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相次ぐストーカー、被害者保護に限界 加害者への更正プログラム義務付けなど法整備急務

産経ニュース / 2024年6月21日 21時37分

常磐大学元学長の諸沢英道氏

ストーカーの摘発が増える一方で、殺人に発展するなど深刻な事件が後を絶たない。支援団体は被害者を守るだけでは限界があることを指摘。一方的な執着心や感情をコントロールする更生プログラムの必要性を強調する。有識者はストーカー規制法を刑法に取り込むなど、「重罪」との認識を広げるべきだとしており、どうすれば減らせるか模索が続いている。

加害者変わる必要

対策強化を目的に警察庁は今年3月、ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けた加害者全員に連絡を取って近況を把握するとともに、精神的治療の有効性などの紹介を徹底するよう、全国の警察に通達を出した。昨年8月から大阪や愛知など10都道府県警で加害者全員に連絡を取る措置を試行していたが、全国に拡大させた。

「どんなに被害者を守ろうとしても、加害者が変わらない限り問題は解決しない」。ストーカー規制法は改正を重ね、摘発も増えたが、被害が減らない状況を踏まえ、NPO法人「女性・人権支援センター ステップ」(横浜市神奈川区)の栗原加代美理事長(78)もこう断言する。ステップでは平成23年から、ストーカーやドメスティックバイオレンス(DV)の加害者を対象にした更生プログラムを実施している。オンラインで今月上旬に実施した際は、男女十数人が参加。スタッフに「パートナーはどのくらい危険を感じていたと思いますか」と問われ、参加者らは過去の行動などを赤裸々に語り合った。

加害者の多くが幼少期に両親から愛されなかったと感じ、愛情不足の状態で恋人やパートナーに出会うと、「これまで満たされなかった分を満たしてもらいたい」と執着心が募るとされる。

こうしたことから、ステップの更生プログラムは、米国の精神科医が提唱した「選択理論」心理学を活用。自身の怒りをセルフコントロールするアンガーマネジメント▽相手にいかに寄り添うか▽相手に幸せにしてもらいたいという依存ではなく、いかに自分で自分の欲求を満たし幸せになるか-の3つを目標に週に1回、約20人のグループで学ぶ。基本的に1年ほどプログラムを続け、自身の物事のとらえ方を変えていく。

プログラム強制を

栗原さんは「変えられるのは自分の思考と行為。自分を変えることに焦点を当てる必要がある」とする。理論的に学ぶことで納得する人は多く、これまで約2千人が受講したが8~9割が更生しているという。

それでも、プログラムに参加するのは加害者のごく一部に過ぎない。海外では米国やカナダの一部の州で、裁判所がストーカーにカウンセリングや治療を義務付ける命令を出すことができる。

これを踏まえ栗原さんは「日本でも加害者に強制的にプログラムを受けさせる法整備が必要だ」と指摘する。その上で「法整備が難しいなら、警察と連携してプログラムを実施しているNPOなどに加害者をつなげる仕組みの構築を急ぐべきだ」と訴えた。

ストーカー相談件数高止まり

警察当局もストーカー行為への対策を強化しており、昨年のストーカー規制法に基づく「禁止命令等」は1963件で最多を更新した。ただ、中には一定期間、加害者からの接近がなく、被害者側が警察の対処を望まないケースでも事件に発展しており、より一層の対応が迫られている。

警察庁によると、ストーカーの相談件数は令和元年は2万912件に上った。2~4年も2万件前後、5年が1万9843件と推移し、高止まりの状態。ストーカー規制法違反での摘発件数も増加傾向にある。

今年5月には、東京都新宿区のマンション敷地内で、住人の20代女性が経営する店の客の男に刺殺される事件が発生。男は過去にストーカー規制法に基づき警告を受け、逮捕もされていた。ただ、その後は被害者に接近することはなく、警視庁は対応を終結していた。

ストーカー規制法は、平成11年に埼玉県桶川市で女子大生が刺殺された事件を契機に制定。メールや交流サイト(SNS)を規制対象に加えるなど、改正が繰り返されてきたが、効果が十分に出ているとは言い難いのが現状だ。(前原彩希)

重罪という意識、浸透せず 常磐大元学長・諸沢英道氏(刑事法)

技術進化に伴い、いたちごっこのように法改正が行われてきたのがストーカー規制法の現状だ。根本的に法の建て付けの悪さだと言っていい。

欧州諸国は規制法のような特別法ではなく、刑法の中につきまとい罪を加えるのが一般的だ。

特別法にとどめる問題点の1つが刑罰。ドイツやカナダではつきまとい罪の最高刑は10年、比して日本は1年だ。特別法ゆえに軽いと言わざるを得ず、刑法犯だという認識がそもそも薄いのではないか。ストーカーが重罪であるとコンセンサスができていない。

刑法199条の殺人罪はどういう行為が殺人に該当するか記す必要はない。一方で、どういった行為がストーカーに該当するか、逐一定義せざるを得ないだけに、対応が後手に回るのは当然だ。

これまでも前例があるが、特別法を刑法に組み込むのが妥当だろう。現行のままならば、より詳細に違反行為を示すしかない。加えて、ストーカーを行う人物が行為に対する認識が少ないことを踏まえ、予防勾留やケアプログラムについても記載し事件発生前の措置も講ずるべきだ。(聞き手 五十嵐一)

■ストーカー規制法 つきまといなどを繰り返す「ストーカー行為」を防止し、被害者の生活の安全と平穏を守るために平成12年に制定された。28年に東京都小金井市でアイドル活動をしていた女性がファンの男に刃物で襲われるなどの事件を受け、メールや交流サイト(SNS)での執拗(しつよう)なメッセージも規制されるなど改正が繰り返されてきた。令和3年8月には衛星利用測位システム(GPS)機器などを使って位置情報を無断取得する行為も規制の対象になった。

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