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セントラル・シー、UKラップの王者が世界的スターにのし上がった3つの理由

Rolling Stone Japan / 2025年2月5日 17時30分

セントラル・シー

UKラップ新時代を牽引する98年生まれのラッパー、セントラル・シー(Central Cee)のデビューアルバム『Can't Rush Greatness』が話題を集めている。本国イギリスのアルバムチャートでは初登場1位。昨年11月には初来日ライブも実現させた。そんな彼の魅力を、文筆家・ライターのつやちゃんが解説する。


Now I'm with a Scarlett Johansson/A-list actress said I'm so handsome/When I wanted a 'fit, I would go Camden/Now it's Rodeo Drive, let's go Lanvin/Nobody else from London's gone Hollywood, just Cee or the boy Damson
(今はスカーレット・ヨハンソンと一緒にいるよ/大物女優にハンサムだと言われた/似合う服が欲しいときはカムデンに行っていたけど、今はロデオドライブさ。ランバンに行こう。ロンドン出身でハリウッドに行った人は他にいないんだ)

これは、セントラル・シーの最新アルバム『Can't Rush Greatness』に収録されている曲「CRG feat. Dave」の一節だ。買い物をする街がロンドンのカムデンからビバリーヒルズ内の高級ショッピングストリートへ変化したという様子を描写しながら、いかに自分がアメリカで成功しているか、それが偉業であるかを伝えるエピソードとなっている。実際、UKラッパーが真にグローバルな存在になるには長い年月を要した。モニー・ラブ? ディジー・ラスカル? 最近だとスケプタにストームジー? いや、セントラル・シーの規模感は桁違いだ。世界合計ストリーミング数が60億回超えという破格の実績からも分かる通り、彼はヒップホップ史において、前例がないほどの大きいスケールで世界的成功を収めようとしているラッパーなのである。

では、なぜ彼がそれだけのスターに成り上がることができたのか? 本記事では、〈SNS時代を制した音楽スタイル〉〈サウンドの多様性〉〈戦略的なアメリカ進出〉という3つのポイントから紹介したい。



1. SNS時代を制した音楽スタイル

聴いて分かる通り、セントラル・シーのラップは桁違いに巧い。一語一語をはっきりと発音しエネルギッシュに聴かせスピットしていくスタイルは、UKドリルを基軸にした音楽性ともぴったり合っている。ただ、そういったアグレッシブさを備えながら、メロディアスなフックもある。これは、もともと彼がUKドリルに転向する前、キャッチーなフックのあるトラップを志向していた経験から来るものだろう。そして、そういった強さと親しみやすさの両面を備えたラップは、TikTokをはじめSNSにおいてバイラルしやすい。UKアクセントのラップはアメリカのリスナーに聴かれる際に障壁となることも多いが、セントラル・シーの場合は滑舌とリズム感とともに親しみやすさもあるため、フロウの心地よさで「聴けて」しまうのだ。

例えば、「6 for 6」や「Commitment Issues」といった初期の人気曲(共に2021年)を聴けば、デビュー当初から彼の作品が非凡なメロディセンスに満ちていたことが分かる。どちらのトラックも哀愁ある旋律が特長的だが、そこに乗るラップも”歌っていないが歌っているような”響きと流麗さがお見事。スターダムにのし上がるきっかけとなった2022年のヒット曲「Doja」も然りで、一つひとつは滑舌良いハキハキした発音なのだが、それが積み重なりフロウとなった瞬間にどうしようもなく心地よいメロディと化する。一語ずつのきびきびした発音=具体が連なった瞬間、情緒をくすぐる得体のしれない響き=抽象へと転化するラップが、セントラル・シーの唯一無二と言ってよい魅力なのである。同時に、その「Doja」の冒頭にて聴ける通り、SNSで引用されやすいリリックを散りばめる才能も彼ならではの手腕だろう。





2. サウンドの多様性

2010年代終盤から多くのプレイヤーが出現し、いちサブジャンルの域を超えて世界中に伝播していったUKドリルだが、その中においてセントラル・シーの功績はジャンルとしてのサウンド幅を拡大させていった点にある。そもそも彼は、ガイアナと中国の血を引く父、イギリス人の母との間に生まれている。父親の影響で幼い頃から様々なヒップホップを聴いてきたとのことだが、それはトラックのウワモノやサンプリングの多彩さにも反映されているように思う。

例えば初期のヒット曲「Loading」はジャジーなUKドリルで、「Pinging(6 Figures)」では中華風の音を聴かせ、「Ruby」ではフォリナー「Cold As Ice」の流麗なピアノを引用し……と、実に幅広いサウンド。中でも、全英チャート史上初のUKラップ曲10週連続1位という驚異的な記録を打ち立てた「Sprinter」は最も象徴的なナンバー。イントロから流れるギターのループが、UKラップ特有のダークなトラックとは一線を画すラテン風のムードを与えている。そもそも2021年の時点で、FKAツイッグスと「Measure of a Man」というゴシック・トラップな音源をリリースしていた彼のことだ。本来的に、懐の深い音楽性を持ち合わせているのだろう。





3. 戦略的なアメリカ進出

近年ポップミュージックにおけるアメリカ一極集中の状況が崩れつつあるが、ことヒップホップに限ると、グローバルでの支持を固めるにあたってはまだまだアメリカを制圧しないことには始まらない。イギリスのラッパーはいつの時代もその点において苦労してきた歴史があるが、セントラル・シーは、戦略的な策を展開することでアメリカの磁場へと鋭く切り込んでいった。2023 年にはXXL Freshman Classにも選出された彼だが、その過程で大きかったのは、ロサンゼルスのラジオ局 〈Power 106〉 の出演で見せたパフォーマンスである。フリースタイルを披露し、スピットする技巧的なラップとともにイギリスのストリート・スラングを紹介。彼の技術を知り解説を受けたことで、アメリカのヒップホップコミュニティはすぐさまセントラル・シーに夢中になっていった。



その後の流れも、用意周到だった。「On The Rader Freestyle」でドレイクとコラボしたのちに、「TOO MUCH」ではザ・キッド・ラロイ、JUNG KOOK(BTS)とも共演。この2022年後半から2023年にかけては、アメリカを制するために実に様々な仕掛けを展開していたように見える。もともと「Obsessed With You」でピンクパンサレスの「Just For Me」をサンプリングしていた彼だが、2023年には「Nice to meet you」で共演も果たした。それ以上に話題になったのはアイス・スパイス「Did It First」への参加で、ここではいわゆる”匂わせ”によって彼女との交際説も流布されることになる。曲だけでなくゴシップでもアメリカのヒップホップコミュニティを席巻したセントラル・シーは、2024年の夏頃にはすっかり「世界の」セントラル・シーになっていた。イギリスで地位を確立したラッパーとしては、未だかつてない世界的な認知を獲得したのである。




その間に、各国のラッパーとも次々と共演を果たす。フランスのラッパー・ニーニョとの「Eurostar」では欧州を代表するコラボである旨を宣言し、ナイジェリアのアサケとは「Wave」でアフロビーツにトライ。先のJUNG KOOKも含め、全ての大陸を制覇する勢いで影響力を拡大していったのだった。



真価を発揮したデビューアルバム

さて、かつてないほどの注目が全世界から集まる中、いよいよ2025年に放たれたアルバムが『Can't Rush Greatness』である。レコード会社間の激しい契約争いに巻き込まれた今作は(遅すぎる)メジャーデビューアルバムであり、すでに大きなヒットを記録中だ。



そして今作においても、先述したセントラル・シーの魅力は十分に発揮されている。まずは、TikTokで21サヴェージとの「GBP」が特大バイラル。スッと耳に馴染むラップについては相変わらず驚くほかないが、今回はリリックも面白い。TikTokでトリミングされているのは「Red carpet in my trackie and Air Max, they want a boy with a London style」や「Thats GBP, the price go up if its USD」といった箇所だが、それぞれ「ジャージとエアマックスでレッドカーペットにいるんだ、皆ロンドンスタイルの男を求めてる」「それはポンドの話で、ドルなら値段はもっと上がるよ」と歌っている。まさしく、「イギリス発のドリル・ラッパーがアメリカで成功している」という状況を端的に表した歌詞だ。

さらに、〈サウンドの多様性〉と〈戦略的なアメリカ攻略〉が、今作では同時に達成されているのも注目すべき点。リル・ダークとの「Truth In The Lies」はニーヨの「So Sick」をサンプリングした泣きの曲で、その合わせ技はもはや反則レベルだろう。プエルトリコのヤング・ミコをフィーチャーした「Gata」は明らかにラテン・アメリカ市場を狙ったものだし、しかもセントラル・シーのラップがラテンのリズムときちんと相乗効果を見せている。今作のベスト・トラックのひとつだ。また、アルバムの最後を締めくくる「Dont Know Anymore」も必聴である。これだけの成功を手にした彼が過去を振り返りながら改めて内省を深めている曲だが、物悲しい声が鍵盤の音色とともにこだますることで涙を誘う。




もちろん、セントラル・シーに対して批判の声がひとつもないわけではない。卓越したスキルと多岐に渡るコラボレーション、SNS時代を制した巧みな戦略――ドレイクの例を出すまでもなく、大胆な試行錯誤を繰り返しながら時代を背負うラッパーは、時にヒップホップコミュニティにおいて非難の標的になりやすいからだ。彼は、ジャンルを越え、国境を越え、いま全てを背負う中で、スターとして脚光を浴びつつも苦難を味わい、自身を振り返り行く先を探しているのだろう。『Can't Rush Greatness』は、そんな彼のリアルが伝わりつつも、類いまれなラップとサウンドが鮮烈な輝きを発している魅力的な作品であることは間違いない。彼がこのアルバムでさらにどこまで大きくなるのか――ヒップホップコミュニティのみならず、ポップフィールドにおいても、いよいよ目を離せない状況になってきた。今やセントラル・シーという存在は、「イギリスのラッパーが世界でどこまで大きくなれるのか」という問いに対する実験としても機能しているのだ。



セントラル・シー
『Cant Rush Greatness』
再生・購入:https://centralceejp.lnk.to/CANTRUSHGREATNESS

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