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拳銃奪われ意識不明、復帰した巡査長が知る被害者の〝心の痛み〟 大阪・交番襲撃事件5年

産経ニュース / 2024年6月16日 18時5分

事件後、ラグビー関係者から届いた大漁旗。応援のメッセージが寄せ書きされている(古瀬巡査長提供)

大阪府警吹田署の千里山交番で令和元年6月16日、警察官が男に包丁で刺され、拳銃を奪われた事件から5年がたった。一時意識不明の重体だった同署地域課の古瀬鈴之佑(こせ・すずのすけ)巡査長(31)が、事件後初めて取材に応じた。自責の念から一度は辞職を考えた。胸の刺し傷は肺を貫通。後遺症のため刑事になる夢も断念した。その代わり、新たな使命を見いだした。「誰よりも被害者に近い警察官でありたい」。そう語る古瀬さんの口調は屈託なく、明るい。

「登録していない番号からの着信は赤く光るから安心ですよ」

先月27日午後、吹田市内の家電量販店。防犯機能付きの固定電話機を選ぶ80代女性の傍らに、古瀬さんの姿があった。

現在は同署で防犯指導を担い、特殊詐欺被害防止活動の先頭に立つ。「ディスプレーが大きいから文字も見やすい」。まるで孫のような距離感で女性の要望に親身に応じる。「にいちゃん、ほんまに優しいな。ありがとうな」。女性の感謝の言葉に古瀬さんの表情も緩む。「喜んでもらえたら、それでええんです」

巡査だった5年前の早朝、「空き巣」の虚偽通報を受けて交番から現場に向かおうとした。バイクにまたがると、後ろから「おい」と声をかけられた。振り向くと男が包丁を振り下ろしてきた。

馬乗りで胸や腕を刺された後、男が腰の拳銃に手を伸ばした。必死に抵抗したが、大量出血で力が入らなかった。

搬送中に意識を失い、目が覚めたのは病室。まもなく同僚から、肺の一部を摘出したこと、そして拳銃を奪われたことを告げられた。

「警察官辞めるわ」。男は事件翌日に身柄を確保されたが、古瀬さんは自分を責め、見舞いに来た母親にそう伝えた。

高校では全国大会にも出た屈強なラグビー選手。陽気な性格を知っている東海大ラグビー部時代の恩師が古瀬さんのもとに駆け付け「それで辞めるキャラじゃない」と励ました。当時の同僚や上司も「君は悪くない」と何度も言ってくれた。全国からの応援の手紙は、100通近くに上った。

復職を決意し、リハビリに専念。肺の一部摘出により息が上がりやすい後遺症を抱えながら、事件から7カ月後の令和2年1月に職場復帰を果たした。

それから防犯指導に従事する中で気付いたことがある。特殊詐欺の被害に遭った高齢者が自身の経験を話そうとしないかわざと自虐的な笑いに変えること。一見明るい表情に隠された心の痛みが古瀬さんには分かった。

後遺症の影響で「もう刑事にはなれないけど」と一呼吸ついた上で、これからは犯罪被害者の支援に携わりたいと古瀬さんが目標を教えてくれた。事件で負った傷は容易には癒えない。「それを知る自分だから、できることがあると思う」

安全対策進む「治安の要」

交番や駐在所の警察官が狙われる事件はその後も相次いでおり、安全対策の強化が図られている。

大阪府警は千里山交番の事件後、府内全ての交番・駐在所(600カ所超)に防犯カメラを設置。敷地に不審者が潜伏できる暗がりをつくらないよう、バイク置き場などにセンサーライトも取り付けた。

また令和4年度以降に設計された新設交番には、来訪者と警察官の執務スペースの間に透明の遮蔽(しゃへい)板を設置。ドアを通らないと直接接触できない構造にすることで、警察官の不意を突こうとする最初の一撃をかわしたり、応援要請の時間を確保したりする目的がある。既存交番でもアクリル板の衝立を導入している。

さらに、リスクのある「1人交番」をなくすため、4年度から約10年かけて、交番・駐在所の約1割(約60カ所)を統廃合する再編計画をスタートさせた。

1人交番を近くの交番と統合して複数人勤務の交番を増やしており、府警の担当者は「もし拳銃を奪われれば地域住民の安全が脅かされる。襲撃リスクを減らすことが第一だ」と強調する。

交番襲撃を巡っては、平成30年6月には富山県警の交番で男が警察官を刺殺した上、奪った拳銃で警備員を射殺。宮城県警でも同9月、交番の警察官が刺殺される事件が起きている。警察庁はこうした状況を受け、拳銃が奪われにくい構造に改良した拳銃入れの配備など対策を進めてきた。(中井芳野)

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