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厳戒態勢の首相遊説…鉄柵で聴衆分離、ビル屋上に警察官配備 選挙警備に増す脅威

産経ニュース / 2024年10月21日 8時0分

日本大危機管理学部の福田充学部長

選挙活動という民主主義の土台が、相次ぐテロに揺さぶられている。令和4年7月に安倍晋三元首相が暗殺されてから初めて迎える衆院選。期間中、最初で最後の選挙サンデーとなった20日、各党党首が街頭に繰り出したが、前日の自民党本部・首相官邸襲撃事件もあり、警戒度は最高レベルに達している。

20日午前11時20分ごろ、堺市西区のJR鳳駅前では石破茂首相(自民党総裁)が選挙カーに立ち、マイクを握って熱弁を振るっていた。

聴衆が演説を聞くのは石破首相から20メートル以上離れた四方を鉄柵で囲まれたエリア。選挙カーの至近から放射状に人の波が広がる従来のような光景は見られない。

入場するには金属探知機のチェックと手荷物検査を受けなければならず、会場周辺やビルの屋上には多数の警察官が配置された。

「前日の事件を受けて手荷物検査の際はペットボトルの飲み物のにおいまで確認するよう言われた」と自民陣営関係者。来場者には持参したペットボトルの中身を一口含んでもらう徹底した運用が図られた。

演説後、周囲をSPに囲まれた石破首相は握手のため聴衆に駆け寄ったが、最前列の一部にとどめ、すばやく車両に乗り込んだ。近くの会社員男性(39)は「石破さんとの距離がここまで遠いとは思わなかった」と警戒ぶりに驚いていた。

選挙における要人警護の在り方を大きく変えたのが、4年7月、参院選候補の応援演説中に安倍晋元首相が銃撃され、殺害された事件だった。翌年4月には岸田文雄首相(当時)の演説会場に爆発物が投げ込まれる事件も起き、選挙警備の隙が立て続けに狙われた。

今年4月の衆院補選では「つばさの党」の候補者自身による選挙妨害事件も発生。交流サイト(SNS)に騒動の様子を投稿し、拡散させる〝炎上商法〟が注目を集めた。7月には米国でトランプ前大統領が狙撃される事件も起こり、改めて高所警戒の必要性が指摘されるなど選挙における多方面の脅威の存在がクローズアップされている。

大阪府警は今回の衆院選に当たり、地元の党組織に安全確保が比較的容易な屋内での演説を勧めたほか、聴衆との握手やグータッチといった触れ合いは極力控えるよう依頼している。

だが選挙活動に詳しい政党関係者は「そもそも街頭演説と屋内演説ではまったく性格が違う」と説明。街頭演説では、支持者以外の第三者への波及効果に重点を置いているのに対し、屋内演説では、来場者数からどれだけまとまった票を見込めるかという支持基盤の強度を見る。「屋内ばかりでやっても無党派層は来てくれない」と明かす。

大阪では日本維新の会が全小選挙区に候補者を擁立。政権与党の自民、公明両党と激しい戦いを繰り広げ、そのため要人の来阪も相次ぐ。ある府警幹部は「激戦区であるほど、候補者も触れ合いを重視するだろう」と表情を引き締める。

最新機器導入、AIも活用

情勢に応じてスケジュールに変更が生じやすい選挙は、警備する側にとってそもそも「守りにくい」対象といえる。首相をはじめとする多数の警護対象者が一日に複数の場所を移動し、さらに触れ合いのために聴衆に近接するという特徴も、選挙警備を難しくする大きな要因だ。

警察庁は、安倍晋三元首相銃撃事件を教訓に令和4年8月、警護要則を刷新し、各都道府県警が策定した警護計画を審査する仕組みを導入した。

計画には、演説会場に合わせた要人の動線や退避ルート▽襲撃犯が身を潜められそうな場所の調査や適正な警護人員の配置▽金属探知機や防弾マットの要否-などが盛り込まれている。警察庁が今年9月末までに審査した警護計画は約7200件に及び、7割で要人の退避ルートの修正などを求めたという。

最先端技術を活用した装備資機材の導入も本格化しており、警護現場を上空から監視するため全都道府県警にドローンを配備。演説会場を立体的に把握するため、写真を3D画像にして再現できる機材を大規模な警察本部に導入したほか、人工知能(AI)が異常行動を検知するシステムの活用も始め、経験と対策を積み重ねている。(土屋宏剛)

■「民主主義の根幹、守る意識を」福田充日本大危機管理学部学部長

日本の警備警察の力は極めて高い。各国要人が集まる国際イベントで失敗した例はなく、国際社会からも信頼は厚い。

ただ、選挙では日本特有の事情がある。候補者が有権者との街頭での触れ合いを重視するため、首相であっても選挙期間中は握手やグータッチができる距離にまで迫れてしまう。

令和4、5年に起きた安倍晋三元首相と岸田文雄前首相の襲撃事件は、まさにこの機会を狙って行われた。単独でテロを実行するローンオフェンダーにとっては選挙が政治家を攻撃する絶好の機会となっている。模倣犯を生まないためにも、こうした要人襲撃は必ず阻止しなければならない。

民衆と距離を設けることは「心の距離」と必ずしも一致しない。政党など陣営側は大事な候補者を守る手立てを第一に考えなければならない。民主主義の根幹を守る意識を携わる人全員が持つべきだ。

加えて、候補者自身が選挙妨害をすることはそれ自体が民主主義の理念に反する。選挙の安全を巡る社会的議論がなされるべきだ。

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