのは残念でならない。彼らの死は見過ごされてしまった。
「?」:レッチリのフリーはどこに?
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40年以上前にレッド・ホット・チリ・ペッパーズを立ち上げて以来、フリーはハリウッドサインやランディーズドーナツと同じくらいLAの象徴となっている。また、彼はどこにでも顔を出すチリペッパーとなり、授賞式などのイベントやオールスターのジャムセッションには欠かせない存在である。つい3日前にも、カリフォルニア州イングルウッドで開催されたFireAidのチャリティーイベントに登場し、グラミー賞授賞式の会場であるクリプト・ドットコム・アリーナまで車で30分もかからない距離にある会場で、スティーヴィー・ワンダーと「Higher Ground」で共演したばかりだ。 まあ、他に用事があったのかもしれないし悪気はないのだろう。それにしても、なぜアンソニー・キーディスとチャド・スミスだけだったのだろうか? フリーはどこにいるんだ? 君がいないと寂しいよ! (もちろんジョン・フルシアンテも大歓迎)
「?」:ザ・ウィークエンドのパフォーマンス
Photo by Christopher Polk
ザ・ウィークエンドが「Cry for Me」と「Timeless」をサプライズで披露した。これはグラミー賞にとって透明性を高め、多様性への取り組みを誇示する絶好の機会となった(ザ・ウィークエンドはアルバム『After Hours』とヒット曲「Blinding Lights」が2021年に無視されたことを受け、同賞をボイコットしたことで知られる)。 しかし、その雰囲気は少しズレていた。 火災救援のための資金調達を目的としたショーの前は、特に真面目で楽観的なトーンだったが、ザ・ウィークエンドのパフォーマンスは暗く陰鬱で、攻撃的なストロボ、赤いボディスーツを着たダンサーたちが風変りな腕を振り回すといったもので、プレイボーイ・カーティのゲスト出演も場違いに感じられた。理論上では素晴らしいアイデアだったのだが(ザ・ウィークエンドの最新作『Hurry Up Tomorrow』のプロモーションとしても)、そのステージは首をひねってしまうものだった。
最高:チャーリーXCX、『Brat』旋風を授賞式へ
Photo by Christopher Polk
チャーリーXCXのアルバム『Brat』は、近年最もワイルドなポップアルバムの1つであり、この夜に英国出身のスーパースターがグラミー賞を即席のレイヴに変えたのは、まさしく象徴的な出来事だった。その夜、3つのトロフィーを手にしたあと、チャーリーは地下駐車場と思われる場所で「Von Dutch」をスタートさせたあと、メインステージに移動して「Guess」を大音量で流し、the Dare、ジュリア・フォックス、Gabriette,、スーパーモデルのアレックス・コンサーニ、その他大勢に囲まれ、ほとんど裸に近い服装で騒ぐ人々の輪に加わった(「まるでブッシュウィックみたいだ」と、ローリングストーン誌のスタッフの1人が本誌のグラミー賞Slackに書き込んだ)。シャンパンボトルを片手に踊るテイラー・スウィフトは明らかに楽しそうだった。これを嫌がる人はいないだろう。
最悪:政治的声明はどこへ行った?
Photo by Christopher Polk
この2週間の、言ってみれば激動の出来事を踏まえれば、この国の根幹を揺るがす一連の攻撃について、多くのミュージシャンが声を上げたいと思うだろうと考えるのが自然だ。一夜の間にいくつかのコメントが発表された。シャキーラの移民支援の表明、レディー・ガガのトランスジェンダーの権利を支持する発言、スティーヴィー・ワンダーが「お互いの文化を常に祝福すべき」と述べたことは、いずれも歓迎すべきことだった。しかし受賞式は、法と秩序に対する攻撃、移民、トランスジェンダーなどに関する政治的なコメントが全体的に欠如したまま幕を閉じた。芸術助成金の削減が2026年のグラミー賞に影響しないと仮定すれば、来年はもしかしたら、というところだ。
「?」:テイラーとビリーの受賞ゼロ
Photo by Amy Sussman/Getty Images
テイラー・スウィフトもビリー・アイリッシュも、昨年の最も注目されたヒット曲をいくつか生み出したにもかかわらず、2025年のグラミー賞ではトロフィーを1つも持ち帰ることができなかった。グラミー賞における人気者が1つも受賞できなかったという事実は注目に値する。そして、それはレコーディング・アカデミーの新たな方向性を示すものなのかもしれない。
From Rolling Stone US.
「第67回グラミー賞授賞式®」 ※字幕版
2月3日(月)午後10:00~
WOWOWプライムで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~90日間WOWOWオンデマンドにてアーカイブ配信
▼二カ国語版(同時通訳)はWOWOWオンデマンドにてアーカイブ配信中
https://wod.wowow.co.jp/program/203230
グラミー賞授賞式 WOWOW特設サイト
https://www.wowow.co.jp/music/grammy/
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