「安全と円滑さ」どうバランス 歩車分離式信号、整備は道半ば 警察庁が指針改定
産経ニュース / 2025年2月12日 21時3分
交差点で歩行者と車両の青信号のタイミングを分ける歩車分離式信号の整備を後押ししようと、警察庁は指針を見直し、導入の検討条件を緩和した。歩車分離式信号の設置数は増加傾向にあるが、令和5年度末時点での全国の整備率は4・98%にとどまる。周辺の交通状況を詳細に検討する必要があり、各地の警察は調査を行いながら状況に応じた整備を進めている。
事故を契機に
都道と国道それぞれの車両用信号が順番に青になった後、最後に歩行者用信号が青になると歩行者らが一斉に横断歩道を渡っていった。
東京都品川区にある戸越三丁目交差点の風景だ。都道と国道が交わり車線数や交通量が多く、歩車分離式信号が導入されている。歩行者と車両が交錯するタイミングがないため、歩行者が事故に巻き込まれるリスクは低い。平日の午前に訪れると、保育士に連れられて渡る散歩中の園児らの姿もあった。
この交差点では平成15年、青信号で横断中の6歳の女児が後方から左折してきたダンプカーにはねられ死亡する事故が発生。再発防止の要望を受け、17年に歩車分離式信号が導入された。付近の歩道には、事故の犠牲者を悼む花束やぬいぐるみのキーホルダーなどが供えられていた。
進まぬ普及
都内では今月も、練馬区で出勤途中の女性会社員が左折のダンプカーにはねられ死亡するなど、横断者が右左折の車両に巻き込まれる事故は相次いでいる。一方で、こうした事故を防止する対策の一つである歩車分離式信号は十分普及していない実情がある。
警視庁によると、歩車分離式信号は待ち時間が長くなるため渋滞を招く可能性もある。事故が起きたり住民から設置の要望が出たりした際は、警察官が現地に赴いて交通量や交差点形状などを調査する。歩行者が待機できる歩道のスペース、左折専用車線の整備なども確認し、導入の可否を判断するという。
ただ、導入後も渋滞が起きたり運転手が信号を見間違えたりするケースもあり、「分かりにくい」との声が寄せられることもある。交通管制課の担当者は「待ち時間が増えると信号無視を誘発し、守られない信号になる可能性もある。安全と円滑さのバランスを検討しながら導入を進めている」と話す。
整備率に地域差
先月、各警察本部に通達された改定指針では、導入を検討すべき交差点の条件として、これまでは歩車分離であれば防止できたと考えられる事故が「過去2年間で2件以上発生」だったが、「事故が過去5年間で2件以上発生」「死亡事故が発生」とした。また、児童らの交通の安全を確保する必要がある交差点では、要望がなくても導入を検討できるように条件を大幅緩和した。
警察庁によると、令和5年度末の全国の整備箇所は、前年度から110カ所増えて1万294カ所に。整備率には地域差があるが、最も多いのは長野県で13・45%。次に神奈川県10・48%、東京都9・77%が続く。
警察庁は都道府県警への通達で、導入にあたり渋滞が想定される際は信号サイクルの調整や押しボタン式信号の導入などで緩和できないか検討するよう付記した。また、視覚障害のある人にも信号サイクルが変わることを周知するため、導入前にウェブサイトで導入場所や制御方式を公表するよう求めた。同庁担当者は「歩行者などの安全を確保して死亡事故を1件でも減らすため、整備を一層推進していきたい」としている。(橋本愛)
◇
山梨大学大学院の伊藤安海教授(交通科学)の話
歩車分離式信号を導入すると、歩行者と車両の進行を完全に分けるため、車両の右左折時の巻き込みや見落としなどの事故のリスクが減ることが期待される。
従来の信号では歩行者と車両が交互に進行できたが、歩車分離式になることで、それぞれの進行できるタイミングが減ることが予想される。デメリットとして、渋滞の懸念も挙がるが、国道など大きい道路で車両の流れを止めないよう考慮すれば、歩行者の横断時間を短くする必要にも迫られる。渋滞防止と、歩行者の十分な横断時間の確保の両立が難しいことも普及が進まない背景にあるのではないか。
進行のタイミングを逃すと次まで待ち時間が増えるため、黄信号や点滅などで、いずれも無理に通過しようとするケースも出ると予想され、かえってリスクになるともいえる。歩行者の十分な横断時間が保証されれば、指針改定の効果はあるだろう。交通量が多い交差点については立体交差や歩道橋、地下道などを敷設した方が抜本的な対策になるともいえる。事故の数値だけではなく、交差点ごとの特性に合わせた検討があってもよい。(聞き手 海野慎介)
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