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希少生物狙う密猟者の摘発パトロールに記者が密着 世界自然遺産・沖縄「やんばるの森」

産経ニュース / 2024年9月29日 16時52分

灯火に飛来したオオシマゼミ。「生物識別者」が安全な場所まで移動させた=28日午後11時7分、沖縄県国頭村(大竹直樹撮影)

沖縄本島北部の世界自然遺産「やんばるの森」で28日深夜から29日未明、環境省や沖縄県警などによる密猟者摘発合同パトロールが行われた。国内最大級の亜熱帯照葉樹林が広がる「やんばる国立公園」には独自の進化を遂げた野生生物が多数生息しているが、密猟などの違法行為が深刻な問題になっている。森を覆う漆黒の闇夜。希少な固有種を密猟者から守るパトロールの現場を追った。

密猟者が狙う希少種

「相手(密猟者)はどんな人間か分からない。凶器を持っているような者もいる中で、われわれが行くことになる」

28日午後10時、沖縄県国頭村(くにがみそん)。沖縄県警名護署の高島久典副署長が表情を引き締めた。

摘発合同パトロールは、事前に密猟者に察知されないよう、日時やルートを秘匿し抜き打ちで行われる。環境省や県、村森林組合などの職員も参加しているが、密猟者と鉢合わせになれば不測の事態も生じかねない。県警は制服警官とパトカーを要所に配置し、万全の態勢を整えたという。

近年、密猟者に特に狙われているのが、ヤンバルテナガコガネだ。昭和58年に新種として発見された日本最大の甲虫で、国の天然記念物。生息範囲が狭く、個体数を急速に減らしているとされる。

種の保存法で捕獲や輸出入などが原則禁止されているが、県自然保護課の東盛舞子・生物多様性推進監は「今年も密猟疑い事例が確認された。卑劣な違法採集が後を絶たない」と嘆息する。

木が腐食して空いた穴で密猟された痕跡も確認された。関係者によると、やんばるの希少な動植物は海外に密輸され、高値で取引されているという。

相次ぐロードキル

集合場所から車で移動し、国頭村内の林道などで実施されたパトロールに、記者も同行した。

「ギャーギャー」あるいは「ヒューヒュー」と形容すべきか。的確な擬音は思い当たらないが、これまで耳にしたことのない独特の鳴き声が真っ暗な原生林に響いた。

「ケナガネズミでしょう」。沖縄の自然関連の本の編集に長年携わり、県の依頼で「生物識別者」としてパトロールに加わった村山望さん(63)=宜野湾市=がそう言って、木の上の方を見つめた。

国内最大のネズミで、国の天然記念物。絶滅危惧種だが、固有種を脅かす〝敵〟は密猟者だけではない。

それは道路を走行する車だ。「ロードキル」と呼ばれるケナガネズミの交通事故死が相次ぎ報告されている。特に10月の夜間に多発するという。

ちなみに、飛べない鳥として知られるヤンバルクイナのロードキルも深刻で、5~7月の日中に多く発生。やんばるの道路を走行する際には速度を落とし、注意しながら運転する必要がある。

村山さんは「人間の活動拡大によって外来種がやんばるに持ち込まれ、固有の希少生物が影響を受けている」と警鐘を鳴らす。

夜行性生物の楽園

午後11時50分、亜熱帯照葉樹林を貫く道路に1台の車が現れた。湿気を含んだ空気がヘッドライトに照らされ、真っ暗だった一帯が一気に明るくなる。

赤色のハンディーライトを持った環境省の職員が検問地点まで誘導。警察官が運転席に近づき、密猟の疑いがないかどうか慎重に確認していく。

県自然保護課によると、28日深夜から29日未明にかけて計13台の車に検問を実施し、パトロール中に1台の車に職務質問を行ったが、密猟などの違法行為は確認されなかったとしている。

パトカーの赤色灯やヘッドライトに照らされた検問地点の周辺では、オオシマゼミやハナサキガエル、オオハシリグモといった希少な固有種を見ることができた。

「ジィジィジィー」「カンカンカン」。希少な固有種の独特な鳴き声が山々にこだまする。

漢字で「山原」と書くやんばるは、豊かな森が広がる夜行性生物の楽園だ。この生物の多様性を守るため、密猟者を摘発するパトロールが行われている。(大竹直樹)

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